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現世
5 安定の弟ポジション
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午後1時になり、湊は緊張しながら山本家の呼び鈴を押した。
「待ってた。上がって」
いきなり航大がドアを開ける。湊の心臓をぶち抜く笑顔だ。
真由美も顔を出し、「湊君、よろしくね」と笑顔で挨拶する。航大の後について2階に上がった。
「おじゃまします」
航大の部屋に入る。2人で隣り合わせて、航大の机に座る。
「かんっぺきに暗記したよ」
航大の無邪気な笑顔がまぶしい。イケメンなのに可愛いとは……。
太い縁の眼鏡が自分の赤い顔を隠してくれることを祈りつつ、プリントを出す。
「じゃ、テストしてみよ」
丸っきり同じプリントをテスト形式で航大に解かせる。航大は真剣な顔でテスト用紙に向かう。湊は安心して航大を心ゆくまで眺める。
「できた」
テスト用紙から顔をあげ、航大が湊を見る。航大を見つめていたことがばれたかと思い焦るが、航大は何も気にしていない様だった。採点を始めた湊の手元をじっと見つめる。
「すごい。全問正解」
湊が感動して顔を上げると、航大が「いえーい」とハイタッチを要求する手振りをした。航大の大きな手に触れる。湊の震える手が火傷でもしたかのように熱い。
「じゃ、次の科目やろうか」
英語は書き慣れる必要があるので、目で見るだけではなく、手で書かせた。最初はたどたどしかったが、段々スピードがついてきた。
コンコンとノックの後に真由美が入ってくる。おやつのプリン持参だ。散々、書かせられて疲労した航大は天の助けと真由美のプリンに飛びつく。
「湊君、どう?」
真由美は心配そうに問いかける。
「社会は完璧に暗記できてますね。英語は……少し書き慣れたほうがいいでしょう」
「母さーん、俺、こんなに勉強したことないくらい頑張ってるよ」
航大が真由美に泣きまねをしてみせる。
「こんな子だけど、見捨てないでね、湊君」
真由美が航大を無視して湊にお願いする。
いやいや、と首を振って湊は言う。
「航大君は優しくて、素敵な人で、僕はずっと憧れてました。僕なんかで航大君の助けになれるのなら喜んでって感じです」
「みなとー」
航大がむぎゅっと湊を抱きしめる。
「お前、ほんっといい奴だな。もう、うちの子になれ」
航大に抱き締められ、湊は真っ赤になる。
「航大……、こんなお兄さんなら湊君が迷惑でしょ」
真由美は、にこにこ笑いながら航大を窘める。航大は湊の頭をぐりぐりと撫でてから解放した。
「あーちゃんから聞いたけど、湊君もお医者さんになるの?」
真由美は湊に質問する。
「僕、勉強以外にあまりできることないんです。いわゆる片親で、就職も不利そうだし」
湊は淡々と答える。
「医学部に入れるくらい優秀だったら、十分に誇れるよ。お医者さんか。すごいわね。……ところで、湊君的には航大の進路はどうしたらいいと思う?」
真由美の不安そうな言葉を聞いて、湊は航大を見つめる。
「航大君はカッコいいので何やっても素敵だと思います」
湊の言葉に航大は吹き出す。
「なにそれ、お前、適当だな」
航大が苦笑いして湊に不満を言うと、湊はムキになって言い返す。
「多分、何やっても、イケメン何とかって言われますよ。せっかくだから芸能界入りしてもいいかも」
湊の現実味の無い意見に真由美の不安はそがれてしまった。航大も照れながら言う。
「せっかく褒めてもらったので、高校中退ではなく、高卒になるようにしなきゃな」
真由美も笑いながら、食べ終わったおやつを片付け、居間に戻った。
航大が暗記するために、英文や英単語を書いているのを隣で見守る。航大を意識するようになってから、まともに航大を見ることができなかったが、家庭教師のおかげで見放題だった。
久しぶりの兄弟ポジションで湊は一生分の幸せを使ってしまったような気分だった。
神様は不毛な恋に悩む湊を不憫に思い、思い出をくれたのだろう。
湊は女性を好きになれないし、だからと言って、男なら誰でもいいわけではない。やはり航大が一番好きだ。でも航大はノンケだし。だって、中学生の頃から彼女と歩いているのを見かけたことがある。泰政が男女交際を禁じていたので、長続きした人がいないのが湊にとっては救いだった。だからと言って湊が付き合えるわけではないのだけれど。
そばにいれるのなら、弟で十分だ。
「待ってた。上がって」
いきなり航大がドアを開ける。湊の心臓をぶち抜く笑顔だ。
真由美も顔を出し、「湊君、よろしくね」と笑顔で挨拶する。航大の後について2階に上がった。
「おじゃまします」
航大の部屋に入る。2人で隣り合わせて、航大の机に座る。
「かんっぺきに暗記したよ」
航大の無邪気な笑顔がまぶしい。イケメンなのに可愛いとは……。
太い縁の眼鏡が自分の赤い顔を隠してくれることを祈りつつ、プリントを出す。
「じゃ、テストしてみよ」
丸っきり同じプリントをテスト形式で航大に解かせる。航大は真剣な顔でテスト用紙に向かう。湊は安心して航大を心ゆくまで眺める。
「できた」
テスト用紙から顔をあげ、航大が湊を見る。航大を見つめていたことがばれたかと思い焦るが、航大は何も気にしていない様だった。採点を始めた湊の手元をじっと見つめる。
「すごい。全問正解」
湊が感動して顔を上げると、航大が「いえーい」とハイタッチを要求する手振りをした。航大の大きな手に触れる。湊の震える手が火傷でもしたかのように熱い。
「じゃ、次の科目やろうか」
英語は書き慣れる必要があるので、目で見るだけではなく、手で書かせた。最初はたどたどしかったが、段々スピードがついてきた。
コンコンとノックの後に真由美が入ってくる。おやつのプリン持参だ。散々、書かせられて疲労した航大は天の助けと真由美のプリンに飛びつく。
「湊君、どう?」
真由美は心配そうに問いかける。
「社会は完璧に暗記できてますね。英語は……少し書き慣れたほうがいいでしょう」
「母さーん、俺、こんなに勉強したことないくらい頑張ってるよ」
航大が真由美に泣きまねをしてみせる。
「こんな子だけど、見捨てないでね、湊君」
真由美が航大を無視して湊にお願いする。
いやいや、と首を振って湊は言う。
「航大君は優しくて、素敵な人で、僕はずっと憧れてました。僕なんかで航大君の助けになれるのなら喜んでって感じです」
「みなとー」
航大がむぎゅっと湊を抱きしめる。
「お前、ほんっといい奴だな。もう、うちの子になれ」
航大に抱き締められ、湊は真っ赤になる。
「航大……、こんなお兄さんなら湊君が迷惑でしょ」
真由美は、にこにこ笑いながら航大を窘める。航大は湊の頭をぐりぐりと撫でてから解放した。
「あーちゃんから聞いたけど、湊君もお医者さんになるの?」
真由美は湊に質問する。
「僕、勉強以外にあまりできることないんです。いわゆる片親で、就職も不利そうだし」
湊は淡々と答える。
「医学部に入れるくらい優秀だったら、十分に誇れるよ。お医者さんか。すごいわね。……ところで、湊君的には航大の進路はどうしたらいいと思う?」
真由美の不安そうな言葉を聞いて、湊は航大を見つめる。
「航大君はカッコいいので何やっても素敵だと思います」
湊の言葉に航大は吹き出す。
「なにそれ、お前、適当だな」
航大が苦笑いして湊に不満を言うと、湊はムキになって言い返す。
「多分、何やっても、イケメン何とかって言われますよ。せっかくだから芸能界入りしてもいいかも」
湊の現実味の無い意見に真由美の不安はそがれてしまった。航大も照れながら言う。
「せっかく褒めてもらったので、高校中退ではなく、高卒になるようにしなきゃな」
真由美も笑いながら、食べ終わったおやつを片付け、居間に戻った。
航大が暗記するために、英文や英単語を書いているのを隣で見守る。航大を意識するようになってから、まともに航大を見ることができなかったが、家庭教師のおかげで見放題だった。
久しぶりの兄弟ポジションで湊は一生分の幸せを使ってしまったような気分だった。
神様は不毛な恋に悩む湊を不憫に思い、思い出をくれたのだろう。
湊は女性を好きになれないし、だからと言って、男なら誰でもいいわけではない。やはり航大が一番好きだ。でも航大はノンケだし。だって、中学生の頃から彼女と歩いているのを見かけたことがある。泰政が男女交際を禁じていたので、長続きした人がいないのが湊にとっては救いだった。だからと言って湊が付き合えるわけではないのだけれど。
そばにいれるのなら、弟で十分だ。
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