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提案 002

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 ライズの罪をなくす条件として提案された、簡単な仕事。
 リース曰く、『ほんのちょっぴり、死の危険がある』らしいが……いやそれ、簡単じゃないだろ。

「死の危険があると言っても、それは可能性があるという意味と同義だ……ほら、絶対に死なないなんて保証は誰にもできないだろ? 聖天使団序列五位の偉い人である私にだって、無理なものは無理なのさ」

 こちらの訝し気な視線をキャッチし、取り繕うように話すリース。

「特A級の手配者を討伐したジンくんがいれば、その可能性もどんと低くなるしね……どうだい、やってくれるかい?」
「随分性急だな。仕事の内容は教えてくれないのか?」
「なるべく早く片したい仕事なんだよ。目の上のたん瘤になりかけている、ね……一応機密事項だから、詳しい内容はまだ話せない。君たちが提案を飲んでくれれば詳細を伝えるよ」
「……」

 機密事項レベルの仕事か……一気にきな臭くなったな。
 死の危険がちょっぴりかどうかも、こうなると怪しいものだ。

「もしこの提案を断ったら、ライズはどうなるのですか?」

 俺同様に事態を怪しむエリザが、疑問をぶつける。

「んー? そうだなー、断られると思ってないから考えてなかったけど……とりあえず、冒険者はやめてもらうかな」
「なっ……報告義務規定に違反しただけでは、そこまでの処分はできないはずです!」
「私にはできるんだよ、エリザくん。なぜなのかは一々言わなくてもいいよね?」
「っ……」

 さすがは偉い人ってところか……理不尽な処分でも押し通す力を持っているらしい。
 ……なら、答えは一つか。

「おっけー。やるよ、その仕事。エリザもいいよな?」
「もちろんです。ライズのためですからね」

 始まる前からビビっていても仕方ない……何事も、なるようになるだけだ。

「ふ、二人とも……ありがとう……」
「そんな顔をしないでください、ライズ」

 涙目になってしまったライズの頭を、エリザが優しく撫でる。

「全くその通りだよ、ライズくん。これじゃあまるで、私が君たちを死地に赴かせるみたいじゃあないか……さっきも言っただろ? 簡単で平易な仕事だって」
「じゃあ早速、その簡単で平易な仕事の詳細とやらを教えてもらおうか。さっさと片づけたいんだろ?」

 いいだろう、とリースは軽く頷いた。

「まず初めに、どうして聖天使団序列五位の私がこんな辺鄙な場所にいるのかを説明する必要がある。私は出不精でね、自慢の別荘があるとは言え、おいそれと山中になど来たくないんだ」
「要点だけ話してくれ」
「せっかちな男は嫌われるよ、ジンくん。大人からの忠告だ……さて、どうして私がここにいるのか。それは、とある調査のためだ。より正確を期せば、調調、とも言える」

 結局回りくどい言い方だが……調査の滞りねえ。

「端的に言えば、神隠しの調査だね」
「か、神隠し?」
「おっと、これは些か芸術的表現が過ぎたか……要は、ダンジョン内での失踪が相次いでいるんだよ」
「……」

 ダンジョン内での失踪なんて、普通に起こりえることじゃないのか?
 ……いや。
 普通ではないから、この人が動いている。

「ここからもう二つばかり山を越えたところに、問題の青魔法陣ダンジョンがある。事の起こりは三カ月前……Bランクパーティーがそのダンジョンを攻略に行き、帰ってこなかった。ギルドの規定によって救助兼探索依頼が出され、他のBランクパーティーが向かった。そして彼らも戻ってこなかった。こんな流れが数回繰り返されたところで、まず軍に報告が上がったわけだ」
「軍も救助にいってくれるのか?」
「彼らは地上の治安維持が主な仕事だから、滅多なことじゃ出向かないさ……かと言って、上がってきた報告を無視はできない。いくつかの部隊がダンジョンに潜り、そして消えた」
「……」
「たかが青魔法陣如きでこれだけの失踪者が出るのは異常だ。さすがにおかしいと感じた軍は、闇ギルドの存在を疑うようになる」

 闇ギルド。
 王国の体制に反発し、冒険者を襲う反社会集団。

「相手が闇ギルドとなれば、次に出てくるのは騎士団だ。しっかりとした実績のある部隊が出動し、そして消えた……そんなこんなで、私のところまで話が上がってきたというわけさ。全く、迷惑極まりないよ」

 大きく嘆息するリース。

「天下の聖天使団様が出張ってくるなんて、相当切羽詰まってるんだな」
「んー、実はそう言うわけでもない……てかぶっちゃけると、私がたまたま休暇中だったから白羽の矢が立ったんだよね。遊んでないで働け、だってさ」
「……」

 遊ぶ暇があるのか、聖天使団。
 この国の先行きが心配になる話だった。

「重ねてぶっちゃけると、わざわざダンジョンに行くのが面倒くさい。どうにかこうにかサボれないかなーって考えていたところに、君が現れたというわけさ、ジンくん。特A級を討伐できる君なら、問題なく本件を片付けられると信じているよ」
「片付けるって……具体的に何をすればいいんだ? 闇ギルドがいるかどうかだって定かじゃないんだし」
「神隠しの原因さえ突き止められればそれでいいよ。闇ギルドがいるのか、はたまた今まで潜った全員が不慮の事故で死んだのか……ダンジョンに入れば、自ずと真実はわかるさ」
「ほんとかよ……」

 原因の究明って、一番大変じゃないのか?
 闇ギルドがいてくれた方がまだわかりやすい。

「これを簡単な仕事っていうなら、簡単の定義が変わったみたいだな」
「性格の悪い人間に皮肉は通用しないよ……なあに、そう気負うこともない。君なら余裕でこなせるさ」
「……さっきからえらく評価が高いな。気味悪いぜ」
「システィーを倒した実績は相当なものだからね……それに何より、君が外側に纏う魔力とを評価しているのさ。とっても邪悪で、あくどい力をね」
「……」

 リースの目が、俺の内側を見透かしてくる。
 肩書だけじゃない、ってことか。

「ってことで、あとは任せた……ダンジョンの場所なんかは外にいる軍人に訊いてくれ。なるべく迅速に解決してくれることを願っているよ」

 それじゃーねー、と手を振るリースの身体が、眩く発光する。
 瞬間、奴の姿は光と共に消えていった。

「……」

 俺が思っている以上に、世界ってやつは広いのかもしれない。

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