妖怪たちに愛されすぎる優しい和菓子職人

及川証 (アカシ)

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地獄編―白蜘蛛の章―

61.閻魔の息子の育て親

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 我は必要のない存在。
 閻魔の息子。地獄の最高位の子供。だからなんだ。

 皆、我を見るのは閻魔の陰。
 個人として見られることはなかった。

 我を見る目には必ず父の姿がある。部下はビクビクしながら小さい我に頭を下げる。

 意見をするものも反論するものもいない。

 ああ、つまらない。

 どんな貢物もガラクタに見え倉の肥やし。

 地獄を散策するくらいしか楽しみがなかった。

 恐怖、絶望、不安そんな亡者の列を見ているくらいしか時間潰しにしかなかった。

 ―――そんな時だった1人の老人と会ったのは。

「おやお前さんも死んでしまったのかい?」

 「こんな小さな子が可哀想に……」そう言いながら撫でられ我は固まってしまった。

 最高位の頭を人間が触れることなど不敬にもほどがある。

 しかし我はその手が心地よかった。
 なにかがとめどなくあふれ出す。

 溢れるなにかが頬をつたい止まらない。

 老人は穏やかに微笑むと列から離れそっとシワシワの細い腕で我を抱き上げた。

「コレをお食べ」

 竹皮の包みを懐から取り出し老人は我に差し出す。

 それは副葬品。故人とともに棺に納めた物。それと老人を交互に見る。

「いいの?もう二度と食べられないよ」

「かまわないよこれは私の作った菓子。自分で食べるよりお前さんみたいな可愛らしい子に食べてもらった方がうんと嬉しいもんさ」

 そう言って差し出された菓子はどんなに見た目が良くて高い菓子が霞むほど美味しかった。

 菓子だけじゃない。その温かい手も我個人をまっすぐ見てくれる瞳も。

 日増しにそれは色濃くなると同時に我を形付けてくれた。

 この老人―――吉兵衛は天国行きの人間。
 裁きを待たなくてもわかるほどの善人。

 この人を転生させたら自分を忘れてしまうかもしれない。

 ―――いや、確実に忘れるだろう。

 嫌だ。そんなのは許せない。

 それは我が最初に感じ持った我儘。

 転生の輪廻を変えることは幼い我には不可能。

 だから行動した最善を尽くすために。
 地獄の皆にバレずに調べた。転生しても記憶を無くさない方法を。

「絵にすればいいだろ」

 そんな中出会ったのが佐脇嵩之という江戸時代の絵師。

 天国行きであるはずの彼はどうやったかはわかないがここで自由気ままに絵を描いているらしい。

 本人曰く「天国より天国」と頭のおかしな男。

「俺が描いてやるよ―――記憶に残る傑作をな」

 ―――

「というわけ」

 和人の過去の話を聞いた者たちにとって疑問しかない一点をぬらりひょんは聞く。

「では何故おヌシに関する記憶がない?吉坊は覚えておらぬようじゃが」

 ぬらりひょんは確認のため吉兵衛を見ると本人はとても申し訳なさそうな表情を浮かべている。

「あの絵と吉兵衛との縁で、地獄と深く結ばれてしまった。記憶を保持できたのもそのおかげ。だけど、そのせいで地獄に落ちてもおかしくなくなってしまった。……きっと地獄の記憶は奥に――いや、今はそれはどうでもいいね」

 「これは僕の無知のせいだ。ごめん」と深々と和人は頭を下げると吉兵衛はその肩に優しく手を置いた。

「そのおかげで私は紅目たちとまた会えたんだ。礼を言うことはするけど恨むなんてとんでもないよ。それに――どうにかするために私を呼んだんだろ?」

 その言葉に和人は頷く。

「太鼓と笛で黄泉へ通ずる門を開けたのは確かに我だよ」

「自分勝手すぎない?事前に言うこともせずにさ―――吉ちゃんが急に消えられる僕たちの気持ち考えてくれない?」

 ニッコリと貼り付けた笑みを浮かべる白蜘蛛。は歩きだした。

「さて。さっさとこんな所出よー閻魔城行ってなにすればいいの?」

 その白蜘蛛声には不機嫌にも似たような怒気がにじみ出ていた。


 
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