社畜おじさん、仕事を辞めて辻ヒーラーになる。

七渕ハチ

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第二章『回復代行結社でござる』

第54話 準備期間の過ごし方

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 アイテム欄を見て悦に入る。イベント対策に費やした三日間で、調合の熟練度が180を超えてマナポーションのプラス値が6になった。

 回復効果+6%がどれだけ有用かは分からないが、マーケットではすぐに買い手がついていた。プラスごとに素材が変わるため色々なものを購入し、正解を探す作業にかかった経費も楽に回収できた。

 懐が潤うとついついお金離れはよくなる。調合を行うギルドホームの殺風景さが気になってからは、マーケットとにらめっこする時間が多くなった。

 どうやら家具は木工というスキルで作成するらしい。しかし、調合と同じく生産タイプで手を出すのはためらってしまう。やはり回復魔法をメインに遊びたいので、ホームに引きこもってばかりもいられなかった。

 そこで稼いだ資金を頼りに家具を求め、最初に買ったのが暖炉だ。ロマンを感じて即決だった。

 家具はギルド画面で自由に配置場所のカスタマイズが行える。冷静になると内装などセンスが必須の作業だけれど、不得意であっても楽しいものは楽しい。現実では中々腰が重くなる部屋の模様替えも、ゲームの中だと手元の操作のみで簡単だった。

 雰囲気抜群なアンティークの暖炉を壁に置いてテンションは上がる。次に真っ白な部屋そのものを変えたくなり、暖炉に合わせてファンタジー風を目指すことにした。選んだのはレンガ調の壁紙だ。

 壁を新しくすると一気にまともな部屋になる。感触はリアルで重々しい。床は温かみのある木にして赤い絨毯を敷いた。

 ゲームを通じて自分のセンスが成長したのかと疑いたくなるぐらいに完璧で、タルや剣に盾、鎧を追加購入後に飾って一日目が終わる。

 その翌日。ウキウキ気分でログインするとホームの雑然さに言葉を失った。まさか一晩経って印象が真逆になるのは予想外で、しばらくは調合も捗らなかった。

 仕上がり残念な内装で散財した分を再び稼いだ後はリベンジだ。壁紙などを除いて家具を回収し、今度は反省してシンプルな方向性でいく。

 参考にするのはゲーム内で出会った建物たち。頭の中で思い出しながらマーケットを眺め、まずは冒険者ギルドで見た邪魔にならない観葉植物を買う。さらにファンタジー要素を強めるため調合ギルドを真似て薬品棚を配置した。

 興が乗って次々と試しそうになるが我慢。最後に絵画を飾り手前の部屋から奥の部屋に移る。双方で少し趣を変えてメリハリをつけてみた。

 騎士団でメインクエストを受けたときの部屋が好みだったので、執務机を置いて本棚を壁際に並べる。それだけで落ち着いた空気感が生まれた。

 二つの部屋を何度も往復し確認する。雑然さとは無縁の整然とした内装に大丈夫かと心配しつつも、納得の出来だった。

 そして、三日目。満足したはずのホームがまた首を傾げる光景に見えた。例えばこんな場所がどこかに用意されていても気にせず流せるが、自分たちの拠点だ。これから先も安らぐためには何かが物足りない。シンプルを大きく履き違えていた。

 コヨミさんに相談したいが内装には全肯定で困る。ギルドマスターを自分が引き受けたことで一種の後ろめたさがあるのか、それとも単なるロールプレイか。実際にはプレイヤーのギルドを教えてくれて感謝しかないのだが。

 イベントへ備えた調合に区切りをつけ、改めて思案する。部屋ごとの一貫性などが問題だったのだろうか。そもそも、ファンタジーのテーマがいささか広すぎた。

 とはいえ他の引き出しを見つけるのは非常に難しい。結局、色々と考えるのは無駄。身近なところでヒントを得ようとすると、真っ先にコヨミさんが出てくる。

 忍者、つまりは和風。ファンタジー同様に懐は深いが時代を絞ればなんとかなるのか、と疑問を感じながらも新たな内装に取り組んだ。

 壁紙を漆喰に、床を畳に変えたものの装備で靴を履いている。気持ち的に土足は避けたい。ホームへ訪れるたびに脱いで土足厳禁を守るのは苦じゃないが、ポータルで移動後すぐに畳の上へ放り出されると一度は靴のまま踏んでしまう。

 細かくこだわる必要は皆無だけれど、一度引っかかると解決したくなった。ポータルの前で靴を脱ぐのは本末転倒だ。土足で入れる玄関スペースで悩み、思いついたのが土間だった。

 手前の部屋で高低差を作るのは効果的で、竈を置くと立派な炊事場になる。奥の畳部屋は囲炉裏で魅力ある空間に様変わり。今までの散財が嘘のように最小限でまとまった。

「おお! なんですかこの素敵なホームは!」

 夜になってログインしたコヨミさんが一日目、二日目にはなかったリアクションを取る。そのおかげで真っ当な内装なのだと安心できた。

「この土間で足の装備を外すわけでござるな!」

 意図が伝わり裸足になって奥の部屋に入る。

「これはまた……!」

 囲炉裏も気に入ってくれたらしく、周りを嬉しそうに歩き始めた。

「床の間を作って花瓶や掛け軸を飾るのもいいかもしれません!」

「確かにそうですね」

 アドバイスまでもらえるとは、いかに前二つの内装が手の施しようもなかったか。初めからコヨミさんに任せられたら一瞬でたどり着けたのだが。

 部屋のお披露目が終わって囲炉裏を挟んで座る。この後にはイベントが待っていた。内容は全員が一度に参加するタイプで、勝ち上がりで何度か挑んだ前回とは少し違った。

「広いマップが用意されているんだと思います」

 作戦会議というほど大したものではないが、開始前に念のため話し合っておく。

「生き残るだけなら後半までいけそうでござるな」

 透明化があれば期待度は高かった。コヨミさんは忍者のスキルでしぶといだろうし。

「時間が経つとマップの範囲が狭まるとありましたが」

「ダメージゾーンの追加でしたね。基本的には移動への意識を忘れずに、でござる。その間にプレイヤーの皆様方には遭遇するでしょう」

「リーダー役の見極めが大事になりますね」

 今回のイベントで肝心なのがギルド内で選ばれたリーダー役だ。最大五人のパーティで、その一人次第で脱落するかが決まる。回復を行うにしても、よりよい支援になるよう考えたい。

「回復代行結社のリーダーはナカノ殿ですよね!」

「……引き受けます」

 コヨミさんの方が上手くやってくれるのは重々承知のうえで、リーダー役は自分が務める。ルールに縛られず自由に動いてもらおう。

「他に覚えておくべきなのは配信区域があることでござるか」

「プレイヤーが集まるかもしれないですね」

「面白がる人は多いかと」

 個人的に、自分のプレイをたくさんの人に見られるのは気恥ずかしかった。ぎりぎり映らない場所に身を潜めて、近くで行われる戦闘に関わりたい。


≪間もなくイベントが開始されます≫


 会話をしながら徐々に高まる緊張をほぐしていると、システムメッセージが流れる。準備は十分。後は本番を楽しむだけだ。
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