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*SNSをする女*
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先日のご提案は検討してもらえましたでしょうか?
どうしても私に任せてほしいのです。
この強い想いを文字にするのは難しく、もし許されるならば、直接お会いしてご説明したい。そう思っているくらいです。
とはいえ、昨今の詐欺まがいな、なりすましの台頭を考えると、無理にお訪ねするわけにもいかず、もどかしいばかり。
先にお送りしているメッセージの繰り返しになりますが、ぜひ私にあなたの、あなたの作品の、宣伝やマネジメントをさせてください。
私には自信があります。必ずの成果をお約束いたします。
*SNSをする女*
「また来た」
思わず声が出た。
この人からダイレクトメールが届くのは二回目だった。ざっと目を通してみると、長めの吹き出しには前回とほとんどおなじことが書かれている。
「ねえ、また来たよ。勧誘みたいな、スカウトみたいな、へんなメール。マネジメントさせてください、必ずの成果をお約束します、だって」
彼のほうを振り返って報告する。
「なんだよ、必ずの成果って」
彼はこちらを見ることなく訊く。
「なんだろう? 売れっ子にしてくれるとか?」
あたしは彼の背中にむかって答える。それでも、すぐそこに座る彼は右手が小さく動いているくらいで、こちらを向く気配もみせない。
「……なんだそれ」
形容しがたい、なんとも言えない間のあとで、彼はつまらなそうな声でそう言った。
メールの話は彼には興味のない話題らしい。そうでなければ、邪魔をするな、ということなのだろう。
これ以上言っても仕方がないのだと、あたしは悟る。
正直、宣伝はありがたい。宣伝してくれるっていうなら、ぜひにでもしてほしい。たとえそんな得体の知れない、本当に宣伝なんだかどうだかわからないものじゃ効果がないって言われたとしても、試すだけは試してみたいと思う。ネットに公開している小説のPV数は伸び悩んでいた。もっと読んでほしいのに、もっと読まれたいのに。
先週、宣伝やマネジメントをさせてほしいという人からダイレクトメールが届いた。突然のことだった。
また宣伝? はじめはそう思った。自費出版を誘う営業勧誘メールがこれまで何度も、次から次へと見たこともない人たちから送られてきていた。けれど、今回はそれとはちがうようだった。読むのも面倒になる長さのメールの、ところどころに書かれた魅惑のワードに、あたしは惹かれた。
十数年の営業歴。独立してチャンスを伺っていた。そして見つけた。宣伝させてほしい。出版社にアプローチ。
そんな言葉があたしの欲求を刺激する。
「は? バカじゃねえの、そんなの怪しいに決まってんだろ」
大喜びで報告したのに、彼はあたしの話を一蹴した。
「いまどきそんなのにひっかかるヤツなんて、いるの?」
冷ややかに笑いもした。
「だよね」
思ってもみなかった彼の反応に軽い衝撃と反感を覚えはしたけれど、そりゃそうだと思った。キッパリと言いきられ、あたしの頭も冷えた。いまの時代、そんなうまい話があるわけがない。
それでも、心のどこかでは、本当だったらいいのにと思わずにはいられなかった。だって、そこそこには人気があるし、かなりいい評価コメントをもらったりもしてる小説なのだ。誰かの目に留まったっておかしくない。そろそろ見出されるべきだ。
たしかに怪しい話ではある。でも証拠はない。ちゃんとしたところだって証拠もないけれど、たとえば詐欺だとかっていう決め手もなかった。
それに彼はいつも慎重すぎる。あたしがいいアイデアを思いついても上の空で聞き流し、大して検討もせずに否定する。そのくせ、自分がしてほしいことになると二度、三度とおなじことを言い、挙句、
「ちゃんと聞いてるのか? なにをするんだったか言ってみろ」
なんてことを口にするところもある。
心配されているんだ、なんていうふうには、付き合いはじめのすぐくらいにしか思うことはできなかった。
「そんなに信用ならない?」
「あたしのことバカにしてる?」
何度問い返しそうになったことか。
それでもそうしないのは、彼のちょっと亭主関白チックな言動がほかの誰かに発動されることはなく、すべてあたしにだけ発せられることだからにすぎない。これは形こそちょっとおかしいけれど、彼にとってあたしが特別だっていう証拠。だからあたしがキレて反論するのは、もう別れてもいいって決めたときだけだと思う。
それにしても、今回のは本当であってほしいなぁ。実力者に目を付けられて大ヒット。それだってよく聞く話じゃないか。
第一、今のあたしを騙したところで、なんの利益があるっていうの? なにもないよね? せいぜい笑い話のネタにできるくらいだ。それなのにわざわざ声をかけたりするかな? なんのために? ほら、やっぱコレ、本物じゃない?
そうやって完全には諦めきれずにいるところに、届いたのだ。二通目メールが。
詐欺だったらさ、スルーされてんのにわざわざまたアプローチしてくるかなぁ? こういうの、チャンスなんじゃないの? 認めてくれるひとがいる今のうちに、グッと前進するべきだ。そんな気がする。
あたしの勘は当たる。これまでよくそう言われてきたし、こんなにも偏屈な彼にだって言われたことがある。
「ねえ、いいじゃん、返事してみるね」
あたしは彼の背中に訊ねるのではなく、宣言をした。
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