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明晰夢とその顛末・後編(柊山視点)
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昼前に遥君が荷物を持って戻って来た。掃除や洗濯を済ませておこうとバタバタしていたのが一段落した頃だったので、丁度良いタイミングだ。
帰って来るなり彼は昼食の準備をテキパキと進め、食欲をそそる香りがキッチンから漂ってくる。
「すぐ出来るので、待っていてくださいね」
遥君の着替えが入った荷物を、寝室にあるクローゼットにしまい、帰ってくるとキッチンにいた遥君が声をかけてきた。ハンバーグを焼きながら、振り向いて楽しそうににこにこしている。こういう時は仕事で会う時よりも無防備に笑ってくれて可愛いなと思いながら、自分もキッチンに入った。
「いつもありがとう。僕に何か手伝えることってあるかな……」
どうやら朝には食材を仕込んでくれていたようで、すでに食卓には出来上がったサラダや瓶に入ったピクルスが置かれている。正直、邪魔にしかならない気がしたので、控えめに手伝いを申し出た。
「そのピクルス、味見してもらって良いですか?オレが、昨日の夜に作っておいたんですけど、味はどうかなって……」
――ああ、昨日の夜はこれを作っていたんだな
カラフルな野菜が漬けられた瓶を開けて、箸で上の方にあったパプリカを取り出して口に入れた。野菜の風味と甘酸っぱい味が口に広がって美味しい。
「うん、美味しいよ」
「そうですか、良かったです! 余ったらしばらく冷蔵庫で保つので食べてくださいね。夏バテにも良いかなと思って」
そんな風に気遣われると嬉しくなってしまう。瓶の蓋を閉めて、そっと箸を置いた。そのまま邪魔にならないよう距離を取りながら、ハンバーグを焼く遥君の隣に並んだ。
「沢山ハンバーグを焼いているんだね」
二人で食べるには多い量の焼けたハンバーグがトレイに並べられている。
「こっちは冷凍しておく分です。レンジ加熱だけで食べられるので、オレがいない時にでも食べてください」
フライパン上のハンバーグの焼き加減を真剣に吟味している遥君が言った。
「本当、君がいると生活が豊かになるなあ……」
甲斐甲斐しく尽くされると、むず痒いような気持ちになってくる。
「いや、料理はオレが好きでやっているので……あっ、冷凍の分は無理して食べなくても大丈夫ですからね!余ったらオレが食べますから!」
「無理なんて……多分、二、三日でなくなっちゃうよ」
彼がいない時は自分でもどうかと思うような食生活なので素直にありがたいなと感じる。
「すごく助かっているよ。ありがとう」
「……ははっ、面と向かって言われると照れますね」
彼は頬を赤くすると、コンロの火を消し、焼いたハンバーグを皿に載せた。遥君の手が空いたので少しだけ触れたくなり、そっと手を伸ばした。
「……少しだけ、触って良い?」
「ぅ、あ、ハンバーグが冷めちゃうので、ダメです……」
頬を撫でると、困ったように身じろぎする。困らせたいわけではないのに、そういう遥君の顔も沢山見たいなと思ってしまう。
「キスするだけだから……」
「……キ、キスだけなら」
彼が顔を赤くして戸惑ったように言うので、腰を引き寄せて唇を重ねた。ついばむように唇を食むと、彼は小さく声を漏らした。堪らなくなってきたけれど、舌を入れたら怒られる気がしたので、我慢してペロリと遥君の唇を舐めた。
「もっ、もう、終わりですっ」
遥君が僕をグイッと押し退ける。もう少ししたかったけれど、これ以上すると嫌がられそうだったので腰から手を離した。名残り惜しかったので彼の頬をスリスリと撫でると、その手もグイッと掴んで離されてしまった。
「昼間から、そんなにしたら、オレがダメなんですよ……」
彼は困ったように目を泳がせて、僕の耳に顔を近づけた。
「……だから続きは夜しましょう」
熱い吐息を耳元に感じてゾワゾワと欲望を感じてしまった。遥君には本当参ってしまうなと唸りながら、理性を何とか手放さないようにして「うん」と答えた。
帰って来るなり彼は昼食の準備をテキパキと進め、食欲をそそる香りがキッチンから漂ってくる。
「すぐ出来るので、待っていてくださいね」
遥君の着替えが入った荷物を、寝室にあるクローゼットにしまい、帰ってくるとキッチンにいた遥君が声をかけてきた。ハンバーグを焼きながら、振り向いて楽しそうににこにこしている。こういう時は仕事で会う時よりも無防備に笑ってくれて可愛いなと思いながら、自分もキッチンに入った。
「いつもありがとう。僕に何か手伝えることってあるかな……」
どうやら朝には食材を仕込んでくれていたようで、すでに食卓には出来上がったサラダや瓶に入ったピクルスが置かれている。正直、邪魔にしかならない気がしたので、控えめに手伝いを申し出た。
「そのピクルス、味見してもらって良いですか?オレが、昨日の夜に作っておいたんですけど、味はどうかなって……」
――ああ、昨日の夜はこれを作っていたんだな
カラフルな野菜が漬けられた瓶を開けて、箸で上の方にあったパプリカを取り出して口に入れた。野菜の風味と甘酸っぱい味が口に広がって美味しい。
「うん、美味しいよ」
「そうですか、良かったです! 余ったらしばらく冷蔵庫で保つので食べてくださいね。夏バテにも良いかなと思って」
そんな風に気遣われると嬉しくなってしまう。瓶の蓋を閉めて、そっと箸を置いた。そのまま邪魔にならないよう距離を取りながら、ハンバーグを焼く遥君の隣に並んだ。
「沢山ハンバーグを焼いているんだね」
二人で食べるには多い量の焼けたハンバーグがトレイに並べられている。
「こっちは冷凍しておく分です。レンジ加熱だけで食べられるので、オレがいない時にでも食べてください」
フライパン上のハンバーグの焼き加減を真剣に吟味している遥君が言った。
「本当、君がいると生活が豊かになるなあ……」
甲斐甲斐しく尽くされると、むず痒いような気持ちになってくる。
「いや、料理はオレが好きでやっているので……あっ、冷凍の分は無理して食べなくても大丈夫ですからね!余ったらオレが食べますから!」
「無理なんて……多分、二、三日でなくなっちゃうよ」
彼がいない時は自分でもどうかと思うような食生活なので素直にありがたいなと感じる。
「すごく助かっているよ。ありがとう」
「……ははっ、面と向かって言われると照れますね」
彼は頬を赤くすると、コンロの火を消し、焼いたハンバーグを皿に載せた。遥君の手が空いたので少しだけ触れたくなり、そっと手を伸ばした。
「……少しだけ、触って良い?」
「ぅ、あ、ハンバーグが冷めちゃうので、ダメです……」
頬を撫でると、困ったように身じろぎする。困らせたいわけではないのに、そういう遥君の顔も沢山見たいなと思ってしまう。
「キスするだけだから……」
「……キ、キスだけなら」
彼が顔を赤くして戸惑ったように言うので、腰を引き寄せて唇を重ねた。ついばむように唇を食むと、彼は小さく声を漏らした。堪らなくなってきたけれど、舌を入れたら怒られる気がしたので、我慢してペロリと遥君の唇を舐めた。
「もっ、もう、終わりですっ」
遥君が僕をグイッと押し退ける。もう少ししたかったけれど、これ以上すると嫌がられそうだったので腰から手を離した。名残り惜しかったので彼の頬をスリスリと撫でると、その手もグイッと掴んで離されてしまった。
「昼間から、そんなにしたら、オレがダメなんですよ……」
彼は困ったように目を泳がせて、僕の耳に顔を近づけた。
「……だから続きは夜しましょう」
熱い吐息を耳元に感じてゾワゾワと欲望を感じてしまった。遥君には本当参ってしまうなと唸りながら、理性を何とか手放さないようにして「うん」と答えた。
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