4 / 60
カミサマは味方? 002
しおりを挟む「謝罪が適当過ぎる!」
思わず心の声が漏れてしまったが……人間、ウィンクしながら横ピースで謝られると、怒りの方が先にくるものである。
「いやー、本当に申し訳ない。この件は私の不手際だ。改めて謝罪するよ、イチカくん」
カミサマは横ピースをやめ、普通に頭を下げてきた。
見た目女子中学生の相手に謝られているというこの図も、それはそれでいただけないが。
それこそ謝罪案件である。
「少し言い訳をすると、イチカ君を転生させるタイミングで厄介なことが起きてね。まあ、それに上手く対応できなかったのは私が悪いし、あまり言い訳にもならないんだけど。とにかく、わざと君を苦しめたんじゃないことは、わかってほしい」
「……何らかの突発的なトラブルが起きた所為で、僕のレベルが上がらなくなったってことですかね。そこにカミサマの意志は絡んでいないと」
「そう解釈してくれていいよ。本当なら、君は順当に転生を終え、この世界のシステム通りに生まれ変わる予定だった。意地悪したわけじゃあない、誓ってね。私を許すも許さないも自由だが、とりあえず君は悪くない」
君は悪くない、か。
それを聞いて、どこかほっとしている。
僕のレベルが上がらないのは、不慮の事故みたいなもので。
自分が悪いわけじゃないと、わかったから。
イチカ・シリルの人生が上手くいっていない原因の一つは、僕自身とは関係がなかったのだ。
それがわかって、少し。
救われた気分になる。
「おいおい、イチカくん。まだ話の途中だっていうのに、救われた気分になられちゃ困るね。困るというか、こっちの面目丸つぶれさ……ま、もうちょっと私の話を聞きなよ。そしたらもっとハッピーな気持ちになれること請け合いだ」
まだ話の途中ということは、彼女の用件は謝罪だけじゃないってことだろう。
カミサマは椅子に座り直し、薄い唇を開いた。
「さて、では次の話題……の前に、補足をしようか。どうやら君はあんまり気になっていないようだからサラッと流すけど、いいかな」
「いいかなと言われても、何についての補足なんですか?」
「君を転生させた理由についてさ」
カミサマに見つめられ、ハッとする。
僕が転生した理由……今の今まで気にも留めていなかった。
たがそれは、そこに理由なんてものはないと考えていたからである。
説明不要の事象――そうやって、自分を納得させていた。
「おっと、この言い方だと語弊があるかな。正しくは、『私がこの世界に転生者を召喚している理由』だね」
「その口振りだと、まるで僕以外にも転生者がいるみたいですね」
「そうだよ」
あっけらかんと言われた。
まあ、僕だけが特別に選ばれた人間だなんて思っちゃいなかったので、予想通りと言えば予想通りだけれど。
「私が転生者を召喚する理由……それは、この世界が退屈しないようにさ」
「……? この世界に退屈しないように、じゃないんですか?」
「いや、世界『が』であっている。世界っていうのは意志を持っているのさ。私はそのご機嫌取りをしているというわけで……これは話すと尺を取るからいいか。まあ要は、定期的に外部から刺激を与えてやらないと、この世界は退屈に飽きて崩壊してしまうんだよ」
「随分と荒唐無稽な話ですね。その外部からの刺激ってやつが、僕みたいな転生者ってことですか?」
「理解を放棄しないでくれて助かる。うん、その通りだ。私の仕事の一つは、この世界を世界自身に飽きさせないこと……世界が退屈で飽和してしまう前に、外からぷすりと針を刺してやるわけだ」
わかるようなわからないような、そんな理屈だった。
いや。
ここまでくると、最早理屈とは呼べないだろう。
「そういう『設定』なのさ」
こちらの心情を読んだかのように、カミサマはニヤリと笑う。
「世界は時に革命を欲する。マンネリ化した週刊連載がテコ入れを強いられるように、世界も変革を求める……ほのぼの日常系漫画が学園異能バトルものになったり、甘々なラブコメが急にタイムリープミステリーものになったり、ね。物事には緩急と変化が必要なのさ。私はその手助けとして、転生者を送り込んでいる……彼らは大いに、この世界をかき乱してくれるからね」
カミサマは右手の人差し指を回す。
ぐるぐる、ぐるぐると。
「伝説と呼ばれる偉業、失敗と断された革命、暮らしを変えた改革、悪辣非道の苛政、未来を照らす革新……それらはほとんど、転生者が行ったものなのさ。歴史におけるターニングポイントと言えばわかりやすいかな。どの時代のどんなターニングポイントにも、転生者が一枚噛んでいる。私としては、彼らの献身的な働きに非常に助かっているんだ。」
この世界が紡いできた歴史……その要所要所に、僕のような転生者が絡んでいるらしい。
「彼らは勝手に、自分が転生したことに意味を見いだしてくれる。『やり残したことがあるんだ!』とか、『世界を救ってみせる!』とかね……いやいや、別に馬鹿にしているわけじゃないよ。そうやって第二の人生に意味を持たせようとする前向きなエネルギーが、実に良い刺激を世界に与えてくれるんだからね……ただまあ、生きる意味がある人間なんて、ほとんどいないんだけど」
「……僕にも、世界に刺激を与えるための何かをしろってことですか? 生きる意味を探して、何らかの偉業を成し遂げろと」
「ん? ああいや、そういう話の持っていき方じゃあない。早とちりだね、イチカくんは」
カミサマは僕の予想を否定し、椅子から立ち上がる。
そして、おもむろにこちらへと近づいてきた。
「私がお願いせずとも、君は勝手にいろいろやってくれるさ。転生者ってのはそういう奴だし、そういう奴だからこそ転生させたんだ。自分の生きる意味は何なのか。第二の人生をどう生きるべきか。そういうあれこれを考え、そして行動してくれる」
「……買い被り過ぎですよ。僕は、そんな風に前向きにはなれない」
「友達にも見捨てられたしね。ナーバスになるのはわかるよ」
ケラケラ笑いながら、カミサマは僕の右肩に手を置いた。
「ま、過去は過去、未来は未来だ。私は君の明るい未来のために、力を貸すことに決めたんだよ……っていうか、こっちの不手際の後始末をしなきゃいけないだけなんだけどね」
「不手際の後始末、ですか」
「そうだ。私は今から、君に力を与える……ただ最初に言っておくと、君のレベルを上げることはできない。君は一生、レベル1のままだ。そういう設定だから、そこは潔く諦めてくれ」
てっきり今まで吸収したマナの分だけレベルを上げてくれるのかと思ったが、そうではないらしい。
じゃあ、この人は僕に何をしてくれるんだ?
人ではなく。
カミサマは。
「イチカ・シリルくん。君にはお詫びとして、カミサマ特製のスキルをあげよう。とってもとっても強い、最強のスキルさ。君はその力を携えて、精々好きに生きてくれ……なあに、心配するな。どれだけ好き勝手生きていても、君は結局、この世界のために動くことになるんだからね。どうか清く正しく、時に狡賢く、懸命に実直に、魔が差して悪に染まったりなんかもしながら、この異世界を堪能してくれたまえよ」
162
あなたにおすすめの小説
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました
竹桜
ファンタジー
誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。
その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。
男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。
自らの憧れを叶える為に。
コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。
あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」
長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。
だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。
困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。
長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。
それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。
その活躍は、まさに万能!
死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。
一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。
大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。
その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。
かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。
目次
連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新
拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。
とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。
…‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。
「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」
これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め)
小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。
嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~
ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」
魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。
本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。
ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。
スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる