地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

文字の大きさ
47 / 200
魔法学校編

リベンジマッチ(2)

しおりを挟む
砂嵐が吹き荒れる中、アルフィスとアゲハはまともに目を開けられず、息をするのもやっとだった。

一方、同じ砂嵐の中にいるリナは目にはゴーグル、口にはフェイスタオルを巻き完全防備。
最初からこの戦略のためのゴーグルだったのだ。
二本目のショートソードでアルフィスを切ろうとするが、アルフィスはなんとかそれをバックステップでかわす。

だがその位置目掛けて砂嵐を掻き分けて風の刃がアルフィスを襲った。
アルフィスは吹き飛ばされて地面に転がる。
ファイアマジックガード重ね掛けの複合魔法だったため、さほどダメージは無かった。

「アルフィス!なんと卑怯な……」

「卑怯?なにを言っているのかわからないわ。これは決闘なの。勝てばそれでいいのよ。勝ち方にこだわってるようだと、すぐ死ぬわよ」

リナの言い分は正々堂々の騎士道精神のアゲハは納得できなかった。
リナはゆっくりアゲハに近づき挑発する。

「弱い奴がいくら吠えたところで、実力がなければ死ぬだけよ。"正々堂々"ってのは強者だけが言える言葉。私たちには相応しくない」

リナがその言葉を言い終わった瞬間、また風の刃が砂嵐を掻き分けて今度はアゲハを襲う。
アゲハはギリギリのところで反応しエンブレムのマントで風の刃を消した。

このままこの状況が続くのは明らかに敗北を意味していた。

「確かにお前の言うことは正しいよ」

アルフィスは薄目を開け立ち上がった。

「アルフィス!」

「ほーら、相方だって言ってるじゃない。真面目すぎるのも良くないわ」

リナの表情はゴーグルとタオルで見えないが、明らかに笑みをこぼしている。
アゲハはそう感じた。

「だが正々堂々、真正面から打ち合った時、わかることもある」

アルフィスはセレンとの一件を思い出していた。
前世だと敵無しのアルフィスがこの世界に来て一対一で戦って唯一負けた相手。
たった一発の拳だったが、その一発でお互いがお互い分かり合えた気がした。

「気色悪いわ。私はあんたみたいなのが一番嫌いよ」

「気が合うな。俺もお前が大っ嫌いだ」

表情はわからぬリナだが明らかに苛立っているのがわかった。
リナはショートソードを構え、近くにいるアゲハを狙おうとしていた。

「もうお喋りはここまで、ロイはあなた達の場所を感知できる。私が何もしなくても魔法だけでなぶり殺しにされる」

ロイのスキルの"探知"は熱の動きを感知することで、的確にそこに魔法を叩き込めるものだ。
視界が悪い夜などに使用することで効果を発揮できる。

「そうか……だが実は俺もあの魔法使いの場所ならわかるんだぜ。複合魔法解除」

「は?」

「アルフィス……まさか……」

アルフィスは明日の決勝戦のことなんて考えてはいなかった。
迷いなんて微塵もない、ただ目の前にいる強者を全力で今持っている力で殴り倒すことしか頭にない。

「複合魔法・下級魔法強化」

アルフィスの足元に現れる魔法陣はいつもの倍はあった。
真っ黒な髪には少し赤みがかり、薄目の下に赤く発光する眼光がある。

テンペスト……」

その瞬間、アルフィスに再度、風の刃が砂嵐を掻き分けて迫る。
リナは思考を巡らし気づいてしまった。
だが気付くのが遅すぎた。
単純に風の刃が飛んでくる方向にロイがいる。

「ロイ!逃げて!」 

リナの声は砂嵐の音で掻き消され、その外には届いていない。
目の前の魔法使いはただの魔法使いではない。
ワープ魔法に匹敵するほどのスピードを持つ化け物だ。

アルフィスのその行動はもはや刹那だった。
アルフィスがその場から姿を消した瞬間に砂嵐が徐々に止み始め、アルフィスはまた元いた場所に立っている。
リナには赤い歪な線が少し行き来した程度にしか見えなかった。

風の刃が飛んできた方向を見るとロイは倒れ、持っていた杖が真っ二つに折られていた。
アルフィスはロイが倒れているのを確認しスキルを発動する。

「複合魔法を解除……ぐっ……!」

アルフィスは胸を抑えて膝をつく。
そのスピードは明らかに時が止まるほどの速さで確実にアルフィスの心臓に負担をかけていた。

この状況に茫然自失のリナ。
その隙を見逃さなかったアゲハはリナへダッシュで近寄り抜刀する。
ガードする気もないリナの首筋にアゲハは刃を寸止めしていた。

「そこまで!」

教官の合図で試合終了が言い渡された。
アゲハは刀を納刀し、すぐさまアルフィスのもとへ駆け寄り肩を貸した。
リナは両膝をつき放心状態だった。

「アルフィス……テンペストを使わなくても勝てたのに……どうして?」

「あっちも本気だったんだ。こっちも本気でやらなきゃ失礼だろ……それに通常の複合魔法だとお前を守り切れないと思ったのさ」

アゲハはその言葉は少し頬を赤らめた。
アルフィスはなんとか立っている状態だった。

そのやり取りの横で救護班がロイを担架に乗せ闘技場の医務室へ運んで行った。
それをアルフィスとアゲハは見つめていた。


闘技場内は騒然としていた。
一体何が起こったのか皆わからなかった。

その中に2人の青年魔法使いがいた。
2人は席には座らず、この試合をずっと後ろの方で立ち見していた。
1人は長髪の黒髪で少し銀色が混ざり後ろで束ねている、ローブ姿の魔法使い。
もう1人は短髪で髪が薄い緑色で少し銀色が混ざっている。
こちらもローブを着た魔法使いだった。

短髪の魔法使いが長髪の魔法使いに問いかける。

「エイベル、見えたか?」

「ああ一瞬だけ。風の魔法使いの方に赤い線が走ったと思ったら杖に何か当たった。その衝撃で、あの魔法使いが数メートル上空に吹き飛ばされたんだろう」

「あれは魔法じゃえねな。二つ名の通りなら"拳"か。しかし恐ろしいスピードだ。あのスピードどう対処するんだ?俺はあんなのとトーナメントで当たりたくねぇぞ」

「弱点はあるさ。弱点がない人間など存在しないよワイアット」

そう言って二人の魔法使い、エイベルとワイアットは闘技場を後にした。



______________________



闘技場 医務室


ベッドに横たわるロイの隣にリナは椅子に座わり、悲しそうな表情で意識がないロイを見ていた。

「あなたにだけ痛い思いさせたわね……こうならないための戦略だったのに……」

リナはロイの手を握る。

「あなたが技術も無い私をなぜ誘ったのかはわからない……その理由を知りたくても私には聞く勇気が無いわ。"正々堂々"聞ければいいんだけどね」

リナは本当は怖かった。
ロイはただ目に入った自分だから選んだのではないかと。
そこに何の意味も無いということを知るのにリナは恐怖を感じていた。
自分の性格の悪さは自分が一番よく知ってる。
家にいた時も"お前は誰からも選ばれない"と散々言われていた。

ロイは薄らをと目を開ける。

「ロイ!よかった!」

「ああリナ。僕は君を誘ったのは"一目惚れ"だったんだよ……」

リナは驚いた表情をして言葉を失う。
ロイは少し意識がありリナの話が聞こえていた。

「入学式で見た時から、君に声をかけようと決めていた。ロックハート家の令嬢の噂は聞いてたけどそんなのは関係ない」

「ロイ……」

リナは涙を流した。
こんな自分でも選んでくれる人がいたのだと。
意識が朦朧とするロイはさらに続ける。

「来年は勝とう」

「ええ!」

ロイは普段見せない笑顔になり、リナの頬をつたう涙を手でそっと拭った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...