王城に閉じ込められていた令嬢は、運命の人に巡り合う

うみ

文字の大きさ
2 / 2

忘れられない思い出――2

しおりを挟む
 外に出た私は城下町に向かいました。

 ですが、私は甘かったのです。

 生まれた時から外に出たことのない私が知っているのは小説という美しく描かれた世界だけ。だからこそ、舐めていたのです。外の世界を。

 はじめは順調でした。のんびり気持ちいい風を浴びながら夜の街を歩くことができたのです。地図なんてものを用意しているはずもなく、当てずっぽうに運命に導かれて進む。そんな風にふらふらと歩いていると、私は云わば風俗街というところに入ってしまったのです。
 
 自分で言うのもあれですが、私は美少女でした。まぁ、第一王子の婚約者なので可愛いのは当たり前なのですが……。まぁ今、それはいいでしょう。

 そんな美少女……いえ、自分で美少女というのは恥ずかしいので、やはり私にしましょう。そんな私が風俗街を夜に歩くと、どうなるか。

 当たり前のように攫われました。本当に怖かったです。ナイフを突きつけられ連れ去られた時は本当に泣き出してしまいました。私はその後もグングンと細い道に連れていきます。

 けれど、そんなとき名前も知らぬ誰かが助けてくれたのです。

 わかるのは同じくらいの年齢の男の子ということだけ。そんな小さな男の子が大人を魔術と剣術を駆使して、バシバシと大人の集団を倒していったのです。 敵を全滅させるのにかかった時間は本当にあっという間でした。

 私は、助けに来てくれた驚きと連れ去られた恐怖と解放された喜びが頭の中に駆け巡り、立ち止まっていただけでした。

 ですが、男の子は直ぐに倒した後、その場を去ろうとするのです。私は思わず聞きました。

「どうして私を助けてくれたの?」

 今思えば、こんな言葉よりもまず先に「ありがとうございました」とお礼を言うべきだったのでしょう。けれど10歳の私はそんなことは考えられませんでした。

 男の子は私の質問を聞いて、さも当然のように言い切りました。

「……どうしてって? 困っている人を助けるのが強い男の役目だろ?」

 男の子はそれだけ言ってすごい勢いで立ち去っていきました。

 その後、私はその場に呆然と立ち尽くします。
 この時私は多分この男の子に惚れてしまいました。そう、男の子が私に言ったこの言葉は私の読んでいた小説の主人公がヒロインに言う言葉だったのです。

 私の人生ストーリーには主人公がいない。だから自力で外に出ました。けれど、どうやら私の人生ストーリーにも主人公はいたみたいです。 
 私はそんな風に心の中で思いました。

 もう一度、男の子が走り去ったほうを見ると、そこには季節外れの美しい鳥が空を飛び立っていました。


 あ、ちなみにこの後、こっぴどく叱られて、2か月間欲しいものが貰えなくなりました。
 いや……本当になんでこうなるんでしょうね。
 
 どうやら私の人生ストーリーは小説みたいに美しく理想的ではないみたいです。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】

暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」 高らかに宣言された婚約破棄の言葉。 ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。 でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか? ********* 以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。 内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。

大事な婚約者が傷付けられたので全力で報復する事にした。

オーガスト
恋愛
 イーデルハイト王国王太子・ルカリオは王家の唯一の王位継承者。1,000年の歴史を誇る大陸最古の王家の存亡は彼とその婚約者の肩に掛かっている。そんなルカリオの婚約者の名はルーシェ。王国3大貴族に名を連ねる侯爵家の長女であり、才色兼備で知られていた。  ルカリオはそんな彼女と共に王家の未来を明るい物とするべく奮闘していたのだがある日ルーシェは婚約の解消を願い出て辺境の別荘に引きこもってしまう。  突然の申し出に困惑する彼だが侯爵から原因となった雑誌を見せられ激怒  全力で報復する事にした。  ノーリアリティ&ノークオリティご注意

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

だってお顔がとてもよろしいので

喜楽直人
恋愛
領地に銀山が発見されたことで叙爵されたラートン男爵家に、ハーバー伯爵家から強引な婿入りの話がきたのは爵位を得てすぐ、半年ほど前のことだった。 しかし、その婚約は次男であったユリウスには不本意なものであったようで、婚約者であるセリーンをまったく顧みることはなかった。 ついには、他の令嬢との間に子供ができたとセリーンは告げられてしまう。 それでもついセリーンは思ってしまうのだ。 「あぁ、私の婚約者は、どんな下種顔をしていてもお顔がいい」と。

処理中です...