【完結】恋愛経験ゼロ、モテ要素もないので恋愛はあきらめていたオメガ男性が運命の番に出会う話

十海 碧

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 美月が留学先のフランスからクリスマス休暇に一時帰国した。自宅より先に林家を訪れる。林家はT大のそばにある定食屋『レストランはやし』の隣に建っていた。
 伊集院徹の番の林沙雪は一人娘であった。ベータ夫婦で経営していたが父は不運にも交通事故で沙雪がまだ幼児の時に亡くなってしまった。母のみどりはしっかり者で夫の保険金と慰謝料で店舗の借金を返し終え、女の細腕で一人娘を育て上げた。娘の相手がリッチとはいえ正式な結婚ではないので定食屋を続けていた。
 徹は定食屋の隣の土地を買い取り、一軒家を建てた。定食屋に増築しており、定食屋の2階に住むみどりと中で行き来できるようにしてある。
 徹は仕事で不在だったので、番の沙雪と沙雪の母みどりに挨拶する。
「この度はリュカを養子にして頂きありがとうございました」
 みどりと沙雪にリボンの付いたプレゼントを渡す。
「お好みに合うか分かりませんが、クリスマスプレゼントです」
 沙雪はおろおろして美月と顔を合わせられない。みどりが強張った口調で言う。
「うちの娘が静さんや美月さんにご迷惑掛けて申し訳ございませんでした。いつかご挨拶を、と思いながら返ってご迷惑かと思い、何の謝罪もしませんで」
 2人深々と頭を下げる。
 美月が慌てて「頭を上げて下さい。私も運命の番と出会ってますので理解してますから」と言う。
 そして雅司にもプレゼントを渡す。
「お兄さん、本当にお世話になりました。おかげでリュカと将来を考えられるようになりました」
 引き続き雅司の弟の怜太と妹のさやかにもプレゼントを渡す。
「初めまして。これから兄弟として仲良くして下さい」
 怜太とさやかは美月の美貌にうっとりする。
 そしてリュカの方に振り向くと「リュカ会いたかった」ときつく抱き締める。リュカも涙がぽろぽろ流れ出す。
「ミツキ……」
 美月の休暇期間、リュカは伊集院家で過ごす予定だった。リュカは部屋からボストンバッグを持って美月と一緒に出て行った。絵画のように美しい2人を林一家は見送った。

 年末年始、優斗は北海道の実家に1人で帰った。結婚前提の交際をしている人が出来たと家族に報告した。家族はオメガの男性という未知の人種に驚いた。次に父親が桐生柊里という有名人であることも驚いた。社長令嬢も驚いたけどね、と母は笑った。いずれにしても、まず連れておいでと春休みに蓮を連れていく予定になった。

 1月になると蓮のコミカライズが発売される。販促のため蓮はサイン会をしたいと希望した。優斗も心配なので付き添いたいと真希にお願いした。真希は優斗と蓮が付き合っていると知らされ「尊い」と拝んだ。
 柊里の10周年記念パーティで取材されたり、あず先輩の密着テレビに出演したので、蓮はアイドルのような人気が出ており、サイン会をして欲しい書店の申し込みが複数あった。蓮はできる限りやりたいと1週間スケジュールを詰めた。

 書店で用意された長机の真ん中に蓮が座り、両端には真希と優斗が座った。優斗は良からぬアルファがいないかと鋭い視線を飛ばしていたが、蓮のファンのメインはベータ腐女子であった。
「れんれん時代からファンです。早速、電子で購入して読みました。面白かったです」
「次回作は是非『あな名』でお願いします」

 『あな名』

 蓮と真希は視線を交わす。
 柊里のヒット作の1つ『あなたの名前を教えて下さい』通称『あな名』
 主役のアルファ男性は有能で容姿端麗だが、恋愛がポンコツ。ポンコツなくせに夢見がちで、運命の番を探すラブコメディである。連続ドラマ化され、主演のイケメン俳優が2.5枚目のコミカルな演技をして笑いあり涙ありのヒットドラマになった。結局、同僚のベータ女性とハッピーエンドになる。同僚のベータ女性はお洒落や恋愛に興味がなく、仕事命で、主役のアルファ男性を仕事のライバルとして最初は目の敵にしていたのだが、色々あって……最後は愛情に変わる、ベタな展開である。そこを引き込ませるのが柊里の筆力であろう。
 途中で主役が運命の番と分かり好きになるオメガ女性が登場する。そのオメガ女性にはオメガ男性の恋人がいた。主役はオメガ男性と張り合い、オメガ女性に相応しいのは自分だと主張する。オメガ男性は恋人はアルファと番になった方が幸せと思い身を引こうとする。オメガ男性は社会的に辛い立場だが、それに不満を言わず健気に生きていた。彼の生き方を見ているうちに主役は自分の傲慢さを反省する。彼が無実の罪で首になりそうなところを主役が自分の出世を投げうって助ける。感謝するオメガ男性に、オメガ女性とお似合いだと、立ち去る主役。
 真希は主役とそのオメガ男性のカップリングのBLを二次創作していた。BLでは立ち去るのはオメガ女性になっている。蓮はその二次創作にファンアートのイラストを複数描いていた。
 にこやかにサイン会をこなしながらファンの言葉に血がたぎってくるのを感じた。おそらく真希もそうだろう。
 サイン会を終えたら早速ネームだ。
『運命に逆らって』とは異なり、柊里の原作を作り変えてしまうので柊里にもチェックしてもらう必要があるだろう。柊里は漫画を読み慣れていないので、ネームよりもう少し仕上げて見せないといけない。
 精力的にサイン会をこなしたが疲れを感じなかった。
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