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1.嘘も誠も話の手管
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十歳になったその年、王立学園中等部に合格したデーティアは目立つ存在だった。
渦巻くような赤毛を二つの三つ編みにして、草木染のくすんだ服を着た可愛い子供だ。そもそも十歳で中等部に合格したことが目立つのだが、その外見は際立っていた。
まさに"幼い子供"なのだ。
十歳という年齢にもかかわらず、五歳か六歳くらいの初等教育を始めるくらいの年齢の幼さにしか見えなかった。
デーティアは人間とエルフのハーフなので、人間に比べると成長が遅いのだ。しかしエルフの外見の特徴のひとつである耳は人間の父親譲りなので、一見エルフの血が入っているようには見えない。父親譲りの耳と渦巻く赤毛、母親譲りの緑の目は少し吊り気味で大きく猫を思わせた。
そんな彼女を周囲の者達は遠巻きに見て、様々な噂を囁き合った。そのどれひとつも真実ではないのだが。
ハーフ・エルフであることは特段秘密にしていなかったが、やはり珍しさからあからさまに奇異の目で見る者もいた。
仕方ないじゃない。
デーティアは心の中で呟いた。
王立学園で高等教育まで受けることは、エルフの村に自分を置き去りにしたとは言え父親の希望なのだ。そのための資金を父親はデーティアの祖父母に託した。
ともかく、高等教育を修めることがデーティアの義務なのだ。
外見がそれなりになるまで待ったら数十年かかってしまう。その頃には王立学園で学ぶ意味もなくなってしまう。すでにエルフの村の大人達や呪術師や医術師に学んだことは、初等教育を超えていた。入学試験を受けたら中等部に編成されてしまったのだから。
実はデーティアの学力は高等部を超えていたが、見た目が幼いので教師陣が揉めに揉めて、中等部が最大の譲歩になったのだ。
中等部で最初に行われたことは、魔力測定だった。
まず、魔力の有無。そして魔力の種類と魔力量の測定だ。
魔力のある者は魔力の扱いを学ばねばならないし、魔力量が多く強い者は将来魔導士になるべく魔法科に振り分け、特別な訓練をするためだ。
デーティアの魔力測定を行ったのは、シルアと言う名の二十七歳の美しい女性だった。
シルアは数年後に王宮魔導士になることが決定していた。
今でも十二分にその実力があるのだが、若く美しく、また魔力が強いため数年の猶予を与えられていた。
シルアの子供は魔力の強い者が産まれる可能性が高いので、魔導局側では彼女が望むならば是非子供を産んで欲しいと願っているのだ。
宮廷魔導士は魔法で不妊になるので、学園の教師としての任期中に期待しているのだ。
しかしシルア本人は、学園時代を共にした現在宮廷魔導士のアンダリオに恋をしており、その気は全くなかった。
さて、デーティアの魔力測定に臨んで、シルアは彼女の外見に驚いた。幼いからではない。
彼女は驚くほど現国王に似ていた。
ほとんどの教師陣は象牙の塔の住人であるか庶民出のため、近しく国王の顔を見たことがなく気にも留めない。気づくならば、ただ「国王と同じ髪色だ」くらいだろう。
現国王は第三王子で、若い頃に出奔して市井で暮らしていた。
ところが相次いで第一王子と第二王子が亡くなり、前国王も病に伏したため急ぎ連れ戻されたのが8年前だ。
国王の座に就いた今でも伴侶はなく、周りは気を揉んでいた。
シルアはデーティアの魔力量にも驚いた。桁外れだ。
デーティアにはエルフの魔力と王家の魔力が宿っている。
シルアは確信した。
だが、もしもデーティアが国王の娘であるならば、この王国は何百年も生きて大きな魔力を持つ"王女"を有することになる。
これは脅威の方が大きい。
国王が彼女を王室に迎え入れない理由は十分に理解できる。
そこでシルアはデーティアの魔力測定の報告を大幅に低く報告した。
その一方でデーティアに個人授業を行うことを決心した。
すでに学力は十分だったデーティアだ。
選択した講義の合間に、十分すぎるほど時間が取れるだろう。
「講義の組み立てが決まったらわたくしのところへいらっしゃい。魔法の課程を組みます」
シルアはデーティアに耳打ちした。
デーティアは無表情でコクリと頷いた。
デーティアの特異で孤独な学園生活は、かくして始まった。
渦巻くような赤毛を二つの三つ編みにして、草木染のくすんだ服を着た可愛い子供だ。そもそも十歳で中等部に合格したことが目立つのだが、その外見は際立っていた。
まさに"幼い子供"なのだ。
十歳という年齢にもかかわらず、五歳か六歳くらいの初等教育を始めるくらいの年齢の幼さにしか見えなかった。
デーティアは人間とエルフのハーフなので、人間に比べると成長が遅いのだ。しかしエルフの外見の特徴のひとつである耳は人間の父親譲りなので、一見エルフの血が入っているようには見えない。父親譲りの耳と渦巻く赤毛、母親譲りの緑の目は少し吊り気味で大きく猫を思わせた。
そんな彼女を周囲の者達は遠巻きに見て、様々な噂を囁き合った。そのどれひとつも真実ではないのだが。
ハーフ・エルフであることは特段秘密にしていなかったが、やはり珍しさからあからさまに奇異の目で見る者もいた。
仕方ないじゃない。
デーティアは心の中で呟いた。
王立学園で高等教育まで受けることは、エルフの村に自分を置き去りにしたとは言え父親の希望なのだ。そのための資金を父親はデーティアの祖父母に託した。
ともかく、高等教育を修めることがデーティアの義務なのだ。
外見がそれなりになるまで待ったら数十年かかってしまう。その頃には王立学園で学ぶ意味もなくなってしまう。すでにエルフの村の大人達や呪術師や医術師に学んだことは、初等教育を超えていた。入学試験を受けたら中等部に編成されてしまったのだから。
実はデーティアの学力は高等部を超えていたが、見た目が幼いので教師陣が揉めに揉めて、中等部が最大の譲歩になったのだ。
中等部で最初に行われたことは、魔力測定だった。
まず、魔力の有無。そして魔力の種類と魔力量の測定だ。
魔力のある者は魔力の扱いを学ばねばならないし、魔力量が多く強い者は将来魔導士になるべく魔法科に振り分け、特別な訓練をするためだ。
デーティアの魔力測定を行ったのは、シルアと言う名の二十七歳の美しい女性だった。
シルアは数年後に王宮魔導士になることが決定していた。
今でも十二分にその実力があるのだが、若く美しく、また魔力が強いため数年の猶予を与えられていた。
シルアの子供は魔力の強い者が産まれる可能性が高いので、魔導局側では彼女が望むならば是非子供を産んで欲しいと願っているのだ。
宮廷魔導士は魔法で不妊になるので、学園の教師としての任期中に期待しているのだ。
しかしシルア本人は、学園時代を共にした現在宮廷魔導士のアンダリオに恋をしており、その気は全くなかった。
さて、デーティアの魔力測定に臨んで、シルアは彼女の外見に驚いた。幼いからではない。
彼女は驚くほど現国王に似ていた。
ほとんどの教師陣は象牙の塔の住人であるか庶民出のため、近しく国王の顔を見たことがなく気にも留めない。気づくならば、ただ「国王と同じ髪色だ」くらいだろう。
現国王は第三王子で、若い頃に出奔して市井で暮らしていた。
ところが相次いで第一王子と第二王子が亡くなり、前国王も病に伏したため急ぎ連れ戻されたのが8年前だ。
国王の座に就いた今でも伴侶はなく、周りは気を揉んでいた。
シルアはデーティアの魔力量にも驚いた。桁外れだ。
デーティアにはエルフの魔力と王家の魔力が宿っている。
シルアは確信した。
だが、もしもデーティアが国王の娘であるならば、この王国は何百年も生きて大きな魔力を持つ"王女"を有することになる。
これは脅威の方が大きい。
国王が彼女を王室に迎え入れない理由は十分に理解できる。
そこでシルアはデーティアの魔力測定の報告を大幅に低く報告した。
その一方でデーティアに個人授業を行うことを決心した。
すでに学力は十分だったデーティアだ。
選択した講義の合間に、十分すぎるほど時間が取れるだろう。
「講義の組み立てが決まったらわたくしのところへいらっしゃい。魔法の課程を組みます」
シルアはデーティアに耳打ちした。
デーティアは無表情でコクリと頷いた。
デーティアの特異で孤独な学園生活は、かくして始まった。
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