GOD HAND

げろしゃぶ

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第一章・覚醒

第七話 アウトロー戦線阻止

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「誰も俺に追いつけない」
 --最速の男ストレイト



 俺は今、作戦会議室に居る。

 しかし、ハヅキと共に30分ほど椅子に座っているが、始まる気配が全くない。

「一週間って間隔は長いのか?」
「短い方だ。『新人類』の人口がそもそも少ないからな。」
「このあいだはなんでここで作戦考えなかったんだ?」
「九郎人さんの提案だ。力で強行突破したかったから、現場で適当に考えようと思ったらしい。」

 けっこう脳筋ってやつなんだな、あの人は。

「で、まだ始まらないのか?」
「もう一人来る。その人を含めた三人での作戦だ。」



 待ち続けて一時間。

 いい加減にしてくれ!と叫びたくなってきた。ずっと椅子に座ってるのは嫌いだからだ。

「よーお待たせお待たせ。さっそくやるか!」
「湖光さん、遅いですよ。すげえ待ちましたけど。」
「いやー悪い悪い、仕事が押しちまってさ、なかなか終わらなかったんだよ。」

 ココウ、さん?がそう言いながらこっちを向く。

「お!お前が新入りか!オレは湖光 太壱ココウ タイチ!よろしくな!」
「あ、どうも、カイ タカシです。よろしくっす」

 自己紹介を終え、作戦会議が始まる。ココウさんは中央の席の机の上に地図を広げた。

「これが現場だ。場所は埼玉市の東側、廃工場の一角。ここで不良グループの抗争がある。」

 不良同士なら俺達が行かなくてもいいんじゃないか?

「ただの不良じゃないぞ。コイツら両方とも『新人類』がボスだ。」
「マジっすか!?」

 だから俺達が出るって訳ね。それにしても、『新人類』は少ないんじゃなかったのか?

「俺達はただ抗争を見てるだけじゃない。むしろその逆、抗争に参加して、ボスを両方とも捕獲する。」

 それってめちゃくちゃ危なくないか?

「ヤツらのターゲットが全員俺達に向くことが避けられる。真正面から喧嘩を売るよりも安全だろう。質問はあるか?」
「どうやって抗争に混じりますか?」
「出入口が北側に二つ、南側に三つある。このうちのどれかから一人一つ、バラバラに入る。どこから入るかは個人で判断だ。」
「捕獲ってどうするんですかね?」
「これを使う。」

 ココウさんが何かを取り出す。銃か?

「これは通称ワイガン。昔の漫画の捕獲武器を模したものだ。トリガーを引くとワイヤーが出てきて触れたものに巻き付く。そして脊髄からESP能力を使えなくする音を伝える。」

 脊髄って……こえ~。

「これがボス共の写真だ。三人分ある。捕獲したら即撤退。集合場所はここ。いいな?」

 前回は何もできずに終わってしまった。今回は何かしなくちゃな。



「お前らが群馬組か!おお!?今日ここで潰してやるからよお!縄張りよこせや!」
「んだとォコラ!『超洗浄』なんて頭悪い手紙寄越して呼び出して喧嘩吹っかけるたァ、いい度胸じゃねぇかよォ!」
「死ねコラ!」
「ぶっ殺すぞコラ!」
「やってやんぞコラ!」
「やんのかコラ!」

 頭の悪そうな怒声が聞こえる。何でもかんでも声を張れば迫力が出るとでも思ってるのか?

「あいつらがそうっすか?」
「そうだ。だが、聞いた数の倍くらい人数が多いように見えるな。」
「まあでも着いちまったし、やるしかないですよ。」
「そうだな。じゃあ作戦通り、各々出入口付近で待機。抗争が始まったら突入。不良共を倒しつつ避けつつボスを捕獲だ。散れ!」

 身を隠しつつ北東の出入口に向かい、廃工場の様子を伺う。

 連中、よっぽど大きな声で喋ってるのか、100メートル近く離れていてもよく聞こえる。

「リーダー!やっちまいましょうよ!」
「そうだぜ!」
「ぶっ殺してやるよ!」
「ぶっ殺されんのはてめえらだ!コラァ!」

 まさに一触即発。爆発寸前だ。
 ココウさんにもらった顔写真でボスを確認する。あの男か!

「やれ!」

 ボスが声を上げると、不良共がいっせいになだれ込む。抗争の開始だ!作戦通り、不良共に紛れてボスを狙う。

 ボスが少し離れた場所に移動した。ここを逃したら次にチャンスが来るか分からない。

「『鋼鉄の手アイアン・ハンド』!」

 ボスを思いっきり殴る。そして捕獲。なんだ、簡単じゃん!

「!」

 こっちに気付かれた!

「どぅりゃぁああ!」

 ボスがアイアン・ハンドをアッパーで弾いた。そう簡単には行かないか……

「おい、お前だな!そこを動くんじゃねーぞ!」

 猛然と向かってくる。迎撃するためにアイアン・ハンドを俺の元に戻した。

「おおおおお!」

 こいつ、地面を殴って飛んだ!?アイアン・ハンドも弾いたし、なんてパンチ力なんだ。

「死ねええぇぇ!」
「こいやぁ!」

 気合を入れ、アイアン・ハンドを落ちてくるボスに飛ばす。ド真ん中だ。クリーンヒット確実!

「ッラアあぁアッ!」

 アイアン・ハンドを殴り抜く。これでもダメなのか!それなら。

「せりゃああ!」

 パンチに合わせて腕を掴み、体ごと投げる!いろいろな要素が威力を相乗した、即興投げ技だ。
 
 受け身を取れなかったボスは背中から叩きつけられ、気絶した。死にそうなほどすげえ勢いで叩きつけちまったが、なんとか生きている。

「そ、そうだ、捕獲して逃げないと。」

 Yガンを取り出し、撃ち込む。ワイヤーが三角形の形を取りながら飛んでいき、ボスの体をぐるぐる巻きにする。

「これで完了、と。脱出!」

 戦闘に集中していたから気付かなかったが、周りの不良共の殆どはケンカを止めていた。恐らくもう片方のボスも捕まったんだろう。

 ボスを担ぎ上げ、集合場所に走る。



「遅かったな。こっちは速攻で終わったぜ。」
「向こうは一人だったんだ、そう言うな。」

 ハヅキとココウさんだ。二人はすぐに捕まえてここ--大きい公園の一角--に連れてきたらしい。

「しかし、実戦は初めてなんじゃないか?それでちゃんと成果を挙げられるとは、やるじゃないか。」
「いや、そんな、それほどでもないっす。」
「謙遜するな。さて、コイツらが転送されたら任務終了だな。」
「そう簡単に捕まるかよ!」

 知らない声が後ろから聞こえた。誰だ?

「お前は、さっき捕まえたはずだが、どうやって逃げた?」
「あんなもんじゃ俺は捕まんねえよ!」

 どうやらもう一つのグループのボスのようだ。こいつ、どうやって?

「まあ、俺からは逃げられないし勝てないな。お前じゃな。」

 ココウさんが自信満々に言い放つ。

「じゃあ、ころぉ゛っ!
「遅い」

 ココウさんがいつの間にかボスに膝蹴りをかましている。あの距離を一瞬で移動したのか?

「これで終わり。Yガンが効かない敵は初めてだったけど、なんとかなったな。」

 

「『鋼鉄の手アイアン・ハンド』、具現型ね。俺は『加速アクセル』、身体強化型だ。文字通り体の動きを加速できる。ギアみたいな制限もあるけどな。」

 帰り際、ココウさんにESP能力の説明を教えてもらった。

「地上を走るもので一番速いのは最高速の俺。……とまでは行かないが、新幹線よりちょっと遅いくらいか。」

 速っ!

「この世に俺より速い能力者はいない。最速とは俺のことだ。」
「そ、そうっすか。」
「そうだそうだ。さて、もう遅いし、帰って寝よう!そうしよう!」

 俺達は談笑しながら支部に転送ドアで移動し、それぞれの帰路についた。



 本来『自信』とは、努力とそこから生まれる結果によって初めて本物のものとなる。

 ちょっとしたことじゃ揺らがない精神力の持ち主とは、不断の努力と成功の裏付けがあるからこそである。

 もし偽物ならば、落ち着きを取り戻せず、何も成し遂げられずに終わってしまうだろう。

 だから、今回のこの成功を噛み締め、咀嚼し、飲み込み、糧とする。

 人生とはそれの連続であり、特に命を賭けるこの仕事は、それが最も大事なものだと、前回と合わせてそう思った。
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