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読み切り版🆕2019.05.07
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私は戦士であり、軍の防衛兵士である。戦乱の世は日々過酷さを増し敵軍が徐々に我が軍勢を縮め、侵略をすすめていた。私はと言えば歩兵の戦術の一種であり敵の戦力を分散させる。だだそれだけのための兵力であり、軍にとっては捨てゴマにすぎなかった。
とある日、出兵をさぼった。逆に良かったのかもしれない。その日、敵は体力の遠隔武器を所持していたらしく、囮役でもあり接近戦主体の私としては部がかなり悪かったのだ。むしろそれが高じて敵の策略にはまらずすんだともいえよう。
そんな私はといえば、とある書籍の館へと来ていた。武具書籍、食べ物の書籍と沢山あった。特にここにきたのには調べ物がしたいわけではなく、出兵をサボるにはうってつけのさぼり場だったからにすぎない。
「あら。ここに人がいるなんて珍しいですわ」
すると、女性の声がきこえた。振り替えるとシルバー色の髪がなびく女性の姿が見えた。
「貴方は。軍の兵士様では?」
私の身分は既にばれていたのだ。
「どうしてわかった」
「ふふ。こう見えて、私物覚えはいいですのよ?」
記憶力が高いのだ。とこの女性はいうのだ。果たして何処で会ったのか私にはけんとがつかない。村の市場だろうか。まさか戦場で会ったにしては落ちつきすぎているであろう彼女。
「私は記憶が乏しいのかそなたの顔を覚えてはいないのだ。よければ何処であったか教えてはくれぬか?」
私は彼女に訪ねる。しかし、彼女は笑ってただこういうのだ。
「特に気にしないでいいですわ。私のような貧民の情報など。無駄な記憶はさらに戦士様を惑わしますわよ?」
彼女のいう通りかもしれない。だからこそ私は彼女を覚えていないのだ。なら、その助言を素直に受け止めるべきだ。
だが、彼女はなにゆえここへ。彼女がてにもっているものをみると。忍具入門書をもっていた。村娘が何故忍者についての本を持っているのかと気になりもしたが、大方親戚に忍者専門の見習いでもいるのだろう。
「どうかなさいました」
「いや、そなたが何故そのような書物を読んでいるのか気になってな」
そう言うと彼女は少し困った顔をする。言いにくいことだったのだろうか。どちらにせよ私は彼女には何の関わりもないただのしたっぱ兵士。
「忘れてくれ。邪魔をした」
私は館を後にしようとする。
「・・・。またお会いしましょう」
最後彼女がなにをいいかけたか。私にはわからなかった。
「おい! 何処をほっつき歩いていやがった日和」
上官の兵士に怒られた。
「いやまあいい。今日来ていたら命を落としていただろうからな」
予想は的中。少し頭の切れる猛将なら今日の戦で囮がいてもただ戦力を失うだけだと判断できるはず。私は別に頭がいいわけでもなく、どちらかといえば戦力外でありだからこそ囮役をしているのだ。だが、私は直感がよく当たり不吉を予知すると何となく。何となくだが、動かない方がよいと判断ができる。それは私にもわからないが、天性の才能とでもいうのか今までもその直感に頼り生きてきた。
「そうだ。お前に紹介したい傭兵がいるのだが、よいか?」
「? どういうことでしょうか」
「俺はこう見えてお前を気に入っているのだ。だからこそ、お前に戦場で死んでほしくはない」
「・・・勿体無きお言葉。しかしそれとこれとどんな関係が?」
「お前に護衛をつけようと思うのだ。参れ」
すると、後ろから謎のくのいちが現れた。
「今日から、彼女がお前を護衛することになる【くが】だ」
女性?
「お聞き苦しいのですが、青年兵士様。女性を戦場に送るなどそなたらしくないではないか? 私は女性を守るほどの実力はありません」
「守るための護衛ではない。自分の盾となってもらうのだ」
そうは言うが、身体的にも華奢な彼女に守られるなど私には無い。彼女は見習いではないのか? それに、強いのか弱いのかで言われれば判断出来ぬが。見た目はかなり軽装で武具も忍刀ひとつと本の少しの手裏剣を持っているだけ。初対面の彼女の実力を信用できないというわけではないがそれでも不安が残る。
私の武具も似たような物だがそもそも対人するために組織された身分ではない。ただ敵の動向を錯乱させるためだけに組みこまれた兵士だ。その為軽装なのも当たり前だ。しかし、彼女は護衛として呼ばれたはずである。私を護衛するにしても軽装過ぎやしないか?
「・・・安心下さい」
「え?」
「ウチにもしものことがあっても。使い捨てにしてくださってかまいませんから」
「そういうことだ。日和も彼女の肝がすわっている姿を見習ったほうがいい。お前は勘が鋭いのが武器だけどな」
見張られていたら、直感頼りに動くのも戦略外になってしまうではないか。むしろ動きにくくなってしまうではないか。と私は抗議しようとする。
しかし、彼女に私の口を手で抑えられてしまい発言を妨害された。
(大丈夫です。貴方の行動に沿って私も動きますから、今は彼の意見に従って下さい日和様)
「・・・!」
彼女の囁き声がきこえ、背筋が冷たくなる。今何処から声をかけた?
「? なにかいいかけたか日和」
青年兵士には通じていないのか?
「青年兵士様。日和様の口から咳嗽が起きそうな予感がしたので私が応急処置を行いました。彼と同じく私も勘が鋭いのです」
「そうか。とにかく日和。戦で死ぬでないぞ? せめて俺が死ぬまでは生き延びてくれ」
そういうと青年兵士は去っていく。
私と玖香という名乗る忍者二人っきりになった。
「・・・」
「・・・」
気まずい沈黙がしばらく続く。そもそも私は一人でいるのが常で特に誰かとつるむことなどいままでずっとしてこなかったから、尚更余計に。コミュニケーション、言葉のキャッチボールといえばよいか私はそういうものがゼロに等しい。
そんな状況を察してか、彼女から声をかけてくれた。
「日和様は戦場は慣れて?」
戦場の話でいかにも緊迫した空気のままだったが、ずっと沈黙が続くよりかは助かる。
「いや。慣れることはないんだ。私はずっと逃げ役だからな。死をいつも覚悟しているよ。敵の火計に飲み込まれそうになったり。敵の水陣のテリトリー内の罠に入ってしまいすんでのところで青年兵士に助けてもらったり」
いつ天国か地獄か死の世界へいってもおかしくない。そんな事に恐怖を持つ暇すらないからこそ、私は今平然としていられると言ってもよい。
「悪いのだが、そなたを守る技量は私には無い。駄目だと思ったらそなたは逃げてほしい」
彼女に伝えた。初の戦で私のために命を落とすなどしてほしくない。まだ若々しく美しい女性である彼女なら今後も良い身分の猛将からもお声がかかることだろう。そんな者が私の為に死ぬなど可哀想だ。
「・・・」
彼女は私の方を向き見つめてくる。
「? どうかしましたか」
「いえ。謙虚ですね。貴方は」
口が隠れていて表情はわからないが、きっと彼女は笑ってくれているのだろう。
「貴方みたいな人、初めてみました」
そう言って、彼女は私の手を持ち自身の胸に添える。
「大丈夫です。私の身は自分で守ります」
「そうか。良かった」
そう言って私と彼女は別れる。
夜が明け。翌日。敵軍が総力をあげて自軍へ攻めてきた。
「お前ら! 攻めくる敵から我らが村を守るのだ!」
今日は攻防戦。昨日攻めた軍の兵士達の逆鱗に触れたのか、制圧したと見える敵軍の基地の親が総力で攻めてきたのだろう。
「日和」
青年兵士に声をかけられた。
「今日のために持ってきた護衛兵士だ。辛い役目だろうがお前を守るために用意した兵士だ。無理だと思ったらすぐに彼女を囮に退け」
そう言うと青年兵士は前線へかけていった。もう一度言おう。耳にタコができるくらい、何度も復唱していることだが、私の仕事はわざと敵に見つかり敵の兵力を分散させること。つまりは囮役だ。戦術の浅い兵士に任せられる最底辺の戦略である。私は兵士としての実力も浅く、とにかく逃げきるしかない。逃げて。逃げて・・・逃げきれなければ、簡単に命を落としてしまうだろう。それは私自身が深く理解している。それでも生きるため。国のために。任務を行うのだ。まあ、私は自分の命などどうでもいいと言ってはなんだが。生きていれば明日があるくらいにしか思ってなかったりはするのだが。
「日和様」
後ろから玖香が声をかけてきた・
「どうしたのだ? 玖香さん」
「さん付けなんて他人行儀ですね。それに、一語一句の報告が仲間の行動を助けます。私の事は呼び捨てで玖香と呼んでくださいな」
今日から私には護衛がついたのだ。正直、いてほしくないのだが青年兵士は私の戦闘力をよく思ってないらしく死なないための盾として無理やり護衛を雇ってしまい、もう私にはどうすることもできなかった。
「日和様。今日の戦闘は必ず貴方を守りますから。安心して動いてください」
そういうと、彼女は姿を消した。どうやら隠れながらついてきてくれることらしい。
私は戦場を歩き出し、何人かの敵を引き付け戦力の分散を図った。屋敷の地図は熟知していて、敵が迷いそうな場所や味方兵士が計略で敵を葬ってくれるpointへ誘導し敵を巻いて巻きまくった。
「(玖香に行動させずにすみそうだな)」
私は彼女を囮に使わぬ安心感にほっとしていた。
しかし、そんな安堵もつかぬ間。
「お頭、敵がやってきましたぜ」
「沢山来たな」
敵が話してる声がきこえた耳をすまし様子をうかがう。敵に見えないよう死角に隠れる私。
「こちらに気づいてないみたいですぜ」
「砲弾をぶち込めば血の雨だな」
敵の視線の矛先を見ると、仲間兵士達が敵に気づかれないよう慎重に移動する姿が見える。
「(・・・。)」
私は別に兵力を分散させるのが役目であり守るのが役目ではない。この場は敵の注意を少しでも誘いこちらの存在にも気づいてもらい逃げるのがセオリー。だったのだが・・・
「君はこちらにきてくれ」
中には青年兵士もいたのだ。彼が死んではわが軍は終わりだろう。無論、私を庇ってくれる上位兵士などもういない。
もはや僕に考えている余地などなかった。
ガガガガンッ!!っと足音をたてて、私は敵を引き付ける。
「おにいさん。借りはでかいよ。逃げてください」
とアイコンタクトを奥にいる青年兵士に送り、青年兵士は仲間の士気を分散させた。何人かは敵の策略の餌食になってしまうことだろうが、全滅はこれで防げるであろう。しかしながら、敵の新兵器の砲弾といえばいいのだろうか。あんな兵器を他の敵軍は開発しているのか。
とか考えながら、急ぎ足で来た道をかけていくと。
「敵か」
「?!」
私は周囲を大群に囲まれていた。視界は敵だらけで仲間の姿は見えないが、味方部隊は分散できたであろう。
「・・・」
私の最後の仕事が敵の兵力分散ではなく、味方の兵力分散になるとは。敵の策略に溺れたとでもいおうか。いやそれだと意味が違う。私の行動は仲間の作戦に報えたであろう。
「これまでだな」
私は死を悟った。自分の味方の役に立つことが出来るという使命を果たしたなら、素晴らしい死に方だろう。これ以上にかっこいい生き方はない
「みんな生きてくれ」
私は目を閉じた・・・しかしながら。次の瞬間。
爆発音。
「日和様っ」
「え・・・」
護衛兵士の声が聞こえた。
「目を開けてください! 反撃しますよ!」
何が起きたというのだ。目を開けると・
「え」
パパパパパパパパパパパパパ
カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ
無数の手裏剣を投げ敵の動きを止めてる忍者娘の姿があった。
「日和様! 砲弾を構えてください」
玖香の指示した方角を見ると。敵が持っていたはずの砲弾が私たちの使えるポジションに来ていた。
なぜこれがここに。
「私が細工をしておいたんです。だから日和様」
ぎゅっと私の手を握る彼女。
「初めての殺生は怖いでしょうが。私が見ていますから」
これを私に引けというのか?
「引かなければ私たちは死にます。それでもいいならば私は止めませんよ」
死ぬか生きるかこの砲弾を打つか打たないかで決まると彼女は言うのだ。
「とめろ! あの女を先にやれ!」
一斉に矢が彼女を襲う。しかし飛んで来た矢は私に当たることなく地面へ落ちていた。彼女は道具を取り出しさらに物を敵に投げる。
シュシュシュシュシュシュシュシュ
無数の手裏剣が敵を襲う。
「なっ」「ぶふ」「な…」「ごほ」「がっ」「ひっ」「げふ」「うっ」
「日和様、手裏剣ももう底をつきます。決断を」
1人の女性はそう言って日和へ振り返りいう。
「打て!!」
私は砲弾を撃ち込んだ。
ドカーーーーーーーーーーーーーン
爆発音が響き渡り、大群率いた敵を倒す。
「・・・」
私は震えが止まらなかった。人を殺すというのはここまで簡単なことなのか。いや、違う。自分たちのいる世界はこんなにも無慈悲なのかと。私は別に好きで線上にいるわけではない。わかちあえるならこの死にゆく私が殺した兵士とも仲良くできたらどんなに良いことか。
「日和様」
すると彼女がぎゅっと抱きしめてくる。
「初めての殺しにしては上出来ですわ」
「・・・すまない。初めての殺生で気が動転していた。判断が遅れた」
「いいえ。あなたの決断は決してこれからの戦場に届くはず。きっとこの経験がたすけとなってくれるはず」
そう言って彼女は僕の頭をなでてくれた。
「・・・」
初めてあった相手に気を許す性格出ない私だが。彼女のぬくもりに心地よさを感じてしまう。
「逃げましょう」
「え」
「日和様はもう十分頑張りましたわ。精神的にもこのまま戦へ出向くのは無理です。今日の戦がもし私たちの敗北で終わっても運が悪かっただけです。ですが」
あたり一面を見渡す。そこには玖香が、私が倒した敵が地面に転がっていて、息絶えた敵兵士たちがぞろぞろと。
「これだけ暴れておけば、私たちが負けることはないはず」
「・・・ほぼ君がやったことではないか」
「いえ。日和様の寛大な行動あってことですわよ
彼女に手を握られて戦場を後にする。
「わが軍の勝利を称え! 乾杯!」
祝杯が行われた。
「おい少年んん」
「わ、私か?」
「そーだともそーだとも! いやあ、よくやってくれたよ。君がいなきゃあ家内に会うことはもう叶わなあっただろうさ」
「い、いえ。私はなにも」
前線部隊にいる兵隊たちが次々に私に声をかけてきた。
「お前がいなきゃアタイはここにはいない」
「・・・恐縮ですが。貴女の水計がなければ私も作戦を遂行できなかったから」
「何。謙遜することはない。貴様のようない囮兵士がいなければアタイらは活躍できないんだよ。自分のやったことに誇りを持ちな」
そう言って杯を僕に交わすよう強要してくる。
「あの、私まだお酒飲める年では」
「こんな時くらい交わすのだ!!
水神を使う姉さんは怒り出した。かなり酔っているようである。仕方なく少量のお酒で乾杯をする私。すると水使いはキゲンがよくなったように私にすり寄ってくる。
「兄さん、想い人とかいるの?」
「私には戦しかないからな」
「へええ・・・」
ペロリと舌を出しながら抱き着いてくる水使い。酔いすぎではないか?
そのあと、話をしたのだがこの水使い私より年下の兵士らしい。お酒飲んじゃダメでしょうが。
「日和。よくやったな」
青年兵士がやってきた。
「日和。ここまで上手く敵を巻いてくれるとはな」
「いえ。私は特になにも」
「勇敢なお前の判断あっての勝利だ。誇れ」
「・・・」
「あの少女か?」
「・・・今日、まだ一度もあってなくて。この会場には参加してないのですか?」
「・・・彼女の希望でな」
【過ぎた情がうむは悲劇。私は万が一のために警備をしていますから】
彼女のおかげで勝利したといっても過言でないのに。この瞬間も彼女は国のために護衛をしているというのか。
「あの」
「わかっておる。彼女なら庭にいるはずだ」
会場を後にし、彼女を。玖香を探しに行く。
庭を歩いてみるが、玖香の姿はない。
「・・・どこにいるんだ」
庭から屋敷と一周したのだが、彼女の姿はどこにもなかったのだ。昨日のお礼がしたい、というだけではなく私は彼女に興味を抱いていた。惹かれていたといってもいいかもしれない。
「ねえ、あんな子いたっけ」
「綺麗な髪・・・」
うわさをしている集団を見かけた。
その方角を振り返る。すると。
そこに立っていたのはシルバー髪の女の子。
「るんるん」
屋敷の中庭の花園に書物の館で会った女性がいた。シルバー髪が白のアサガオの花と同化し、花の一部となっている。その姿は無邪気の女の子で、それこそ戦場なんて経験したことが無いような満面の笑顔の少女だった。
「お! ・・・三つ葉だった」
「なにを探しているの?」
声をかけた。
「え」
こちらに気づく女性。すると満面な笑顔で
「あら。おはようございます」
優しい笑顔で挨拶をしてくれた。
「おはよう」
「私のこと覚えててくれたんですね。嬉しいです」
恰好こそ違うが、そなたのような容姿の女性はめったにいない。むしろ、何故王宮におらずにここにいるのだろうか。豪族に声かけられてもおかしくないくらいに高貴な雰囲気を漂わせている。
「そなたのような者は珍しい。忘れる方が難しいと思う」
「そうですか?」
きょとんとした素振りを見せる女性。
「名前・・・そなたの名前を教えてくれないか?」
「名前ですか?」
数秒考える女性であった。
「そうですわね。せっかくまたこうして会えたのですから。でも、私にもあなたの名前を教えてくださいね? 等価交換です」
「約束しよう」
すると、紙に羽ペンで【玖香】という文字を書く女性。
「きれいな名前だね」
「まだ私名乗ってないのですが。ありがとうございます」
「読みはなんていうのだ?」
「私の名前は【くが】です」
一瞬、固まってしまった。くがという名前は、昨日私を護衛してくれた女性忍者と同じ名前である。まさか、この女性が昨日の忍者だとでもいうのか?
「あの。名前を教えていただけませんか? まさか私の名前だけを聞いて自分は答えないとでも」
「す、すまない。友人の名前と同じだったものでな」
拗ねる女性に慌てて私は答える。
「私はお日様の【日】に、平和の【和】を合わせて【ひよわ】」
「ひよわ様」
「あはは。日和様か。様なんて言われなれてないからなんかくすぐったいな」
ただ一人、護衛忍者から呼ばれたことはあるけども。
「玖香さんでいいんだね
「日和様。一語の省略が行動を早くするんです。戦では0.1秒が生死にかかわると思いますから。私のような者が言うのもなんですが。兵士様なら、私の事は呼び捨てで呼んでください」
指摘されてしまった。過去に似たような指摘をされたことがある気がするが、そういうことなのだろう。
また教えられてしまった。
「分かったよ。くが」
「宜しい」
「何をしてるの?」
「はい。忍術のタネの材料を探してて。100枚四つ葉のクローバーが必要なんです。あ、中庭のクローバーを取ることは許可をいただいていますので大丈夫ですからね?」
道具を作っているらしい。この国に忍者はいないためか、忍具は売る市場はない。自給自足するために入門書を読んでいたのだろう。
「探すの手伝うよ」
「いいんですか? ありがとうございます」
一緒に手伝う僕。太園であり雑草もかなりの量生えているからこの庭だけでも探すポイントは沢山あるが、四葉というものはこんなにも探すのに手間なのだと私は思い知った。
これで100枚ってところで。私は彼女に四つ葉を渡した。
「玖香。100枚だ」
「え」
「100枚と言っていたであろう?」
「はい。ですが。合わせて100枚のつもりだったんですけど。まさか日和様がこんなに探すのが得意だなんて知らなくて」
彼女も100枚の四つ葉を集めていた。
「お揃いですね」
「はは。この庭のことは熟知しているんだこう見えて。探しやすそうな場所場所を知っていれば四つ葉が生える場所などわかりやすいものさ」
「おっしゃる通りで」
たわいない会話で笑いあう私たち。こんな風に気楽に会話をしたのはいつぶりだろうか。
彼女はこの庭のことを私よりとは言わないが熟知している。クローバーの生えるpointをすべて熟知しているものは屋敷の人間でもそこまでいない。彼女はそんな中で私に劣らず100枚集めて見せた。私には劣るものの探す時間は私とそこまで変わらない。
「日和様に協力して頂けたので今日中作ることができますね」
「僕はただ。暇だったから手伝っただけだよ」
「そうでしたか」
僕の一日と言えば剣技の練習だ。戦・練習・休息が兵士達の毎日のサイクルだった。そんな私だからな。最も、剣を使う機会など私には無いのだが。私が修行した所で上達しない、戦では使わないのだからな。
「日和様は剣術を使われるのですか?」
「一応な」
「是非今度拝見したいです」
「君に戦場に来てもらうことになる。そうするわけにはいかないだろう?」
「ついていっちゃおうかな」
冗談まじりに彼女は言う。
「日和様、剣なんて実戦で使ったことないでしょうから。今度私でよければ稽古をつけてさしあげましょう」
「女性にも私は劣るのか。なにゆえそなたは私が戦闘下手なことを知っているんだ?」
「だって、日和様すっごい腰が引けてるというか。そもそも兵士向きのスタイルではないのです」
「・・・君は相手を傷つけない言い回しとかはないのかい?」
「ごめんなさい、口下手で」
元軍事に関っていたのだそうだ。だから剣術の心得は私にもあるのだと後押しする彼女。
また戦場を生き抜くことができたらここで会おうと彼女と約束をし、私は宴に戻った。
翌日。
「日和。お前は今日から前線部隊だ」
「え・・・」
「仲間からの強い要望でな。お前がいるなら戦場に行くというものまで現れた。どちらにしてもお前は毎回戦場には参加しているのだ。囮役よりはましではないか?」
「・・・しかし、私は剣術が」
「なに。その時は全力でサポートするさ」
「おっちゃんだけじゃなくアタイも守るわよ」
隣を見ると。昨日、宴で話した水使いの兵士がいた。
「やられそうなときはアタイの水爆投げ込むから逃げなさいな」
「援護してくれるのは助かるがな、きよみ。お前はもう少し範囲を考えろ」
「あら、アタイ今日は日和だけのための兵士よ?」
「・・・軍の皆を守ってくださいね、きよみさん」
「きゃ、名前呼ばれちゃった妊娠しちゃう」
「まあ、こんな女だがこの水切り娘も中々の技を持っているから安心してくれ、日和」
「水を切るじゃないわ! 私は水を愛しているの」
きよみという女性は青年兵士に文句を言い始めた。苦笑する私だが、そんな雰囲気に心が落ち着く自分もいた。初めての前線だが歩兵として動くよりも安心している。こんな落ち着きながらの出兵は初めてかもしれない。
それもこれもすべてはあの護衛忍者のおかげだ。前の戦が終わってから彼女には会えていないが。この戦が無事に終わったら。私は彼女へ会いに行こうと思っている。
「きー! 水爆だってただじゃないのよ? 合成する化学物質の調達も大変なんだからね?!」
「ほれ、これだけの報酬ならどうだ」
「む。むむむむ?! あんた馬鹿じゃないの!? これなら私以上の傭兵も雇えるわよ」
「それだけの報酬を支払う価値があるのだ。それに」
後ろを振り返る青年兵士。
「前回の戦で士気の上がった兵士たちは皆、噂をたがわない強者へと成長してくれることだろう。彼の存在によってな」
私も後ろを振り返ると。「少年!頼りにしているぞ!」「日和!」「日和!」と沢山の歓声が私を励ましてくれる。
「そうね。私も彼のためなら頑張れると思うわ」
「あの。さっきから聞こえてるんですけど。恥ずかしいからいないところでやってもらえませんか・・・」
そんな感じで今日も私は戦を走る。
【日和様】
【ん?】
【二つ忍術の種をつくっていおきました。これを投げれば少しの間だけ敵に致命傷を与えることが出来るでしょう】
【どんな忍術なんだ?】
【・・・つかってからのお楽しみです】
いじわるっぽく人差し指を唇の前にたてながらそう言って私のポケットには忍術の種が2つある。彼女が作ってくれた人具だから、大切に使いたい。できれば、ずっと持っておきたいものだが、【ピンチになったら必ず使うこと】とくぎを刺されているから、もしものときはちゃんと使おう。
なあ、今もこの近くにいてくれるんだろ? 玖香。
(もちろんですよ。日和様)
今日もまた戦が終わったら庭へ会いに行こう。それを楽しみに今日も私は戦場をかける。
今日は前線部隊のデビュー戦。
「皆の者! 絶対みんなで生きて帰ってくるのだぞ! 名声を皆で勝ち取ってくるんだ!」
「おおおおおおおおお!」
私も走る。彼女とともに
ー読み切り版 ひよわな ~FIN~-
とある日、出兵をさぼった。逆に良かったのかもしれない。その日、敵は体力の遠隔武器を所持していたらしく、囮役でもあり接近戦主体の私としては部がかなり悪かったのだ。むしろそれが高じて敵の策略にはまらずすんだともいえよう。
そんな私はといえば、とある書籍の館へと来ていた。武具書籍、食べ物の書籍と沢山あった。特にここにきたのには調べ物がしたいわけではなく、出兵をサボるにはうってつけのさぼり場だったからにすぎない。
「あら。ここに人がいるなんて珍しいですわ」
すると、女性の声がきこえた。振り替えるとシルバー色の髪がなびく女性の姿が見えた。
「貴方は。軍の兵士様では?」
私の身分は既にばれていたのだ。
「どうしてわかった」
「ふふ。こう見えて、私物覚えはいいですのよ?」
記憶力が高いのだ。とこの女性はいうのだ。果たして何処で会ったのか私にはけんとがつかない。村の市場だろうか。まさか戦場で会ったにしては落ちつきすぎているであろう彼女。
「私は記憶が乏しいのかそなたの顔を覚えてはいないのだ。よければ何処であったか教えてはくれぬか?」
私は彼女に訪ねる。しかし、彼女は笑ってただこういうのだ。
「特に気にしないでいいですわ。私のような貧民の情報など。無駄な記憶はさらに戦士様を惑わしますわよ?」
彼女のいう通りかもしれない。だからこそ私は彼女を覚えていないのだ。なら、その助言を素直に受け止めるべきだ。
だが、彼女はなにゆえここへ。彼女がてにもっているものをみると。忍具入門書をもっていた。村娘が何故忍者についての本を持っているのかと気になりもしたが、大方親戚に忍者専門の見習いでもいるのだろう。
「どうかなさいました」
「いや、そなたが何故そのような書物を読んでいるのか気になってな」
そう言うと彼女は少し困った顔をする。言いにくいことだったのだろうか。どちらにせよ私は彼女には何の関わりもないただのしたっぱ兵士。
「忘れてくれ。邪魔をした」
私は館を後にしようとする。
「・・・。またお会いしましょう」
最後彼女がなにをいいかけたか。私にはわからなかった。
「おい! 何処をほっつき歩いていやがった日和」
上官の兵士に怒られた。
「いやまあいい。今日来ていたら命を落としていただろうからな」
予想は的中。少し頭の切れる猛将なら今日の戦で囮がいてもただ戦力を失うだけだと判断できるはず。私は別に頭がいいわけでもなく、どちらかといえば戦力外でありだからこそ囮役をしているのだ。だが、私は直感がよく当たり不吉を予知すると何となく。何となくだが、動かない方がよいと判断ができる。それは私にもわからないが、天性の才能とでもいうのか今までもその直感に頼り生きてきた。
「そうだ。お前に紹介したい傭兵がいるのだが、よいか?」
「? どういうことでしょうか」
「俺はこう見えてお前を気に入っているのだ。だからこそ、お前に戦場で死んでほしくはない」
「・・・勿体無きお言葉。しかしそれとこれとどんな関係が?」
「お前に護衛をつけようと思うのだ。参れ」
すると、後ろから謎のくのいちが現れた。
「今日から、彼女がお前を護衛することになる【くが】だ」
女性?
「お聞き苦しいのですが、青年兵士様。女性を戦場に送るなどそなたらしくないではないか? 私は女性を守るほどの実力はありません」
「守るための護衛ではない。自分の盾となってもらうのだ」
そうは言うが、身体的にも華奢な彼女に守られるなど私には無い。彼女は見習いではないのか? それに、強いのか弱いのかで言われれば判断出来ぬが。見た目はかなり軽装で武具も忍刀ひとつと本の少しの手裏剣を持っているだけ。初対面の彼女の実力を信用できないというわけではないがそれでも不安が残る。
私の武具も似たような物だがそもそも対人するために組織された身分ではない。ただ敵の動向を錯乱させるためだけに組みこまれた兵士だ。その為軽装なのも当たり前だ。しかし、彼女は護衛として呼ばれたはずである。私を護衛するにしても軽装過ぎやしないか?
「・・・安心下さい」
「え?」
「ウチにもしものことがあっても。使い捨てにしてくださってかまいませんから」
「そういうことだ。日和も彼女の肝がすわっている姿を見習ったほうがいい。お前は勘が鋭いのが武器だけどな」
見張られていたら、直感頼りに動くのも戦略外になってしまうではないか。むしろ動きにくくなってしまうではないか。と私は抗議しようとする。
しかし、彼女に私の口を手で抑えられてしまい発言を妨害された。
(大丈夫です。貴方の行動に沿って私も動きますから、今は彼の意見に従って下さい日和様)
「・・・!」
彼女の囁き声がきこえ、背筋が冷たくなる。今何処から声をかけた?
「? なにかいいかけたか日和」
青年兵士には通じていないのか?
「青年兵士様。日和様の口から咳嗽が起きそうな予感がしたので私が応急処置を行いました。彼と同じく私も勘が鋭いのです」
「そうか。とにかく日和。戦で死ぬでないぞ? せめて俺が死ぬまでは生き延びてくれ」
そういうと青年兵士は去っていく。
私と玖香という名乗る忍者二人っきりになった。
「・・・」
「・・・」
気まずい沈黙がしばらく続く。そもそも私は一人でいるのが常で特に誰かとつるむことなどいままでずっとしてこなかったから、尚更余計に。コミュニケーション、言葉のキャッチボールといえばよいか私はそういうものがゼロに等しい。
そんな状況を察してか、彼女から声をかけてくれた。
「日和様は戦場は慣れて?」
戦場の話でいかにも緊迫した空気のままだったが、ずっと沈黙が続くよりかは助かる。
「いや。慣れることはないんだ。私はずっと逃げ役だからな。死をいつも覚悟しているよ。敵の火計に飲み込まれそうになったり。敵の水陣のテリトリー内の罠に入ってしまいすんでのところで青年兵士に助けてもらったり」
いつ天国か地獄か死の世界へいってもおかしくない。そんな事に恐怖を持つ暇すらないからこそ、私は今平然としていられると言ってもよい。
「悪いのだが、そなたを守る技量は私には無い。駄目だと思ったらそなたは逃げてほしい」
彼女に伝えた。初の戦で私のために命を落とすなどしてほしくない。まだ若々しく美しい女性である彼女なら今後も良い身分の猛将からもお声がかかることだろう。そんな者が私の為に死ぬなど可哀想だ。
「・・・」
彼女は私の方を向き見つめてくる。
「? どうかしましたか」
「いえ。謙虚ですね。貴方は」
口が隠れていて表情はわからないが、きっと彼女は笑ってくれているのだろう。
「貴方みたいな人、初めてみました」
そう言って、彼女は私の手を持ち自身の胸に添える。
「大丈夫です。私の身は自分で守ります」
「そうか。良かった」
そう言って私と彼女は別れる。
夜が明け。翌日。敵軍が総力をあげて自軍へ攻めてきた。
「お前ら! 攻めくる敵から我らが村を守るのだ!」
今日は攻防戦。昨日攻めた軍の兵士達の逆鱗に触れたのか、制圧したと見える敵軍の基地の親が総力で攻めてきたのだろう。
「日和」
青年兵士に声をかけられた。
「今日のために持ってきた護衛兵士だ。辛い役目だろうがお前を守るために用意した兵士だ。無理だと思ったらすぐに彼女を囮に退け」
そう言うと青年兵士は前線へかけていった。もう一度言おう。耳にタコができるくらい、何度も復唱していることだが、私の仕事はわざと敵に見つかり敵の兵力を分散させること。つまりは囮役だ。戦術の浅い兵士に任せられる最底辺の戦略である。私は兵士としての実力も浅く、とにかく逃げきるしかない。逃げて。逃げて・・・逃げきれなければ、簡単に命を落としてしまうだろう。それは私自身が深く理解している。それでも生きるため。国のために。任務を行うのだ。まあ、私は自分の命などどうでもいいと言ってはなんだが。生きていれば明日があるくらいにしか思ってなかったりはするのだが。
「日和様」
後ろから玖香が声をかけてきた・
「どうしたのだ? 玖香さん」
「さん付けなんて他人行儀ですね。それに、一語一句の報告が仲間の行動を助けます。私の事は呼び捨てで玖香と呼んでくださいな」
今日から私には護衛がついたのだ。正直、いてほしくないのだが青年兵士は私の戦闘力をよく思ってないらしく死なないための盾として無理やり護衛を雇ってしまい、もう私にはどうすることもできなかった。
「日和様。今日の戦闘は必ず貴方を守りますから。安心して動いてください」
そういうと、彼女は姿を消した。どうやら隠れながらついてきてくれることらしい。
私は戦場を歩き出し、何人かの敵を引き付け戦力の分散を図った。屋敷の地図は熟知していて、敵が迷いそうな場所や味方兵士が計略で敵を葬ってくれるpointへ誘導し敵を巻いて巻きまくった。
「(玖香に行動させずにすみそうだな)」
私は彼女を囮に使わぬ安心感にほっとしていた。
しかし、そんな安堵もつかぬ間。
「お頭、敵がやってきましたぜ」
「沢山来たな」
敵が話してる声がきこえた耳をすまし様子をうかがう。敵に見えないよう死角に隠れる私。
「こちらに気づいてないみたいですぜ」
「砲弾をぶち込めば血の雨だな」
敵の視線の矛先を見ると、仲間兵士達が敵に気づかれないよう慎重に移動する姿が見える。
「(・・・。)」
私は別に兵力を分散させるのが役目であり守るのが役目ではない。この場は敵の注意を少しでも誘いこちらの存在にも気づいてもらい逃げるのがセオリー。だったのだが・・・
「君はこちらにきてくれ」
中には青年兵士もいたのだ。彼が死んではわが軍は終わりだろう。無論、私を庇ってくれる上位兵士などもういない。
もはや僕に考えている余地などなかった。
ガガガガンッ!!っと足音をたてて、私は敵を引き付ける。
「おにいさん。借りはでかいよ。逃げてください」
とアイコンタクトを奥にいる青年兵士に送り、青年兵士は仲間の士気を分散させた。何人かは敵の策略の餌食になってしまうことだろうが、全滅はこれで防げるであろう。しかしながら、敵の新兵器の砲弾といえばいいのだろうか。あんな兵器を他の敵軍は開発しているのか。
とか考えながら、急ぎ足で来た道をかけていくと。
「敵か」
「?!」
私は周囲を大群に囲まれていた。視界は敵だらけで仲間の姿は見えないが、味方部隊は分散できたであろう。
「・・・」
私の最後の仕事が敵の兵力分散ではなく、味方の兵力分散になるとは。敵の策略に溺れたとでもいおうか。いやそれだと意味が違う。私の行動は仲間の作戦に報えたであろう。
「これまでだな」
私は死を悟った。自分の味方の役に立つことが出来るという使命を果たしたなら、素晴らしい死に方だろう。これ以上にかっこいい生き方はない
「みんな生きてくれ」
私は目を閉じた・・・しかしながら。次の瞬間。
爆発音。
「日和様っ」
「え・・・」
護衛兵士の声が聞こえた。
「目を開けてください! 反撃しますよ!」
何が起きたというのだ。目を開けると・
「え」
パパパパパパパパパパパパパ
カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ
無数の手裏剣を投げ敵の動きを止めてる忍者娘の姿があった。
「日和様! 砲弾を構えてください」
玖香の指示した方角を見ると。敵が持っていたはずの砲弾が私たちの使えるポジションに来ていた。
なぜこれがここに。
「私が細工をしておいたんです。だから日和様」
ぎゅっと私の手を握る彼女。
「初めての殺生は怖いでしょうが。私が見ていますから」
これを私に引けというのか?
「引かなければ私たちは死にます。それでもいいならば私は止めませんよ」
死ぬか生きるかこの砲弾を打つか打たないかで決まると彼女は言うのだ。
「とめろ! あの女を先にやれ!」
一斉に矢が彼女を襲う。しかし飛んで来た矢は私に当たることなく地面へ落ちていた。彼女は道具を取り出しさらに物を敵に投げる。
シュシュシュシュシュシュシュシュ
無数の手裏剣が敵を襲う。
「なっ」「ぶふ」「な…」「ごほ」「がっ」「ひっ」「げふ」「うっ」
「日和様、手裏剣ももう底をつきます。決断を」
1人の女性はそう言って日和へ振り返りいう。
「打て!!」
私は砲弾を撃ち込んだ。
ドカーーーーーーーーーーーーーン
爆発音が響き渡り、大群率いた敵を倒す。
「・・・」
私は震えが止まらなかった。人を殺すというのはここまで簡単なことなのか。いや、違う。自分たちのいる世界はこんなにも無慈悲なのかと。私は別に好きで線上にいるわけではない。わかちあえるならこの死にゆく私が殺した兵士とも仲良くできたらどんなに良いことか。
「日和様」
すると彼女がぎゅっと抱きしめてくる。
「初めての殺しにしては上出来ですわ」
「・・・すまない。初めての殺生で気が動転していた。判断が遅れた」
「いいえ。あなたの決断は決してこれからの戦場に届くはず。きっとこの経験がたすけとなってくれるはず」
そう言って彼女は僕の頭をなでてくれた。
「・・・」
初めてあった相手に気を許す性格出ない私だが。彼女のぬくもりに心地よさを感じてしまう。
「逃げましょう」
「え」
「日和様はもう十分頑張りましたわ。精神的にもこのまま戦へ出向くのは無理です。今日の戦がもし私たちの敗北で終わっても運が悪かっただけです。ですが」
あたり一面を見渡す。そこには玖香が、私が倒した敵が地面に転がっていて、息絶えた敵兵士たちがぞろぞろと。
「これだけ暴れておけば、私たちが負けることはないはず」
「・・・ほぼ君がやったことではないか」
「いえ。日和様の寛大な行動あってことですわよ
彼女に手を握られて戦場を後にする。
「わが軍の勝利を称え! 乾杯!」
祝杯が行われた。
「おい少年んん」
「わ、私か?」
「そーだともそーだとも! いやあ、よくやってくれたよ。君がいなきゃあ家内に会うことはもう叶わなあっただろうさ」
「い、いえ。私はなにも」
前線部隊にいる兵隊たちが次々に私に声をかけてきた。
「お前がいなきゃアタイはここにはいない」
「・・・恐縮ですが。貴女の水計がなければ私も作戦を遂行できなかったから」
「何。謙遜することはない。貴様のようない囮兵士がいなければアタイらは活躍できないんだよ。自分のやったことに誇りを持ちな」
そう言って杯を僕に交わすよう強要してくる。
「あの、私まだお酒飲める年では」
「こんな時くらい交わすのだ!!
水神を使う姉さんは怒り出した。かなり酔っているようである。仕方なく少量のお酒で乾杯をする私。すると水使いはキゲンがよくなったように私にすり寄ってくる。
「兄さん、想い人とかいるの?」
「私には戦しかないからな」
「へええ・・・」
ペロリと舌を出しながら抱き着いてくる水使い。酔いすぎではないか?
そのあと、話をしたのだがこの水使い私より年下の兵士らしい。お酒飲んじゃダメでしょうが。
「日和。よくやったな」
青年兵士がやってきた。
「日和。ここまで上手く敵を巻いてくれるとはな」
「いえ。私は特になにも」
「勇敢なお前の判断あっての勝利だ。誇れ」
「・・・」
「あの少女か?」
「・・・今日、まだ一度もあってなくて。この会場には参加してないのですか?」
「・・・彼女の希望でな」
【過ぎた情がうむは悲劇。私は万が一のために警備をしていますから】
彼女のおかげで勝利したといっても過言でないのに。この瞬間も彼女は国のために護衛をしているというのか。
「あの」
「わかっておる。彼女なら庭にいるはずだ」
会場を後にし、彼女を。玖香を探しに行く。
庭を歩いてみるが、玖香の姿はない。
「・・・どこにいるんだ」
庭から屋敷と一周したのだが、彼女の姿はどこにもなかったのだ。昨日のお礼がしたい、というだけではなく私は彼女に興味を抱いていた。惹かれていたといってもいいかもしれない。
「ねえ、あんな子いたっけ」
「綺麗な髪・・・」
うわさをしている集団を見かけた。
その方角を振り返る。すると。
そこに立っていたのはシルバー髪の女の子。
「るんるん」
屋敷の中庭の花園に書物の館で会った女性がいた。シルバー髪が白のアサガオの花と同化し、花の一部となっている。その姿は無邪気の女の子で、それこそ戦場なんて経験したことが無いような満面の笑顔の少女だった。
「お! ・・・三つ葉だった」
「なにを探しているの?」
声をかけた。
「え」
こちらに気づく女性。すると満面な笑顔で
「あら。おはようございます」
優しい笑顔で挨拶をしてくれた。
「おはよう」
「私のこと覚えててくれたんですね。嬉しいです」
恰好こそ違うが、そなたのような容姿の女性はめったにいない。むしろ、何故王宮におらずにここにいるのだろうか。豪族に声かけられてもおかしくないくらいに高貴な雰囲気を漂わせている。
「そなたのような者は珍しい。忘れる方が難しいと思う」
「そうですか?」
きょとんとした素振りを見せる女性。
「名前・・・そなたの名前を教えてくれないか?」
「名前ですか?」
数秒考える女性であった。
「そうですわね。せっかくまたこうして会えたのですから。でも、私にもあなたの名前を教えてくださいね? 等価交換です」
「約束しよう」
すると、紙に羽ペンで【玖香】という文字を書く女性。
「きれいな名前だね」
「まだ私名乗ってないのですが。ありがとうございます」
「読みはなんていうのだ?」
「私の名前は【くが】です」
一瞬、固まってしまった。くがという名前は、昨日私を護衛してくれた女性忍者と同じ名前である。まさか、この女性が昨日の忍者だとでもいうのか?
「あの。名前を教えていただけませんか? まさか私の名前だけを聞いて自分は答えないとでも」
「す、すまない。友人の名前と同じだったものでな」
拗ねる女性に慌てて私は答える。
「私はお日様の【日】に、平和の【和】を合わせて【ひよわ】」
「ひよわ様」
「あはは。日和様か。様なんて言われなれてないからなんかくすぐったいな」
ただ一人、護衛忍者から呼ばれたことはあるけども。
「玖香さんでいいんだね
「日和様。一語の省略が行動を早くするんです。戦では0.1秒が生死にかかわると思いますから。私のような者が言うのもなんですが。兵士様なら、私の事は呼び捨てで呼んでください」
指摘されてしまった。過去に似たような指摘をされたことがある気がするが、そういうことなのだろう。
また教えられてしまった。
「分かったよ。くが」
「宜しい」
「何をしてるの?」
「はい。忍術のタネの材料を探してて。100枚四つ葉のクローバーが必要なんです。あ、中庭のクローバーを取ることは許可をいただいていますので大丈夫ですからね?」
道具を作っているらしい。この国に忍者はいないためか、忍具は売る市場はない。自給自足するために入門書を読んでいたのだろう。
「探すの手伝うよ」
「いいんですか? ありがとうございます」
一緒に手伝う僕。太園であり雑草もかなりの量生えているからこの庭だけでも探すポイントは沢山あるが、四葉というものはこんなにも探すのに手間なのだと私は思い知った。
これで100枚ってところで。私は彼女に四つ葉を渡した。
「玖香。100枚だ」
「え」
「100枚と言っていたであろう?」
「はい。ですが。合わせて100枚のつもりだったんですけど。まさか日和様がこんなに探すのが得意だなんて知らなくて」
彼女も100枚の四つ葉を集めていた。
「お揃いですね」
「はは。この庭のことは熟知しているんだこう見えて。探しやすそうな場所場所を知っていれば四つ葉が生える場所などわかりやすいものさ」
「おっしゃる通りで」
たわいない会話で笑いあう私たち。こんな風に気楽に会話をしたのはいつぶりだろうか。
彼女はこの庭のことを私よりとは言わないが熟知している。クローバーの生えるpointをすべて熟知しているものは屋敷の人間でもそこまでいない。彼女はそんな中で私に劣らず100枚集めて見せた。私には劣るものの探す時間は私とそこまで変わらない。
「日和様に協力して頂けたので今日中作ることができますね」
「僕はただ。暇だったから手伝っただけだよ」
「そうでしたか」
僕の一日と言えば剣技の練習だ。戦・練習・休息が兵士達の毎日のサイクルだった。そんな私だからな。最も、剣を使う機会など私には無いのだが。私が修行した所で上達しない、戦では使わないのだからな。
「日和様は剣術を使われるのですか?」
「一応な」
「是非今度拝見したいです」
「君に戦場に来てもらうことになる。そうするわけにはいかないだろう?」
「ついていっちゃおうかな」
冗談まじりに彼女は言う。
「日和様、剣なんて実戦で使ったことないでしょうから。今度私でよければ稽古をつけてさしあげましょう」
「女性にも私は劣るのか。なにゆえそなたは私が戦闘下手なことを知っているんだ?」
「だって、日和様すっごい腰が引けてるというか。そもそも兵士向きのスタイルではないのです」
「・・・君は相手を傷つけない言い回しとかはないのかい?」
「ごめんなさい、口下手で」
元軍事に関っていたのだそうだ。だから剣術の心得は私にもあるのだと後押しする彼女。
また戦場を生き抜くことができたらここで会おうと彼女と約束をし、私は宴に戻った。
翌日。
「日和。お前は今日から前線部隊だ」
「え・・・」
「仲間からの強い要望でな。お前がいるなら戦場に行くというものまで現れた。どちらにしてもお前は毎回戦場には参加しているのだ。囮役よりはましではないか?」
「・・・しかし、私は剣術が」
「なに。その時は全力でサポートするさ」
「おっちゃんだけじゃなくアタイも守るわよ」
隣を見ると。昨日、宴で話した水使いの兵士がいた。
「やられそうなときはアタイの水爆投げ込むから逃げなさいな」
「援護してくれるのは助かるがな、きよみ。お前はもう少し範囲を考えろ」
「あら、アタイ今日は日和だけのための兵士よ?」
「・・・軍の皆を守ってくださいね、きよみさん」
「きゃ、名前呼ばれちゃった妊娠しちゃう」
「まあ、こんな女だがこの水切り娘も中々の技を持っているから安心してくれ、日和」
「水を切るじゃないわ! 私は水を愛しているの」
きよみという女性は青年兵士に文句を言い始めた。苦笑する私だが、そんな雰囲気に心が落ち着く自分もいた。初めての前線だが歩兵として動くよりも安心している。こんな落ち着きながらの出兵は初めてかもしれない。
それもこれもすべてはあの護衛忍者のおかげだ。前の戦が終わってから彼女には会えていないが。この戦が無事に終わったら。私は彼女へ会いに行こうと思っている。
「きー! 水爆だってただじゃないのよ? 合成する化学物質の調達も大変なんだからね?!」
「ほれ、これだけの報酬ならどうだ」
「む。むむむむ?! あんた馬鹿じゃないの!? これなら私以上の傭兵も雇えるわよ」
「それだけの報酬を支払う価値があるのだ。それに」
後ろを振り返る青年兵士。
「前回の戦で士気の上がった兵士たちは皆、噂をたがわない強者へと成長してくれることだろう。彼の存在によってな」
私も後ろを振り返ると。「少年!頼りにしているぞ!」「日和!」「日和!」と沢山の歓声が私を励ましてくれる。
「そうね。私も彼のためなら頑張れると思うわ」
「あの。さっきから聞こえてるんですけど。恥ずかしいからいないところでやってもらえませんか・・・」
そんな感じで今日も私は戦を走る。
【日和様】
【ん?】
【二つ忍術の種をつくっていおきました。これを投げれば少しの間だけ敵に致命傷を与えることが出来るでしょう】
【どんな忍術なんだ?】
【・・・つかってからのお楽しみです】
いじわるっぽく人差し指を唇の前にたてながらそう言って私のポケットには忍術の種が2つある。彼女が作ってくれた人具だから、大切に使いたい。できれば、ずっと持っておきたいものだが、【ピンチになったら必ず使うこと】とくぎを刺されているから、もしものときはちゃんと使おう。
なあ、今もこの近くにいてくれるんだろ? 玖香。
(もちろんですよ。日和様)
今日もまた戦が終わったら庭へ会いに行こう。それを楽しみに今日も私は戦場をかける。
今日は前線部隊のデビュー戦。
「皆の者! 絶対みんなで生きて帰ってくるのだぞ! 名声を皆で勝ち取ってくるんだ!」
「おおおおおおおおお!」
私も走る。彼女とともに
ー読み切り版 ひよわな ~FIN~-
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