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青嵐
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昼時の亮の仕事はめまぐるしい。不規則に起床してくる娼妓たちが順繰りと昼食を摂りに来るからで、亮はその都度配膳をしなくてはいけなかった。
ようやく自分の昼食にありつけるのも、彼女らの食事がすべて終わってからだ。
ふうっと一息吐きながら箸を進めていると、聞き覚えのある声が店先から聞こえてきた。亮が耳を欹てる。こんな真っ昼間から聞きたいとも思わない男の声だった。
女将の弾む賑やかな足音に続いて、きしきしと廊下をきしませ進んでくる音。
「おや、いないと思っていたら今頃お昼かい」
暖簾を潜った女将が、開口一番に白々しいことを言った。その背後から顔を覗かせる厭な男──田畑だ。
「やあ、亮くん。こんにちは」
いつにも増して今日の顔は爬虫類じみていて背筋に冷たいものを感じる。田畑はなにやら女将に合図を送ると、彼女は黙って席を外した。
亮は箸を置き、なんでしょうかと冷たく言い放った。こんな真っ昼間からいったい何の用があるんだろう。亮の顔には不満がありありと浮かんでいる。
田畑はそれをいっさい気にする風でもなく、亮の傍らに腰を下ろすと、途端に手を伸ばしてきた。亮は男の顔と手を交互に睨みつけた後、ぴしゃりと払いのけた。
「こんな昼間から、それもこんな場所で──なにがしたいのですか?」
勇気を振り絞って抗議してみた。多少声が震えるが仕方ない。田畑はにたりと笑い、口の奥から赤い舌を覗かせる。まるで蛇のそれのようで、ぞくりと悪寒が走った。
「僕の跡を消すために、他の男に抱かれに行ったって聞いたものだからね。驚いて時間も気にせずに来てしまったんだよ。迷惑だったかい?」
田畑の指が蟲のように卓上を這い、膳に添えていた亮の指先から腕へと撫で上げていく。亮は慌てて手を引き、男の触れた箇所をおぞましそうに擦り続けた。
田畑は更に身体を密着させると顔を寄せ、威嚇するような低い声で囁いた。
「消したのなら、もう一度付け直さないとねえ。今度は少々のことでも消えないような跡を付けよう」
言うなり男は乱暴に少年を立たせると、離れに行こうと囁いて、足掻いて抵抗しているまま引き摺り歩く。狡猾な男は他の者に気づかれないように裏から離れへと回り、更に用心して裏口から亮を連れ込んだ。
すでに無抵抗に等しくなっている亮を、乱暴に部屋の中へ放り出した。慌てて起き上がろうとするも、馬乗りにされるとどうしようもできなかった。
「暴れるとよけい痛い思いをするんだから大人しくしていなさい」
丁寧な言葉遣いが却って怖ろしくて堪らない。亮は首を振っていやいやをする。こんな真っ昼間からだなんてどうかしている。
「今日の亮くんは言うことを聞かないね。それじゃあ、可哀想だけれど」
言葉とは裏腹に楽しげな顔でネクタイをするりと外した田畑は、嫌がる亮を後ろ手に縛り上げた。障子一枚隔てた向こうに本館がある。大声を上げれば誰かが助けに来てくれるだろうかと思ったが、この男を招きいれたのは他でもない、ここの女将だった。泣き叫んだところで救われる保証などどこにもない。じわりと眦に涙が浮かぶ。
弾けた釦が飛び散っていく音が耳に飛び込む。肌蹴させられた腹の上を、冷たい男の指が蟲のように這いずり回っていた。思わず厭だと叫んでいた。
「僕に抱かれている時に言葉はいらないと教えたはずだよ。それとも……また口を塞がれたいのかな?」
首を傾げながら弾む声で言う男の顔はまるで蛇だ。口の端が裂けたように開き、こちらを見下ろして笑う。少年は諦めたように身体を脱力させた。
それでいいと男は満足げに呟く。血でも舐めたのかと見紛うほどに赤い舌で、己の股の下で強張らせている少年の白い肌を舐め上げた。
亮は胸を反らして、引き攣った呻き声を出した。田畑が亮のモノを直に握り、絞るように闇雲に扱くと、堪らない悪寒が全身を駆け巡る。
男はところ構わず嘗め回し、亮のモノをまるで飴玉のように口に含み、しゃぶっている。唾液がそこから襞へと垂れていき、田畑はそれを嬉々として入り口に塗りこんでいく。
大きく足を広げさせられるのにも慣れたから、股関節に痛みが走ることもない。ただ、全身を駆け巡る悪寒だけは慣れなくて、こればかりはどうしようもなかった。
田畑の蠢く指も、熱の篭った息も吐き気がする。早く終わってくれと念じるだけだった。薄目を開けた視界の端でなにかが動くのが見えた。男の背の向こうには襖があるだけだった。亮は目を凝らした。そして疑いようのない現実がそこに現れる。隣の部屋との仕切りでもあるその襖が、音も無くゆっくりと開いていくのだ。亮の目は釘付けになった。
襖の陰から覗く顔……。こちらの部屋の明かりが照らし出したのは雪也だった。眉ひとつ動かさず、自分の痴態を視ている喬一の兄。どうしてここにと叫びたい衝動に駆られた。
彼は喬一を愛しているのではないのか。だから自分と引き離そうとしていたのではないのか。疑問符ばかりが浮かぶ。
視線は真っ直ぐ自分に注がれている。白熱灯に晒されている屈辱的な姿を視ているのだ。田畑は気づいていないのだろうかとその顔を見る。額に汗を滲ませ行為に没頭しているのか、まるで気づいていない。
男のいやらしい呻き声が耳に入ってくる。亮は眉根を寄せて顔を背けた。くっと歯を食いしばり、男の律動に身を任せる。襖の向こうで、淡々とこの光景を視ている雪也のことしか頭にはなかった。
田畑の動きが緩慢になり、亮の中で彼がひくひくと痙攣している。双丘の谷間を男の放出した欲望が溢れ出し、流れ落ちていった。
ずるりと楔を抜かれた時、もう一度隣室を見たが、すでに襖はぴったりと合わさっていて、人の気配もなかった。
見上げた田畑の視線も襖へと注がれていて、これは仕組まれたものなのかと唇を噛んだ。
ようやく自分の昼食にありつけるのも、彼女らの食事がすべて終わってからだ。
ふうっと一息吐きながら箸を進めていると、聞き覚えのある声が店先から聞こえてきた。亮が耳を欹てる。こんな真っ昼間から聞きたいとも思わない男の声だった。
女将の弾む賑やかな足音に続いて、きしきしと廊下をきしませ進んでくる音。
「おや、いないと思っていたら今頃お昼かい」
暖簾を潜った女将が、開口一番に白々しいことを言った。その背後から顔を覗かせる厭な男──田畑だ。
「やあ、亮くん。こんにちは」
いつにも増して今日の顔は爬虫類じみていて背筋に冷たいものを感じる。田畑はなにやら女将に合図を送ると、彼女は黙って席を外した。
亮は箸を置き、なんでしょうかと冷たく言い放った。こんな真っ昼間からいったい何の用があるんだろう。亮の顔には不満がありありと浮かんでいる。
田畑はそれをいっさい気にする風でもなく、亮の傍らに腰を下ろすと、途端に手を伸ばしてきた。亮は男の顔と手を交互に睨みつけた後、ぴしゃりと払いのけた。
「こんな昼間から、それもこんな場所で──なにがしたいのですか?」
勇気を振り絞って抗議してみた。多少声が震えるが仕方ない。田畑はにたりと笑い、口の奥から赤い舌を覗かせる。まるで蛇のそれのようで、ぞくりと悪寒が走った。
「僕の跡を消すために、他の男に抱かれに行ったって聞いたものだからね。驚いて時間も気にせずに来てしまったんだよ。迷惑だったかい?」
田畑の指が蟲のように卓上を這い、膳に添えていた亮の指先から腕へと撫で上げていく。亮は慌てて手を引き、男の触れた箇所をおぞましそうに擦り続けた。
田畑は更に身体を密着させると顔を寄せ、威嚇するような低い声で囁いた。
「消したのなら、もう一度付け直さないとねえ。今度は少々のことでも消えないような跡を付けよう」
言うなり男は乱暴に少年を立たせると、離れに行こうと囁いて、足掻いて抵抗しているまま引き摺り歩く。狡猾な男は他の者に気づかれないように裏から離れへと回り、更に用心して裏口から亮を連れ込んだ。
すでに無抵抗に等しくなっている亮を、乱暴に部屋の中へ放り出した。慌てて起き上がろうとするも、馬乗りにされるとどうしようもできなかった。
「暴れるとよけい痛い思いをするんだから大人しくしていなさい」
丁寧な言葉遣いが却って怖ろしくて堪らない。亮は首を振っていやいやをする。こんな真っ昼間からだなんてどうかしている。
「今日の亮くんは言うことを聞かないね。それじゃあ、可哀想だけれど」
言葉とは裏腹に楽しげな顔でネクタイをするりと外した田畑は、嫌がる亮を後ろ手に縛り上げた。障子一枚隔てた向こうに本館がある。大声を上げれば誰かが助けに来てくれるだろうかと思ったが、この男を招きいれたのは他でもない、ここの女将だった。泣き叫んだところで救われる保証などどこにもない。じわりと眦に涙が浮かぶ。
弾けた釦が飛び散っていく音が耳に飛び込む。肌蹴させられた腹の上を、冷たい男の指が蟲のように這いずり回っていた。思わず厭だと叫んでいた。
「僕に抱かれている時に言葉はいらないと教えたはずだよ。それとも……また口を塞がれたいのかな?」
首を傾げながら弾む声で言う男の顔はまるで蛇だ。口の端が裂けたように開き、こちらを見下ろして笑う。少年は諦めたように身体を脱力させた。
それでいいと男は満足げに呟く。血でも舐めたのかと見紛うほどに赤い舌で、己の股の下で強張らせている少年の白い肌を舐め上げた。
亮は胸を反らして、引き攣った呻き声を出した。田畑が亮のモノを直に握り、絞るように闇雲に扱くと、堪らない悪寒が全身を駆け巡る。
男はところ構わず嘗め回し、亮のモノをまるで飴玉のように口に含み、しゃぶっている。唾液がそこから襞へと垂れていき、田畑はそれを嬉々として入り口に塗りこんでいく。
大きく足を広げさせられるのにも慣れたから、股関節に痛みが走ることもない。ただ、全身を駆け巡る悪寒だけは慣れなくて、こればかりはどうしようもなかった。
田畑の蠢く指も、熱の篭った息も吐き気がする。早く終わってくれと念じるだけだった。薄目を開けた視界の端でなにかが動くのが見えた。男の背の向こうには襖があるだけだった。亮は目を凝らした。そして疑いようのない現実がそこに現れる。隣の部屋との仕切りでもあるその襖が、音も無くゆっくりと開いていくのだ。亮の目は釘付けになった。
襖の陰から覗く顔……。こちらの部屋の明かりが照らし出したのは雪也だった。眉ひとつ動かさず、自分の痴態を視ている喬一の兄。どうしてここにと叫びたい衝動に駆られた。
彼は喬一を愛しているのではないのか。だから自分と引き離そうとしていたのではないのか。疑問符ばかりが浮かぶ。
視線は真っ直ぐ自分に注がれている。白熱灯に晒されている屈辱的な姿を視ているのだ。田畑は気づいていないのだろうかとその顔を見る。額に汗を滲ませ行為に没頭しているのか、まるで気づいていない。
男のいやらしい呻き声が耳に入ってくる。亮は眉根を寄せて顔を背けた。くっと歯を食いしばり、男の律動に身を任せる。襖の向こうで、淡々とこの光景を視ている雪也のことしか頭にはなかった。
田畑の動きが緩慢になり、亮の中で彼がひくひくと痙攣している。双丘の谷間を男の放出した欲望が溢れ出し、流れ落ちていった。
ずるりと楔を抜かれた時、もう一度隣室を見たが、すでに襖はぴったりと合わさっていて、人の気配もなかった。
見上げた田畑の視線も襖へと注がれていて、これは仕組まれたものなのかと唇を噛んだ。
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