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魔法学校編
荷馬車にて
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僕は荷馬車の前に立った。
もう歩き疲れて限界だったのだ。
「すいません……よかったらセントラルまで乗せて欲しいのですが……」
この世界はセントラル、中央都市を通らないと他の国へ行けない。
この面倒なルールのせいで移動距離が長くなる。
僕はさっさと国境の壁を破壊して欲しいとさえ思っていた。
「すまない、先客いるが大丈夫かい?」
御者は僕に尋ねた。
先客がどのような者かはわからいけど、一刻も早く座りたい。
「僕は構わないです。先客の方は大丈夫ですかね?」
そう言うと荷馬車の後ろに乗る小柄の男性がこちらを見た。
「別に俺は構わないぜ。旅は道連れって言うからな!」
「ありがとう」
僕は相乗りの承諾を得て荷馬車に乗せてもらった。
何時間も歩きっぱなしだったので、腰を下ろした瞬間、安堵感に包まれていた。
「あんた、魔法使いか?」
小柄な男性が訪ねてくる。
この国を旅していたが、他人との関わり合いを好まない国民性だなと感じていた僕は少し驚いた。
「ええ。わかります?」
「わかるもなにも、そのローブとでけぇ杖持ってたら誰だってそう思うだろ?」
「いかにも、僕は魔法使ですよ。もしかして君もかな?」
正直、半信半疑だった。
この世界で男性がなる職業は大体魔法使いだ。
しかし、目の前の小柄な男性はローブも着ていない、杖も持っていなかった。
短髪の黒髪、服はそれなりに上等な服装だったのですぐに貴族だとわかった。
しかし、僕は魔法具を持たない魔法使いなんて聞いたことがない。
これはある種、社交辞令に似た対応だった。
「魔法使いというか、それになるためにセントラルとかいうところの学校に入るんだよ」
さらに驚いた。
まさか本当に魔法使いなんて……
正しくは魔法使い見習いだが。
旅をしていると色々な経験をするが、この国での1番の出来事かもしれない。
「そうですか。僕はあそこには入っていないのでよくわからないですが……」
「え?そうなの?魔法使いってのはみんなそこに行くもんだと思ってたけど」
「僕は出来が悪いので入れなかったんですよ。あ、僕はロールと言います。あなたは?」
僕はそう言いながら握手を求めた。
「俺はアルフィス・ハートル。みんなはアルって呼ぶ」
そう言って彼は僕の手を握った。
……魔力を感じない。
いや微量にあるが、今まで出会った魔法使いの中で最も低いな……見当違いか。
「よろしくお願いします。と言ってもセントラルに着いたら、お別れですけどね」
「違いねぇ。魔法使いなら一回手合わせ願いたかったが、出会ったばっかじゃ無粋だな」
不思議な男だと思った。
この程度の魔力量でセントラルの魔法学校へ行くとは。
「いやいや、魔法学校へ行くレベルの方とはさすがに戦えませんよ。ところでアルさんは魔法使いになってどうするんですか?」
ふとした疑問だった。
恐らく学位だけ取って田舎に帰って領地を収めるのだろうと思ったが。
「火の王に挑むんだよ。それには学校行かなきゃならんらしいからさ。めんどくさ」
え?火の王に挑む?
僕は耳を疑った。
「王がどれだけ強いかは知ってますか?」
「まぁそれなりにな。セントラルの聖騎士だっけ?そいつら全員で戦っても勝てないってのは聞いた」
セントラルの聖騎士は2000人の大軍で精鋭揃い。
魔法使いは聖騎士には勝てないとされるが、その聖騎士が全員束になったとしても火の王という魔法使いには勝てないだろう。
「よくわからんけど、やってみりゃわかるだろ」
どこまで本気なのかわからないが、嘘は言っていないようだった。
そしてセントラルまで数キロというところまで来た時、荷馬車がいきなり止まった。
盗賊だった。
10人程度、荷馬車を囲むようにして茂みから出てきたのだ。
みながニタニタと不気味に笑みを浮かべていた。
今にも襲ってきそうな勢いだ。
「あ、あんたら魔法使いなんだろ?なんとかしてくれ!」
御者が声を荒げる。
するとアルと名乗った男が荷馬車から降りた。
「なにをするんです!」
目の前の男が弱いことはわかっていた。
それなのにこの人数を相手にするなんで自殺行為だ。
「なーに。何分かで終わるさ」
全く怯まない、アルという男。
だが何故かその言葉に僕は安心していた。
自信に満ち溢れた表情は、この状況を確実に打破できると確信していた。
「なにかできることはありますか?」
僕はそれでも彼をバックアップすることを決意した。
補助魔法なら見せられる。
「いや、いいよ、あんた弱そうだし」
僕が弱いとは、なかなか言ってくれる。
「ひっさしぶりの喧嘩だなぁ!生きて帰れると思うなよ」
アルは一瞬でその場から消えた。
ワープ系の魔法?いやワープ系は魔力を大量に消費する。
アルの魔力量だとそれは不可能。
一瞬だった。
真正面にいた盗賊のボスらしき男はアルの拳を顔面に受け、数十メートル転がっていく。
他の盗賊も何が起こったのか全くわからず、武器を構えるが、気づいた時にはやられていた。
「スピードが早すぎるのか……しかしこれは……」
盗賊達はアルの動きをとらえられず、混乱していた。
次は誰の目の前に現れて、薙ぎ倒されるか、もはや恐怖だったに違いない。
そんなことを考えているうちに最後の盗賊の胸ぐらを掴んだアル。
「なんでこんなに弱いんだ?」
「ゆ、許して……」
盗賊の懇願も虚しく、掴んでいた胸ぐらを離し、渾身のストレートを顔面に打ち込む。
盗賊はふっ飛ばされ転がり木にぶつかって気絶した。
僕は何が起こっていたのかさっぱりわからなかったが、この戦いはもはや魔法使いの戦い方ではなかった。
「す、すごいですね。どういう魔法なのでしょうか?」
「単に下級魔法と下級スキルの組み合わせさ、大したことはしてないぜ」
一体どんな魔法を使ったのすらわからなかった……
まだまだ僕にもわからないことがあるとは。
僕はこのアルとの出会いを嬉しく思った。
____________
中央都市セントラル南東門前
「今日はいいものを見せてもらいました。ありがとう」
僕は正直な思いをアルに伝えた。
「大したことじゃないさ。ロールさんも気をつけて旅をしてくれ。あんた弱そうだからさ」
「言ってくれますね。今度手合わせしましょう。あなたに興味が湧いた」
「いいぜ。売られた喧嘩は全て買う主義なんでね」
そして僕は彼ともう一度握手を交わした。
その魔力はやはり微量。
全く無いと言っていいほどだった。
ただ、僕の中にあった、"この世界は魔力こそ強さ"という定義は完全に崩れていた。
このアルならもしかしたら、本当に兄上を倒してしまうかもしれない……
そう思いつつ、僕は火の国から土の国へ向かった。
もう歩き疲れて限界だったのだ。
「すいません……よかったらセントラルまで乗せて欲しいのですが……」
この世界はセントラル、中央都市を通らないと他の国へ行けない。
この面倒なルールのせいで移動距離が長くなる。
僕はさっさと国境の壁を破壊して欲しいとさえ思っていた。
「すまない、先客いるが大丈夫かい?」
御者は僕に尋ねた。
先客がどのような者かはわからいけど、一刻も早く座りたい。
「僕は構わないです。先客の方は大丈夫ですかね?」
そう言うと荷馬車の後ろに乗る小柄の男性がこちらを見た。
「別に俺は構わないぜ。旅は道連れって言うからな!」
「ありがとう」
僕は相乗りの承諾を得て荷馬車に乗せてもらった。
何時間も歩きっぱなしだったので、腰を下ろした瞬間、安堵感に包まれていた。
「あんた、魔法使いか?」
小柄な男性が訪ねてくる。
この国を旅していたが、他人との関わり合いを好まない国民性だなと感じていた僕は少し驚いた。
「ええ。わかります?」
「わかるもなにも、そのローブとでけぇ杖持ってたら誰だってそう思うだろ?」
「いかにも、僕は魔法使ですよ。もしかして君もかな?」
正直、半信半疑だった。
この世界で男性がなる職業は大体魔法使いだ。
しかし、目の前の小柄な男性はローブも着ていない、杖も持っていなかった。
短髪の黒髪、服はそれなりに上等な服装だったのですぐに貴族だとわかった。
しかし、僕は魔法具を持たない魔法使いなんて聞いたことがない。
これはある種、社交辞令に似た対応だった。
「魔法使いというか、それになるためにセントラルとかいうところの学校に入るんだよ」
さらに驚いた。
まさか本当に魔法使いなんて……
正しくは魔法使い見習いだが。
旅をしていると色々な経験をするが、この国での1番の出来事かもしれない。
「そうですか。僕はあそこには入っていないのでよくわからないですが……」
「え?そうなの?魔法使いってのはみんなそこに行くもんだと思ってたけど」
「僕は出来が悪いので入れなかったんですよ。あ、僕はロールと言います。あなたは?」
僕はそう言いながら握手を求めた。
「俺はアルフィス・ハートル。みんなはアルって呼ぶ」
そう言って彼は僕の手を握った。
……魔力を感じない。
いや微量にあるが、今まで出会った魔法使いの中で最も低いな……見当違いか。
「よろしくお願いします。と言ってもセントラルに着いたら、お別れですけどね」
「違いねぇ。魔法使いなら一回手合わせ願いたかったが、出会ったばっかじゃ無粋だな」
不思議な男だと思った。
この程度の魔力量でセントラルの魔法学校へ行くとは。
「いやいや、魔法学校へ行くレベルの方とはさすがに戦えませんよ。ところでアルさんは魔法使いになってどうするんですか?」
ふとした疑問だった。
恐らく学位だけ取って田舎に帰って領地を収めるのだろうと思ったが。
「火の王に挑むんだよ。それには学校行かなきゃならんらしいからさ。めんどくさ」
え?火の王に挑む?
僕は耳を疑った。
「王がどれだけ強いかは知ってますか?」
「まぁそれなりにな。セントラルの聖騎士だっけ?そいつら全員で戦っても勝てないってのは聞いた」
セントラルの聖騎士は2000人の大軍で精鋭揃い。
魔法使いは聖騎士には勝てないとされるが、その聖騎士が全員束になったとしても火の王という魔法使いには勝てないだろう。
「よくわからんけど、やってみりゃわかるだろ」
どこまで本気なのかわからないが、嘘は言っていないようだった。
そしてセントラルまで数キロというところまで来た時、荷馬車がいきなり止まった。
盗賊だった。
10人程度、荷馬車を囲むようにして茂みから出てきたのだ。
みながニタニタと不気味に笑みを浮かべていた。
今にも襲ってきそうな勢いだ。
「あ、あんたら魔法使いなんだろ?なんとかしてくれ!」
御者が声を荒げる。
するとアルと名乗った男が荷馬車から降りた。
「なにをするんです!」
目の前の男が弱いことはわかっていた。
それなのにこの人数を相手にするなんで自殺行為だ。
「なーに。何分かで終わるさ」
全く怯まない、アルという男。
だが何故かその言葉に僕は安心していた。
自信に満ち溢れた表情は、この状況を確実に打破できると確信していた。
「なにかできることはありますか?」
僕はそれでも彼をバックアップすることを決意した。
補助魔法なら見せられる。
「いや、いいよ、あんた弱そうだし」
僕が弱いとは、なかなか言ってくれる。
「ひっさしぶりの喧嘩だなぁ!生きて帰れると思うなよ」
アルは一瞬でその場から消えた。
ワープ系の魔法?いやワープ系は魔力を大量に消費する。
アルの魔力量だとそれは不可能。
一瞬だった。
真正面にいた盗賊のボスらしき男はアルの拳を顔面に受け、数十メートル転がっていく。
他の盗賊も何が起こったのか全くわからず、武器を構えるが、気づいた時にはやられていた。
「スピードが早すぎるのか……しかしこれは……」
盗賊達はアルの動きをとらえられず、混乱していた。
次は誰の目の前に現れて、薙ぎ倒されるか、もはや恐怖だったに違いない。
そんなことを考えているうちに最後の盗賊の胸ぐらを掴んだアル。
「なんでこんなに弱いんだ?」
「ゆ、許して……」
盗賊の懇願も虚しく、掴んでいた胸ぐらを離し、渾身のストレートを顔面に打ち込む。
盗賊はふっ飛ばされ転がり木にぶつかって気絶した。
僕は何が起こっていたのかさっぱりわからなかったが、この戦いはもはや魔法使いの戦い方ではなかった。
「す、すごいですね。どういう魔法なのでしょうか?」
「単に下級魔法と下級スキルの組み合わせさ、大したことはしてないぜ」
一体どんな魔法を使ったのすらわからなかった……
まだまだ僕にもわからないことがあるとは。
僕はこのアルとの出会いを嬉しく思った。
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中央都市セントラル南東門前
「今日はいいものを見せてもらいました。ありがとう」
僕は正直な思いをアルに伝えた。
「大したことじゃないさ。ロールさんも気をつけて旅をしてくれ。あんた弱そうだからさ」
「言ってくれますね。今度手合わせしましょう。あなたに興味が湧いた」
「いいぜ。売られた喧嘩は全て買う主義なんでね」
そして僕は彼ともう一度握手を交わした。
その魔力はやはり微量。
全く無いと言っていいほどだった。
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