地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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水の国編

グイン村にて(1)

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グイン村へ行く道中、アルフィスはメルティーナから大体の事情は聞いていた。

メルティーナはマルティーナの妹で同い年だった。
だがなぜか聖騎士学校には行かずに、そのまま水の国の軍へ入ったのだそうだ。
なぜ聖騎士学校へ入らなかったのかは教えてもらえかったが、なにか事情はあるのだろうとアルフィスは思った。

リヴォルグと一緒にいた聖騎士はセシリア・イキシアという名で、リヴォルグのお付きの聖騎士でバディに近い存在なのだという。

あの森に入ってからは魔法使い二人と聖騎士一人、メルティーナの四人メンバーで行動していたが、あまりの魔獣の多さに苦戦し逸れてしまったのだ。
メルティーナは皆の無事を祈っていた。


グイン村 診療所前


グイン村に到着するとアルフィス、メルティーナ、リヴォルグ、セシリアの四人は診療所の前に来た。

アルフィスとメルティーナが荷馬車を降りると診療所の入り口の横には両膝を抱えて座り俯いているロールがいた。

「お前!生きてたのか!?」

アルフィスが驚く。
あの状況であの森を生きて出られるとは、なんという幸運なのか。
だが、あの自慢の大きな杖は途中で落としたのか持っていなかった。

ロールは顔を上げアルフィスを見ると今にも泣き出しそうな顔をしていた。
そしてすぐさま立ち上がり、ぶるぶると震え出した。

「少年……すまない!わ、私が不甲斐ないばっかりに……どうか!私を殴ってく……ぐふ!」

アルフィスは猛ダッシュで渾身の右ストレートをロールの左頬に叩き込んだ。
ロールは吹き飛び地面に転がった。

「なにすんだよ!!」

「てめぇが、好きなだけ殴れって言ったんだろうが!」

アルフィスが手をポキポキと鳴らしながらロールに近づく。
ロールはアルフィスの表情に恐怖して左頬を押さえ地面に座り込んだまま後退りした。

「好きなだけなんて言ってないだろ!」

「それくらい殴らんと気がおさまらねぇだろ!敵を目の前にして逃げるわ、食料持っていくわ。大魔法使いなんて嘘言いやがって!」

アルフィスは頭に血がのぼっていた。
なにせ"男らしくない"という理由だけでアルフィスの嫌いな人間リストに入る。

「……お前に何がわかるってんだ」

ロールは俯くが、すぐに顔を上げてアルフィスを睨む。

「私は……いや、僕はこの国の北のド田舎出身の下級貴族なんだよ……魔力も低くて魔法学校にいた時はみんなから馬鹿にされて……」

「……」

「アルフィス・ハートルだっけか?魔法陣を見たが火の国出身なんだろ?魔獣をあんなに簡単に倒せるなら火の国じゃあさぞかし名だたる家柄なんだろうな!……僕だって……名家に生まれていたら……」

アルフィスはその言葉を聞き終わると、地面に座るロールに近づきしゃがみ胸ぐらを掴む。

「今のお前じゃ、どこに生まれても同じだ」

アルフィスは吐き捨てるように言うとロールから手を離し診療所へ入って行った。
ロールはゆっくり立ち上がり、とぼとぼと村の奥へ消えていった。

ロールが立ち去ってすぐに別働隊の一人が速馬を立てて、リヴォルグの元へ来た。
馬を降りたのは聖騎士の女性だった。

「到着したようだな。なにかあったか?」

「はい。これを本人に渡して欲しいと」

リヴォルグは聖騎士から一本の大きい杖を受け取った。
あらかたの事情を聖騎士から聞いたリヴォルグは笑みを浮かべ、ロールが向かった方へ歩き出す。
セシリアも後を追うがリヴォルグに止められた。

「これは私の役目だ」

「あんな軟弱な男のために直々に総帥が赴かれる必要はありません。それにあの男は……」

「ロール君だろ?声でわかった。セシリア、最初から強い人間はいないのだよ。それに今の彼の"心"には味方が必要だ。それがこの私であれば申し分ないだろ?」

リヴォルグはニヤリと笑いロールが歩いて行った方へ向かった。

残されたセシリアとメルティーナだったが、セシリアはメルティーナを睨むと、その場から立ち去った。

メルティーナはセシリアから耳打ちされた言葉を思い出していた。

"役立たずめ、いつまでローズガーデンの名を語るのか"

メルティーナは力無く診療所の入り口の横に両膝を抱えて座り俯いたまま動けなかった。
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