僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ

文字の大きさ
18 / 60

肝試し 002

しおりを挟む



「全然楽しくない! もう嫌だ、私帰る!」

 駄々っ子が可愛く見える勢いで騒ぐミアを引きずりながら、僕は墓地の中を進んでいた。

「だから、帰るなら一人で小屋に戻ってなって」
「イチカの鬼! 鬼畜! か弱い女の子を一人にするとか、あり得ないんですけど!」

 散々な言われようである。
 そもそも、そんなに怖がりならサリバに来るのを嫌がってくれればよかったのに。

「ほんとに無理そうなら、今日は二人で街に戻ろうか? 明日の夜、僕だけで探索に来るからさ」
「うー……絶対呆れてるでしょ。私だって、さすがにこの歳になったらお化けとか幽霊とか大丈夫になってると思ったんだもん。いけると思ったんだもん」
「もんって、語尾が可愛くなってるぞ」
「いけると思ったうに」
「うに⁉」

 果たしてそれは可愛いのか判断できないが、どうでもいいとして。

「でも、こんな風に足に引っ付かれてたら、いざという時にお互い困るじゃん? やっぱり今日はやめにして……」
「平気だし! 全っっっっ然平気だし! 怖くなんてないし! ミアちゃん超元気だし!」

 急に立ち上がった。
 感情の起伏が激し過ぎる……一体どんな気持ちでいるのだろうか。
 めちゃめちゃ涙目だし。

「私をお荷物だと思わないで頂戴! さ、行くわよイチカ!」

 どうやら僕の足を引っ張りたくないということらしい。
 つい数秒前まで物理的にしがみついていたのだが、それには触れないでおこう。

「さあ、どっからでもきなさい、この卑怯者たち! 正々堂々、正面切ってやり合おうじゃないの!」

 虚勢を張って恐怖心を振り払うという作戦に出たミアは、いもしない敵を挑発し始める。
 傍から見たら完全に狂人だが、そっとしてあげよう。
 ……それにしても、かなり広いな、この墓地。
 全部を見て回ろうとしたら、かなり時間が掛かりそうだ。

「なあ、ミア。その元気が本当になってきたらでいいんだけど、一つ提案していいかな」
「ほんとに元気に決まってるでしょ! こんなのピクニックと一緒よ!」
「そりゃ重畳。じゃあ、今から二手に分かれようか」
「ごめんさい嘘です一人にしないで‼」

 泣きつかれてしまった。
 まずい、普段気丈なミアが弱っているのを見て、僕の中の加虐精神が刺激されている……。

「ごめんごめん、冗談だよ……ただ、如何せんこの墓地が広いからさ。このままのペースだと日が昇るまでに探索し終わらないかなって」
「それは……そうだけどぉ……でも、これ以上速く歩けないもん」
「また語尾が可愛くなってるぞ」
「歩けないしゅら」
「修羅⁉」

 それは絶対に可愛くない。

「でも、これだけ探しても魔物の気配すらしないわよ? 墓守のおじさんの言う通り、アンデッドなんていないんじゃない? やっぱりカミサマの嫌がらせなんじゃないの?」
「これだけって程探し回ってないけど……まあ、その可能性はあるかな」

 ようやく落ち着いて話ができるようになったミアの指摘はもっともだった。
 第一、地元のギルドが強力な魔物の存在を把握していない時点でおかしいのだ。
 何かしらの被害があれば依頼が舞い込むはずだし、逆説的に、この街に被害は発生していないと言える。
 マジで嫌がらせか、これ。
 あの性悪な真っ白少女ならやりかねない。

「……じゃあもう少しだけ粘って、何もなかったら街に戻ろう。ミアも怖がってるみたいだし」
「はあ⁉ 私のどこが怖がってるっていうのよ! 風評被害もいいとこだわ!」

 相変わらず態度と言動が一致していない奴だ。
 さて、次はどんな風にからかってやろうかと企んでいると、


 ブルッ


 全身に、寒気が走る。

「――っ」

 脊髄に液体窒素を流し込まれたような悪寒……背筋が凍るなんてものじゃない、身体機能の全てが瞬間冷凍されたと錯覚する程の寒気が、断続的に襲ってくる。

「い、イチカ⁉ こ、これ、ちょっと、ま、まずいんじゃない⁉」

 同様の異常を感じ取っているのだろう、ミアが両肩を押さえながらブルブルと震え出した。
 僕ら二人に影響が出ているということは、恐怖心や精神的な作用ではなく、何らかのマナによる反応のはず。
 僕らの近くに、がいる。

「……っ! イチカ、下っ‼」

 ミアの叫び声が聞こえると同時に、僕の足元の地面が罅割れた。
 ボコボコと土が盛り上がり――地中から、無数の人間の腕らしきモノが生えてくる。

「くっ!」

 咄嗟に避けようと試みるが、全身の機能が鈍っていて、思うように身体が動かせない。
 結果、右の足首を謎の腕によって掴まれてしまった。
 数秒後。
 掴まれた部分が紫色に腐食していき、

「――っ、いってえええええええええ!」

 なんだこれ、魔物のスキルか?
 とにかく、この腕たちから距離を取らないとまずい!
 僕は両手と左脚を使って三足歩行の姿勢を取り、全力でその場から逃げだす。
 無様もここに極まれりと言った感じだが、命には代えられない。

「はあ……はあ……」

 何とか腕の密集地帯から抜け出た僕は、上がった息を無理矢理整える。
 落ち着け、落ち着け……焦ったって状況は改善しない。

「イチカ、大丈夫⁉」
「大丈夫……ではないかもしれないけど、とりあえず生きてはいるかな」
「っ! イチカ、足が……」

 ミアは僕の右足が腐り落ちたことに気づき、何とも言えない表情で絶句する。
 仲間の身体がいきなり欠損したらそんな反応にもなるだろうが……今ここで悲しみに暮れてもらうわけにもいかない。

「ミア、落ち着いて。とにかく、あの魔物を何とかしないと」

 幸い、と言っていいものなのか、謎の腕の集合体は出現した場所から動かず、うねうねと蠢いているだけである。
 僕やミアに追撃を仕掛けてくる様子は、今のところない。
 あの下に本体がいるとして、もしかして身動きが取れないタイプの魔物なのか?
 さながらトラバサミのように、あの上を通った人間にのみ反応するとか?
 仮にそうだとしたら、我ながらついてないとしか言いようがない……この広い墓所で、ピンポイントで地雷を踏み抜いたようなものなのだから。

「……っ」

 だが、僕の予想を完全に裏切る形で、魔物は動き出す。
 正確には、魔物たち、だ。


 ボコッ
 ボコボコッ
 ボコボコボコッ


 僕らの周り――墓場の至る所から、そんな不快な音が鳴り響く。
 考えるまでもなく、見るまでもない。
 地中に埋まったアンデッドたちが、一斉に這い出てくる音だ。

「……」

 くそ、何がたまーにしか出てこないだ。
 こいつらは、ずっと地下で眠っていただけじゃあないか。
 それが何をきっかけに目覚めたのかはわからないが――事実として。
 僕らは、大量のアンデットに囲まれている。
 正式な名前を、ゾンビ。
 人間を模した身体をしているが、全身がドロドロに溶解し、耳障りなうめき声を上げている。
 アンデッド系の中でも、低級のEランクに位置する魔物である。
 だがいくら低級と言えど、この物量は脅威でしかない。
 それに言わずもがな、僕みたいなレベル1の人間は触れることすら許されない、【腐食】のスキルを持っている。

「……やるしかないわね」

 僕より先に覚悟を決めたのは、ミアだった。
 差し迫る危険に対し、冒険者としての本能が働いたのだろう。

「その足、痛むと思うけど、踏ん張れそう?」
「……当然。むしろ丁度いいハンデじゃないかな」

 精一杯格好をつけて、僕は墓石を杖代わりに立ち上がる。
 さて、当初の予定とは大分違う装いにはなったけれど。
 肝試しは、佳境に差し掛かったようだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき
ファンタジー
「宮廷道化師オーギュスト、お前はクビだ」  長い間、マールイ王国に仕え、平和を維持するために尽力してきた道化師オーギュスト。  だが、彼はその活躍を妬んだ大臣ガルフスの陰謀によって職を解かれ、追放されてしまう。  困ったオーギュストは、手っ取り早く金を手に入れて生活を安定させるべく、冒険者になろうとする。  長い道化師生活で身につけた、数々の技術系スキル、知識系スキル、そしてコネクション。  それはどんな難関も突破し、どんな謎も明らかにする。  その活躍は、まさに万能!  死神と呼ばれた凄腕の女戦士を相棒に、オーギュストはあっという間に、冒険者たちの中から頭角を現し、成り上がっていく。  一方、国の要であったオーギュストを失ったマールイ王国。  大臣一派は次々と問題を起こし、あるいは起こる事態に対応ができない。  その方法も、人脈も、全てオーギュストが担当していたのだ。  かくしてマールイ王国は傾き、転げ落ちていく。 目次 連載中 全21話 2021年2月17日 23:39 更新

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...