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一緒にランチ 001
しおりを挟むミアと運命的な出会いを果たした翌日。
出来上がった冒険証を受け取るため、僕は朝早くにギルドを訪ねた。
どうしてこんな早朝に行動しているのかと言えば、遠足前日の子どもよろしく、上手く寝付けなかったからである。
新しく仲間ができて、テンションが上がったのかもしれない……もしそうなら恥ずかし過ぎるだろ。
慣れない安宿で身体が休まらなかったということにしておこう。
「では、よい冒険者ライフを」
「ありがとうございます」
お決まりのセリフに笑顔で応え、出来立てほやほやの冒険証を手にする。
マナを反応させることで、現在のレベルや自身の写真をリアルタイムで反映できる優れものらしいが……正直、免許証にしか見えない(免許持ってなかったけど)。
「……」
酔っ払いのいない静かなギルドの雰囲気に戸惑いつつ(正確に言えば酔っ払いは多数存在するが、みな潰れている)、僕はクエストボードの前まで移動した。
僕とミアの二人で挑むのに丁度良さそうな依頼を探してみるが、如何せん、自分たちにどの程度の実力があるのか不明瞭だ。
スキルだけを見れば最強に近いけれど、そう上手くいくことばかりじゃないだろうし……ううむ。
「……」
まあ、無理に焦って依頼を請ける必要もないか。
カミサマに会ってスキルをもらって、順調に仲間もできて……どこか浮ついた気持ちになっている感は否めない。
目の前のことに精一杯というか、視野が狭くなっている気がする。
ここらで一つ、今後のことを真剣に考えるのもありだろう。
とは言っても、現時点での僕の目的は酷く曖昧だ……とにかく村を出て旅をしたかっただけで、それ以外のことは思いつきすらしない。
好きに生きるというのも、案外難しいものである。
それはきっと、僕が自分自身と対話をしてこなかったからだろう。
高野一夏は何が好きで、何がしたかったのか。
イチカ・シリルは何を思い、どう生きたいのか。
そういったあれこれを考えずにいたツケが、今になって回ってきているのかもしれない。
「……自己嫌悪」
お気持ちをボソッと表明したところで、僕は近場の椅子に腰かけ、机に突っ伏した。
睡眠時間が足りなかった所為か、目の奥からじんわりと眠気が襲ってくる。
「……」
まどろむ僕の脳裏に、昨日出会ったばかりの少女の顔が浮かんできた。
ミア・アインズベル。
冒険者として致命的なスキルを得てしまった彼女は、どうして諦めずにギルドに居続けているのだろう。
確固たる意志や目的があるのか、それともただの気まぐれか……もし前者だとするならば、いつかはその理由を聞いてみたいものである。
「冒険者に拘る理由? お金よ、お金。それ以外にないでしょ」
時刻は少し進んで昼間。
活気づいてきたギルド内で、僕はミアと共に昼食を食べていた。
当たり障りのない会話をしつつ、今朝方気になっていた疑問をぶつけたのだが……その答えはお金らしい。
「……お金って、あのお金?」
「あのってどのよ。そのお金よ」
ミアは卓上に無造作に置かれている誰かの小銭を指差した。
文明の発達は通貨と共に行われるように、この世界にもお金が存在する。
僕らが住むエーラ王国の通貨単位はEで表され、大体円と同程度の価値である。
もちろん、国が違えば物価も変わってくるのだが……そこら辺の事情は異世界でも同じらしい。
人間の欲が形となって現れたお金という存在は、いつの世も人の目を狂わせる。
僕の目の前にも、欲に塗れた少女が一人。
「……何よ、その顔」
「別に。可愛い子が近くにいると緊張しちゃってさ」
「あっそ。じゃあ見物料頂戴ね」
可愛いと言われ慣れているのだろう(実際可愛いし)、ミアは僕の軽口をサラッと流して食事を進める。
「まあ、ランクの高い冒険者ってかなりの高給取りだし、それに憧れるってのも当然っちゃ当然か」
死の危険と隣り合わせという性質上、依頼の難易度が上がる程冒険者の実入りも増えるわけで……ランクがAを越えてくると、貴族などの特権階級と近い生活を送れるらしい。
それを思うと、夢のある職業とも言える。
無論、こうして酒場で安飯安酒をかっ食らう人の方が大多数ではあるが。
「実力さえあれば、コネも何もなくったって大金持ちになれる……だから、ギルドを辞めたくなかったの。まあ、実力はなくなっちゃったんだけどね」
ミアは自嘲気味に笑った。
僕と同い年にもかかわらずレベル30に達している彼女は、本来相当な力を持っていたのだろう。
「私は絶対Aランクになって、大金持ちになってみせるわ。それまでは冒険者であることを諦めるつもりはない……もしイチカと出会ってなかったとしても、また次の街へ向かって仲間を探してたと思う」
そこまで情熱を持っているのは意外だった……どうやら、ただ金が欲しいだけでもないようである。
「……Aランクになる条件って、確かレベル86以上だっけ? かなり長い道のりだな」
「長くて結構よ。こっちは人生賭けてるんだから」
モグモグと食べ続けながら、ミアは当然のように言う。
人生を賭けている、か……僕もそう断言できる何かを見つけられたら、本望なのだけれど。
それにしても、ミアはどうして大金持ちになりたいのだろうか。
贅沢したいとか遊んで暮らしたいとか、そんな俗っぽい雰囲気は彼女から感じられない。
気にはなるけれど、僕は結局、尋ねなかった。
ミアの金色の瞳が、ほんの少し陰った気がしたから。
「……」
僕はコップを傾ける。
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