姫君の憂鬱と七人の自称聖女達

チャイムン

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24.お茶会不協和音

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 扇の下賜のお茶会は北奥の離宮の夏のティー・ルームのガーデン・テラスで行った。

 我が王宮のお針子達は優秀で、それぞれのドレスと少々の小物や布地で上品なドレスを作り上げていた。
 もちろんお茶会や小規模なガーデン・パーティー用のドレスなので、彼女達が着ていたドレスと比べ物にならない、おとなしやかであっさりしたものだった。

 今の流行のドレスの型はシンプルなものだ。夏なのでやや露出は多めだが、襟は鎖骨が少し見える程度。そこにレースや付け襟やスカーフをあしらって楽しむ。袖は肘まで。肩からゆるやかに広がって、刺繍やレースで縁取る。スカートはウェストからゆったりと襞を取り、付け替えることのできるシフォンやチュールの短めのオーバースカートをふわりとあしらう。
 髪型は未婚女性は結い上げずに、編んだり軽く束ねたり、サイドやトップ、多くてもクラウンまでだけをアップにしてレースや布細工やリボンで飾る。貴金属や宝石のついた髪飾りは既婚女性が夜会に着けるものだ。
 正式で大規模な夜会、夜の式典などでは既婚女性はティアラを着用する。
 未婚女性は昼夜問わず大きな宝飾品は着用しない。
 小さな宝石のついたペンダントやチョーカーやロケットなど。イヤリングも宝石は小さいもので、今の流行では布細工が好まれる。

 最近は自分で作ったものを身に着けることが流行っている。イヤリングや髪飾りやその他の小物、ハンカチの刺繍をお茶会で披露するのが令嬢達の楽しみであり、社交になっている。また、それらを作るための集まりを催すことも増えている。
 既婚婦人達がキルトや小物を作ってバザーで売り、収益金を流民や孤児の支援を行うことが一種のステイタスになっているのは、倹約姫と渾名される次期女王わたくしシャイロへの点数稼ぎから始まったとしても、大変よろこばしいことだ。

 話はそれたが、夏の昼間の小規模で内々のお茶会なので手袋は着けない。

 稀人である娘達にわたくしが扇を下賜する名目のお茶会なので、まずは立ったままそれぞれに与える。
 薄絹のシンプルなものだが、それぞれの要に彼女達が選んだ守護の花の意匠を付けてある。
 ほとんどが扇を尊大な態度で与えられたことに驚いた表情をしていた。作法の勉強を疎かにしていた証拠だ。

「我が国では」
 わたくしはことさらに高慢でもったいぶった態度で娘達に告げる。
「扇を持つことは社交界への出入りを許されることを意味します」
 娘達の顔に喜色が浮かぶ。
「残念ながら社交シーズンではないので、内々のお茶会や小規模なガーデン・パーティーしかありませんが、皆様の参加を認めます。そこで…」
 目で合図して、悪役令嬢役を登場させる。
「こちらの令嬢は皆様の規範になる大変優秀な方々です。よく倣ってくださいませ。苦言もまた愛情とご理解くださいませね?」
 ここでランに教わった悪役令嬢の仕草、扇で口元を隠し顎を上向けて娘達を見渡す。
「しっかりと言いつけを聞くのですよ」
 そこで少しのけぞって意地悪そうに笑ってみせた。

 わたくしは今日は生成りのドレス。淡い黄色で蔓草の刺繍がほどこされており、襟や袖や裾には少し幅広のレースが飾られている。灰色がかったくすんだ亜麻色の髪は黒い光沢のあるリボンで押さえており、喉元も同じリボンをチョーカーとして結んでいる。

 リスベット嬢がまず進み出た。豊かな赤褐色の髪を右に流して白いリボンをゆるやかに編みこんでいる。ドレスの色は淡いグリーン。
「サグワー伯爵家のリスベットです。皆様のお行儀を見てさしあげますわ」

 次いでコンスタシア嬢。金の巻き毛を背中に垂らし、耳の上にレースの花を飾って、ドレスはブルー。
「ダイクロン伯爵家のコンスタシアよ。どのくらいできるのか楽しみだわ」
 挑戦的に口角を上げて見せる。

 アリシア嬢は大袈裟な身振りで娘達を見まわして笑った。
「サンクルード伯爵家のアリシアですわ。お噂はかねがね」
 芝居っけたっぷりに扇を開く。
 明るい栗色の髪を両側に垂らして、中ほどを真っ赤なリボンで結んでいる。ドレスの色は臙脂色。

「まず座りましょう」

 わたくしとリスベット嬢のテーブルにはシノブとマリとホノカ
 コンスタシア嬢とアリシア嬢のテーブルにはミサとマイとアカリ。

 ランは衝立の後ろに侍女と待機してもらっていた。

 テーブルに出されたティー・セットは一般的に使われる丈夫なものだが、華やかな色柄のものを使った。白地に赤い花柄の少し厚めの陶器だ。
 茶葉も普段使いのもの。茶菓は何種類かのフルーツ・ジャムのタートとクッキーに小さめのメレンゲ・パイ。
 手づかみで食べてもさほど見苦しくない程度の大きさで、崩れにくいものを用意したつもりだった。

 しかしお茶会は目を覆いたくなる場面の連続だった。
 ティーカップとソーサーはガチャガチャとぶつかり、カトラリーはお茶の雫とお菓子の欠片ををテーブルクロスにまき散らした。

 悪役令嬢達は歴史や地理の初歩の話題を振ったが、誰もまともな受け答えはできなかった。

 わたくし達悪役令嬢役は行儀の悪さや無知ぶりを苦労せずに指摘でき、は存分に

 ほどよく場が温まった、否、冷え切ったところで攻略対象たちの登場だ。

 ジウン、ダイル、ザイディー、エグゼル、エドガー、ジリアン、エリック、ガイ、それにエリックの弟のジェイとガイの友人のケイン。

「仲間に入れてもらってもいいかな?」
 芝居っけたっぷりにジウンが言う。
 娘達は色めき立つ。

「もう、兄上達はどこで聞きつけたのですか。ここには来てはいけないとあれほど申し上げたではないですか」
 わたくしはわざと甘ったれた口調と声で言ってみせる。

「まあまあ、いいじゃないか。社交界に出入りが認められたなら、我々と付き合うのも勉強のひとつだ」
 ダイルはいかにも親切そうに言って見せる。

 二人が仕切って全員の席を娘達の隣に設けさせる。
 一瞬ザイディーと視線が合ったが、彼は散らかったテーブルの様子を小さく顎で指して不快そうな表情を一瞬だけ見せた。

 後はもう、娘達のかん高い声が響き渡った。
 隣り合わせた殿方に、自分がどんなに苛められたかを訴える者、有頂天で甘えしなだれかかる者…
 それを窘め注意する悪役令嬢のわたくし達。
 姦しいことこの上ない。

 今日のところは様子見の顔合わせなので、娘達が新しいお茶が二杯飲み干したところでお開きとなった。

 殿方がそれぞれを部屋にエスコートして送り届けた後、わたくし達は王宮の小会議室に集合した。
 皆、ぐったりと疲れ切り口をきく余裕もなかった。
 改めて憂鬱が蘇る。

 さてこれから作為的に外部の女王反対派を招いての計画が始まるのだ。
 しかし今日のところは謀を詰める気力は誰にも残っていない。
 しばし休憩した後、後日再び集合の予定を立てて解散と相成った。
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