姫君の憂鬱と七人の自称聖女達

チャイムン

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26.ガーデン・パーティ前奏曲

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 ガーデン・パーティーの日取りが決まって、参加する"悪役令嬢"と"攻略対象"と"協力者"がが集合した。

 宰相のクルドー侯爵はじめ首脳陣の重鎮達や協力してくれる貴族の方々も入れると、あまりに大人数になるので、彼らには今日の話し合いを報告して、補足や修正や助言をいただくことになっている。

 この日集まったのは"悪役令嬢"のリスベット・サグワー伯爵令嬢、コンスタシア・ダイクロン伯爵令嬢、アリシア・サンクルード伯爵令嬢。
 "攻略対象"はジウン兄上、ダイル兄上、ザイディー・シンダール侯爵令息、ジリアン・エイナイダ公爵令息、エグゼル・シェイン伯爵令息、ガイ・ナイアル伯爵令息、ジグムンド・サンクルード伯爵令息、アンリ・サグワー伯爵令息、エリック・シュナウツ伯爵令息、エドガー・ダイクロン伯爵令息。

 セイディ・クルドー侯爵令息は学園在籍だが、まだ十四歳で女性との過度な接触は様々な意味でよろしくないと判断して除外した。ジュリア・クサンク伯爵令息は十二歳でまだ学園にも未就学で言わずもがな。
 代わりに十五歳のエリックの弟のジェイと、十六歳のガイの友人のケインに協力を頼んだ。

 円卓を囲んで挨拶を交わした後、ザイディーが報告してきた。
「ランは正式にジンダール家の娘として洗礼を受けました。正式名はランスフィア・エレナ・ラ・ジンダール」
「ランスフィア」が親がつけた個人的な名前だ。次にくる「エレナ」は祝福名で水の女神エレナリアからいただいたものだ。
「父も母も弟も、ランが来て大喜びです。特に母は娘を欲しがっていましたから、可愛いい可愛いとべったりですよ。毎日まるで着せ替え人形のように母が大騒ぎでドレスを決めて飾り付けるのに文句も言わずにつきあっているそうです」
 ザイディーはランを迎えた後の三日はシンダールの王都の邸宅に戻っていたが、今は王宮の自室に帰ってきていた。次期王配の執務があり内務補佐でもあるのだ。ここ二年は、年に数日しかシンダール家に帰っていない。
 シンダール家は今十三歳の弟エリアンが継ぐことになっている。
「父は最高の縁談を調えたいと言いますが、一向に動かないのは手放したくないからでしょうね」

 ランはわたくしより一歳下の十六歳だ。それに結婚に恐れを抱いている。
 彼女は七歳でに母親と別れ、その後すぐに父親が再婚してその義理の母親になった人から、自分の子供とあからさまな差をつけて虐げられて育ったらしい。勉強が好きなランは必死に頼み込んで、夜から始まる「テイジセイコウコウ」という学び舎に入学し、昼間は働いて学費を稼ぎ残りは義理の母親にとれられていたという。
 そんな環境で「結婚」というものに嫌悪に近い感情を感じていた。

 その旨をジンダール侯爵夫妻ににはお話ししてあり、くれぐれも彼女の気持ちを尊重して欲しいとお願いした。夫妻はランの事情にいたく同情し、また一層愛おしく思ったようだった。
 ジンダール侯爵夫人アリエスからの手紙が繁く届くが、ランの淑やかで控え目な印象はますます深まり、遠慮がちな態度や時には怯えた様子は夫妻の心を傷め、「わたくし、絶対に幸福な娘にしてみせます」としたためられている。
 エリアンはランを守る騎士になると言っているそうだ。

 優しい人達や環境に癒され、身も心もほどけて、わたくしはあまり遠くないいつかの日にランが好きだと言った"ホーリー・エンド"のドレスを結婚衣装として贈ることを望んでいる。

 さて、ガーデン・パーティーの計画と布陣についての話し合いが始まった。

 まずは六人を監視しやすいように、分散させてパーティー会場に配置させなくてはならない。
 特にミサはなんだか気味が悪い。無邪気な風を装っているが実は一番謀略に長けているきる気がする。全ての言動が油断を誘っているが、本当は頭のいい娘のように思える。
 兄上達は「バカな尻軽娘」という印象を持ったが、目的のために手段を選ばず、自分さえも偽るような娘に思える。
 何より言動がおかしい。
 おかしいと言うのは、殿方の気を引くために手段を選ばない。とにかくやたらに体に触れるどころか、転んだふりで誰彼かまわず抱き付いている。
 こんな様を協力者の諸侯の前でやられるのは避けたい。

 ガーデン・パーティーは3回開催することに決まった。
 秋の始まりのイアデインの花月は収穫が始まる月なので、豊穣を祝うという名目が使える。

 まずマイ。
 マイはずっとわたくしからの被害を訴えていたそうだ。

 次はアカリ、ホノカ。
 ホノカは逆上して物を投げた乱暴者なので要注意だ。

 最後はシノブ、ミサ。
 シノブは陰鬱な目に何かを企んでいるようだとダイルが言っていた。

 ランはこの国のシンダール侯爵令嬢ランスフィア嬢として毎回出席してもらう。
 元々他の娘達と交流を持たず怯えて部屋に閉じこもっていたそうだから、女王反対派との面識はほとんどないらしい。

 そして女王反対派の中心達は有力貴族なので「稀人を正式に紹介する」という名目で、毎回招待しても不自然ではない。
 シラニー公爵、ジルダイン伯爵、イズハン侯爵、ガイゼン侯爵、センダール伯爵、シラウン伯爵、ジシア子爵、そしてアンリ・オランジュ一代男爵。
 そこに利用されている女王反対派の末端人物を混ぜ込む。

 ガーデン・パーティなのでメイド達や侍女達が多く給仕をするので、彼女達が間諜役だ。その中に娘達の付き添いではない女性近衛をメイドとして入れ込む。
 もちろん全員に聴覚増幅と記録のできる魔法道具と、ことがあれば自動的に守りが発動する魔法道具も持たせる。
 前者はヘッドドレスを止めるピンで、後者は部署を表すブローチだ。

 ガーデン・パーティは基本的に立食の形式なので、"ヒロイン"達は自由に動き回るだろう。付添の侍女と護衛の女性近衛は邪魔をしないように小声の会話は聞こえないほどの距離をとって従う。

 "ヒロイン"達は必ず"攻略対象"に近づくだろう。
 そして当然、"悪役令嬢"は自分の婚約者の傍にいる。
 わたくしはザイディー、リスベットはエグゼル、コンスタンシアはガイ、アリシアはエリックの。
 他の"攻略者"達も婚約者同伴だ。

 おそらくそこで"ヒロイン"達は問題行動を起こす。
 そこでわたくし達四人の"悪役令嬢"が厳しく窘めることになるだろう。
 "悪役令嬢"役ではない令嬢達もそうするかもしれないし、そうでなくても驚くのは確実だ。

 わたくし性質は厳しく"攻略対象"から"ヒロイン"を引き離し、場合によっては嘲笑うかもしれない。
 そうして"攻略対象"の殿方と引き剥がし、不満や怒りを感じるに違いない"ヒロイン"達に優し気にすり寄る者を監視するのだ。

 一番の目的は、誰がどうやって、わたくしを害するか探ることだ。

 かくして招待状は発送され、娘達は大喜びでドレスを選び髪型を決めることに大騒ぎした。
 と言っても、わたくしは「倹約姫」。
 ガーデン・パーティー用のドレスは二着しか渡していないのよね。
 侍女がうまく取り計らって、見苦しくはしないだろう。

 多分。
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