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水の国編
グイン村にて(2)
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診療所内、アルフィスはアゲハが眠るベッドの隣に座っていた。
ヘッケルもアゲハの状態を見るため向かい側に立つ。
この診療所に入ってすぐにヘッケルに薬草を渡し、調合してもらいアゲハに飲ませていた。
アゲハはだいぶ落ち着き、今は静かに寝ている。
「最近、無理しっぱなしだったからな」
火の国へ旅をして、対抗戦を戦い抜いたアゲハの疲労は限界だったのだろう。
そこにこの長旅となれば肉体的にも精神的にもダメージは大きいものだろうとアルフィスは思った。
「お前ら、どこまで行くつもりだったんだ?中央か?」
「いや、最北端の医療機関だ。母さんが病気でな」
「医療都市ダイナ・ロアに行くのか!?」
ヘッケルの驚きようは常軌を逸していた。
アルフィスはヘッケルの表情を見て首を傾げる。
猫アルの話しは"最北端にある医療機関へ行って薬を取ってくる"ということだけ。
アルフィスは行けばなんとかなるだろうと、それ以上は何も聞いていなかった。
「あそこに行く前に、この嬢ちゃんが倒れてよかったかもな」
「そりゃどういうことだよ?」
「あの辺は雪が深いし魔物も多いと聞く。この状態で行ってたら大変なことになってたな」
確かに、そんな雪の深い場所で倒れるよりも、旅の初めにこうなったのは幸運なのかもしれない。
「アゲハが回復するにはどれくらいかかるんだ?」
「昨日も言ったが女性は病気に弱い。おそらく一ヶ月は安静にしていたほうがいい」
アルフィスは困惑した。
アゲハと決闘した後、腕の骨が折れていた時は一週間で治っていたのに、こんな風邪のようなものが治るのに一ヶ月かかるとはどういうことなのか。
「ア、アルフィス……申し訳ない……」
アゲハが目を覚まし涙を流す。
一緒に行く約束をし、アルフィスの母親にも会っていたアゲハは今の状況に心を痛めていたのだ。
「無理すんな。一ヶ月ありゃ行って戻ってこれるさ。ここで待っててくれ」
「アルフィス……お母様のことで話さなければならないことが……」
アゲハは何かを言いかけて、また気を失ってしまった。
確かに免疫力的にこの世界の女性はかなり弱いのだろうとアルフィスは思った。
「じいさん、アゲハを一ヶ月頼めるか?」
「わしは構わん。金さえ貰えればな」
アゲハはヘッケルに頼み、アルフィスは一人で医療都市ダイナ・ロアへ行くことを決意した。
______________________
村はずれの丘の上、一本だけ生えている木の下にロールが両膝を抱えて座っていた。
涙目で遠くを眺めているが、春の生ぬるい風が吹くたびその香りでまた悲しくなった。
ロールの後ろから足音がしたが、ロールはそれが誰でもよかった。
「久しぶりだねロール君。一年前は助かったよ」
ロールは、その声にハッとする。
それは水の国の最高司令官であるリヴォルグ・ローズガーデンだった。
さっきは気が動転していて、リヴォルグがいたことにすら気づかなかった。
ロールはリヴォルグの方を振り向かず、広大な景色を見ながら対応する。
「僕なんかのことよく覚えてましたね……」
「忘れないさ。ロール・アベリア。君の声は特徴的だ。力強く、そして凛々しい。あの後、行方不明になったと聞いていたが、まさか戻っていたとは」
「最近戻ったんです。ジーナに効く薬があるって噂で聞いたので旅をしてました……」
「その一件は私のミスだ、君が気に病むことはない」
ロールはまた俯く。
涙を堪えるのがやっとだった。
「総帥のせいじゃないですよ、僕がジーナを置き去りにしたんですから……それでジーナはまだ意識が戻らないし……僕はまた怖くなって仲間を置き去りに……」
「失敗は誰にでもある。もちろんこの私にもね。無いに越したことははないが、大事なのは"失敗しない"ことではない。その後の"失敗の挽回"に意味があるのさ。私は君ならそれができると確信している。たった一人のバディのために旅をするくらいだからね」
ロールは俯きながら耐えられず泣いた。
風が強く吹いて鳴き声はかき消されたが、リヴォルグにはロールの悲しみが聞こえていた。
「僕も名家に生まれて魔力が強かったら、なにか違ったのかもしれない……」
「……」
その言葉を聞いてリヴォルグが少し考えて、間を置いて口を開く。
「君は火の国のベルートという港町を知ってるかい?」
「……知りません」
「火の国の最南端の町で、それこそ君の故郷よりも田舎だ。そこで育つフルーツが美味しくてね。私も好きで取り寄せてるんだ」
リヴォルグが笑みをこぼしながら話す。
ロールは困惑していた。
この話がどういう意味なのかさっぱりわからなかった。
「何をおっしゃりたいのかわからないです……」
「アルフィス・ハートルはそのド田舎出身の下級貴族だ」
ロールは驚いて顔を上げるが、あまりの衝撃に言葉を失っている。
「彼は底辺魔力で下級貴族でありながら魔人を一人で倒し二つ名を手に入れた。そしてさらに今年の一年生の対抗戦を優勝してここまできたから、まだ16歳だ」
「そんな……」
「ロール君、この世界は魔力や家柄で決まると思ってる人間は多いが、それは本質が見えていない。まぁかく言う私もこの"魔竜眼の杖クイーズ・クライ"のデメリットで盲目になって初めて見えたんだがね」
宝具のデメリットは様々あるがリヴォルグが持つ宝具は使い手の視力と引き換えに大きい力を得るというものだった。
リヴォルグは右手に持っていた異様に大きい杖をロールの座る木に立て掛けた。
「この杖を返しておくよ。それと私の部下からの伝言だ、"杖と食料助かった。落とした魔法使いにありがとうと伝えて欲しい"だそうだ」
「え……?」
「君のおかげで私の部下は全員無事だ。診療所の前で待っているよ。中央へ行くのだろう?送っていこう」
それだけ言ってリヴォルグはその場を後にする。
ロールはその後は時間を忘れて泣き続けた。
ヘッケルもアゲハの状態を見るため向かい側に立つ。
この診療所に入ってすぐにヘッケルに薬草を渡し、調合してもらいアゲハに飲ませていた。
アゲハはだいぶ落ち着き、今は静かに寝ている。
「最近、無理しっぱなしだったからな」
火の国へ旅をして、対抗戦を戦い抜いたアゲハの疲労は限界だったのだろう。
そこにこの長旅となれば肉体的にも精神的にもダメージは大きいものだろうとアルフィスは思った。
「お前ら、どこまで行くつもりだったんだ?中央か?」
「いや、最北端の医療機関だ。母さんが病気でな」
「医療都市ダイナ・ロアに行くのか!?」
ヘッケルの驚きようは常軌を逸していた。
アルフィスはヘッケルの表情を見て首を傾げる。
猫アルの話しは"最北端にある医療機関へ行って薬を取ってくる"ということだけ。
アルフィスは行けばなんとかなるだろうと、それ以上は何も聞いていなかった。
「あそこに行く前に、この嬢ちゃんが倒れてよかったかもな」
「そりゃどういうことだよ?」
「あの辺は雪が深いし魔物も多いと聞く。この状態で行ってたら大変なことになってたな」
確かに、そんな雪の深い場所で倒れるよりも、旅の初めにこうなったのは幸運なのかもしれない。
「アゲハが回復するにはどれくらいかかるんだ?」
「昨日も言ったが女性は病気に弱い。おそらく一ヶ月は安静にしていたほうがいい」
アルフィスは困惑した。
アゲハと決闘した後、腕の骨が折れていた時は一週間で治っていたのに、こんな風邪のようなものが治るのに一ヶ月かかるとはどういうことなのか。
「ア、アルフィス……申し訳ない……」
アゲハが目を覚まし涙を流す。
一緒に行く約束をし、アルフィスの母親にも会っていたアゲハは今の状況に心を痛めていたのだ。
「無理すんな。一ヶ月ありゃ行って戻ってこれるさ。ここで待っててくれ」
「アルフィス……お母様のことで話さなければならないことが……」
アゲハは何かを言いかけて、また気を失ってしまった。
確かに免疫力的にこの世界の女性はかなり弱いのだろうとアルフィスは思った。
「じいさん、アゲハを一ヶ月頼めるか?」
「わしは構わん。金さえ貰えればな」
アゲハはヘッケルに頼み、アルフィスは一人で医療都市ダイナ・ロアへ行くことを決意した。
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村はずれの丘の上、一本だけ生えている木の下にロールが両膝を抱えて座っていた。
涙目で遠くを眺めているが、春の生ぬるい風が吹くたびその香りでまた悲しくなった。
ロールの後ろから足音がしたが、ロールはそれが誰でもよかった。
「久しぶりだねロール君。一年前は助かったよ」
ロールは、その声にハッとする。
それは水の国の最高司令官であるリヴォルグ・ローズガーデンだった。
さっきは気が動転していて、リヴォルグがいたことにすら気づかなかった。
ロールはリヴォルグの方を振り向かず、広大な景色を見ながら対応する。
「僕なんかのことよく覚えてましたね……」
「忘れないさ。ロール・アベリア。君の声は特徴的だ。力強く、そして凛々しい。あの後、行方不明になったと聞いていたが、まさか戻っていたとは」
「最近戻ったんです。ジーナに効く薬があるって噂で聞いたので旅をしてました……」
「その一件は私のミスだ、君が気に病むことはない」
ロールはまた俯く。
涙を堪えるのがやっとだった。
「総帥のせいじゃないですよ、僕がジーナを置き去りにしたんですから……それでジーナはまだ意識が戻らないし……僕はまた怖くなって仲間を置き去りに……」
「失敗は誰にでもある。もちろんこの私にもね。無いに越したことははないが、大事なのは"失敗しない"ことではない。その後の"失敗の挽回"に意味があるのさ。私は君ならそれができると確信している。たった一人のバディのために旅をするくらいだからね」
ロールは俯きながら耐えられず泣いた。
風が強く吹いて鳴き声はかき消されたが、リヴォルグにはロールの悲しみが聞こえていた。
「僕も名家に生まれて魔力が強かったら、なにか違ったのかもしれない……」
「……」
その言葉を聞いてリヴォルグが少し考えて、間を置いて口を開く。
「君は火の国のベルートという港町を知ってるかい?」
「……知りません」
「火の国の最南端の町で、それこそ君の故郷よりも田舎だ。そこで育つフルーツが美味しくてね。私も好きで取り寄せてるんだ」
リヴォルグが笑みをこぼしながら話す。
ロールは困惑していた。
この話がどういう意味なのかさっぱりわからなかった。
「何をおっしゃりたいのかわからないです……」
「アルフィス・ハートルはそのド田舎出身の下級貴族だ」
ロールは驚いて顔を上げるが、あまりの衝撃に言葉を失っている。
「彼は底辺魔力で下級貴族でありながら魔人を一人で倒し二つ名を手に入れた。そしてさらに今年の一年生の対抗戦を優勝してここまできたから、まだ16歳だ」
「そんな……」
「ロール君、この世界は魔力や家柄で決まると思ってる人間は多いが、それは本質が見えていない。まぁかく言う私もこの"魔竜眼の杖クイーズ・クライ"のデメリットで盲目になって初めて見えたんだがね」
宝具のデメリットは様々あるがリヴォルグが持つ宝具は使い手の視力と引き換えに大きい力を得るというものだった。
リヴォルグは右手に持っていた異様に大きい杖をロールの座る木に立て掛けた。
「この杖を返しておくよ。それと私の部下からの伝言だ、"杖と食料助かった。落とした魔法使いにありがとうと伝えて欲しい"だそうだ」
「え……?」
「君のおかげで私の部下は全員無事だ。診療所の前で待っているよ。中央へ行くのだろう?送っていこう」
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