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5.側妃と修道院
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「次はアンジーの番ね」
ベアトリスがアンジェリーナに言う。
「来月立ってしまうのよね。寂しいわ」
「新しいお姉様がいらっしゃるでしょ」
ベアトリスを抱き寄せてアンジェリーナが言う。
「ライラお姉様はジルお兄様が離さないわよ」
二人は笑い合った。
***
翌月、アンジェリーナはフィランジェ王国の王太子ウィンダムの婚約者として、ラバナン王国を出立した。
アンジェリーナが結婚式の半年前にフィランジェ王国へ入った理由は、王太子妃教育の為であるのが建前だ。
その実は、アンジェリーナがフィランジェ王国の気候や習慣に慣れるための気遣いだ。
フィランジェ王家はアンジェリーナを心の底から歓迎した。
まだ婚約者なので、王宮に私室を設けられていた。
結婚式が執り行われた後は、王太子妃宮の区画に移る。
到着してから王太子ウィンダムは毎日、王宮内のアンジェリーナの部屋にカードを添えた花を届けてくれる。カードには短いながらも心配りの言葉が書かれており、日ごとアンジェリーナはウィンダムに惹かれていく。
カードの返事の手紙を毎日送るアンジェリーナに対して、ウィンダムも親愛の情を深めていった。
アンジェリーナがフィランジェ王国に到着した三日後、『家族だけ』でのお茶会が開かれた。
テーブルについたのは、アンジェリーナ、国王夫妻と王太子ウィンダム、その妹で十六歳のビアンカだ。
私的な雰囲気の中、改めて温かい歓迎の言葉を国王夫妻はアンジェリーナにかけた。ウィンダムもアンジェリーナを眩しそうにに見ながら、なにくれとなく世話を焼いてくれる。
その中でビアンカはしばらくおし黙っていた。
ビアンカはアンジェリーナの出迎えに出なかったので、今日が初めてのお目見えだ。
紹介されるとビアンカは目も合わせず無言で軽く頷いただけだった。
その後は、不機嫌そうなビアンカがいないかのように、国王夫妻もウィンダムも振舞った。
どうしたのかしら?
アンジェリーナは怪訝に思った。
四人の歓談を、ふいにビアンカの刺々しい声が破った。
「アンジェリーナ姫は夫に側妃を認めないような狭量な女ではないわよね?」
ビアンカがにこにこ笑いながら聞く。
国王も王妃もウィンダムも固まった。
アンジェリーナは言葉遣いや不躾さに少し面喰ったが、優雅に微笑んだ。
「到着早々、そうおっしゃるのは、すでに決定されているということでしょうか?」
そう言いながら、固まってる三人を見やる。
「そんなことはない!」
国王が慌てて言う。
「ビアンカ!なんて失礼な!あなたは下がりなさい!」
ビアンカは人の悪い笑いを浮かべながら
「でも大切なことでしょ!アンジェリーナ姫が男子を産めない場合は」
「黙りなさい!」
国王の鋭い一喝にビアンカがびくりとする。
「私は側妃なんて考えてないよ」
ウィンダム皇太子が冷たくビアンカに告げる。
「でも!セシリア嬢はあんなにお兄様を愛しているって言ってるのに!せめて側妃にすればいいのに!」
「側妃はいらないし、セシリア嬢がどう思っていてもかまわない」
ウィンダムはきっぱりと言い渡した。
「お兄様も会ったばかりの人より、幼馴染ともいえるセシリア嬢の方が気が楽でしょう?」
ビアンカの言葉にウィンダムは、まるで間違って毛虫でも掴んで潰してしまったような嫌そうな顔になる。
「アンジェリーナ姫以外お断りだ」
「ビアンカ、其方は部屋に戻り謹慎だ。以後、セシリア嬢や側妃について口に出すことを禁ずる」
国王は冷ややかに命じた。
「今までは内輪の揉め事だったが、アンジェリーナ姫に向かってなんと無礼なことを!反省して心を入れ替え、アンジェリーナ姫に謝罪するまで、部屋から出ること罷りならん!」
「そんな!お父様!」
激高するビアンカに、アンジェリーナは静かに言った。
「謝罪はいりません」
優雅に微笑んだ。
「側妃を迎えることも政治のひとつでございましょう。尤も、今の段階でおっしゃられても戸惑うばかりですわ」
アンジェリーナの静かな優雅さの中に、芯の強さをウィンダムも国王夫妻も感じた。
「今後、セシリア嬢や側妃のことを口に出したのならば、即刻修道院に送ります」
王妃は侍女達に命じてビアンカを下がらせた。
「いやな思いをされたでしょう?ごめんなさいね」
王妃がアンジェリーナを労わる。
「国王として言うが、ウィンダムに側妃を娶る予定はないのだ。信じて欲しい」
眉間に皺を寄せて国王が言う。
ベアトリスがアンジェリーナに言う。
「来月立ってしまうのよね。寂しいわ」
「新しいお姉様がいらっしゃるでしょ」
ベアトリスを抱き寄せてアンジェリーナが言う。
「ライラお姉様はジルお兄様が離さないわよ」
二人は笑い合った。
***
翌月、アンジェリーナはフィランジェ王国の王太子ウィンダムの婚約者として、ラバナン王国を出立した。
アンジェリーナが結婚式の半年前にフィランジェ王国へ入った理由は、王太子妃教育の為であるのが建前だ。
その実は、アンジェリーナがフィランジェ王国の気候や習慣に慣れるための気遣いだ。
フィランジェ王家はアンジェリーナを心の底から歓迎した。
まだ婚約者なので、王宮に私室を設けられていた。
結婚式が執り行われた後は、王太子妃宮の区画に移る。
到着してから王太子ウィンダムは毎日、王宮内のアンジェリーナの部屋にカードを添えた花を届けてくれる。カードには短いながらも心配りの言葉が書かれており、日ごとアンジェリーナはウィンダムに惹かれていく。
カードの返事の手紙を毎日送るアンジェリーナに対して、ウィンダムも親愛の情を深めていった。
アンジェリーナがフィランジェ王国に到着した三日後、『家族だけ』でのお茶会が開かれた。
テーブルについたのは、アンジェリーナ、国王夫妻と王太子ウィンダム、その妹で十六歳のビアンカだ。
私的な雰囲気の中、改めて温かい歓迎の言葉を国王夫妻はアンジェリーナにかけた。ウィンダムもアンジェリーナを眩しそうにに見ながら、なにくれとなく世話を焼いてくれる。
その中でビアンカはしばらくおし黙っていた。
ビアンカはアンジェリーナの出迎えに出なかったので、今日が初めてのお目見えだ。
紹介されるとビアンカは目も合わせず無言で軽く頷いただけだった。
その後は、不機嫌そうなビアンカがいないかのように、国王夫妻もウィンダムも振舞った。
どうしたのかしら?
アンジェリーナは怪訝に思った。
四人の歓談を、ふいにビアンカの刺々しい声が破った。
「アンジェリーナ姫は夫に側妃を認めないような狭量な女ではないわよね?」
ビアンカがにこにこ笑いながら聞く。
国王も王妃もウィンダムも固まった。
アンジェリーナは言葉遣いや不躾さに少し面喰ったが、優雅に微笑んだ。
「到着早々、そうおっしゃるのは、すでに決定されているということでしょうか?」
そう言いながら、固まってる三人を見やる。
「そんなことはない!」
国王が慌てて言う。
「ビアンカ!なんて失礼な!あなたは下がりなさい!」
ビアンカは人の悪い笑いを浮かべながら
「でも大切なことでしょ!アンジェリーナ姫が男子を産めない場合は」
「黙りなさい!」
国王の鋭い一喝にビアンカがびくりとする。
「私は側妃なんて考えてないよ」
ウィンダム皇太子が冷たくビアンカに告げる。
「でも!セシリア嬢はあんなにお兄様を愛しているって言ってるのに!せめて側妃にすればいいのに!」
「側妃はいらないし、セシリア嬢がどう思っていてもかまわない」
ウィンダムはきっぱりと言い渡した。
「お兄様も会ったばかりの人より、幼馴染ともいえるセシリア嬢の方が気が楽でしょう?」
ビアンカの言葉にウィンダムは、まるで間違って毛虫でも掴んで潰してしまったような嫌そうな顔になる。
「アンジェリーナ姫以外お断りだ」
「ビアンカ、其方は部屋に戻り謹慎だ。以後、セシリア嬢や側妃について口に出すことを禁ずる」
国王は冷ややかに命じた。
「今までは内輪の揉め事だったが、アンジェリーナ姫に向かってなんと無礼なことを!反省して心を入れ替え、アンジェリーナ姫に謝罪するまで、部屋から出ること罷りならん!」
「そんな!お父様!」
激高するビアンカに、アンジェリーナは静かに言った。
「謝罪はいりません」
優雅に微笑んだ。
「側妃を迎えることも政治のひとつでございましょう。尤も、今の段階でおっしゃられても戸惑うばかりですわ」
アンジェリーナの静かな優雅さの中に、芯の強さをウィンダムも国王夫妻も感じた。
「今後、セシリア嬢や側妃のことを口に出したのならば、即刻修道院に送ります」
王妃は侍女達に命じてビアンカを下がらせた。
「いやな思いをされたでしょう?ごめんなさいね」
王妃がアンジェリーナを労わる。
「国王として言うが、ウィンダムに側妃を娶る予定はないのだ。信じて欲しい」
眉間に皺を寄せて国王が言う。
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