地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

文字の大きさ
33 / 200
魔法学校編

未知との遭遇

しおりを挟む

アルフィスが目覚めたのは次の日の昼頃だった。
簡易ベッドが四つ置いてある救護用のテントで
寝ないでノッポとデブが近くで看病してくれていたようだ。
セレンから殴られた顔面は骨が折れていたようだが、ここにいた魔法使いが治癒魔法で治してくれていた。

「……まさか、あんなに強いとは……」

ベッドで横になるアルフィスはまだ意識が朦朧もうろうとしている。
あれだけ強いパンチを食らったのは初めてだ。

「アニキ!目覚めてよかった!」

「死んだかと思いました……」

ノッポとデブが泣いていた。
アルフィスもさすがにここまで、この二人が情に厚いとは思ってなかったからか目頭が熱くなる。

「ダセェとこ見せちまったな……」

「そんなことないっす!」

「シックス・ホルダーと戦うなんて、普通の人間はしないっすよ!男見せてもらいました!」

そう言ってさらに泣き始めたノッポとデブだったが、そこにアゲハの姿が無かった。

「アゲハはどうした?」

「ああ、アネゴならセレン姉さんの任務の手伝いで国境壁まで行きましたよ」

「最近、壁を越えてくる魔獣や魔人が多くて、大変なんですよ!」

魔獣、魔人なんて聞きなれない言葉を聞いて少し考えていた。

「……そいつら強ぇのか?」

この後に及んでもなお強い者との戦闘を望むアルフィスに二人は顔を引き攣らせていた。

「魔獣は聖騎士と魔法使いが一組か二組いればなんとかなるかもしれないっすけど魔人は流石に……」

「魔人の強さは魔獣の数倍らしいです。でもセレン姉さんは拳一発で倒しちゃうみたいですよ」

「マジか……」

アルフィスはその魔人ってやつに勝てれば、セレンに少しでも近づけるのかと安易に考えていた。
これは強くなるいい機会だとベッドから起き上がりテントを出た。
そんなアルフィスを見て二人はすぐさま追いかけた。


______________________



国境壁


火の国の隣は土の国だった。
壁の高さは50メートルにも及ぶが、最近は魔獣や魔人が無理やりこの壁を登ってこちらの国に来ていた。

セレンとアゲハは国境壁付近にいた。
後ろには二人の魔法使いがいる。

「実地訓練は初めてか?」

「は、はい。私はまだ一年なので……」

「そうか、確か実地訓練は二年からだったか。まぁ何事も早いに越したことはないさ」

セレンは自分の背より少し長い槍を持っていた。
槍を使う聖騎士は少ないのでアゲハは珍しそうに見るが、その槍は銀色で異様に細く、槍先は竜の牙のように見えた。
そして何のためか持つ部分の所々が刃になっており、使い方を間違えると手を切りそうな形状だった。
アゲハはこれが宝具なのだと直感した。

「学科で習ったと思うが、魔獣と魔人は違う。魔獣はさほど強くはないが、魔人は私でも強いと感じるから相当だ」

「……」

アゲハは一気に緊張感を増し息を呑む。
アゲハ自身、どちらも一度も見たことが無かったからだ。

「これも習ったと思うが魔人には魔法が効かない。エンブレムと同じアンチマジックが常に掛かってる状態だ。だから私がここに配置されてる」

「ど、どういうことでしょうか?」

「あのガキにも言ったが、私の宝具は魔法使いには天敵でね。そして魔人にも。私の宝具、魔竜牙槍ペイル・ベインの能力はこの刃で切られた相手の魔法とスキル、エンブレムを少しの間だけ封印する」

「なるほど、魔人のアンチマジックもスキルなので、それを使えなくするんですね」

「そう。魔法が入るようになれば魔人とはいえども殲滅も容易い」

セレンはニヤリと笑う。
魔法使い二人も臨戦体制だ。
日はちょうど中央に位置し、最も厚い時間と言える。
その中で、壁から黒い何かが這い上がってきているのが見えた。

「魔獣が二匹か……今日は魔人はいないようだな。我々聖騎士二人で十分だ」

「魔獣……なんと禍々しい……」

「気を抜くなよ。魔人ほどでは無いが、魔獣が相手でも聖騎士や魔法使いの死人は出てる」

そう言うとセレンは魔獣に向かって歩き始めた。
アゲハも降りてきた魔獣二匹を見た瞬間、刀を構え臨戦体制に入る。

二匹の魔獣は犬の形をしていた。
普通の犬の数倍はあろうかという大きさで、その体は人間と大差がない。

一匹の魔獣がセレンめがけて走り出し、首へ噛みつこうとしていた。
それは凄まじいスピードだったが、セレンは至って冷静だった。

「ふん!!」 

セレンが思い切り槍を振り上げ、魔獣の顎に突き刺す、その勢いのまま槍は半円を描き、魔獣の頭を地面に叩きつけた。
ズドンという凄まじい音と共に地面四方に亀裂が入る。
魔獣はその一撃で戦闘不能になった。

すぐさまもう一匹がアゲハの首元を狙いに猛スピードで突進し大きく口を開けた。

「エンブレム!」

光を放った手の甲。
それと同時にアゲハの首元へ来た魔獣の顎に、抜刀し柄頭を勢いよく当て納刀する。

「天覇一刀流・雷打!」

顎が上がり宙を見る魔獣に対して抜刀の構えを取る。
そして一気にガラ空きの魔獣の首へ抜刀する。
魔獣の首は胴と離れ地面に転がった。

「ほう。最初にしては上出来だな」

「い、いえ、それほどでも……」

後ろに待機している魔法使い達も"おお!"と歓声を上げていた。
アゲハは褒められてまんざらでもない様子だ。

「カウンター系か。だが見たことがない剣と剣術だ。剣技からしても達人級の剣士から教わってるな。師匠は誰だ?」

「この剣は"カタナ"と言います。私の師はカゲヤマリュウイチ先生です。火の国の出身だと思っていましたが、ご存じないでしょうか?」

アゲハはもしここで手がかりを掴めればと思っていた。
アルフィスが言っていた、この"カタナ"がこの国の武器なのであれば先生もこの国の出身で間違いは無い。

「聞き慣れない名前だな。お前達わかるか?」

魔法使い二人は首を横に振る。
セレンは少し考え事をしていた。

「この"カタナ"という剣もアルフィスしか知らなかったんです。アルフィスが自分の故郷の武器だと」

「なるほど……まさかあのガキ……」

セレンがそう言いかけた時、遠くから聖騎士が慌てて駆けつけて来た。

「た、隊長!大変です!」

アゲハとセレンは聖騎士の方を見た。
その聖騎士は野営地の門番だった。
聖騎士の慌てぶりは常軌を逸していた。


______________________


セレン部隊の野営地


アルフィスは野営地から出ようとしていた。
ノッポとデブが後ろから追うが、まさか国境壁まで行くのかと冷や汗をかいていた。

「ア、アニキ、危険です!」

「もし魔獣とか魔人と出くわしたらどうなるか!」

その慌てぶりは相当なものだ。
なにせ二人は魔法はおろかカツアゲもろくにできない、ただの運送屋なのだから。

「それが目的で行くんだよ」

野営地はほとんど聖騎士も魔法使いも出払っているのは三人だけだ。
もし万が一にも、魔獣や魔人と遭遇しようものなら大変だ。

「アニキ!休んでましょうよ!」

「まだ傷が治りきってないっすよ!」

二人は早足でアルフィスを追う。
そして野営地の出入り口へ来た時だった。
全く止まる気配のなかったアルフィスが立ち止まり、出入り口から数メートル先を凝視していた。

「……」

「ア、アニキどうしたんすか?」

アルフィスの目の先には異様に空間が黒く歪んだ場所があった。
姿は人間のような形をしており、のそのそと近づいてきた。

「なんだ、あいつは」

アルフィスがガンを飛ばすが、黒い人型のなにかは動じずそのまま野営地の方へ向かってくる。
ノッポとデブが足を震わせ泣き出した。

「ま、魔人だ……」

「終わりだぁ……」

二人の悲痛な声を尻目にアルフィスの心は高鳴っていた。
こんなに早く腕試しができるとは。

「憂さ晴らしにはもってこいだな……生きて帰れると思うなよ」

歩み止まらぬ魔人に対して、アルフィスも魔人の方へゆっくり歩いて向かう。
しかし、その戦いはあまりにも無謀すぎる戦いだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...