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さざなみの夕
(2)
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亮はそわそわと落ち着きがなかった。数時間後に雪也がこの屋敷に戻ってくると聞かされてから、ずっとこの調子なのだ。
難しいことはわからないが、雪也の罪状はそんなに重いものではなく、保釈金を支払えば拘置所から出られるというのである。その保釈金は喬一が用立ててくれた。
人というものは会えないと思えば思うほどに想いは募るものなのだと、嫌と言うほど思い知った。時間潰しに雪也が読んでいたと思われる、革張りの厚い書物を広げていると、いつのまにかうたた寝をしていて、柱時計の大きな音に驚いて飛び起きた。
外はもう夕闇で暗くなっていて、柱時計はすでに二人が帰宅していてもいい時刻を指しているのに、人の気配がまったくしなかった。
この広い屋敷に一人きりなのかと思うと、息が詰まるような孤独感に苛まれる。
喬一を探しに居間を飛び出そうとして、はたと気がつく。暖炉の上の照明が灯されているのだ。──戻ってきている。
一人きりではない安堵感と、雪也が戻って来た喜びで亮の顔は満面の笑みに変わった。背後の扉がぎいっと軋みながら開くと同時に、懐かしい声が部屋に飛び込んでくる。
「目が覚めたのか」
開きかけの扉へ右手をかけ、片方の手に毛布を抱えて立っている雪也がいた。どうやら眠り込んでいた亮のために二階から持って下りてきたらしい。
亮は躊躇いがちにニ、三歩近づいた。雪也は持っていた毛布を手近にあった長椅子に掛け、涼やかな視線を向けると、亮は小首を傾げて、おかえりなさいとはにかんだ。
「今夜は亮とふたりきりだから」
そう言うと、雪也は窓辺へと歩み寄りカーテンを勢い良く閉めた。
「喬一に頼んで、今夜一晩、二人きりにしてもらったんだよ。だって喬一ときたら、ずっときみの傍にいるって言うもんだからね」
雪也が右手を差し出した。亮が不思議そうにそれを眺めれば、雪也は楽しそうな声を出して笑い、亮もつられて声を出して笑った。
掌を広げて、おいでと囁くように言うと、亮はじゃれつく子犬のように駆け寄ってくる。どういう意味で雪也がおいでと言ったのかを、亮はきちんと理解っていた。
波に攫われていく足元の砂のように、流されるままベッドに腰掛けていた。寝室までの廊下を歩く亮の記憶は朧で、現だった。
暖色のランプの明かりが揺らめいている室内。その明かりに照らされて浮かび上がるのは、雪也の裸体──。
削ぎ落とされたように無駄な肉のない、ブロンズ像のように整った肢体だ。がっしりとした男らしい体躯の喬一とは正反対だった。
しなやかな雪也の腕が伸びてきて、顎を捉え上向かせる。雪也の冷たく端正な顔が、亮の視界にはっきりと映り込んだ。
「前に……俺を悦ばせるって言ったね」
亮は少し頬を赤らめて頷いた。
「今夜──。俺を悦ばせてくれないか」
その言葉は亮の戸惑いを色濃くさせた。相手となるはずの喬一がいないのに、それを求められている。つまりはあの日のように自慰を行えということなのだろうか。
亮は眉を顰めた。
「俺に触れて、そして悦ばせるんだよ。いいね?」
雪也はその反応を予測していたようで、口元に笑みを浮かべながら得意そうな声音で言った。涼やかな目は反論の余地を許していない。
触れることでは感じないと言っていたくせに、触れて自分を悦ばせろと優しげな物言いで指示をする。亮の戸惑いの色は更に濃くなっていくが、それが望みならとブラウスの釦に指をかけた。
しかし、顎先を雪也に捉えられているから下を向くことができない。視線をやや下に向け、見当で釦を外していると雪也の焦れた声が降ってきた。
「それは自分で外すものなのかい?」
亮はきょとんとした顔で、なにがですかと訊いた。雪也は口を尖らせて、その釦だよと指差した。
「こういう場合、俺はどうすべきなのだろうね」
ふむと真剣な面持ちで呟く。雪也が初めて見せた、心底困った顔である。いつも飄々と事を成していく君子のような姿は微塵も見られない。
亮は変に緊張していた身体が解されていくのを感じた。ありのままを晒している雪也が愛しいと思い、自分もまた、素のままを視てもらおうと思った。
ぼくと同じ闇を持つ人。たった一人を強烈に求める激しい欲。ぼくと同じ──。
だから知って欲しい。
貴方の視線の前では酷く卑猥な気持ちになるのだと……。こうしている今でさえ、身体中が火照り、身悶えしそうなくらいに疼いていることを知って欲しかった。
自分がやると言い張って手を出した割りには、本当に医者なのかしらと問い詰めたくなるほどの不器用さで、雪也は貝の釦をひとつずつ外していく。
不慣れな手付きでようやく脱がされた亮の身体はすでに高ぶっていて、恐る恐る口づけをねだった。雪也は一瞬躊躇った後、亮の酔ったような潤んだ瞳に根を上げて、軽く唇を啄ばむと 後は亮に任せたと言わんばかりの格好で、ヘッドボードに凭れかかった。
それでも亮に嫌な気持ちは露ほどもなく、広げられた長い足の間にちんまりと座り、まだ熱を帯びていないそれを小さな口に咥えた。
歯を立てないように唇を使い、丹念に舐め上げていく。自分が感じる場所と雪也のそれとが大きく違うことはないだろうと、舌先で裏筋を刺激してみると、雪也が微かな吐息を吐いた。
亮は嬉しくなって何度もそこを舐め上げる。自分の口角から唾液が流れ落ちていくのもお構いなしに、切なげな吐息が降る度に亮は愛しげに舌を這わせた。
甘い刺激を何度も与えられ、隆々と勃ちあがっていく自身の反応に一番驚いたのは雪也本人だった。
茂みの中に顔を埋めている亮に手を伸ばし、自分の方へ顔を向けるよう指先で合図した。今度は雪也の方が唇をねだる。亮は猫が伸びをするように身体をくねらせて口づけた。唾液が雪也の唇から糸のように垂れ下がり、二人の顔が離れると軽く濡れた音がした。
雪也の腕が火照る躰を乱暴に抱き寄せる。腕の中に収まっている少年の髪に鼻を埋めて、何度か深呼吸をした後、胸の内を吐露した。
「まるで夢心地だ」
雪也の言葉は苦しそうに喘いでいるようでその実甘く、亮は胸が詰まる想いで目の前の存在へ縋りついた。
どんな形であれ感じて欲しいと思っていた。それが互いの温もりの中で現実となる。欲しいものはただひとつなのだ。
「ぼくもです……ぼくも雪也さんが……んんっ」
雪也の唇が急くように塞いできて、最後まで言えずにいた。それでも心は叫ぶ。
ぼくも雪也さんが好き。愛してる。
雪也が触れられないのを知っている亮は、その場所を自らの手で解し始める。視せつけるように自慰をしたあの日と違うのは、亮は雪也を跨っていて彼自身を受け入れようとしていることだった。
雪也も、汗ばんでいる亮の白い肌に指を滑らせていた。胸の突起を摘んだり捏ねたりすると、腹の上の亮が切ない声をあげるのが堪らなかった。手の届く距離で、まして自らの指が触れている痴態に、雪也は恍惚としていた。
性癖を隠し、誰とも愛し合おうとしなかった雪也に、亮はその身体でもって知らしめてくれている。喬一のことは好きだった。愛していると思っていた……それは間違いのない事実であるが、こうして身を捧げる亮への想いとは明らかに違う。
喬一は自分を好きだと言い、この性癖を明らかにした時も軽蔑することなく彼を差し出した。自分を慕うからこその行為なのだろう。しかし、捧げてくれたのは亮なのだ。覗き見るだけの自分の存在を知りながらも、恥ずかしいであろうその姿を晒し続けた。幾度となく酷い目に合わせたのに、いつも最後は赦し、その身を捧げてくれた。
焦がれ続けた泣き顔が、今は快楽の波に揺れている。この少年のすべてが欲しくてあれこれと画策していた日々が幻のように思える。
「雪也さん……視て。ぼくを……視て」
意識が自分に向けられていないことを肌の温度で感じ取ったのか、亮が上目遣いに訴える。ぼくだけを視てと、甘い息を吐く少年が力なく項垂れた。雪也の肌も汗ばんでいて、その胸に置かれた少年の両腕が小刻みに震えている。自身の躰を支えるのがやっとのようだ。
部屋に響く亮の濡れた音が、自分を想う者との行為で疼き始めた雪也を惑乱させる。自身の先端から滲み出ている先走りが茎を伝って茂みを濡らし、その場所で揺らめいている少年の腰がさらに淫靡な音を立て、雪也の劣情を煽る。
亮の頭が雪也の胸にこつんとあたると、そこから熱い息を感じて一層興奮した。
「もう……挿れても……いい?」
亮の甘い声が脳髄を蕩かせていくみたいで反応が鈍くなり、雪也はなにも答えられないでいた。
「ん……我慢で……きない……」
その声は上ずっていて泣いているように聞こえた。雪也の性を刺激する、亮の泣き声。
許しが貰えるまでは挿れられないと思っている亮の眦にはうっすらと涙が滲み、浅い呼吸を繰り返す痩せた躰を雪也はぼんやりと眺めていた。
手を伸ばし、亮の髪を指に絡ませて弄ぶと、彼は首を傾げてこちらを見る。
「自分でやるから……挿れるの……許して」
上気した頬と潤んだ瞳に、熱い吐息を吐く唇。雪也はその様で更に身体の中央に熱が篭るのを感じ、髪を弄っていた指を亮の口の中へ入れた。
亮はそれを咥え、懸命に舌を使う。そのいじらしさが堪らなくて、思わず抱き寄せた。咥えさせていた指を引き抜いて唇を吸うと、感極まった亮がしがみついて懇願する。
「もういい? だめ?」
雪也は意地悪く笑った後、了解したように柔らかい耳朶を軽く食んだ。
亮は上半身を少し上げ、雪也の昂ぶりを掴み、自らのすぼみへ宛がうと身体を起こした。馬乗りになった格好でそのまま腰を落とすと、雪也がゆっくりと身の内へと入り込んでくる。襞が嬉しそうにそれを咥え込み、内へ内へと引き込んでいくようだ。
すべてが収まると、亮は雪也を見下ろした。苦痛とも快感ともとれない複雑な表情で、雪也は視ていた。
間近で受けるその涼やかな視線に、亮は激しい疼きと甘い痺れを感じていた。この快楽を雪也にも知って欲しい。
亮の腰が次第に揺らめいていく。その頻度は格段に多くなる。気を緩めると突き抜ける快感で倒れそうになるのを雪也の胸に両手をついて堪え、弧を描くように腰を動かした。
艶かしく動く少年を凝視する雪也。その視線に耐えかねた亮の身体から力が抜けてしまいそうになると、下から腕が伸びてきてくず折れるのを支えてくれた。
気がつけば、二人夢中になって腰を揺らしていた。突き上げてくる雪也の律動に合わせて、亮の腰が淫らに揺らめく。
軋むベッドのスプリング音と、二人が繋がっている箇所から起こる、湿り気のある淫猥な音で部屋中が満たされる。その音の合間を縫うように、亮の嬌声と雪也の喘ぎが入り混じる。
亮は雪也のすべてが愛しいと思い、雪也も亮のすべてを愛しいと思った。
二人の想いは白濁の液体に姿を変え、亮は雪也の腹上に、雪也は亮の身体の中へと放つ。
ぐったりと倒れこんできた小さな肩を、雪也が大切な宝物のように優しく抱き締めると、亮は嬉しさで緩ませた頬をその温かい胸に摺り寄せた。
明日からずっと一緒にいられるのだと思うと、安堵のせいか急に眠気が襲ってきた。髪を撫でる雪也の手を心地よく感じながら、亮はつらつらと眠りに就いた。
難しいことはわからないが、雪也の罪状はそんなに重いものではなく、保釈金を支払えば拘置所から出られるというのである。その保釈金は喬一が用立ててくれた。
人というものは会えないと思えば思うほどに想いは募るものなのだと、嫌と言うほど思い知った。時間潰しに雪也が読んでいたと思われる、革張りの厚い書物を広げていると、いつのまにかうたた寝をしていて、柱時計の大きな音に驚いて飛び起きた。
外はもう夕闇で暗くなっていて、柱時計はすでに二人が帰宅していてもいい時刻を指しているのに、人の気配がまったくしなかった。
この広い屋敷に一人きりなのかと思うと、息が詰まるような孤独感に苛まれる。
喬一を探しに居間を飛び出そうとして、はたと気がつく。暖炉の上の照明が灯されているのだ。──戻ってきている。
一人きりではない安堵感と、雪也が戻って来た喜びで亮の顔は満面の笑みに変わった。背後の扉がぎいっと軋みながら開くと同時に、懐かしい声が部屋に飛び込んでくる。
「目が覚めたのか」
開きかけの扉へ右手をかけ、片方の手に毛布を抱えて立っている雪也がいた。どうやら眠り込んでいた亮のために二階から持って下りてきたらしい。
亮は躊躇いがちにニ、三歩近づいた。雪也は持っていた毛布を手近にあった長椅子に掛け、涼やかな視線を向けると、亮は小首を傾げて、おかえりなさいとはにかんだ。
「今夜は亮とふたりきりだから」
そう言うと、雪也は窓辺へと歩み寄りカーテンを勢い良く閉めた。
「喬一に頼んで、今夜一晩、二人きりにしてもらったんだよ。だって喬一ときたら、ずっときみの傍にいるって言うもんだからね」
雪也が右手を差し出した。亮が不思議そうにそれを眺めれば、雪也は楽しそうな声を出して笑い、亮もつられて声を出して笑った。
掌を広げて、おいでと囁くように言うと、亮はじゃれつく子犬のように駆け寄ってくる。どういう意味で雪也がおいでと言ったのかを、亮はきちんと理解っていた。
波に攫われていく足元の砂のように、流されるままベッドに腰掛けていた。寝室までの廊下を歩く亮の記憶は朧で、現だった。
暖色のランプの明かりが揺らめいている室内。その明かりに照らされて浮かび上がるのは、雪也の裸体──。
削ぎ落とされたように無駄な肉のない、ブロンズ像のように整った肢体だ。がっしりとした男らしい体躯の喬一とは正反対だった。
しなやかな雪也の腕が伸びてきて、顎を捉え上向かせる。雪也の冷たく端正な顔が、亮の視界にはっきりと映り込んだ。
「前に……俺を悦ばせるって言ったね」
亮は少し頬を赤らめて頷いた。
「今夜──。俺を悦ばせてくれないか」
その言葉は亮の戸惑いを色濃くさせた。相手となるはずの喬一がいないのに、それを求められている。つまりはあの日のように自慰を行えということなのだろうか。
亮は眉を顰めた。
「俺に触れて、そして悦ばせるんだよ。いいね?」
雪也はその反応を予測していたようで、口元に笑みを浮かべながら得意そうな声音で言った。涼やかな目は反論の余地を許していない。
触れることでは感じないと言っていたくせに、触れて自分を悦ばせろと優しげな物言いで指示をする。亮の戸惑いの色は更に濃くなっていくが、それが望みならとブラウスの釦に指をかけた。
しかし、顎先を雪也に捉えられているから下を向くことができない。視線をやや下に向け、見当で釦を外していると雪也の焦れた声が降ってきた。
「それは自分で外すものなのかい?」
亮はきょとんとした顔で、なにがですかと訊いた。雪也は口を尖らせて、その釦だよと指差した。
「こういう場合、俺はどうすべきなのだろうね」
ふむと真剣な面持ちで呟く。雪也が初めて見せた、心底困った顔である。いつも飄々と事を成していく君子のような姿は微塵も見られない。
亮は変に緊張していた身体が解されていくのを感じた。ありのままを晒している雪也が愛しいと思い、自分もまた、素のままを視てもらおうと思った。
ぼくと同じ闇を持つ人。たった一人を強烈に求める激しい欲。ぼくと同じ──。
だから知って欲しい。
貴方の視線の前では酷く卑猥な気持ちになるのだと……。こうしている今でさえ、身体中が火照り、身悶えしそうなくらいに疼いていることを知って欲しかった。
自分がやると言い張って手を出した割りには、本当に医者なのかしらと問い詰めたくなるほどの不器用さで、雪也は貝の釦をひとつずつ外していく。
不慣れな手付きでようやく脱がされた亮の身体はすでに高ぶっていて、恐る恐る口づけをねだった。雪也は一瞬躊躇った後、亮の酔ったような潤んだ瞳に根を上げて、軽く唇を啄ばむと 後は亮に任せたと言わんばかりの格好で、ヘッドボードに凭れかかった。
それでも亮に嫌な気持ちは露ほどもなく、広げられた長い足の間にちんまりと座り、まだ熱を帯びていないそれを小さな口に咥えた。
歯を立てないように唇を使い、丹念に舐め上げていく。自分が感じる場所と雪也のそれとが大きく違うことはないだろうと、舌先で裏筋を刺激してみると、雪也が微かな吐息を吐いた。
亮は嬉しくなって何度もそこを舐め上げる。自分の口角から唾液が流れ落ちていくのもお構いなしに、切なげな吐息が降る度に亮は愛しげに舌を這わせた。
甘い刺激を何度も与えられ、隆々と勃ちあがっていく自身の反応に一番驚いたのは雪也本人だった。
茂みの中に顔を埋めている亮に手を伸ばし、自分の方へ顔を向けるよう指先で合図した。今度は雪也の方が唇をねだる。亮は猫が伸びをするように身体をくねらせて口づけた。唾液が雪也の唇から糸のように垂れ下がり、二人の顔が離れると軽く濡れた音がした。
雪也の腕が火照る躰を乱暴に抱き寄せる。腕の中に収まっている少年の髪に鼻を埋めて、何度か深呼吸をした後、胸の内を吐露した。
「まるで夢心地だ」
雪也の言葉は苦しそうに喘いでいるようでその実甘く、亮は胸が詰まる想いで目の前の存在へ縋りついた。
どんな形であれ感じて欲しいと思っていた。それが互いの温もりの中で現実となる。欲しいものはただひとつなのだ。
「ぼくもです……ぼくも雪也さんが……んんっ」
雪也の唇が急くように塞いできて、最後まで言えずにいた。それでも心は叫ぶ。
ぼくも雪也さんが好き。愛してる。
雪也が触れられないのを知っている亮は、その場所を自らの手で解し始める。視せつけるように自慰をしたあの日と違うのは、亮は雪也を跨っていて彼自身を受け入れようとしていることだった。
雪也も、汗ばんでいる亮の白い肌に指を滑らせていた。胸の突起を摘んだり捏ねたりすると、腹の上の亮が切ない声をあげるのが堪らなかった。手の届く距離で、まして自らの指が触れている痴態に、雪也は恍惚としていた。
性癖を隠し、誰とも愛し合おうとしなかった雪也に、亮はその身体でもって知らしめてくれている。喬一のことは好きだった。愛していると思っていた……それは間違いのない事実であるが、こうして身を捧げる亮への想いとは明らかに違う。
喬一は自分を好きだと言い、この性癖を明らかにした時も軽蔑することなく彼を差し出した。自分を慕うからこその行為なのだろう。しかし、捧げてくれたのは亮なのだ。覗き見るだけの自分の存在を知りながらも、恥ずかしいであろうその姿を晒し続けた。幾度となく酷い目に合わせたのに、いつも最後は赦し、その身を捧げてくれた。
焦がれ続けた泣き顔が、今は快楽の波に揺れている。この少年のすべてが欲しくてあれこれと画策していた日々が幻のように思える。
「雪也さん……視て。ぼくを……視て」
意識が自分に向けられていないことを肌の温度で感じ取ったのか、亮が上目遣いに訴える。ぼくだけを視てと、甘い息を吐く少年が力なく項垂れた。雪也の肌も汗ばんでいて、その胸に置かれた少年の両腕が小刻みに震えている。自身の躰を支えるのがやっとのようだ。
部屋に響く亮の濡れた音が、自分を想う者との行為で疼き始めた雪也を惑乱させる。自身の先端から滲み出ている先走りが茎を伝って茂みを濡らし、その場所で揺らめいている少年の腰がさらに淫靡な音を立て、雪也の劣情を煽る。
亮の頭が雪也の胸にこつんとあたると、そこから熱い息を感じて一層興奮した。
「もう……挿れても……いい?」
亮の甘い声が脳髄を蕩かせていくみたいで反応が鈍くなり、雪也はなにも答えられないでいた。
「ん……我慢で……きない……」
その声は上ずっていて泣いているように聞こえた。雪也の性を刺激する、亮の泣き声。
許しが貰えるまでは挿れられないと思っている亮の眦にはうっすらと涙が滲み、浅い呼吸を繰り返す痩せた躰を雪也はぼんやりと眺めていた。
手を伸ばし、亮の髪を指に絡ませて弄ぶと、彼は首を傾げてこちらを見る。
「自分でやるから……挿れるの……許して」
上気した頬と潤んだ瞳に、熱い吐息を吐く唇。雪也はその様で更に身体の中央に熱が篭るのを感じ、髪を弄っていた指を亮の口の中へ入れた。
亮はそれを咥え、懸命に舌を使う。そのいじらしさが堪らなくて、思わず抱き寄せた。咥えさせていた指を引き抜いて唇を吸うと、感極まった亮がしがみついて懇願する。
「もういい? だめ?」
雪也は意地悪く笑った後、了解したように柔らかい耳朶を軽く食んだ。
亮は上半身を少し上げ、雪也の昂ぶりを掴み、自らのすぼみへ宛がうと身体を起こした。馬乗りになった格好でそのまま腰を落とすと、雪也がゆっくりと身の内へと入り込んでくる。襞が嬉しそうにそれを咥え込み、内へ内へと引き込んでいくようだ。
すべてが収まると、亮は雪也を見下ろした。苦痛とも快感ともとれない複雑な表情で、雪也は視ていた。
間近で受けるその涼やかな視線に、亮は激しい疼きと甘い痺れを感じていた。この快楽を雪也にも知って欲しい。
亮の腰が次第に揺らめいていく。その頻度は格段に多くなる。気を緩めると突き抜ける快感で倒れそうになるのを雪也の胸に両手をついて堪え、弧を描くように腰を動かした。
艶かしく動く少年を凝視する雪也。その視線に耐えかねた亮の身体から力が抜けてしまいそうになると、下から腕が伸びてきてくず折れるのを支えてくれた。
気がつけば、二人夢中になって腰を揺らしていた。突き上げてくる雪也の律動に合わせて、亮の腰が淫らに揺らめく。
軋むベッドのスプリング音と、二人が繋がっている箇所から起こる、湿り気のある淫猥な音で部屋中が満たされる。その音の合間を縫うように、亮の嬌声と雪也の喘ぎが入り混じる。
亮は雪也のすべてが愛しいと思い、雪也も亮のすべてを愛しいと思った。
二人の想いは白濁の液体に姿を変え、亮は雪也の腹上に、雪也は亮の身体の中へと放つ。
ぐったりと倒れこんできた小さな肩を、雪也が大切な宝物のように優しく抱き締めると、亮は嬉しさで緩ませた頬をその温かい胸に摺り寄せた。
明日からずっと一緒にいられるのだと思うと、安堵のせいか急に眠気が襲ってきた。髪を撫でる雪也の手を心地よく感じながら、亮はつらつらと眠りに就いた。
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