絶望の白 〜狼の館から脱出せよ〜

番傘と折りたたみ傘

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好きな人とのキス 羊さん

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 その扉を壊すんじゃないかという様に、乱暴に開いた主は大地だった。

「海斗! 布団が無くなってるんだ! 貴重品はそのままなのに!」

 大地の焦っていた顔が一気に茫然とした顔に変わる。俺は、恋人に不味いところを見られたというが如くに海斗から少し離れようとしたが、海斗の腕の力が強まり抜け出せなかった。

「大地の布団、ここに全部あるぞ」

 海斗が俺を指差しながらにこにこを笑っている。バラしやがった。

「え? またなんで……」

「可愛い理由だよ。聞きたいか?」

 不味い! 海斗が言う気でいる。俺の黒歴史が増える!

「うわ! 言うな!」

 海斗の口を両手で押さえる。

「それじゃ、是非あきくんの口から聞きたいね」

 大地が俺たちに近づき、俺の顔を覗き込む。海斗と同じ顔、しかし漆黒の瞳にある僅かな緑が、大地である事を教えてくれる。海斗と違う爽やかな香りが言ってしまえと俺を唆かす。

「だ、大地を呼びたかっただけだ!」

 言いそうになったのを済んで止めた。そう簡単に言うと思うなよ。

「そうそう、それで待ってる間に俺たちの香水、嗅ぎたかったんだもんな」

 俺の手を退けて、海斗が大地にバラした。この野郎、やりやがった。大地の顔が見えない様に俯く。嫌がられるかもしれない、嫌悪を見たくない。

「は? 香水?」

「そう。大地は付けてたか?」

「いや……なるほどね。それは、可愛い理由だね」

 大地の右手が俺の顎に添えられて、俯いていた顔を上げられる。視界に映った大地は、とても嬉しいそうに微笑んでいた。

「嫌じゃ……無いのか」

「何が?」

「こんな変な事したのに……」

「ふふ、嫌じゃ無いよ。それって、俺たちの事気になるって事だよね」

「あ……」

 今になって気付いた。好きだって、気づかれる訳にはいかないのに行動で示してどうする。

「可愛いくて、食べちゃいたい」

 大地のキスが額に落とされた。嬉しいと苦しいが交差する。どうしようもない位に心が騒ぐ。

 頬に柔らかい何かが当たる感触がして横を向く。

 間近に海斗の微笑む顔が見えた。海斗にキスされたんだ。嬉しい。俺一人じゃないんだ。しかし、二人を手放さないといけない。その思いが苦しく辛い。今はその事を考えるべきじゃない。最後のこの時を幸せに過ごさないと。

「あきちゃん?」

「どうしたの?」

 さっきまでの暖かな雰囲気が変わり、二人が俺を心配そうに見ている。

「え? 何?」

 海斗の手が俺の頬を撫ぜる。その感触で頬が濡れているのに気付いた。俺、泣いてるのか?

「嫌だった?」

 大地が不安そうに俺を見ている。くそ、泣く気なんてなかったのに。このままだと、泣いた理由を追及されて、好きだと言う事が暴かれてしまいそうだ。誤魔化さないと、しかしどうする。海斗達は何気に勘がいい。俺の嘘なんてすぐに分かってしまうだろう。こうなったら、実力行使だ。

「え!? んん!」

 目の前で不安そうにしている大地に抱きつき、唇を奪う。驚いた拍子に開いた唇の間に、舌を挿し入れ口腔内を舐る。上顎をなぞり、戸惑い固まっている大地の舌に舌を這わせる。気持ちがいい。好きな相手とキスするのはこんなにも、嬉しい事だったんだ。

 俺が辛い時に思いやりをくれた大地、好き。好きだ。言葉にできない想いをキスにのせる。俺の想いどうか覚えていて。

 大地が正気に戻る前に舌を抜き去った。唇を離す前にわざとリップ音をさせて離れた。

「は? え? あきくん?」

 大地は未だ何が起こったのか理解ができていない様で、茫然としている。よし、次の標的に目を向ける。

「あ、あきちゃん!?」

 海斗も何が起こったのか理解しようとしている。海斗は、大地より物事の理解力はないが、瞬発力はある。逃げられる前に、実行あるのみ。

「うわぁ! んん!」

 飛んできた俺を抱き留めようと、体勢を崩した海斗をベットに押し倒す。戸惑う海斗の頬に両手を添えて、唇を奪う。開いていた唇の間に、舌を挿し入れる。大地にした様に上顎をなぞり、海斗の舌に舌を這わせる。初めから俺を助けようとしてくれた優しい海斗、好き。好きだ。一緒にいたいよ。言葉にできない俺の想いをどうか覚えていて。

 離れようとしたが、離れられなかった。海斗の理解が早かった様だ。俺の後頭部に海斗の手が回され抑え込まれている。

「んん! ん!」

 海斗に舌を甘噛みされ、舌が絡み合う。粘膜同士が擦れ合う感触に背筋がぞくぞくする。気持ちが良い。次第に舌が押しやられ、海斗の舌が俺の口腔に挿し入れられる。頬の裏を舌先でチロチロと舐られ、上顎や舌の下を辿られる。それでも満足できないのか、また舌が絡み合う。くちゅくちゅと響く水音が恥ずかしい。どちらとも言えない溢れた唾液をコクリと飲み込んだ。ゆっくりと海斗の舌が抜けていく。唇が離れる前に、優しい触れるだけのキスが落とされた。

「随分と積極的だね。もう、終わりなのかな」

 そう言った海斗の表情はとても切なそうに見えたのは何故だろう。

「あきくん、もう集まったんだね」

 振り向き見ると、そう言った大地は微笑んでいたが、その微笑みはとても切なそうだった。二人は気付いている。俺が、待っていた事の本当の理由。鍵が集まって去っていく事を。
 一緒に行こうと言いたい。好きなんだって伝えたい。それが許されないって事も分かっている。だから、最後のこの一時を許して。

「海斗、大地。ごめん、最後の俺の我儘を聞いて」

「何かな。何でも叶えるよ」

「あきくんの願いなら、何でも」

 そう言ってくれた二人はとても優しい人達なのだろう。何が彼らにこんな狂気なゲームをさせたのだろうか。全ての原因は何だろう。

「俺を食べて。海斗と大地を俺に刻み付けて……」

 この身体に、彼らを刻み付けたい。孤独になっても彼らを思い出して乗り越えられる様に。
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