143 / 154
また君と星を見上げて・後編(柊山視点)
4
しおりを挟む
「ん……敬久さん、もっと……」
「うん……」
軽いキスを繰り返して、唇が離れる度に見つめ合いキスをねだられ、お互いの体を強く抱きしめた。
昼下りの旅館の窓から見える普段と違う景色や畳のい草の香り、それに浴衣姿の遥君が、今この瞬間は全て僕だけのものだと思うと甘い喜びが胸に湧いてくる。
「はぁ……こんな風にしていたら部屋から出たくなくなっちゃうよね」
「そ、そうですね」
遥君は体を少し離して気恥ずかしそうに僕を見つめてから、またギュッと抱きしめた。
「何だか離れ難いです。でもせっかくの温泉旅行なのに……大きいお風呂にあなたと浸かって……楽しい思い出を沢山……沢山……」
遥君は葛藤しているのか僕をギュウギュウと抱きしめて背中や髪を撫でてくれた。モゴモゴと呟いている言葉が聞き取れないくらい小さくなっていく。
――このまま遥君に一方的にもみくちゃにされたい気持ちもあるけれど……やっぱり旅行に来たら思い出を作るようなことをしたいよなあ。遥君も葛藤しているし僕がしっかりしないと……
僕は遥君の頭を優しく撫でて唇を落とした。
「ちょっと興奮しちゃったね。いつもと違う場所だと気が昂ぶっちゃうよね」
「はい……オレ、このままあなたにめちゃくちゃに抱き潰されたいなんて思ってしまって」
「ッ……そうなんだ」
遥君はいっぱいいっぱいになっているためかとんでもないことを口走ったのでなだめるように撫でた。
「深呼吸してお茶を飲んだら二人で温泉に入りに行こうよ」
「はい……あの、最後にもう一度キスしても良いですか」
「うん、もちろん良いよ」
遥君は大きく深呼吸すると、優しく唇を合わせてきた。触れるだけのキスにしては長い時間唇が重なっている。遥君の熱をすぐ側に感じて頭がクラクラしてくる。僕のそんな気持ちをかき乱すように、顔が離れる時に唇を舌先でペロリと舐められた。
「誘惑するのはダメだよ」
「ゆ、誘惑じゃないです! 名残惜しかっただけですっ」
遥君は少しだけムキになったように言い、僕の膝から降りると冷めているであろうお茶を飲み干した。
「お茶、温かいの淹れて来るよ」
「……ぅ、ありがとう、ございます」
彼は急に恥ずかしくなったのかしどろもどろとした喋り方になっている。僕は自分の熱を冷ますために温くなったお茶をぐっと飲み、立ち上がって新しくお茶を淹れた。
「はい、遥君の分」
「頂きます……」
彼は赤い顔で乱れた髪の毛を手で直し、熱いお茶を啜った。
「先程はすみません。オレの煩悩が口から出て来てしまって……恥ずかしいです」
「ああ、僕に、その、めちゃくちゃに抱き潰されたいっていう」
彼は自分が口走ったことを思い出して身悶えている。
「謝ることなんてないよ。そういう気持ちを持つのは何も恥ずかしいことじゃないから。僕は君の気持ちを聞けて嬉しかったよ」
「敬久さん……」
返答を間違えれば旅行中口を聞いてもらえなくなるかもしれないなと思い、僕は慎重に言葉を選んだ。
「ぅう、でも、オレは自分の煩悩に打ち勝たないと」
遥君は熱いお茶を少しずつ啜りながら呻いた。先程の色っぽい姿と今の縮こまった姿のギャップに僕はふっと笑った。
「遥君はくるくる変わる表情が本当に魅力的だよね。君のそういう所すごく素敵だよ」
笑いながら彼の頭をポンポンと撫でると、遥君は横目で僕をチラリと見た。
「もう……敬久さんは、そうやってすぐオレを口説いて……」
遥君は熱いため息をついて、また肩を寄せてくれた。
「うん……」
軽いキスを繰り返して、唇が離れる度に見つめ合いキスをねだられ、お互いの体を強く抱きしめた。
昼下りの旅館の窓から見える普段と違う景色や畳のい草の香り、それに浴衣姿の遥君が、今この瞬間は全て僕だけのものだと思うと甘い喜びが胸に湧いてくる。
「はぁ……こんな風にしていたら部屋から出たくなくなっちゃうよね」
「そ、そうですね」
遥君は体を少し離して気恥ずかしそうに僕を見つめてから、またギュッと抱きしめた。
「何だか離れ難いです。でもせっかくの温泉旅行なのに……大きいお風呂にあなたと浸かって……楽しい思い出を沢山……沢山……」
遥君は葛藤しているのか僕をギュウギュウと抱きしめて背中や髪を撫でてくれた。モゴモゴと呟いている言葉が聞き取れないくらい小さくなっていく。
――このまま遥君に一方的にもみくちゃにされたい気持ちもあるけれど……やっぱり旅行に来たら思い出を作るようなことをしたいよなあ。遥君も葛藤しているし僕がしっかりしないと……
僕は遥君の頭を優しく撫でて唇を落とした。
「ちょっと興奮しちゃったね。いつもと違う場所だと気が昂ぶっちゃうよね」
「はい……オレ、このままあなたにめちゃくちゃに抱き潰されたいなんて思ってしまって」
「ッ……そうなんだ」
遥君はいっぱいいっぱいになっているためかとんでもないことを口走ったのでなだめるように撫でた。
「深呼吸してお茶を飲んだら二人で温泉に入りに行こうよ」
「はい……あの、最後にもう一度キスしても良いですか」
「うん、もちろん良いよ」
遥君は大きく深呼吸すると、優しく唇を合わせてきた。触れるだけのキスにしては長い時間唇が重なっている。遥君の熱をすぐ側に感じて頭がクラクラしてくる。僕のそんな気持ちをかき乱すように、顔が離れる時に唇を舌先でペロリと舐められた。
「誘惑するのはダメだよ」
「ゆ、誘惑じゃないです! 名残惜しかっただけですっ」
遥君は少しだけムキになったように言い、僕の膝から降りると冷めているであろうお茶を飲み干した。
「お茶、温かいの淹れて来るよ」
「……ぅ、ありがとう、ございます」
彼は急に恥ずかしくなったのかしどろもどろとした喋り方になっている。僕は自分の熱を冷ますために温くなったお茶をぐっと飲み、立ち上がって新しくお茶を淹れた。
「はい、遥君の分」
「頂きます……」
彼は赤い顔で乱れた髪の毛を手で直し、熱いお茶を啜った。
「先程はすみません。オレの煩悩が口から出て来てしまって……恥ずかしいです」
「ああ、僕に、その、めちゃくちゃに抱き潰されたいっていう」
彼は自分が口走ったことを思い出して身悶えている。
「謝ることなんてないよ。そういう気持ちを持つのは何も恥ずかしいことじゃないから。僕は君の気持ちを聞けて嬉しかったよ」
「敬久さん……」
返答を間違えれば旅行中口を聞いてもらえなくなるかもしれないなと思い、僕は慎重に言葉を選んだ。
「ぅう、でも、オレは自分の煩悩に打ち勝たないと」
遥君は熱いお茶を少しずつ啜りながら呻いた。先程の色っぽい姿と今の縮こまった姿のギャップに僕はふっと笑った。
「遥君はくるくる変わる表情が本当に魅力的だよね。君のそういう所すごく素敵だよ」
笑いながら彼の頭をポンポンと撫でると、遥君は横目で僕をチラリと見た。
「もう……敬久さんは、そうやってすぐオレを口説いて……」
遥君は熱いため息をついて、また肩を寄せてくれた。
0
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる