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25.二度目の失敗~バシュロ目線~
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二回目の新枕の儀は、あっけなく失敗に終わった。
自分勝手なことは承知しているが、私はほっと胸を撫で下ろす思いだった。
白いナイトガウン姿のオティーリエ王女は、ベルとは大違いだ。
なぜか自信に溢れている様子が気に入らない。自分の何を誇れるというのだろう。
オティーリエ王女が七歳、私が十二歳の時、私達の婚約が決まった。
カテーナ王国が困窮している状態を聞いていたし、人質として来る王女だ。優しくしてあげなくてはと、当時の私は思っていたし受け入れていた。
時々来る手紙は最初は代筆だった。
自筆の手紙が来たのは、彼女が十歳の時だ。
カテーナ語で書かれた手紙はひどく幼稚で、ガタガタの文字の上、誤字が多かった。
十五歳の私は呆れた。
他国に嫁ぐ娘は、その国の言葉を教育するものではないか。
カテーナは我が国に援助され、庇護されている立場を弁えていないのか。
『メイドが嫌いなやたいを皿に入れたので、首を斬ってやると言ったら泣いてしまっておもしろかったです。首を斬られるのはとってもいやなようです』
当たり前だ。なんて嫌な少女に育っているのだろうと思った。
私は母から、側妃がどんなに横暴だったか、そして私達が命を狙われたことがあると聞かされていたので、正直側妃を迎えることに懐疑的だった。いくら慣習とは言え、正妃を脅かす存在は無用ではないかと思っていた。
それに紹介される側妃候補は、皆目を欲でぎらつかせた親がついていた。娘の有能さや美点を語り、私に追従する親達、ツンと取りすましているかにこにこ笑っているだけの娘達。胸がむかむかした。
学院に通っている者がほとんどだったので、成績の報告書を読めば、その娘の程度が分かるというのに、親の欲目か私をばかにしているのか、嘘八百を述べるのもいい加減にしろと言いたかった。
父母にはそれを理由に断り続けた。
「それでも側妃は必要です」
側妃に悩まされたのに言い募る母。
「慣例だからな」
と言う父。
このままでは二人に決められてしまうという焦りを覚え始めた頃、私はベルナデット・アシャールに出会った。出会ったと言っても一方的だったが。
その年の入学式、王族として臨席した私は、壇上に立つ一人の少女に魅了された。
中等部の入学者は十二歳。カテーナの王女と同じ歳だなと、ぼんやり思っていた。
入学式では成績上位者五名が、それぞれインジャル語、カテーナ語、フェディリア語の大陸三大言語の詩を一編ずつ、計三編の暗唱があった。
例年、成績上位者は男子が圧倒的に多かったが、今年は女の子もいる。小さいな。華奢な肩が印象的だった。オティーリエ王女と同じ年か。
そう思って、壇上の少女をぼんやり見つめていた。
少女はきっと顔を上げて暗唱を始めた。私は驚いた。
張りのある声は耳に心地よく、瞳の輝きが胸を貫いたかと思った。アッシュブロンドの髪に、ランプの光が映り煌めいた。
インジャル語の『朝咲く花』では、私が少女にその花を渡したいと思った。カテーナ語の『あの星を道しるべに』では、少女の瞳こそが道しるべの星だった。フェディリア語の『冬の湖畔』では、少女の凍えた指を温めているのは私だった。
美しい発音で暗唱をする少女。
その時から、私の心は彼女に繋ぎ留められた。
入学式後に学院で入手できる、少女の情報を全て取り寄せ、自分でも驚いたことに腹心に監視を申し付けていた。
ベルナデット・アシャールは成績優秀で、監視の報告によると暇ができると図書室に籠る物静かな趣味だった。物腰も柔らかく、それでいて意見ははっきり通す。
ただし、家族との関係がうまくいっていなかったようだ。
奨学生として、学費は免除されて寮に住み、休日も帰らず、面会もない。
父親の実家のプライブ伯爵家から、熱烈に養女として求められていたが、アシャール子爵家が卒業後はメイドとして王宮に出仕させるからとはねつけていた。
学年の終わり、ファビアン・バイエがアシャール子爵家から令嬢との婚約の申し出が来ていると聞いた時は、大いに焦った。焦燥感で胸がじりじりと焼け付く思いをした。
たった十二歳の少女へ向ける自分の気持ちに驚いた。
バイエをけしかけて生徒会室に呼び出して事情を聴くと、一転、安堵した。
それでバイエに釘を刺して、先回りをして「側妃になって欲しい」と申し出た。
その時の驚いた顔は、とても可愛かった。
すぐに両親に話した。最初は危ぶんでいたが、報告書を読むと安堵したようだった。二人はベルを招待したリゼットとミレーヌの新年祭のお茶会を覗き見して、すっかり乗り気になった。
そこに乗じてぐいぐい押し進めてしまった。
そしてヘレン・アンダーソンの事件だ。監視の者の一人から急ぎの報告を受けて駆け付けたが、一瞬遅く、彼女の髪が一房切られてしまった。血が頭にのぼって、つい
「未来の側妃」
と口に出してしまった。
両親にもリゼットにも叱られたが、今ではベルは名実ともに私の妻だ。
そしてオティーリエ王女だが、想像以上に酷い状態だった。
ベルは優しくしてほしい、自分がアシャールで受けた仕打ちを思い出して欲しいと、度々訴えるが、同情する気も起きない。
そのオティーリエ王女の愚かさが、二度目の新枕の儀を失敗に導いた。
儀式の式次第を真剣に聞いていなかったのだろう。
式の前に侍女が
「聖水を飲むのですよ」
と念を押していた。
するとオティーリエ王女は、グラスの聖水を飲み干してしまった。
私は嬉しさに笑って、自分のグラスの聖水を床に零してその場を去った。
新枕の儀はもう行わないことになっている。
そしてオティーリエ王女の二度目の失敗だ。
自分勝手なことは承知しているが、私はほっと胸を撫で下ろす思いだった。
白いナイトガウン姿のオティーリエ王女は、ベルとは大違いだ。
なぜか自信に溢れている様子が気に入らない。自分の何を誇れるというのだろう。
オティーリエ王女が七歳、私が十二歳の時、私達の婚約が決まった。
カテーナ王国が困窮している状態を聞いていたし、人質として来る王女だ。優しくしてあげなくてはと、当時の私は思っていたし受け入れていた。
時々来る手紙は最初は代筆だった。
自筆の手紙が来たのは、彼女が十歳の時だ。
カテーナ語で書かれた手紙はひどく幼稚で、ガタガタの文字の上、誤字が多かった。
十五歳の私は呆れた。
他国に嫁ぐ娘は、その国の言葉を教育するものではないか。
カテーナは我が国に援助され、庇護されている立場を弁えていないのか。
『メイドが嫌いなやたいを皿に入れたので、首を斬ってやると言ったら泣いてしまっておもしろかったです。首を斬られるのはとってもいやなようです』
当たり前だ。なんて嫌な少女に育っているのだろうと思った。
私は母から、側妃がどんなに横暴だったか、そして私達が命を狙われたことがあると聞かされていたので、正直側妃を迎えることに懐疑的だった。いくら慣習とは言え、正妃を脅かす存在は無用ではないかと思っていた。
それに紹介される側妃候補は、皆目を欲でぎらつかせた親がついていた。娘の有能さや美点を語り、私に追従する親達、ツンと取りすましているかにこにこ笑っているだけの娘達。胸がむかむかした。
学院に通っている者がほとんどだったので、成績の報告書を読めば、その娘の程度が分かるというのに、親の欲目か私をばかにしているのか、嘘八百を述べるのもいい加減にしろと言いたかった。
父母にはそれを理由に断り続けた。
「それでも側妃は必要です」
側妃に悩まされたのに言い募る母。
「慣例だからな」
と言う父。
このままでは二人に決められてしまうという焦りを覚え始めた頃、私はベルナデット・アシャールに出会った。出会ったと言っても一方的だったが。
その年の入学式、王族として臨席した私は、壇上に立つ一人の少女に魅了された。
中等部の入学者は十二歳。カテーナの王女と同じ歳だなと、ぼんやり思っていた。
入学式では成績上位者五名が、それぞれインジャル語、カテーナ語、フェディリア語の大陸三大言語の詩を一編ずつ、計三編の暗唱があった。
例年、成績上位者は男子が圧倒的に多かったが、今年は女の子もいる。小さいな。華奢な肩が印象的だった。オティーリエ王女と同じ年か。
そう思って、壇上の少女をぼんやり見つめていた。
少女はきっと顔を上げて暗唱を始めた。私は驚いた。
張りのある声は耳に心地よく、瞳の輝きが胸を貫いたかと思った。アッシュブロンドの髪に、ランプの光が映り煌めいた。
インジャル語の『朝咲く花』では、私が少女にその花を渡したいと思った。カテーナ語の『あの星を道しるべに』では、少女の瞳こそが道しるべの星だった。フェディリア語の『冬の湖畔』では、少女の凍えた指を温めているのは私だった。
美しい発音で暗唱をする少女。
その時から、私の心は彼女に繋ぎ留められた。
入学式後に学院で入手できる、少女の情報を全て取り寄せ、自分でも驚いたことに腹心に監視を申し付けていた。
ベルナデット・アシャールは成績優秀で、監視の報告によると暇ができると図書室に籠る物静かな趣味だった。物腰も柔らかく、それでいて意見ははっきり通す。
ただし、家族との関係がうまくいっていなかったようだ。
奨学生として、学費は免除されて寮に住み、休日も帰らず、面会もない。
父親の実家のプライブ伯爵家から、熱烈に養女として求められていたが、アシャール子爵家が卒業後はメイドとして王宮に出仕させるからとはねつけていた。
学年の終わり、ファビアン・バイエがアシャール子爵家から令嬢との婚約の申し出が来ていると聞いた時は、大いに焦った。焦燥感で胸がじりじりと焼け付く思いをした。
たった十二歳の少女へ向ける自分の気持ちに驚いた。
バイエをけしかけて生徒会室に呼び出して事情を聴くと、一転、安堵した。
それでバイエに釘を刺して、先回りをして「側妃になって欲しい」と申し出た。
その時の驚いた顔は、とても可愛かった。
すぐに両親に話した。最初は危ぶんでいたが、報告書を読むと安堵したようだった。二人はベルを招待したリゼットとミレーヌの新年祭のお茶会を覗き見して、すっかり乗り気になった。
そこに乗じてぐいぐい押し進めてしまった。
そしてヘレン・アンダーソンの事件だ。監視の者の一人から急ぎの報告を受けて駆け付けたが、一瞬遅く、彼女の髪が一房切られてしまった。血が頭にのぼって、つい
「未来の側妃」
と口に出してしまった。
両親にもリゼットにも叱られたが、今ではベルは名実ともに私の妻だ。
そしてオティーリエ王女だが、想像以上に酷い状態だった。
ベルは優しくしてほしい、自分がアシャールで受けた仕打ちを思い出して欲しいと、度々訴えるが、同情する気も起きない。
そのオティーリエ王女の愚かさが、二度目の新枕の儀を失敗に導いた。
儀式の式次第を真剣に聞いていなかったのだろう。
式の前に侍女が
「聖水を飲むのですよ」
と念を押していた。
するとオティーリエ王女は、グラスの聖水を飲み干してしまった。
私は嬉しさに笑って、自分のグラスの聖水を床に零してその場を去った。
新枕の儀はもう行わないことになっている。
そしてオティーリエ王女の二度目の失敗だ。
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