【完結/R18】恋人として君と過ごす日々

テルマ江

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また君と星を見上げて・前編(此木視点)

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 敬久さんのマンションのオートロックを開けてエレベーターに乗り込み、彼の部屋の前に着いた。

 オレは彼から貰った合鍵をドアノブに差し込んだ。鍵を回すと当たり前だけれどカチャッと音がしてドアが解錠される。

――合鍵を使う度に緊張してしまうな。早く慣れて……敬久さんと一緒に暮らしたいのに

 まだ数える程しか合鍵は使用していない。これではいつまで経っても慣れない。

――平日もしばらく通わせてもらおうかな。週二、三くらいだったら、ここから会社に通っても体力的には恐らく大丈夫だろう

 妄想を膨らませながら玄関に入り、小さな声で「ただいま」と言って靴を脱いだ。リビングの灯りは点いていたけれど気配がしないので、敬久さんは仕事部屋にいるのかもしれない。

――ギリギリまで作業するから先に寝ていてと言われたけれど……大丈夫かな? 流石に執筆中に声はかけられないし……

 音を立てないようにそろりそろりと廊下を歩いていると敬久さんの仕事部屋のドアが開いた。

「……お帰り、遥君」
「た、ただいま、です」

 ドアから薄く微笑んだ敬久さんが出て来て声をかけてくれた。彼は執筆中なのでメガネをかけており、元々の鋭い目つきが更に鋭くなっている。だいぶ疲れているのかもしれない。

「玄関が開いた気がしたから、遥君かなって思ってさ」
「すみません。執筆中に……」
「ううん、全然問題ないよ。旅行前日のギリギリまで仕事をしている僕が良くないんだ」

 敬久さんは「本当に良くないよねぇ」とため息をついた。オレはそんな彼を見てクスクスと笑った。

「食事は摂りましたか?」
「うん、ニ時間くらい前に食べたよ。君が作り置きにしてくれた肉団子の甘酸っぱい味のやつとか色々……」
「そうですか。食べてくれて嬉しいです!」
「うん……」

 敬久さんオレを引き寄せると、ギュッと抱きしめてくれた。カバンを持っていたのでちゃんと抱きしめ返せないのが勿体ない。

「ごめん、もう少しかかりそうだから先に寝ていてね」
「分かりました。敬久さんもベッドに寝に来てくださいね? ソファで寝たらダメですから」
「うん、努力するよ……」

 敬久さんは抱きしめたままオレの右手を取り、指輪がある薬指を撫でた。

「ふふっ……指輪着けて来てくれたんだ」
「はい……」

 抱きしめながら指先を撫でられ、優しく囁かれると甘くふわふわとした気持ちになる。

「敬久さんも、指輪着けているから……オレとあなたの恋人の印みたいで……嬉しくなっちゃいます」
「ふふっ、嬉しくなっちゃうんだ……」

 敬久さんの顔がそっと近づいて来た。

「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」

 キスされるなと思ったのでパッと顔を背けた。

「……ごめんね。したくなかったかな」

 敬久さんの顔は微笑んでいたけれど、シュンとしているような気がする。シュンとした顔も可愛いけれど、そんな顔をさせたいわけではない。

「い、いえ、違います! うがいとか手洗いしていないので……まだ、ダメなだけで、あなたとキスはすごくしたいです!」

 三月とはいえまだ寒い。風邪を引きやすい時期に敬久さんにリスクを背負わせるわけにはいかない。

「ふっ……うん、遥君はいつも力強く言ってくれるよね……」

 敬久さんは押し殺したように笑い、オレを強く抱きしめた。

「じゃあ、うがいと手洗いをしたらキスして欲しいな」
「もちろんです……!」

 オレもこの雰囲気で唇にキス出来ないのは残念な気がしたので、敬久さんの鼻の頭に自分の鼻先を擦るようにくっつけた。

「ふ…………遥君って本当、小動物みたいなことをするよね」
「小動物、ですか……?」
「あんまり可愛いと心配になるなあ……」

 敬久さんははぁっと息を吐いて、更にギュウギュウと抱きしめてくれた。

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