僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ

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カミサマは味方? 002

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「謝罪が適当過ぎる!」

 思わず心の声が漏れてしまったが……人間、ウィンクしながら横ピースで謝られると、怒りの方が先にくるものである。

「いやー、本当に申し訳ない。この件は私の不手際だ。改めて謝罪するよ、イチカくん」

 カミサマは横ピースをやめ、普通に頭を下げてきた。
 見た目女子中学生の相手に謝られているというこの図も、それはそれでいただけないが。
 それこそ謝罪案件である。

「少し言い訳をすると、イチカ君を転生させるタイミングで厄介なことが起きてね。まあ、それに上手く対応できなかったのは私が悪いし、あまり言い訳にもならないんだけど。とにかく、わざと君を苦しめたんじゃないことは、わかってほしい」
「……何らかの突発的なトラブルが起きた所為で、僕のレベルが上がらなくなったってことですかね。そこにカミサマの意志は絡んでいないと」
「そう解釈してくれていいよ。本当なら、君は順当に転生を終え、この世界のシステム通りに生まれ変わる予定だった。意地悪したわけじゃあない、誓ってね。私を許すも許さないも自由だが、とりあえず君は悪くない」

 君は悪くない、か。
 それを聞いて、どこかほっとしている。
 僕のレベルが上がらないのは、不慮の事故みたいなもので。
 自分が悪いわけじゃないと、わかったから。
 イチカ・シリルの人生が上手くいっていない原因の一つは、僕自身とは関係がなかったのだ。
 それがわかって、少し。
 救われた気分になる。

「おいおい、イチカくん。まだ話の途中だっていうのに、救われた気分になられちゃ困るね。困るというか、こっちの面目丸つぶれさ……ま、もうちょっと私の話を聞きなよ。そしたらもっとハッピーな気持ちになれること請け合いだ」

 まだ話の途中ということは、彼女の用件は謝罪だけじゃないってことだろう。
 カミサマは椅子に座り直し、薄い唇を開いた。

「さて、では次の話題……の前に、補足をしようか。どうやら君はあんまり気になっていないようだからサラッと流すけど、いいかな」
「いいかなと言われても、何についての補足なんですか?」
「君を転生させた理由についてさ」

 カミサマに見つめられ、ハッとする。
 僕が転生した理由……今の今まで気にも留めていなかった。
 たがそれは、そこに理由なんてものはないと考えていたからである。
 説明不要の事象――そうやって、自分を納得させていた。

「おっと、この言い方だと語弊があるかな。正しくは、『私がこの世界に転生者を召喚している理由』だね」
「その口振りだと、まるで僕以外にも転生者がいるみたいですね」
「そうだよ」

 あっけらかんと言われた。
 まあ、僕だけが特別に選ばれた人間だなんて思っちゃいなかったので、予想通りと言えば予想通りだけれど。

「私が転生者を召喚する理由……それは、この世界が退屈しないようにさ」
「……? この世界に退屈しないように、じゃないんですか?」
「いや、世界『が』であっている。世界っていうのは意志を持っているのさ。私はそのご機嫌取りをしているというわけで……これは話すと尺を取るからいいか。まあ要は、定期的に外部から刺激を与えてやらないと、この世界は退屈に飽きて崩壊してしまうんだよ」
「随分と荒唐無稽な話ですね。その外部からの刺激ってやつが、僕みたいな転生者ってことですか?」
「理解を放棄しないでくれて助かる。うん、その通りだ。私の仕事の一つは、この世界を……世界が退屈で飽和してしまう前に、外からぷすりと針を刺してやるわけだ」

 わかるようなわからないような、そんな理屈だった。
 いや。
 ここまでくると、最早理屈とは呼べないだろう。

「そういう『設定』なのさ」

 こちらの心情を読んだかのように、カミサマはニヤリと笑う。

「世界は時に革命を欲する。マンネリ化した週刊連載がテコ入れを強いられるように、世界も変革を求める……ほのぼの日常系漫画が学園異能バトルものになったり、甘々なラブコメが急にタイムリープミステリーものになったり、ね。物事には緩急と変化が必要なのさ。私はその手助けとして、転生者を送り込んでいる……彼らは大いに、この世界をかき乱してくれるからね」

 カミサマは右手の人差し指を回す。
 ぐるぐる、ぐるぐると。

「伝説と呼ばれる偉業、失敗と断された革命、暮らしを変えた改革、悪辣非道の苛政、未来を照らす革新……それらはほとんど、転生者が行ったものなのさ。歴史におけるターニングポイントと言えばわかりやすいかな。どの時代のどんなターニングポイントにも、転生者が一枚噛んでいる。私としては、彼らの献身的な働きに非常に助かっているんだ。」

 この世界が紡いできた歴史……その要所要所に、僕のような転生者が絡んでいるらしい。

「彼らは勝手に、自分が転生したことに意味を見いだしてくれる。『やり残したことがあるんだ!』とか、『世界を救ってみせる!』とかね……いやいや、別に馬鹿にしているわけじゃないよ。そうやって第二の人生に意味を持たせようとする前向きなエネルギーが、実に良い刺激を世界に与えてくれるんだからね……ただまあ、生きる意味がある人間なんて、ほとんどいないんだけど」
「……僕にも、世界に刺激を与えるための何かをしろってことですか? 生きる意味を探して、何らかの偉業を成し遂げろと」
「ん? ああいや、そういう話の持っていき方じゃあない。早とちりだね、イチカくんは」

 カミサマは僕の予想を否定し、椅子から立ち上がる。
 そして、おもむろにこちらへと近づいてきた。

「私がお願いせずとも、。転生者ってのはそういう奴だし、そういう奴だからこそ転生させたんだ。自分の生きる意味は何なのか。第二の人生をどう生きるべきか。そういうあれこれを考え、そして行動してくれる」
「……買い被り過ぎですよ。僕は、そんな風に前向きにはなれない」
「友達にも見捨てられたしね。ナーバスになるのはわかるよ」

 ケラケラ笑いながら、カミサマは僕の右肩に手を置いた。

「ま、過去は過去、未来は未来だ。私は君の明るい未来のために、力を貸すことに決めたんだよ……っていうか、こっちの不手際の後始末をしなきゃいけないだけなんだけどね」
「不手際の後始末、ですか」
「そうだ。私は今から、君に力を与える……ただ最初に言っておくと、君のレベルを上げることはできない。君は一生、レベル1のままだ。そういう設定だから、そこは潔く諦めてくれ」

 てっきり今まで吸収したマナの分だけレベルを上げてくれるのかと思ったが、そうではないらしい。
 じゃあ、この人は僕に何をしてくれるんだ?
 人ではなく。
 カミサマは。

「イチカ・シリルくん。君にはお詫びとして、カミサマ特製のスキルをあげよう。とってもとっても強い、最強のスキルさ。君はその力を携えて、精々好きに生きてくれ……なあに、心配するな。どれだけ好き勝手生きていても、君は結局、この世界のために動くことになるんだからね。どうか清く正しく、時に狡賢く、懸命に実直に、魔が差して悪に染まったりなんかもしながら、この異世界を堪能してくれたまえよ」


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