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魔法学校編
インパクト
しおりを挟むアルフィスが目覚めるとそこにはレイアがいた。
ベッドに寝るアルフィスの横で椅子に座って本を読んでいたが、相変わらず顔色が悪い。
「レイ……」
「あ!アル君。ようやく起きたね」
事態があまり飲み込めていないアルフィスは周りを見渡すと、そこは病院の病室のようだ。
部屋は個室のようで、アルフィスとレイアしかいなかった。
「学校から近くの病院さ、ザック君とライアン君は今さっき帰ったよ」
アルフィスは上体を起こそうと上半身に力を入れ、レイアがそれを手伝う。
「俺はどのくらい寝てた?」
「一週間半くらいかな。よりにもよってリナと戦うなんて」
そんなに寝てたのかとアルフィスは頭を押さえる。
まだ頭が働いていないようだ。
「リナは剣技はそこまでではないけど、口が上手いからね。上手く乗せてライバルを潰してるみたいだし」
「あいつのこと知ってるのか?」
「知ってるものなにも親戚だからね。姉様とよく喧嘩してたからなおさらさ」
確かにあそこまで口が悪いと誰とも喧嘩になりそうだ。
完全に同性からは好かれないタイプだなとアルフィスは思った。
「アゲハは無事だったか?」
「アゲハさんは大丈夫。むしろアゲハさんがいなかったらアル君は死んでたかもね。一緒に吹っ飛んだおかげロイの魔法がすぐ打ち消されたから」
確かに吹き飛ばされたアルフィスは後ろにいたアゲハに当たり、アゲハが発動していたエンブレムで風の刃が打ち消されていた。
後ろにアゲハがいなければ体が真っ二つになっていてもおかしくない。
「アル君が無事でなによりだよ」
アルフィスはレイアのその泣きそうな笑顔を見た時、初めて事の重大さを理解した。
同時に、暖かい優しさに包まれている安心感を得た。
前世にはこんなに心配してくる友人はいなかったからだ。
そんな時、部屋のドアが突然開いた。
入ってきたのはアゲハだった。
「アルフィス!」
一瞬、驚いた表情をしたアゲハは涙目でベッドに走り寄る。
「アゲハ……すまない、頭に血が昇っちまって前に出過ぎた……」
「いいんです。まだ連携も練習してなかったのですから。でも本当によかった」
アゲハは安堵していた。
もしこのままアルフィスが目覚めなかったらと思うと夜も眠れていなかった。
「僕はお邪魔なようだね。今日は帰るよ」
「レイ、すまないな」
「いえいえ、また学校で」
レイアは笑顔で退室する。
アゲハはレイアが座っていた席に着いた。
その表情は暗かった。
「やはり、聖騎士と魔法使いが二人とも前衛は無理があったのです……」
「……」
アルフィスは無言のままアゲハの話を聞いた。
俯きながらもアゲハは続けた。
「聖騎士は近接戦闘が得意の魔法使いとは相性が悪い……諦めるしかないです」
そもそも近接戦闘が得意な魔法使いなんて、アルフィスぐらいだろう。
アルフィスはアゲハが話終わったのを空気で感じると、目を閉じて、一呼吸置いてから口を開く。
「なんで魔法使いは聖騎士に勝てないと思う?」
アゲハはアルフィスの質問に眉を顰めた。
そんなわかりきったことをなぜ聞くのかと。
「なぜって、エンブレムがあるからでしょう」
「違う」
「どういうことですか?」
「"聖騎士にはエンブレムがあるから勝てない、それが常識"って言い訳して、みんな諦めちまったからだ」
確かに魔法使いはみな聖騎士には絶対勝てないと思っている。
それはこの世界の常識だ。
エンブレムは魔法を打ち消してしまうし、聖騎士は見習いであっても近接戦闘能力は高い。
間合いを詰められたら魔法使いでは勝てない。
「お前に話しておかなきゃいけないことがある。俺のバディなら知っといてもらわないとな」
「なんでしょう?」
アルフィスの神妙な面持ちにアゲハは息を呑んだ。
「俺の母親は聖騎士だった。今は病気だから田舎で療養中だ。これは知ってるな」
「ええ」
「母さんは、聖騎士だった時に、ある魔法使いと戦った話をしてくれた。魔石密輸の取り締まりのための任務で、その時、指名手配の魔法使いを追っていた」
「……」
「追い詰められた、その魔法使いは風の魔法で勢いよく岩を飛ばしてきた。母さんはその瞬間エンブレムを発動して、岩ごと魔法を切り捨てた。だがその時、母さんが持ってた剣にヒビが入った」
「……え?」
「母さんはこの時、エンブレムの弱点に気づいたんだ」
「エンブレムに弱点?なんですかそれは?」
「エンブレムが魔法を解除するまでに、わずかな時間差がある」
「時間差ですか?」
「そうだ。魔法効果の乗った物理攻撃を受けた場合、"魔法効果が付与された物理攻撃"の衝撃が入った後に、魔法効果が解除される。俺の補助魔法での攻撃もそれを利用してるんだ」
アゲハは思い出していた。
確かに最初にアルフィスと戦った時もエンブレムを発動させたはずなのに吹き飛ばされた。
リナ戦の時もそうだった。
リナのショートソードの一閃を弾いていたのも、吹き飛ばされたアルフィスを受け止めようとした時の衝撃もそのためかとアゲハ理解した。
「俺は"インパクト"と名付けた。補助魔法が消されても衝撃だけ与えるこの攻撃は、エンブレムの魔法解除効果を貫通する」
アゲハは驚く。
そんなことが本当にできたとするなら、魔法使いが聖騎士に勝てないという常識が覆る
エンブレムは発動者の周りに円形状のフィールドを張る。
発動した瞬間1メートルほどフィールドが展開するが、すぐに縮む。
常時発動している状態の範囲は使用者の生命力で決まるが、大体は30センチほどだ。
「そして母さんはもう一つ、エンブレムにも違った使い方があると言っていた」
「え?」
「なんだが、俺には関係がない話しだと思って聞かなかったんだ。それがわかればなにか突破口が見えるかもしれないが……」
アゲハは先日会った老人のことを思い出す。
老人の話を聞いて、もしかしたらエンブレムにはもっと別の使い方があるのではないか?
学校では基礎知識と応用を教えるが、エンブレムに関する学科はもう終わってしまった。
もしかしたら学校では教えていない何かがあるのではと考えていたのだ。
「アルフィス、私をあなたのお母様に会わせてもらえないでしょうか?」
「は?いや無理だろ?学位がまだないのに他の国には行けないだろ」
「制限はありますが、学生も国境を越えられるのです。あと二ヶ月で長期休みになります。期間が決まっているので長旅は無理ですが」
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「それはいいが、お前は実家に帰らなくていいのかよ」
「私のことはお構いなく。それよりも私はもっと強くなりたい」
明らかにアゲハはアルフィスの影響を受けていた。
この世界では一度負ければそれまで、みなそれが自分の限界だと諦める。
だがあそこまでボロ負けしても、まだ"バディ"と言ってくれるアルフィスとなら未来があるとアゲハは感じたのだ。
「そうか、なら決まりだな。べルートへ」
「ええ、火の国べルートへ」
こうして二人は強くなるための初旅へ出るのだった。
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