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5.ギリアン子爵次女シンシアの憤懣
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シンシアは怒っていた。
(ずるい!アーシアはずるい!!)
シンシアは姉のアーシアを「姉上」や「お姉さま」と、兄のカッツェを「兄上」や「お兄様」と呼んだことはない。
常に自分が格上だと思っているからだ。
(お母さまが言ったもの!シンシアが一番だって)
アーシアは1度シンシアを鞭で叩いたことがある。そして脅したのだ。
(絶対に許さない!!)
アーシアがワレン王国第三王子スリヤと婚約することになり、大暴れした時のことだ。
「あたしがお姫様になる!」と父に強請っても、頑として許されなかったからだ。
それでシンシアは怒りのあまり使用人を乗馬用の鞭で叩いて追いかけまわし、それを止めに入ったアーシアに鞭を取り上げられ太腿に一撃をくらっただけのことだ。
その前にもシンシアは度々使用人達を扇で打ったり、叩いたり蹴ったりもしていた。アーシアはその度止めに入った。
馬の鞭の件ではアーシアの顔を強かに打ちのめした。打たれながらもアーシアは使用人達をかばい、鞭を取り上げシンシアの太腿を叩き宣言した。
「まだ誰かを打つつもりならば覚悟しなさい。これから使用人に手を上げたら、同じことを私があなたにします」
アーシアが顔に傷を負ったことで、シンシアは鞭も扇も取り上げられ、乗馬のレッスンも断念を余儀なくされた。
シンシアはホルヘルからきつく叱られた。
もちろんヨランダはシンシアは悪くないと言ったものだ。
(お母さまはシンシアの方がお姫様になるって言ったのに!)
どんなに喚いても誰も聞き入れてくれない。
アーシアはいつもいいものをお祖父さまにもらっている。
留学のために用意された宝石の煌めきにシンシアは歯噛みした。
これもいくら欲しがっても、こればかりは父が
「これはアーシアの留学のためにお祖父様が用意したものだよ」
と言って譲らない。
「本当に憎らしい子だわ。わたくし達にはなにひとつないなんて」
カッツェのお披露目でも社交界デビューでも、仕立て屋が来たので二人の衣装を作ることができた。
ところがアーシアの場合は、全てエイダ侯爵家で取り仕切っているので、それもできない。
正装と宝飾品は家族へ見せただけで、エイダ侯爵が保管してしまった。
こっそり着ることもできなかった。
着ようとしてもシンシアの体に入るはずもないのに。
普段のアーシアのドレスは欲しくもないが、これは別だ。
だがシンシアは気づかない。
シンシア十歳、アーシア十四歳の現在、体形に著しい差異があるのだ。
小柄で細身の母親に似ず、十歳シンシアは今や姉より母よりやや背が高い。これからもっと伸びるだろう。
そしてでっぷり肥え太り、アーシアの普段着のゆったりしたガブリエル・ドレスすら体が通らない状態であることをシンシアはわかっていない。
母は「年頃になったら痩せるわ」と甘やかしている。
その頃に愛用の薬草茶を与えればいいとヨランダは考えていた。
通常、ギリアン家では脂っこい食事が大量に用意される。それは先代が好きだった料理だ。
ヨランダが好きなものを大量に食べているのを見て、シンシアは安心しきって暴食した。
勉強は大嫌い。体を動かすのも嫌い。
お菓子は大好き。
お洒落も大好き。
ピンクやオレンジ、白に黄色。
母のように飾りはたっぷり。
「可愛いわ」と褒めるシンシアの言葉を鵜呑みにしている。
母は囁くのだ。
「あなたはお姫様になるのよ。絶対に。お母様と一緒に行きましょうね」
お姫様。
それは魅惑的な言葉だ。
母の甘い毒が流しこまれ蝕まれていく自分に気づかず、刻一刻と破滅へ向かっていることを知らない。
母の甘い言葉を鵜呑みにしながらも、シンシアはいつも怒っている。
ずるい。何もかもがずるい。
それが何かはわからないのだが。
今日もシンシアの生活は甘い毒でいっぱいだ。
甘いお茶、甘いお菓子、そして母の甘い甘い囁き。
(ずるい!アーシアはずるい!!)
シンシアは姉のアーシアを「姉上」や「お姉さま」と、兄のカッツェを「兄上」や「お兄様」と呼んだことはない。
常に自分が格上だと思っているからだ。
(お母さまが言ったもの!シンシアが一番だって)
アーシアは1度シンシアを鞭で叩いたことがある。そして脅したのだ。
(絶対に許さない!!)
アーシアがワレン王国第三王子スリヤと婚約することになり、大暴れした時のことだ。
「あたしがお姫様になる!」と父に強請っても、頑として許されなかったからだ。
それでシンシアは怒りのあまり使用人を乗馬用の鞭で叩いて追いかけまわし、それを止めに入ったアーシアに鞭を取り上げられ太腿に一撃をくらっただけのことだ。
その前にもシンシアは度々使用人達を扇で打ったり、叩いたり蹴ったりもしていた。アーシアはその度止めに入った。
馬の鞭の件ではアーシアの顔を強かに打ちのめした。打たれながらもアーシアは使用人達をかばい、鞭を取り上げシンシアの太腿を叩き宣言した。
「まだ誰かを打つつもりならば覚悟しなさい。これから使用人に手を上げたら、同じことを私があなたにします」
アーシアが顔に傷を負ったことで、シンシアは鞭も扇も取り上げられ、乗馬のレッスンも断念を余儀なくされた。
シンシアはホルヘルからきつく叱られた。
もちろんヨランダはシンシアは悪くないと言ったものだ。
(お母さまはシンシアの方がお姫様になるって言ったのに!)
どんなに喚いても誰も聞き入れてくれない。
アーシアはいつもいいものをお祖父さまにもらっている。
留学のために用意された宝石の煌めきにシンシアは歯噛みした。
これもいくら欲しがっても、こればかりは父が
「これはアーシアの留学のためにお祖父様が用意したものだよ」
と言って譲らない。
「本当に憎らしい子だわ。わたくし達にはなにひとつないなんて」
カッツェのお披露目でも社交界デビューでも、仕立て屋が来たので二人の衣装を作ることができた。
ところがアーシアの場合は、全てエイダ侯爵家で取り仕切っているので、それもできない。
正装と宝飾品は家族へ見せただけで、エイダ侯爵が保管してしまった。
こっそり着ることもできなかった。
着ようとしてもシンシアの体に入るはずもないのに。
普段のアーシアのドレスは欲しくもないが、これは別だ。
だがシンシアは気づかない。
シンシア十歳、アーシア十四歳の現在、体形に著しい差異があるのだ。
小柄で細身の母親に似ず、十歳シンシアは今や姉より母よりやや背が高い。これからもっと伸びるだろう。
そしてでっぷり肥え太り、アーシアの普段着のゆったりしたガブリエル・ドレスすら体が通らない状態であることをシンシアはわかっていない。
母は「年頃になったら痩せるわ」と甘やかしている。
その頃に愛用の薬草茶を与えればいいとヨランダは考えていた。
通常、ギリアン家では脂っこい食事が大量に用意される。それは先代が好きだった料理だ。
ヨランダが好きなものを大量に食べているのを見て、シンシアは安心しきって暴食した。
勉強は大嫌い。体を動かすのも嫌い。
お菓子は大好き。
お洒落も大好き。
ピンクやオレンジ、白に黄色。
母のように飾りはたっぷり。
「可愛いわ」と褒めるシンシアの言葉を鵜呑みにしている。
母は囁くのだ。
「あなたはお姫様になるのよ。絶対に。お母様と一緒に行きましょうね」
お姫様。
それは魅惑的な言葉だ。
母の甘い毒が流しこまれ蝕まれていく自分に気づかず、刻一刻と破滅へ向かっていることを知らない。
母の甘い言葉を鵜呑みにしながらも、シンシアはいつも怒っている。
ずるい。何もかもがずるい。
それが何かはわからないのだが。
今日もシンシアの生活は甘い毒でいっぱいだ。
甘いお茶、甘いお菓子、そして母の甘い甘い囁き。
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