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一浪目

浪人生は知る。

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「あ、あの。」


数秒の沈黙が流れる。

風で木々が揺れてガザガサと音を立てている。

「、、、、、、、、、なに?」

彼女は目線を前にしたまま小さく、吐息混じりに答えた。

「あな、、た、?も、ハンターなんですか?その、弓とか、、。?」

正直年が同じくらいというのは、想像にすぎなかったのでとりあえずタメ語はやめておいた。

「、、、、えぇ。それが?」

冷たいというか、素っ気ない返しだな。『塩対応』という奴なのか。目も合わせてくれないみたいだし。。

「あ、いや。。なんとなくっていうか。。どうしてこんなところに?みたいな。、、、です。」

はぁ、、

彼女はため息を付いて目を閉じたが、冷たい顔が少し緩んだ気がした。そして目をゆっくり開いて顔をこちらに向けた。

「普通にしゃべりなさいよ。歳も、見たところ同じくらいでしょ?あなたは?なんでこんなところに?」

「あぁ。じゃあ、タメ語で。俺は、ついさっきハンターになったばっかりというか、武器を、貰ったんだけど。さ。」

「、、へえ。それは、さっき投げようとしていた刀?」

「え。あぁ。見られてた?そう、なんだ。この刀さ、見たらわかると思うんだけど、刃がなくてさ、、。」

俺は刀を鞘から抜いて、彼女に見せながら言った。「ほら。」

「えっっ?そんなことって、あるの?」

彼女は目を丸くして、とても驚いているようだ。まぁ、アマンドも村長も驚いていたし、ほんとに珍しいことなんだな。

「お、、おどろいた。でもそれ、どうやって鞘に収めているの??」

「――――――え?、あ。」

確かに。確かにそうだ。おかしいぞ。刃がないのに?、鞘に収まる?そんなわけない。いや、でも、さっきまで収まっていたわけだし。実際何回か抜いたり収めたりしているわけで、、。。

おれは、ゆっくりと柄を鞘に近づけ、収める。

――チンッっと小さく音がして、それはしっかりと鞘に収まった。鞘を持って上下に振ってみても柄が落ちることは無い。不思議だ。気づかなかった。今まで。

「ふ、、不思議な刀?ね。」

彼女は苦笑いしながら言った。

「う、うん。気づかなかったよ。確かに、変な刀だよ。それで俺さ、戦うことが出来ないじゃないかって思って、ふてくされて、落ち込んでたんだけどさ、散歩して頭冷やそうと思って、それで。」

「、、、そう。謝らなくちゃいけないっていうのは?」

「あぁ。知っているか分からないけど、アマンドっていうハンターのところにお世話になっててさ、こんな俺によくしてくれたのに、嫌な態度とっちゃって。それに短剣もくれたし。だから、謝らなくちゃってさ。おもって。」

俺がそう言うと彼女はまた目を見開いてこっちを見た。

「アマンド!?アマンドって、あの、アマンド??」

「ん??たぶん?そのアマンドかと、有名なの?」

「ゆっ、有名も何も、この辺りの島で一番強いハンターじゃない!知らなかったの?、そう。戻ってきていたのね。彼らは、よく別の遠い島まで狩りに行くから、あまり帰ってこないのよ。」

え?、そうなの?アマンドが。まぁ、確かに只者ではないって感じだったけど。そうか。そうだったんだ。そんなにすごい人に、俺は、。。

「そ、そうなんだ。。あまりそういうことは。聞かなかったな、、。はは。」

「ほんとにそうよ。謝らなくちゃいけないんだったら、さっさと帰って謝った方がいいんじゃないの?きっと心配もされていると思うし。」

「あ、。うん!ありがとう。じゃあ。また。」

俺は片手を上げて彼女に別れの挨拶をして、少し速歩きで、来た道に体を向けて、歩き出す。

「あ、、っ、まって!」

後ろから彼女の声がしたので、振り返る。

「私、シオン。その、あなたは?」

「あぁ。俺はヒカゲ。よろしく。」

「えぇ。ヒカゲ。また、。」

そう言った彼女は少し笑っていた気がした。




「――――――少し遅くなっちゃったな。アマンドたち心配してるかな。早く帰って謝らないと。」

そう独り言をつぶやきながら俺は足を進める。

あ。そういえば。シオンはなんであんなところにいたんだろうか?聞きそびれちゃったな。。――まぁ。いいか。また今度聞こう。

今は、謝ることが最優先だ――――






「――――――ごっっっっゴメンなさいっっっっっっっ!!!!!!!!」

俺は深く、勢いよく頭を下げる。下げまくる。二人の顔は見えないけど、黙っているみたいだ。怒ってる、、よね。そりゃあそうだ。

「頭は冷えたみたいね?ヒカゲ。心配させないで。」

エレナが膝だちになり、俺の頭をなでながら優しい声でそう言ってくれた。

怒っていないのか?でも、歳がかなり離れているわけでもないのに、こんなにされて。俺は本当に子供だな。。。

「まぁ、エレナ。そのへんにしといてやれ。――ヒカゲ。俺の方こそ、悪かったな、、何にもしてやれなくて。」

「そ、、そんな!アマンドは!ぜんぜんっ、、謝る必要なんてっっ。俺は。よくしてくれたアマンドやエレナに、酷い態度をとってしまって、それで、それで、、本当に。すみませんでした。」

俺はもう1度2人に深く頭を下げた。

アマンドとエレナは顔を見合わせて、少し笑い、

「まぁ。もうこの話は終わりだ。ヒカゲ。飯はまだだろう?飯にしよう。」

「そうよ。元気だして。今日はミルガーの肉が手に入ったよ。とっても美味しいわよ。たくさん食べて。」

「、、、うん。ありがとう。二人とも。何か少し恥ずかしいけど、これからも。よろしくお願いします。」

俺がそういうと、ふたりは少し悲しそうな顔をしたような気がしたが。すぐ、笑ってくれたので、気のせいだろう。

俺は、エレナが作ってくれた料理をたくさん食べた。ミルガーというのはガネルにごく稀に出現するうさぎのような小動物だという。この肉がまた絶品だ。程よく脂がのっていて、それでいてこってりしすぎていない。臭みもなく、いくらでも食べられそうだ。俺はミルガーの肉をたらふく食べて。二人と少し談笑をして、そのまま寝てしまった。



――――――ん。ここは。ベッドか。アマンドがベッドまで運んでくれたのか?

「――――それで、ヒカゲのことなんだが、、。」

「えぇ。連れていく理由には、行かないわよね。とても危険だわ。」

「そうだな。急でどうすることも出来ないが。ヒカゲには俺が伝えておこう。もっと色々、教えてやりたかったんだがな。」

「しょうがないわよ。それより、あまり心配させない方がいいわ。」

「そう、、だな。」



え?。一体、、二人は。何の話をしているんだ?

俺はそう思ったが、眠気でまた意識が遠のいていく。そしてまた。深い眠りについた、。
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