姫君の憂鬱と七人の自称聖女達

チャイムン

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22.悪役令嬢への道

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 名付けて『悪役令嬢大作戦』はその場にいた全員に却下された上、お説教をいただいた。
 ジウン兄上、ダイル兄上、ザイディー、エイナイダ公爵、ナイアル伯爵、エイベル、メイダ。全員わたくしが私的に頭の上がらない相手だ。
「シャイロ!君はなんでも自分だけでやろうとするのは悪い癖だ!」ジウン兄上がわたくしの首根っこを掴まんばかりの勢いで叱る。
「シャイロ様、次期女王陛下として単独で物事を進めなさるのはいかがなものかと存じますよ」
 エイナイダ公爵が続ける。
「左様です。独裁政治でも画策しておいでかと思ってしまいますよ」
 少し笑いながらも咎める口調でナイアル伯爵。
「シャイロには私達の協力は迷惑なのでしょうか」
 ザイディーがわたくしを下から見上げて言う。この人はわたくしを諫めたり叱ったりする時に、片膝をついて見上げるのだ。少し悲し気に眉根を寄せて。そしてその表情に、ここ二年程で滅法弱気になってしまうのはなぜだろう?
「とにかく勝手に物事を進めることは却下だ」
 ジウン兄上がピシャリと言う。

「でも」
「でもではございません!あの娘達がどんなに手のつけようのないはすっぱ者かおわかりなのに、なぜ自分だけで手綱をとれると思われるのかエイベルにはわかりかねます」
 言い訳を遮ってエイベルも言う。
「姫様、メイダは悲しゅうございます。ずっとお傍近くお仕え申し上げておりますのに何の手助けにもならないとお考えのご様子…」
 間を置くメイダを見ると笑顔のまま怒っているのがわかった。
「御身お大事になさらないとメイダは泣きますよ?」
 嘘だ。絶対に嘘だ。あと3年幼かったら容赦なくお尻を叩きたいと顔に書いてある。

 そこでダイル兄上が「ハッ!」と笑う。わたくしが怯んだ様子なのが可笑しかったらしい。
 パッと振り向くと男性陣は笑いを堪えている。睨みつけるとジウン兄上が両手で押し留めるような仕草をする。
「笑ったのはシャイロの考えにではないよ。君がまるで小さい頃のように叱られているのを見て、懐かしくも可笑しかったんだ」
「シャイロ姫は小さい頃から暴れん坊でしたからねえ」
 エイナイダ公爵が目を細める。
「亡き王太后様が我儘を諫めるためだと孤児院に入れた時は、それは心配しました。ほれ、御覧なされ。この爺の髪はあの1年でほとんど抜け落ちて今ではこんなに輝かしくなりました」
「エイナイダ公爵のおつむりの輝きはあの頃と同じです!!」
 思わず言い返してはっとしてしまった。なんて無作法なことを…

 そこで全員笑い崩れる。ひどい。

「いいかい?考えそのものは否定しない」
 笑いがおさまった後、ジウンが言う。
 ダイル兄上が思案顔で言う。
「シャイロ、ここは全員で頭を寄せ合って知恵を出し合おう」

 そこで場所を南の庭園が見えるティールーム移し、エイベルとメイダがお茶の支度を調える。
 ここは一見豪華なティールームでしかないが、廊下側に控えの間がありその次の部屋は簡易な厨房になっている。庭に面してテラスがある。両隣の部屋は会議室で、防音と警備が堅い仕組みだ。
 外から見ればただのお茶会だが、実は密談の場にふさわしい。
 堂々と密談するという矛盾した行為だ。
 茶菓を嗜みながら社交的な雰囲気で話をすすめる。
 顔は笑顔、腹に一物。内にどろどろと渦巻くものを、笑みを浮かべる口から出して練り上げていく。

 ところで我が国の社交界では女性に扇は必需品だ。
 よその国ではどうかはっきりとわからないが、わたくしは扇は「心を隠す道具」と教えられた。
 マナーを修めた貴族令嬢や社交界への出入りを許された女性は、扇を持つ。貴族の場合は身内がお祝いとして令嬢に送り、庶民の場合は出入りを許した証として王家や貴族から下賜される。

 わたくしの教師曰く「退屈な顔や欠伸を隠し、驚きを隠し、笑いを隠し且つ演出するのです」
 要は「やたらに感情を見せてはいけませんよ」と言うことを含め、時には笑いたくもないものも怒りも飲み込む演技をしなくてはいけないということだ。

 なぜ扇が話に出たかと言うと、ジウンの考えだ。
「扇を下賜するんだ」
 稀人達に扇を贈る名目でわたくし達が会うのだ。
 非公式なお茶会を開き、そこでわたくしから扇を与える。
「これで社交界入りができますよ」という甘い言葉で隙を誘う。
 その後、小規模なお茶会を開き、その場にはジウン達や内情を知っている者達も参加する。もちろん女王反対派も作為的に招く。さらに「攻略対象」も。
 猟犬と獲物と生餌の入り混じる嫌な社交になる。

 さらにジウンは言う。
「"悪役令嬢"とやらはシャイロだけでは荷が重い。他の令嬢にも協力を願おう」
「エグゼル・シェインの婚約者リスベット・サグワー伯爵令嬢は大変聡明と伺っていますから適役では?」
 ナイアル伯爵の推薦が入る。
「あとの未婚の"攻略対象"はクルドー侯爵令息セイディ殿、ナイアル伯爵令息ガイ殿、シュナウツ伯爵令息エリック殿、それにクサンク伯爵令息ジュリア殿だったな」
 ダイルの言葉にザイディーが応える。
「はい。しかし、ジュリア・クルドーは十二歳、セイディ・クルドーはまだ十四で婚約者のベアトリス嬢はまだ十二歳なので除外した方がいいでしょう。心の傷ができそうです」
 心の傷!思わず笑いそうになって、最近油断して忘れていた扇の存在をありがたく思い出し、広げていかにも伏し目がちという顔を取り繕うと、またダイルが「ハッ!」と笑う。
「ダイル兄上、お行儀が悪いですわよ」
 チロリと睨むと
「ここは無礼講だ。シャイロも扇を置け」
 と笑う。
 すかさずザイディーがわたくしの扇を奪い取り、上衣の内ポケットにしまう。そのまま笑顔で言う。
「ガイ・ナイアル伯爵令息の婚約者のコンスタシア・ダイクロン伯爵令嬢は十五歳ですが、シャイロと仲がよかったですよね?」
「ええ、学園でとても人懐こくて親しみやすく接してくださるわ。少し悪戯好きな方なので、きっと大いに乗り気で"悪役令嬢"を演じてくださるでしょうね」
「決まりだ」
 ダイルがニヤリと笑う。
「エリック・シュナウツ伯爵令息の婚約者のアリシア・サンクルード伯爵令嬢はいかがですか?お年は確か十六歳だったかと」
 ナイアル伯爵が思案顔で尋ねる。
「アリシア嬢は学園の歌劇の花形なのです。大変相応しいと思います」
 わたくしは前学期の芸術祭で観た悲劇的な題目の古典歌劇で主役を華々しく演じ上げたアリシア嬢の美しい姿と歌声を思い出した。

「よし、悪役令嬢役は四人だ。リスベット嬢、コンスタンシア嬢、アリシア嬢、そしてシャイロ」
 ジウンがきっぱり言う。

 わたくしは、少し長めの息を吐いた。
「では数日中に話し合いのためのお茶会を開きます。それまでにわたくし達がどこでどう動くべきか少し詰めましょう。そしてそれを四人で話し合います」
 それから隣のザイディーを見上げてにこやかに言い渡した。
「それまでお嬢様方のお世話を宜しくお願いいたしますわ。決して心奪われないようご用心なさいませね?」
 少したじろぐザイディーの懐から、先ほど奪われた扇を取り戻す。
「兄上達も同じようにお願い致しますね。それから"攻略対象"の方々の協力も取り付けてくださいませ」

 三人の顔が引き攣った。

 いい気味だわ。

 さて、わたくしは明日ランと会う予定だ。
 礼儀作法の教師が許可したので、わたくしから扇を贈るためだ。ランは学ぶことに貪欲だと言う。真面目な態度や控え目な性格がどの教師にもいい印象を与えている。

 明日、扇を贈る時に悪役令嬢の流儀を伝授していただこうと思う。
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