毒家族から逃亡、のち側妃

チャイムン

文字の大きさ
20 / 35

20.お披露目の夜会

しおりを挟む
 夜会の夜、バシュロ様は私を迎えにきた。
「王太子妃殿下をお迎えにいくべきです」
 驚いた私が言うと
「王太子妃殿下の呼称は禁じる。まだ実質そうなっていないんだから」
 と不機嫌だ。
「オティーリエ王女殿下のエスコートをなさらないと」
「君も一緒に会場入りするんだよ」
 そう言って私の手を取ってしまった。

 私達が会場の王族の控室に入った少し後、侍女達に囲まれてオティーリエ王女が入室してきた。
 私が見立てたエメラルド・グリーンのドレスだ。赤銅色の髪によく似合う。
 オティーリエ王女が赤と緑が好きなことを聞いていたので、特に力を入れて作らせたものだ。
 今夜はオティーリエ王女の侍女に言い含めていた、王妃殿下が用意したダイヤモンドのジュエリーセットを着けていた。化粧も厚すぎないよう言いつけていた。香水も控え目にと。
 クラウン型の金のティアラがよく似合う。

 私のドレスは淡いブルー。ジュエリーセットはサファイアだ。ティアラは銀に真珠のカチューシャ型だ。

 オティーリエ王女はバシュロ様が私の手を取っているのをみると、あからさまに嫌そうな表情になった。それは当たり前だと私も思う。

「まさか、側妃も一緒にエスコートする気ですか?」
 笑いに胡麻化すように、からかうようにオティーリエ王女がバシュロ様に言う。
 バシュロ様は冷たく
「嫌なら君一人で入るか、部屋に残るんだな」
 と言い放った。
 思わず私はドレスのスカートに隠れて、バシュロ様の脛を蹴った。
「いっ…」
 バシュロ様が私を見たが、私は首を振って見せた。

「二人をエスコートする。どちらも私の妃だから」
 渋々と言った調子で、バシュロ様はオティーリエ王女に手を差し出す。オティーリエ王女はバシュロ様の腕に自分の腕を絡ませた。

 私はバシュロ様に手をあずけたものの、半歩後ろに下がって付いて行く形をとった。
 オティーリエ王女がバシュロ様の腕に自分の腕を絡ませて必死に縋っている様子が見えて、胸が痛んだ。ほんの少しの嫉妬もあるが、その様がオティーリエ王女の孤独を見せられているような気がしたからだ。

 夜会の会場に入ると、国王陛下がオティーリエ王女を紹介する。オティーリエ王女は拍手で迎えられて嬉しそうだ。

 音楽が始まるとバシュロ様が
「ベル、おど、いった!」
 踊ろうと言うつもりだったのを察してまた脛を蹴る羽目になった。
 いつからこんなポンコツになったのだろう。いや、性悪だろうか。

 私はバシュロ様から手を放し、一歩後ろを下がって膝を深く折って礼をした。
「お二人のファーストダンスでございますわ。楽しんでくださいませ」

 二人はホールの真ん中へ進み、ダンスが始まった。
 踊るオティーリエ王女は足取りが軽やかで優雅で、美しいダンス姿だった。

 オティーリエ王女はバシュロ様を熱く見つめる。
 バシュロ様は…オティーリエ王女から目をそらすように遠くをみているのが、ここからでもわかる。

「バシュロには困ったわ」
 いつの間にか近づいていらした王妃殿下が私に呟く。
 私は礼をして、なんと答えたらいいものか言葉を探した。

「あなたがうまくバシュロを操縦している様子、安心しました。本当に…」
 王妃殿下は声を顰めた。
「あなたには可哀想なことをしたと思っています。でもオティーリエ王女の様子を見ると…」
 ふうとため息をつく。
「国際情勢も変化していますからね。そのうちうまくいくでしょう」
 と謎めいた言葉を呟く。

「さ、国賓の方々にご挨拶致しましょう」
 王妃殿下は私を連れて、国賓の方々に紹介しながら挨拶に回って行った。

 挨拶をしながら、私は訝しんだ。

 これはオティーリエ王女のやるべきことではないのだろうか。
 カテーナ語しか話したがらないオティーリエ王女の様子を危ぶんで、私にさせているのだろうか。

「実は我が国の王弟殿下が、一時オティーリエ王女をお望みだったのですよ」
 とんでもないことをフェディリア王国の大使が言う。
「まあ、フェディリア王国の王弟殿下はお妃様がいらっしゃるではないですか。お年もかなり上でいらっしゃいますし」
 ご冗談をといわんばかりに、王妃殿下が笑う。
「王弟殿下は艶福家でいらっしゃって、お妃様は三人いらっしゃるのですよ。第四妃に望まれていらっしゃったのですが」
 と笑う大使に、私は嫌悪感を覚えた。
 王妃殿下は怯まずに
「まあ、ご冗談がお上手ですこと」
 とかわされた。
「ねえ、ベルナデット」
 と私に振られる。
「左様でございますわね。オティーリエ王太子妃殿下は、あのようにお可愛らしい方ですもの。羨ましがられるのも当然ですわ」
 嫌悪を堪えて微笑む。

 フェディリア王国の大使と離れて他へ向かおうとすると、曲が終わった。
 バシュロ様とオティーリエ王女が近づいてくる。

「ベル、次は君と」
 とおっしゃるバシュロ様を制して
「今夜は王太子妃殿下のお披露目の場ですわ。どうか王太子妃殿下を皆様にご紹介なさってください」
 と言うと王妃殿下もそれを後押しなさった。

 バシュロ様の手の温みを、私も欲していることは否めない。
 けれど私はあくまで側妃なのだ。

 側妃の役目は正妃の露払い。
 この王宮は私には安全で快適で、少し寂しい場所だ。

 それはオティーリエ王女に味合わせてはいけない。
しおりを挟む
感想 111

あなたにおすすめの小説

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

妃殿下、私の婚約者から手を引いてくれませんか?

ハートリオ
恋愛
茶髪茶目のポッチャリ令嬢ロサ。 イケメン達を翻弄するも無自覚。 ロサには人に言えない、言いたくない秘密があってイケメンどころではないのだ。 そんなロサ、長年の婚約者が婚約を解消しようとしているらしいと聞かされ… 剣、馬車、ドレスのヨーロッパ風異世界です。 御脱字、申し訳ございません。 1話が長めだと思われるかもしれませんが会話が多いので読みやすいのではないかと思います。 楽しんでいただけたら嬉しいです。 よろしくお願いいたします。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

処理中です...