GOD HAND

げろしゃぶ

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第一章・覚醒

第六話 復讐の電光

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『二人の囚人が鉄格子から外を眺めた。 一人は泥を見た。一人は星を見た。』
 --フレデリック・ラングブリッジ



 23個。天井のシミの数。89歩。看守の足音。一体何回数えただろう。



 男、31歳。ここに収監されてから10年。収監される前、男は引きこもりだった。

『お前、ビリビリするんだよ!だからあっちいけ!』
『てめえ、いっつもパリパリうるせえんだよ!』

 今でも昔の夢を見る。

『おい!触るなよ!ゲームが壊れるだろ!』
『ちょっと!あんたが近づいてきたからケータイ壊れちゃったんだけど!弁償しろよ!』

 男にとって、いつものことだった。周囲に迷惑をかける。だから嫌われる。そこにいるだけなのに。だから引きこもった。誰にも迷惑をかけないように。

 何週間ぶりか、部屋から出てきた。自分の苦労を知っている親からは何も言われない。でもこのままでいいのか?そう思ってもいた。

「お母さん?いる?」

 返事はなかった。

「お父さん?桜蘭さくら?」

 リビングに入ると、ちゃんと三人、ソファーに座ってテレビを見ている。返事を返さなかったのは、テレビの音で聞こえなかったからか、それともいよいよ愛想を尽かされたからかと男は思った。

 よく見ると、三人から黒い煙が上がっている。

「父さん……?」

 恐る恐る父の前に出て、顔を見た。すると、顔は焼け爛れていて、白目をむいていた。

「あああっ!と、父さ、う、おええエッ!」

 父は死んでいた。焼死体とは違う、これは、電気でやられたものだ。

 妹も、母も、同じだった。

「まだいたのか……オラ!」

 台所から声が聞こえた。男は反射的に体の周囲に電気を放つ。うまく相殺できたようだ。

「ほう?電気か。ククッ、丁度良い。俺はもう行くぜ。あばよ!」

 誰かが台所に居て、男に攻撃をしたことしか男には分からなかった。

 親は死んでしまった。妹もだ。男は悲しみ、家族を失ったこと、守れなかったこと。それを後悔しながら泣いた。



 男は思い出した。自身の刑期が終身刑であることを。家族を殺した誰かに復讐をすることなく、何も成せないまま死んでいく。

 男は脱獄を決意した。



 半年に一度の定期検診。男のESP能力を封じている脳波矯正装置。それがほんの一瞬外れる時がある。

 脳波検査。矯正装置による弊害を調べるために、一瞬だけ上にズリ上げ、脳波測定装置を入れる。

 その瞬間は、絶対に逃さない。

「では脳波検査をします。」

 装置が上げられる。男は力の限り暴れた。看守の手から脳波矯正装置が落ちる。それを見て、男は周囲に電撃を放った。



 成功した。死者は出ていない。全員ショックで気絶しただけだ。男は喜び、外に向かって走り出す。

 非常ベルが刑務所中に鳴り響く。脱獄がバレた。だが男は止まるつもりはなかった。

「居たぞ!あそこだ!」

 前に看守が数人現れる。それを電撃で倒す。

 それの繰り返しだ。楽勝だ。



 外に出た。

 刑務所の中庭だ。しかしあまり広くなく、壁も近い。

 男は必死に壁を登った。普通なら看守が飛んできてすぐに降ろされるが、男にはESP能力がある。誰も脱獄しようとする男に近づけなかった。



 刑務所の外に出る。

 男は脱獄に成功した。

 男の名は城戸 丈キド ジョウ。復讐の旅が始まる。

「待ってろよ、絶対に復讐してやる。」

 キドは誰もいない夜の街を、電気を放ちながら歩く。

 その姿は、暗闇に輝く星のようだった。


 To be continued…
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