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最大の壁
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話をしている内に、次の広場前に着いた。この位置からだと、中の様子は見えない。
「この先、多分良太兄さんと聖司兄さんがいる」
「これ以上先には、暴れられそうな場所無いからな」
海斗が俺を下ろす為か、しゃがんだ。海斗の背中から降りて、立ち上がった海斗と大地を見上げる。
「あきくんはここにいて、全てが終わったら呼ぶから」
そう言った大地がグローブを両手に嵌めている。
「そうだな。二人を相手に守れるかどうか分からない。だから大人しく」
海斗が広場を睨みつける様に見ている。
二人は俺をここに置いて、良太達と対峙する気だ。その方が、二人の邪魔にならないし良いのはわかる。だが、そんなの嫌だ!
「俺も行く!」
俺の発言に驚いた二人が俺を見てくる。
「……聞いてた? 俺達も気を配れないかも知れない。だから」
大地の言いたい事はわかる。しかし、二人はまた忘れている。置いて行かれる方の気持ちを。
「一人にしないって約束しただろ! 俺の為に見えない所で怪我して欲しくない!」
嫌だ! 俺の見えないと所で、二人が怪我したら耐えられない。お願いだから、置いて行かないで。海斗の溜息が聞こえてきた。
「……わかった」
「あきくん、強情な所あるよね。良い? 俺達の側を離れない事。俺達の判断には従う事。この二つは守ってね」
グローブを嵌めた右手で指を二本立てる大地。この手が怪我してしまうんじゃないかと思って、苦しくなる。その手を両手で包む。お願いだから、怪我しないで俺の元に帰ってきます様にと願う。
「大丈夫。絶対に逃してあげるから」
大地の左手が右頬に添えられた。グローブを嵌めている筈なのに、右の頬に温もりを感じた。グローブ越しでも優しいその手の温かさが心に染み渡る。
「俺達を信じてくれ」
頭を撫ぜられて、逞しく温かな手が俺を暖かい場所へと導いてくれる。優しく微笑む海斗と大地に俺も笑えただろうか。
「信じるよ!」
そう言って、優しい二人に飛びついた。二人に包まれて、この一瞬がとても好きになった。
覚悟を決めて、俺達は広場に入った。
その広場は前の二つの広場と比べられない程の広さがあった。所々に松明が焚かれ、時折バチバチと音が聞こえてくる。
出口の方に二つの人影が見える。良太と聖司だ。
「来たか、双子」
静かに海斗と大地が前に進み出る。その後ろを俯きながらゆっくりと歩く。良太の目を見れない。また、あの冷たい瞳に晒されるのではないかと恐怖がひたひたと近づいてくる。
「海斗、大地。今からでも遅くありません。そこに儀式に必要なものを用意しました。子羊ちゃんを寝かせてください」
聖司の声に顔を上げる。そこにあったものはこの場に合わない異常さを醸し出していた。
白い部屋にあった同じ陣の中央に一台の簡易寝台。寝台の支柱にあるものは、今度こそ逃がしはしないと言っている様な強固な鎖と枷だった。両手足を繋がれて仕舞えば、もう俺に自由はない。
「大丈夫。守ると約束した」
無意識だった。恐怖で震える左手が海斗のワイシャツの裾を掴んでいた。
「聖司兄さん、俺達はもう儀式はしない。ここから出るんだ。邪魔をしないでくれ」
大地の叫びを聞いても、顔色ひとつ変えない聖司。
「そうですか。残念です」
残念と言いながら、全然残念そうに聞こえない。そう言うだろうと予測していた様に思える。
「双子は、もう僕から離れていくんだ」
そう言った良太の声が冷たい。その瞳も冷たく、まるでこちらが全て悪いと言っている様だ。
「それなら、力ずくだ」
良太の手から、何かが海斗に向かって投げられた。それは、幸平の時と同じ木刀だった。
石畳みの床を滑り、海斗の足元で止まる。
「取れよ。海斗。腕が鈍ってないか見てやる」
その言葉に従う様に、海斗が足元にある木刀を拾い上げた。
「あきちゃん、壁際まで離れていてくれ」
海斗のワイシャツを離して、ゆっくりと壁際まで移動した。
海斗と大地から離れるのは、不安だった。
「この先、多分良太兄さんと聖司兄さんがいる」
「これ以上先には、暴れられそうな場所無いからな」
海斗が俺を下ろす為か、しゃがんだ。海斗の背中から降りて、立ち上がった海斗と大地を見上げる。
「あきくんはここにいて、全てが終わったら呼ぶから」
そう言った大地がグローブを両手に嵌めている。
「そうだな。二人を相手に守れるかどうか分からない。だから大人しく」
海斗が広場を睨みつける様に見ている。
二人は俺をここに置いて、良太達と対峙する気だ。その方が、二人の邪魔にならないし良いのはわかる。だが、そんなの嫌だ!
「俺も行く!」
俺の発言に驚いた二人が俺を見てくる。
「……聞いてた? 俺達も気を配れないかも知れない。だから」
大地の言いたい事はわかる。しかし、二人はまた忘れている。置いて行かれる方の気持ちを。
「一人にしないって約束しただろ! 俺の為に見えない所で怪我して欲しくない!」
嫌だ! 俺の見えないと所で、二人が怪我したら耐えられない。お願いだから、置いて行かないで。海斗の溜息が聞こえてきた。
「……わかった」
「あきくん、強情な所あるよね。良い? 俺達の側を離れない事。俺達の判断には従う事。この二つは守ってね」
グローブを嵌めた右手で指を二本立てる大地。この手が怪我してしまうんじゃないかと思って、苦しくなる。その手を両手で包む。お願いだから、怪我しないで俺の元に帰ってきます様にと願う。
「大丈夫。絶対に逃してあげるから」
大地の左手が右頬に添えられた。グローブを嵌めている筈なのに、右の頬に温もりを感じた。グローブ越しでも優しいその手の温かさが心に染み渡る。
「俺達を信じてくれ」
頭を撫ぜられて、逞しく温かな手が俺を暖かい場所へと導いてくれる。優しく微笑む海斗と大地に俺も笑えただろうか。
「信じるよ!」
そう言って、優しい二人に飛びついた。二人に包まれて、この一瞬がとても好きになった。
覚悟を決めて、俺達は広場に入った。
その広場は前の二つの広場と比べられない程の広さがあった。所々に松明が焚かれ、時折バチバチと音が聞こえてくる。
出口の方に二つの人影が見える。良太と聖司だ。
「来たか、双子」
静かに海斗と大地が前に進み出る。その後ろを俯きながらゆっくりと歩く。良太の目を見れない。また、あの冷たい瞳に晒されるのではないかと恐怖がひたひたと近づいてくる。
「海斗、大地。今からでも遅くありません。そこに儀式に必要なものを用意しました。子羊ちゃんを寝かせてください」
聖司の声に顔を上げる。そこにあったものはこの場に合わない異常さを醸し出していた。
白い部屋にあった同じ陣の中央に一台の簡易寝台。寝台の支柱にあるものは、今度こそ逃がしはしないと言っている様な強固な鎖と枷だった。両手足を繋がれて仕舞えば、もう俺に自由はない。
「大丈夫。守ると約束した」
無意識だった。恐怖で震える左手が海斗のワイシャツの裾を掴んでいた。
「聖司兄さん、俺達はもう儀式はしない。ここから出るんだ。邪魔をしないでくれ」
大地の叫びを聞いても、顔色ひとつ変えない聖司。
「そうですか。残念です」
残念と言いながら、全然残念そうに聞こえない。そう言うだろうと予測していた様に思える。
「双子は、もう僕から離れていくんだ」
そう言った良太の声が冷たい。その瞳も冷たく、まるでこちらが全て悪いと言っている様だ。
「それなら、力ずくだ」
良太の手から、何かが海斗に向かって投げられた。それは、幸平の時と同じ木刀だった。
石畳みの床を滑り、海斗の足元で止まる。
「取れよ。海斗。腕が鈍ってないか見てやる」
その言葉に従う様に、海斗が足元にある木刀を拾い上げた。
「あきちゃん、壁際まで離れていてくれ」
海斗のワイシャツを離して、ゆっくりと壁際まで移動した。
海斗と大地から離れるのは、不安だった。
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