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10.側妃教育
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「バシュロがオティーリエ王女に、贈り物の返礼品を使者に託しました。中身はなんだと思いますか」
王妃殿下が眉間に皺を寄せておっしゃったのは、翌週の側妃教育の場でだ。
まさか、先週言ったものではないでしょうね。鳩尾の当たりがきゅぅっと絞られる感じがする。
「存じ上げません。先週、お話しなさっていましたが、何をお贈りになったかまでは聞き及んでおりません」
無難に答える。
「あの子ったら!!」
王妃殿下は畳んだ扇を反対の掌にパシパシ叩きつける。怒っていらっしゃる。
「オティーリエ王女から贈られた純金の像を鋳溶かさせて、贈られた品物の宝石を全部剥がさせて、女性が片手では持ち上げられないような重さのペーパーナイフを作らせたのです」
静かに怒っていらっしゃる。
バシュロ殿下は、先週おっしゃった通りになさったのだ。
「ペーパーナイフですよ?関係を切りたいと誤解されたらどうしましょう」
私は先週の話から、必死にカテーナ王国の風習を調べた。
「王妃殿下、わたくし、先週バシュロ殿下がおっしゃったことは冗談だと思っていたのですが、念のためカテーナ王国の風習を調べました」
王妃殿下が私を見つめる。
「カテーナ王国ではそういう習慣はありませんでした。豊かな国ですので、華美なものが好まれ、きっと豪華なペーパーナイフは喜ばれるかと存じます。それに」
「それに?」
「文具を贈ることは『お便りをください』という意味になるそうです」
王妃殿下は明らかにほっとした顔になった。
「結果的によろしかったのね」
王妃殿下はまだ難しい顔だ。
「正直わたくしは驚きました。ペーパーナイフのことではなくオティーリエ王女の手紙です」
バシュロ殿下はあの手紙を見せたのだろうかと、内心ひやっとした。
「初めてオティーリエ王女から手紙をいただいたのですが…」
ため息を吐く。
「あんなに幼いとは思いませんでした。母国語さえ綴りを間違えているなんて」
私は知らぬ顔をするのに必死だった。
「周りの者は何をしているのでしょう?公式な使者に託した手紙の品格も教えないのでしょうか」
私も周りの者の無能さに、オティーリエ王女を心配してしまった。
「普段、あなたを見ているからでしょうね。同じ年齢だと言うのに、あなたはカテーナ語が堪能ですものね」
「いえ、まだ辞書を用いた読み書きが精いっぱいで、話すことは自信がございません」
王妃殿下は麗々しい巻き紙を渡してきた。正式な文書の形をとっていて、開封されていたが印章付きの蝋の封印がある。
「読んでみて」
オティーリエ王女からの手紙だ。
『親愛なる王妃様。オティーリエはバシュロ様とけっこむできることが嬉しいです。どうか今年もしょぞがをください。バシュロ様の金髪はきていでうらやますいです。わたくしもバシュロ様と並んで恥ずかしくないように、毎晩肌と髪の手入れをしています。ドレスもたくさん作りました。王妃様もごきげんうるわしいことをねがています』
読み終わって目をあけると、眉間に指を置いている王妃殿下の姿があった。
「どうですか。あなたと同じ十三歳としては」
どうですかとおっしゃれてましても…
「きっとオティーリエ王女は、無邪気な方なのですわ。わたくしのように必死に家族から逃げたいような事情がないのです。このくらいの綴りの間違いは、わたくしの級友でもたまにあります」
「それにしても内容が幼すぎます。公式の文書の形式を取りながらこれですよ?」
ふうとため息を吐く。
「わたくしが思うに、よく言えば伸び伸びと、悪く言えば甘やかされているのでしょうね」
首を振る王妃殿下。
「あと四年でどこまで成長するか見ましょう。もしもこのままの甘やかされた娘ならば…」
きっと私に向かう。
「あなたは二番目です」
「はい」
「決してオティーリエ王女より先んじてはいけません」
「はい。肝に銘じます」
わかっています。私は契約した側妃の立場ですもの。
「あなたはオティーリエ王女より半年早く入内します。式典はありませんが…」
言いよどむ。
「一応、新枕の儀として、入内から三夜バシュロが通います」
体中がひやっとする。
「半年です」
念を押すように王妃殿下がおっしゃる。
「わたくしとしては、オティーリエ王女が男児を産むまで閨を断っていただきたかったの。もしあなたが先に男児を産めば、いらぬ諍いが起こらないとも限りません」
首を振る。
「でももしも、嫁いで来たオティーリエ王女がこの調子ならば、わたくしはあなたを推します」
私の顔色は大丈夫だろうか。
「後宮はあなたが仕切って、王子を産んでくれたら喜ばしいと思います。バシュロは今のオティーリエ王女を気に入っていないようですし」
にこっと微笑む。
「王妃殿下、オティーリエ王女はお美しいですわ。きっと実際にお会いになったら、バシュロ殿下も愛するでしょう」
「バシュロが愛するのはあなたですよ。母として自信があります。たとえオティーリエ王女に情をかけても、あなたの方が上でしょう。自分で選んだ側妃ですもの」
私にその気はないと言っても選択の余地はない。
「バシュロにも申し付けますが、とにかくオティーリエ王女が入内して半年様子を見ます。見込みがないなら、あなたが頼りですが、とりあえず一年は閨を断るように。バシュロにも言いますが、決して流されないように」
私は心の底から、オティーリエ王女の成長を祈った。
王妃殿下が眉間に皺を寄せておっしゃったのは、翌週の側妃教育の場でだ。
まさか、先週言ったものではないでしょうね。鳩尾の当たりがきゅぅっと絞られる感じがする。
「存じ上げません。先週、お話しなさっていましたが、何をお贈りになったかまでは聞き及んでおりません」
無難に答える。
「あの子ったら!!」
王妃殿下は畳んだ扇を反対の掌にパシパシ叩きつける。怒っていらっしゃる。
「オティーリエ王女から贈られた純金の像を鋳溶かさせて、贈られた品物の宝石を全部剥がさせて、女性が片手では持ち上げられないような重さのペーパーナイフを作らせたのです」
静かに怒っていらっしゃる。
バシュロ殿下は、先週おっしゃった通りになさったのだ。
「ペーパーナイフですよ?関係を切りたいと誤解されたらどうしましょう」
私は先週の話から、必死にカテーナ王国の風習を調べた。
「王妃殿下、わたくし、先週バシュロ殿下がおっしゃったことは冗談だと思っていたのですが、念のためカテーナ王国の風習を調べました」
王妃殿下が私を見つめる。
「カテーナ王国ではそういう習慣はありませんでした。豊かな国ですので、華美なものが好まれ、きっと豪華なペーパーナイフは喜ばれるかと存じます。それに」
「それに?」
「文具を贈ることは『お便りをください』という意味になるそうです」
王妃殿下は明らかにほっとした顔になった。
「結果的によろしかったのね」
王妃殿下はまだ難しい顔だ。
「正直わたくしは驚きました。ペーパーナイフのことではなくオティーリエ王女の手紙です」
バシュロ殿下はあの手紙を見せたのだろうかと、内心ひやっとした。
「初めてオティーリエ王女から手紙をいただいたのですが…」
ため息を吐く。
「あんなに幼いとは思いませんでした。母国語さえ綴りを間違えているなんて」
私は知らぬ顔をするのに必死だった。
「周りの者は何をしているのでしょう?公式な使者に託した手紙の品格も教えないのでしょうか」
私も周りの者の無能さに、オティーリエ王女を心配してしまった。
「普段、あなたを見ているからでしょうね。同じ年齢だと言うのに、あなたはカテーナ語が堪能ですものね」
「いえ、まだ辞書を用いた読み書きが精いっぱいで、話すことは自信がございません」
王妃殿下は麗々しい巻き紙を渡してきた。正式な文書の形をとっていて、開封されていたが印章付きの蝋の封印がある。
「読んでみて」
オティーリエ王女からの手紙だ。
『親愛なる王妃様。オティーリエはバシュロ様とけっこむできることが嬉しいです。どうか今年もしょぞがをください。バシュロ様の金髪はきていでうらやますいです。わたくしもバシュロ様と並んで恥ずかしくないように、毎晩肌と髪の手入れをしています。ドレスもたくさん作りました。王妃様もごきげんうるわしいことをねがています』
読み終わって目をあけると、眉間に指を置いている王妃殿下の姿があった。
「どうですか。あなたと同じ十三歳としては」
どうですかとおっしゃれてましても…
「きっとオティーリエ王女は、無邪気な方なのですわ。わたくしのように必死に家族から逃げたいような事情がないのです。このくらいの綴りの間違いは、わたくしの級友でもたまにあります」
「それにしても内容が幼すぎます。公式の文書の形式を取りながらこれですよ?」
ふうとため息を吐く。
「わたくしが思うに、よく言えば伸び伸びと、悪く言えば甘やかされているのでしょうね」
首を振る王妃殿下。
「あと四年でどこまで成長するか見ましょう。もしもこのままの甘やかされた娘ならば…」
きっと私に向かう。
「あなたは二番目です」
「はい」
「決してオティーリエ王女より先んじてはいけません」
「はい。肝に銘じます」
わかっています。私は契約した側妃の立場ですもの。
「あなたはオティーリエ王女より半年早く入内します。式典はありませんが…」
言いよどむ。
「一応、新枕の儀として、入内から三夜バシュロが通います」
体中がひやっとする。
「半年です」
念を押すように王妃殿下がおっしゃる。
「わたくしとしては、オティーリエ王女が男児を産むまで閨を断っていただきたかったの。もしあなたが先に男児を産めば、いらぬ諍いが起こらないとも限りません」
首を振る。
「でももしも、嫁いで来たオティーリエ王女がこの調子ならば、わたくしはあなたを推します」
私の顔色は大丈夫だろうか。
「後宮はあなたが仕切って、王子を産んでくれたら喜ばしいと思います。バシュロは今のオティーリエ王女を気に入っていないようですし」
にこっと微笑む。
「王妃殿下、オティーリエ王女はお美しいですわ。きっと実際にお会いになったら、バシュロ殿下も愛するでしょう」
「バシュロが愛するのはあなたですよ。母として自信があります。たとえオティーリエ王女に情をかけても、あなたの方が上でしょう。自分で選んだ側妃ですもの」
私にその気はないと言っても選択の余地はない。
「バシュロにも申し付けますが、とにかくオティーリエ王女が入内して半年様子を見ます。見込みがないなら、あなたが頼りですが、とりあえず一年は閨を断るように。バシュロにも言いますが、決して流されないように」
私は心の底から、オティーリエ王女の成長を祈った。
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