Firefly Wedding≪赤の魔女は恋をしない8≫

チャイムン

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10.ビーとロタンダ

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 兵達の証言によると、回廊や庭園に出没するようになった不気味な人影はこうだ。

 髪は赤茶けていくつもの束になってざんばらに広がっている。
 顔には破れかけ汚れた包帯が巻かれており、そこから裂けて歯が見える口があり、笑っている。
 何百年か前に流行った少し膨らんだ縞模様の丈の短いブリーチズで、上着はボロボロ。

 報告をきいたデーティアは片手で額を押さえて考え込んでしまった。

 悪霊だって?悪意の欠片も感じない。
 現場に残るのは、無邪気な楽しさだ。子供?大人?そして血族の気配がする…

 ***

 ベアトリスが昔の夢を見るようになったのも同じ頃だった。

 ベアトリスは物心ついた頃から、夢の中で男の子と遊んでいた。
 男の子の名前はロタンダ。
 ぬいぐるみが好きで、楽しいことが大好き。
 石造りのお城に住んでいると言った。

 いつか蛍の大群を見るのが夢だと言った。

 夢のなかでベアトリスは誘った。
「もうすこし森の中に行ったところに湖があるの。そこは夏のはじめになると蛍でいっぱいよ。一緒に見に行きましょう」
 するとロタンダは悲しそうな顔になる。
「僕はこの部屋から出られないんだ。僕が悪い子だから」
「ロタンダは悪い子じゃないわ」
 二人はいつもぬいぐるみや人形で遊んだ。

 しかし、ベアトリスが六歳になる頃には、ロタンダの夢を見なくなった。
 そしてそのまま記憶は薄れていった。

 ビアンカの騒ぎのあった翌日、ベアトリスは夢を見た。
「ビー、大好きなビー。また会えたね」
 ロタンダがそこにいた。しかし半ば影に隠れて姿ははっきり見えなかった。

「ロタンダ!」
 ベアトリスはロタンダに駆け寄ろうとしたが、その瞬間、ロタンダの姿は消えた。

「ビー、ごめんね。前にみたいに近くへいけないんだ」
 後ろから声がする。
 振り向くとまた影をまとったロタンダがいた。

「なぜ姿が見えないの?どうしたの、ロタンダ」
「ごめんね、ビー。僕は悪霊なんだ。近づいたらビーも傷つけちゃう」

「ロタンダ!」
 ベアトリスは手を伸ばしたがロタンダの姿は消え、闇だけが残った。闇の中でロタンダの声だけが聞こえた。

 ロタンダはベアトリスに語る。

 ***

 僕は王子だった。この王宮ができる前のお城に住んでいた。楽しいことが大好きで、いつも笑って暮らしていた。

 十歳になったある日、お父様と仲がいい女の人に誘われたんだ。
「あなたの妹を見にいらっしゃい」って。
 僕は喜んで妹を見に行った。
 お母様はもう死んだのに妹ができたなんて嬉しかった。もしかしたら、お母様が生き返ったのかもしれないと思ったよ。

 女の人はお菓子を用意するから、赤ちゃんを見ていてねって言って部屋から出て行った。僕は妹を見に揺り籠に近づいたんだ。でもそこには誰もいなかった。
 僕は周りを見回した。

 そしたら女の人が部屋に入ってきて大声を上げたんだ。

「わたくしの赤ちゃんが!誰か来て!ロタンダ王子が姫を殺した!!姫を暖炉に投げ入れたわ!!」

 僕はとっても驚いた。

 違うよ、何もしてないよ。

 僕は女の人に言おうとしたら、突き飛ばされた。顔から暖炉に突っ込まれた。
 熱くて痛かった。

 気が付くと僕は真っ暗な部屋にいた。
 部屋には毛布とロッキングチェアしかなかった。窓もなくて真っ暗で、僕は怖くて泣いた。
 涙が顔の火傷に染みた。顔は包帯が巻かれていたけど、もう誰も僕の手当をしてくれなかった。ずっと痛くて苦しかった。

 真っ暗だから時間もわからない。ただ下の方にある小さな扉から、時々食事が差し込まれた。
 そのうち乳母が来てくれるようになったけど、部屋には入ってこられなかった。小さな扉から大好きなぬいぐるみ達や人形を入れてくれて、物語を聞かせてくれた。

 僕は蛍の大群の話が一番好きだ。夜なのに明るく光っているんだって。

 その乳母もいつしか来なくなった。

 僕は夢見た。
 乳母が話した蛍の大群を見たい。

 部屋は真っ暗だったから、覚え始めた魔法で灯りの魔晶石を作った。いっぱい作った。そして壁に埋め込んだんだ。
 蛍の王国を作ろうとしたんだ。
 でも魔晶石は瞬かない。
 蛍の王国は作れなかった。

 どのくらい時間が経ったかわからない。
 ある日僕の部屋に煙が入ってきた。
 苦しかった。
 そのあと僕は自由になったんだ。
 体が浮いてどこにでも行ける気がした。
 僕は蛍を探しに行こうとした。

 でも何かが僕を捕まえて部屋に引きずり戻した。

 部屋の向こうで食事用の扉が塗りつぶされるのが分かった。

「悪霊よ。沈まれ」
 誰かが言ったんだ。
 僕はもう部屋から出られなくなった。

 それで僕はわかったんんだ。
 僕は悪霊になったんだって。

 長い長い間、僕はたった一人だった。

 あの夜、ビーが夢の中へ招き入れてくれるまで。

 大好きなビー。
 お願いだ。
 僕を助けて。僕を止めて。

 茶色の髪の女の人が扉を壊したから、僕の心の一部が外へ出るようになっちゃったんだ。

 僕の心の一部、そいつは悪霊なんだ。
 皆を傷つけて笑う悪霊なんだ。

 僕はその悪霊なんだ。

 ***

 白々とした夜明け、目覚めたベアトリスの顔は涙で濡れていた。

 ロタンダ。
 夢の男の子。
 わたくしの初めてのお友達。
 どうしたらあなたを助けられるの?
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