【完結】恋愛経験ゼロ、モテ要素もないので恋愛はあきらめていたオメガ男性が運命の番に出会う話

十海 碧

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 優斗は溜め息をつきながら大学の図書館でレポートを作成していた。これから美月に会って言わなければならない言葉が胸につかえている。夕食とは言ったが、レストランでする話ではない。まず自分の部屋で話をさせてもらおう。
ーー終わったよ
 美月からメッセージが入る。カバンにノートパソコンをしまい図書館を出て、美月のいる第一講堂に向かった。
「優斗!」
 美月の声がする。メリハリのある体型。膝丈のワンピースからはすらりとした脚がのびている。黒い艶のある長い髪はすそが巻いてある。大きな黒い瞳は生き生きと輝いている。周囲がうっとりと眺めているが、美月は気にせず、こちらに走ってきた。

 美月がT大に入学した時、優斗は3年生だった。美月は家柄も良く頭も良く美人で、入学早々から有名なアルファ女性だった。T大の優秀なアルファ達が一斉に美月にアタックを開始した。優斗もアルファだったが、ベータ家庭の生まれで地方出身でもあり、そういう華やかな集団とは一線を引いていた。アルファ女性は少数なのでT大にいる女性はほぼベータであった。優斗は母もベータなので特に偏見もなく、可愛らしく賢いベータ女性とお付き合いもしてみたが、誰にもときめかず恋愛は詰まらないと思っていた。美月にのぼせているエリートアルファ達を冷ややかに見つめていた。
 最初の1か月でエリートアルファ達は次々と玉砕していき、美月は1人でいることが多くなった。1人でいる美月を見ているとどうしようもなく魅かれる自分に優斗は気付いた。今まで女性に魅かれることがなかったので確かめたくなり、思い切って1人で学食でお昼を取っている美月に相席を申し込んだ。
「どうぞ」
 最初は冷ややかな美月だったが、一言二言会話を交わすうちに態度が変わってきた。初対面なのに、分かりあえるような不思議な感覚が2人の間を流れた。
 大した苦労もなく成功してしまうが本当にやりたいことは何もない空虚な自分。
 お互いの気持ちが多くを話さなくても理解しあえる同族、魂の片割れと感じた。美月と付き合うようになるのは自然な流れだった。
 美月は伊集社の跡取り娘であり婿を取る必要があったが、優斗は継ぐ必要のない一般のベータ家庭だったので丁度良く、結婚まで話はとんとん拍子に進んだ。

 まず、話があるからと大学のそばの自分のマンションに美月を連れてきた。テーブルに向かい合って座る。
「何の話?」
 美月は無邪気に笑う。
「申し訳ないが別れてほしい。結婚の約束も白紙に戻して欲しい」
 一息に言う。
「どういうこと?」
 美月の笑顔が固まる。
「君は何も悪くない。全て自分が悪い。どんなことでもするから別れて欲しい」
 頭を深々と下げる。美月がどんな表情をしているのか見ることはできない。頭を下げて美月の言葉を待つ。
「意味がわからない。理由を説明して」
 誇り高いアルファである美月は冷静な口調で問いかける。優斗も顔を上げる。
「運命の番に出会ってしまった。俺はその人と一緒になりたい」
 美月はぽかんとし、次にふふっと笑った。
「優斗らしくもない非科学的なことを言うのね」
「笑われても仕方ないのは分かっている。でも、出会ってしまったら、もう彼のことしか考えられなくなってしまった」
「誰なの?」
 冷たい感情のない声が美月から出る。
 優斗は美月の顔を見つめた。美月は冷静な表情をしている。
「だって、そうでしょう? 私には知る権利があるわ」
 美月の言うことは最もである。白状しないわけにはいかなかった。
「桐生……蓮君。桐生柊里先生の息子さん」

 桐生一家は伊集院家と深い関わりがある。桐生正仁、柊里の父は今は伊集社の顧問で社長である母の静の側近である。正仁は32歳の若さで人事部部長に抜擢された。人事部は多様なバース性とかかわるので他の部門と違いベータの社員のみで構成されている。そのため他の部門では能力的にトップはアルファになるが、人事部部長はベータがなる。正仁は暗記能力が優れており、個人情報、人間関係などがデーターベースのように脳内に入っていた。部長以上が招かれる伊集院家のホームパーティに桐生一家も毎年招待されていたから、母の静と桐生柊里は昔からの知り合いで仲が良い。
 柊里がもしかしたら静を好きなのかもしれないと思うことがあった。
 父の徹が番のオメガに夢中だから、浮気するならすればいいと美月は思っていたが、静には柊里に対する恋愛感情はないようだった。初めて会った時、静は大学生で柊里は小学生と年齢がひとまわり違うので姉弟のように思っているようだ。
 柊里に妻はいないが、一人息子がいるのは知っている。子供の頃、一緒に遊んだことがあるらしい。
 美月は小学生の頃、IQが高かったので招待を受け、アメリカの学校に行ってしまった。母は仕事で家にあまりおらず、父は番のオメガの所に入りびたりで日本にいても仕方ないように思ったのだ。柊里の息子は中学から全寮制の桜華学園に入学してしまったから、大きくなってから会ったことはなかった。

「わかったわ」
 美月は立ち上がる。
「私、今日はこれで帰ります。私も考えてみるわ。返事は考えがまとまったらします」
 美月が部屋から出ていくのを、優斗は立ち上がる気力もなく座ったまま見送った。
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