デーティアの学園生活~Amber Alert~≪赤の魔女は恋をしない6≫

チャイムン

文字の大きさ
1 / 9

1.嘘も誠も話の手管

しおりを挟む
 十歳になったその年、王立学園中等部に合格したデーティアは目立つ存在だった。
 渦巻くような赤毛を二つの三つ編みにして、草木染のくすんだ服を着た可愛い子供だ。そもそも十歳で中等部に合格したことが目立つのだが、その外見は際立っていた。
 まさに"幼い子供"なのだ。
 十歳という年齢にもかかわらず、五歳か六歳くらいの初等教育を始めるくらいの年齢の幼さにしか見えなかった。

 デーティアは人間とエルフのハーフなので、人間に比べると成長が遅いのだ。しかしエルフの外見の特徴のひとつである耳は人間の父親譲りなので、一見エルフの血が入っているようには見えない。父親譲りの耳と渦巻く赤毛、母親譲りの緑の目は少し吊り気味で大きく猫を思わせた。
 そんな彼女を周囲の者達は遠巻きに見て、様々な噂を囁き合った。そのどれひとつも真実ではないのだが。
 ハーフ・エルフであることは特段秘密にしていなかったが、やはり珍しさからあからさまに奇異の目で見る者もいた。

 仕方ないじゃない。

 デーティアは心の中で呟いた。

 王立学園で高等教育まで受けることは、エルフの村に自分を置き去りにしたとは言え父親の希望なのだ。そのための資金を父親はデーティアの祖父母に託した。
 ともかく、高等教育を修めることがデーティアの義務なのだ。

 外見がそれなりになるまで待ったら数十年かかってしまう。その頃には王立学園で学ぶ意味もなくなってしまう。すでにエルフの村の大人達や呪術師や医術師に学んだことは、初等教育を超えていた。入学試験を受けたら中等部に編成されてしまったのだから。

 実はデーティアの学力は高等部を超えていたが、見た目が幼いので教師陣が揉めに揉めて、中等部が最大の譲歩になったのだ。

 中等部で最初に行われたことは、魔力測定だった。
 まず、魔力の有無。そして魔力の種類と魔力量の測定だ。

 魔力のある者は魔力の扱いを学ばねばならないし、魔力量が多く強い者は将来魔導士になるべく魔法科に振り分け、特別な訓練をするためだ。

 デーティアの魔力測定を行ったのは、シルアと言う名の二十七歳の美しい女性だった。
 シルアは数年後に王宮魔導士になることが決定していた。
 今でも十二分にその実力があるのだが、若く美しく、また魔力が強いため数年の猶予を与えられていた。
 シルアの子供は魔力の強い者が産まれる可能性が高いので、魔導局側では彼女が望むならば是非子供を産んで欲しいと願っているのだ。
 宮廷魔導士は魔法で不妊になるので、学園の教師としての任期中に期待しているのだ。

 しかしシルア本人は、学園時代を共にした現在宮廷魔導士のアンダリオに恋をしており、その気は全くなかった。

 さて、デーティアの魔力測定に臨んで、シルアは彼女の外見に驚いた。幼いからではない。
 彼女は驚くほど現国王に似ていた。

 ほとんどの教師陣は象牙の塔の住人であるか庶民出のため、近しく国王の顔を見たことがなく気にも留めない。気づくならば、ただ「国王と同じ髪色だ」くらいだろう。

 現国王は第三王子で、若い頃に出奔して市井で暮らしていた。
 ところが相次いで第一王子と第二王子が亡くなり、前国王も病に伏したため急ぎ連れ戻されたのが8年前だ。
 国王の座に就いた今でも伴侶はなく、周りは気を揉んでいた。

 シルアはデーティアの魔力量にも驚いた。桁外れだ。

 デーティアにはエルフの魔力と王家の魔力が宿っている。

 シルアは確信した。

 だが、もしもデーティアが国王の娘であるならば、この王国は何百年も生きて大きな魔力を持つ"王女"を有することになる。
 これは脅威の方が大きい。
 国王が彼女を王室に迎え入れない理由は十分に理解できる。

 そこでシルアはデーティアの魔力測定の報告を大幅に低く報告した。

 その一方でデーティアに個人授業を行うことを決心した。

 すでに学力は十分だったデーティアだ。
 選択した講義の合間に、十分すぎるほど時間が取れるだろう。

「講義の組み立てが決まったらわたくしのところへいらっしゃい。魔法の課程を組みます」
 シルアはデーティアに耳打ちした。
 デーティアは無表情でコクリと頷いた。

 デーティアの特異で孤独な学園生活は、かくして始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

「魔法を使わない魔術師を切り捨てた国は、取り返しのつかない後悔をする

藤原遊
ファンタジー
魔法を使わない魔術師は、役に立たない。 そう判断した王国は、彼女を「不要」と切り捨てた。 派手な魔法も、奇跡も起こさない。 彼女がしていたのは、魔力の流れを整え、結界を維持し、 魔法事故が起きないよう“何も起こらない状態”を保つことだけだった。 代わりはいくらでもいる。 そう思われていた仕事は、彼女がいなくなった途端に破綻する。 魔法は暴走し、結界は歪み、 国は自分たちが何に守られていたのかを知る。 これは、 魔法を使わなかった魔術師が、 最後まで何もせずに証明した話。 ※主人公は一切振り返りません。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

予言姫は最後に微笑む

あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。 二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。

処理中です...