【完結/BL/R18】獣人のオレは娼館で働いているのに初心な大型犬に絆されて、それから

こんなに近くにいるのに

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　ニーナが平静を取り戻してからは恐怖で垂れていた耳や尻尾は段々と元通りになり、冷静に物事を考えられるようになって行った。

(まずはここから抜け出して……寄り合い所に急がないと)

　もしかすると、もう寄り合い所の方にも魔獣が来ているかもしれない。ニーナは耳を澄ましてみたが、扉に魔獣が突進するドッドッという音しか聞こえなかった。

(獣人のオレの耳で聞こえないってことは、まだそこまでの騒ぎになっていないか、もしくは冒険者の人が頑張っているのかな？)

　普段は気配や音をそこまで気にしていないので単純に聞こえないだけの可能性もある。ニーナはそういった考えが思い浮かんだが、首をふるふると振った。

(今はオレしかいないんだ。自分のことを信じないと！)

　ニーナは寄り合い所の方面に魔獣は出ていない物として、納屋からの脱出計画を考えた。

(まずは小さい魔獣……あいつらだな。数はオレが見た範囲だと、三匹いた)

　あの大きいのに比べれば遥かにマシだが、力はかなり強い。三匹まとめてのしかかられたら、そこでおしまいだ。

(鼻を火かき棒で刺した奴は……進んでオレを襲って来てない感じがするから、やっぱり武器で反撃した方が良いな)

　納屋にはニーナが扉を固定している鍬以外に鎌や斧がある。他にも荒縄や畳んだ麻袋があり、武器として使えそうな物には困らなさそうだ。

(あんまり持ち手が短いと、すぐ近づかれるからな……)

　ニーナは鎌を手に取ると地面に刃の部分を押し当ててボキンと折った。そして鎌の柄に荒縄と麻袋を使って斧を固定し、持ち手を長くした斧を作った。

　ブンブンと軽く振ってみるが、斧はちゃんとくっついたままだ。ニーナは後で鎌を弁償することを誓い、納屋をまた見回した。

(後は……)

　曇った窓に近づいて見るとはめ殺し窓ではなく、押すと外側に向かって窓が開くタイプの物だった。曇った窓を麻袋で拭くと外が見える。ニーナは姿勢を低くして窓の端の方から外を見た。小さい魔獣が二匹うろうろしている。扉に突進している魔獣は一匹だけのようだ。

(何匹か別の方向に注意を向けられれば……そうだ)

　ニーナはポケットから人形を取り出すとローブを脱いだ。脱いだローブに裂かれた腕から滲む血を塗り込み、肥料の入った麻袋を包んで荒縄で縛ると、枕くらいの大きさの塊を作った。

(上手くいくかは分かんないけど……やるしかないんだ)

　ニーナは人形をズボンのポケットに押し込み、斧をギュッと握りしめて窓を勢いよく開けた。