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第一章『妖精おじさんがあらわれた。ただし、その姿は見えない』
第19話 紅き大剣
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イベントが終わって庭園風の場所にあるベンチへ放心状態で座る。三十分は長いようで短く感じた。
運が良かったのか走り回っている間、他のプレイヤーには狙われずに回復魔法をかけ続けることができた。そして、手紙で送られてきたランキングの結果を見て驚く。自分がエリア内で最もポイントを得ていたからだ。
プレイヤーどころかモンスターすら倒していないのに。回復魔法にもポイントが設定されていたのは明白で、思いがけずに次のステップへ進んでしまった。
次の開始は十分後。困惑はもちろんだが嬉しい気持ちもある。自らの行動が評価の対象になったのは素直にやる気が出た。
待ち時間には何もしないで星が見え始めた空を眺める。湧いた興奮を落ち着かせていると、あっという間にシステムメッセージでカウントダウンが始まった。
≪イベント専用エリアに転送します≫
覚悟を決めて深呼吸。転送された場所は岩場で見通しのいい場所だった。
「キュル助、カモフラージュ!」
てっきり森の中に来るものとばかり思っていたので少し慌てる。マップは森が八割で一度目と同じだ。ランダムで低確率の転送場所を引いたらしい。
急に緊張の中に放り込まれたが森を目指して移動する。正直、イベントの空気感は十分に味わえたし満足感も得られた。のんびり特別なエリアの観光に精を出すのも魅力的だが、もうひと頑張りだ。
「チャージスラッシュ」
突然声が聞こえて周りを確認すると、モンスターを相手に戦うプレイヤーを見つけた。耳で初めて気づくのは注意力の欠如ゆえか。
体力は安全ライン。無事に倒せそうで回復魔法の出番はない。赤い髪に大剣を振り回す姿はまさにファンタジーで、自分との違いにため息ものだった。
適材適所と前向きに去る直前、別方向から近づく短剣を持ったプレイヤーが目に入る。慎重な足取りで背中を取ろうとする動きなのは明らかだ。
ここは動向を見守るのが与えられた役目。待つまでもなく状況は進み、がら空きの背中へ青く光った短剣が素早く襲い掛かる。
「っ!」
一気に体力が半分以下に減った。ジェスチャーかメニューを上手く使ったのか、スキルが発動した瞬間は見えなかった。
反撃で大剣が横に振るわれる。短剣側は身軽な動きで避けてカウンターで追加ダメージを与えていた。
急いで回復をと思ったが魔導書へのストックはまだ。移動を優先させて透明になったのは早計だった。
逃げるのは簡単だけれど見捨てるようで後味が悪くなる。迷うのはやめて距離を取り、メニューを開いて詠唱を選択だ。
透明化は解除されるが視界外で存在はバレていない。
――シュンッ!
ただ、詠唱完了の音は中々に響いた。攻撃系の魔法を恐れてか二人のプレイヤーが動きを止めて距離を取る。
「トリガー、ヒール」
回復魔法だというのを音声コマンドで知らせた。そこで二人の対応に差が出る。こちらに向かってくるのは短剣側の、回復を受けなかったプレイヤーだ。
間違いなく仲間と思われているはず。真っ先に回復役が狙われるのは初心者にも分かった。
きっと相手は戦いに慣れている。目の前で行う透明化がどこまで通じるか。駄目で元々でも試すしか身を守る手段はなかった。
「サークルスラッシュ」
しかし、その後ろから赤髪のプレイヤーが大剣を縦に回し一足飛びに近づく。間にいる短剣側が気づいて避けるも、攻撃がかすったのか体力が減っていた。
届く距離に来た大剣に貫かれるのではと恐れるが、無警戒な背中を見せられる。これで安心していいのかどうか。
――シュンッ!
詠唱の音が聞こえて誰がと疑問に思ったのはここにいる三人のうち自分だけのようで、短剣を持つプレイヤーがこちらをターゲットに走って来た。振りが重い大剣は注意すれば避けられる自信があるらしい。
諦めて成り行きに任せていると大剣が炎に包まれた。
「なっ?!」
何かの魔法が発動したのは見れば分かる。短剣側が驚きの声を上げたのは、おそらく回復魔法を想定していたからだ。
振るわれた大剣は避けられるが炎の影響で範囲が伸び、確実にダメージを与えている。焦って離れようとした相手への追撃も見事に決まった。体力や防御力が元々低かったのか、短剣を持つプレイヤーの色味が失われて地面に倒れる。死んだ扱いで戦闘が行われた証にしばらくその場に残るものだ。
「助かった」
赤髪のプレイヤーが背中に大剣を収めて話しかけてくる。敵対の意志はなさそうだった。
「自分も助かりました」
余計な真似をするなと怒られなくてよかった。
「……」
人との会話が久しぶりで何を喋ればいいのか迷う。前にいるのは顔立ちが整った女性キャラクターで、つい緊張する。
「紅」
「……? あ、ナカノです。初めまして」
一瞬、意味が分からなかったけれどプレイヤー名なのがターゲットで分かる。
「このイベントで回復魔法を使う人は珍しい。次のエリアでは大物を狙う。見かけたら手伝って」
それだけ言って、紅さんはどこかへ歩いて行った。大物とはシステムメッセージで説明があった、強大なモンスターのことだろう。
必要とされるのは嬉しいのだが、期待に応えるには初戦を勝ち抜いたプレイヤーよりもポイントを稼がなければならない。
「もうひと頑張りではなく、もうふた頑張りか……」
次を見据えて行動する姿は尊敬ものだった。
運が良かったのか走り回っている間、他のプレイヤーには狙われずに回復魔法をかけ続けることができた。そして、手紙で送られてきたランキングの結果を見て驚く。自分がエリア内で最もポイントを得ていたからだ。
プレイヤーどころかモンスターすら倒していないのに。回復魔法にもポイントが設定されていたのは明白で、思いがけずに次のステップへ進んでしまった。
次の開始は十分後。困惑はもちろんだが嬉しい気持ちもある。自らの行動が評価の対象になったのは素直にやる気が出た。
待ち時間には何もしないで星が見え始めた空を眺める。湧いた興奮を落ち着かせていると、あっという間にシステムメッセージでカウントダウンが始まった。
≪イベント専用エリアに転送します≫
覚悟を決めて深呼吸。転送された場所は岩場で見通しのいい場所だった。
「キュル助、カモフラージュ!」
てっきり森の中に来るものとばかり思っていたので少し慌てる。マップは森が八割で一度目と同じだ。ランダムで低確率の転送場所を引いたらしい。
急に緊張の中に放り込まれたが森を目指して移動する。正直、イベントの空気感は十分に味わえたし満足感も得られた。のんびり特別なエリアの観光に精を出すのも魅力的だが、もうひと頑張りだ。
「チャージスラッシュ」
突然声が聞こえて周りを確認すると、モンスターを相手に戦うプレイヤーを見つけた。耳で初めて気づくのは注意力の欠如ゆえか。
体力は安全ライン。無事に倒せそうで回復魔法の出番はない。赤い髪に大剣を振り回す姿はまさにファンタジーで、自分との違いにため息ものだった。
適材適所と前向きに去る直前、別方向から近づく短剣を持ったプレイヤーが目に入る。慎重な足取りで背中を取ろうとする動きなのは明らかだ。
ここは動向を見守るのが与えられた役目。待つまでもなく状況は進み、がら空きの背中へ青く光った短剣が素早く襲い掛かる。
「っ!」
一気に体力が半分以下に減った。ジェスチャーかメニューを上手く使ったのか、スキルが発動した瞬間は見えなかった。
反撃で大剣が横に振るわれる。短剣側は身軽な動きで避けてカウンターで追加ダメージを与えていた。
急いで回復をと思ったが魔導書へのストックはまだ。移動を優先させて透明になったのは早計だった。
逃げるのは簡単だけれど見捨てるようで後味が悪くなる。迷うのはやめて距離を取り、メニューを開いて詠唱を選択だ。
透明化は解除されるが視界外で存在はバレていない。
――シュンッ!
ただ、詠唱完了の音は中々に響いた。攻撃系の魔法を恐れてか二人のプレイヤーが動きを止めて距離を取る。
「トリガー、ヒール」
回復魔法だというのを音声コマンドで知らせた。そこで二人の対応に差が出る。こちらに向かってくるのは短剣側の、回復を受けなかったプレイヤーだ。
間違いなく仲間と思われているはず。真っ先に回復役が狙われるのは初心者にも分かった。
きっと相手は戦いに慣れている。目の前で行う透明化がどこまで通じるか。駄目で元々でも試すしか身を守る手段はなかった。
「サークルスラッシュ」
しかし、その後ろから赤髪のプレイヤーが大剣を縦に回し一足飛びに近づく。間にいる短剣側が気づいて避けるも、攻撃がかすったのか体力が減っていた。
届く距離に来た大剣に貫かれるのではと恐れるが、無警戒な背中を見せられる。これで安心していいのかどうか。
――シュンッ!
詠唱の音が聞こえて誰がと疑問に思ったのはここにいる三人のうち自分だけのようで、短剣を持つプレイヤーがこちらをターゲットに走って来た。振りが重い大剣は注意すれば避けられる自信があるらしい。
諦めて成り行きに任せていると大剣が炎に包まれた。
「なっ?!」
何かの魔法が発動したのは見れば分かる。短剣側が驚きの声を上げたのは、おそらく回復魔法を想定していたからだ。
振るわれた大剣は避けられるが炎の影響で範囲が伸び、確実にダメージを与えている。焦って離れようとした相手への追撃も見事に決まった。体力や防御力が元々低かったのか、短剣を持つプレイヤーの色味が失われて地面に倒れる。死んだ扱いで戦闘が行われた証にしばらくその場に残るものだ。
「助かった」
赤髪のプレイヤーが背中に大剣を収めて話しかけてくる。敵対の意志はなさそうだった。
「自分も助かりました」
余計な真似をするなと怒られなくてよかった。
「……」
人との会話が久しぶりで何を喋ればいいのか迷う。前にいるのは顔立ちが整った女性キャラクターで、つい緊張する。
「紅」
「……? あ、ナカノです。初めまして」
一瞬、意味が分からなかったけれどプレイヤー名なのがターゲットで分かる。
「このイベントで回復魔法を使う人は珍しい。次のエリアでは大物を狙う。見かけたら手伝って」
それだけ言って、紅さんはどこかへ歩いて行った。大物とはシステムメッセージで説明があった、強大なモンスターのことだろう。
必要とされるのは嬉しいのだが、期待に応えるには初戦を勝ち抜いたプレイヤーよりもポイントを稼がなければならない。
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次を見据えて行動する姿は尊敬ものだった。
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