地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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水の国編

ジレンマ

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アルフィス達は荷馬車でミルア村まで移動し、昼頃には到着した。

この村も最初に訪れたグイン村くらいの規模の村だった。
村は真四角で家屋は二十軒ほど。
人もまばらにおり、怪しいところは特になかった。
そしてこの村の一番奥に診療所があり、ここが今回の目的地だった。

アルフィス達は荷馬車を村の前に置き、そのまま直線の道を歩いた。

「そういえば、お前よくこんなに医者の友達いるよな」

「僕は医者志望だったんだよ。だから、魔法学校に入る前はいろんな医者のところに弟子入りしてたんだ」

ロールは昔を懐かしむように語っていた。
アルフィスは男の憧れである魔法使いでなく、医者の道に進もうとしていたロールの気持ちがイマイチわからなかった。

「たまにいるわよね。医者になる男性。医者になるのは、あまり高い位の貴族じゃない場合か平民かのどちらか」

「ふーん」

アルフィスはこの世界の父親のことを思い出していた。
父親は自分を語らず、ただアルフィスを怒鳴ってばかりいて正直嫌いだった。
逆にアルフィスの妹のリンには優しかった。
なんであんなのが医者になったのかずっと不思議に思っていた。

そんな話をしているとアルフィス達は診療所に到着していた。

「ここが今回の目的地か。やっぱでけぇな」

診療所はやはり大きかった。
この村で一番大きい建物で、さらに奥の真ん中に立っているのでなおさら目立つ。

三人が診療所を見ていると、中から人が出て来た。

「ん?」

「ん?」

「え?」

「なんで、お前達がここにいるんだ?」

診療所から出て来たのはセシリアだった。
服装は私服で、上がワイシャツ、下がホットパンツでブーツを履き、肩にポーチバックを掛け、さらに腰には剣を差していた。

「お前こそ、なんでこんなところにいんだよ」

「なぜ、私がそんなことを答えねばならない。失礼する」

そう言って、ツンとした表情で三人の横を通り過ぎ、村の入り口へ向かわず路地にそれて行ってしまった。
三人は首を傾げていた。

「なんであいつがここにいるんだ?」

「まぁ、とりあえず、中で話を聞こうか。総隊長の件は後にしよう」

ロールの提案に三人は診療所内に入る。
さすがに今セシリアのことを勘繰かんぐっても仕方ない。
今回の目的は薬の件である。

「こんちわー」

中に入るとカウンターがあり、その前に二人の男がいた。
カウンターにいる医者と話をしているようだ。
二人はロールの声に振り向いた。

一人は小柄で黒いスーツ、黒いフェルトハットをかぶった黒髭の男。
その少し後ろに立つのは逆に2メートルはあろうかというほどの大男だ。
ボサボサした長髪で銀髪、薄いブラウンのロングコートと白ワイシャツ、黒いジーンズ姿。
顔は虎のように険しく、その目で睨まれただけで動けなくなりそうなほどの眼光だった。

「客か、クソ、また来るぞ」

「あ、ああ」

アルフィス達三人は横に避けて、二人を通した。
スーツの男が診療所を出る。
アルフィスはロングコートの男とすれ違いざまに目が合った。
そのままロングコートの男も出て行った。

「な、なんなのよ、あの大男……」

ロールとメルティーナは完全に固まっていた。
だが、珍しいことにアルフィスもそうだった。
目が合った瞬間、動けなくなっていた。

「お前、ロールか?」

その医者の一言で金縛りが解けたようだった。

「あ、ああ、久しぶり、マルス」

「何しに来たんだ?」

アルフィス達は医者のマルスがいるカウンターへ移動した。
マルスは初老で白衣を着た医者だった。

「前に僕に話してくれた薬の件で来たんだ」

「薬?ああ、あの薬か。うちじゃ取り扱えないって前も言ったよな」

ロールの後ろに立つアルフィスとメルティーナは顔を見合わせた。
やはりこの医者が情報を握っている。

「ああ、だから土の国まで行って買ってきたんだけど、あの薬はなんなんだ?」

「買って来たのか!?まぁジーナちゃんがあんな状態じゃあな……なんでもスペルシア家の令嬢に飲ませたらすぐに病が治ったっていう凄い薬だって聞いたが……」

「はぁ?いつ、誰からそんな話し聞いたのよ!」

メルティーナが声を上げた。
流石にロールは宥めるために間に入る。
……が、アルフィスもキレそうになっている顔を見てロールは青ざめた。

「え?いや、今帰った小柄の医者だよ。前にも来たんだが、水の国で承認されてない薬は置けないって断ったんだ。それにスペルシア家の令嬢はその後に亡くなってるしな……」

「なんだと!?」

「今の男が、スペルシア家に薬を売った医者ですって!?」

アルフィスとメルティーナはすぐに診療所を出た。
二人は走って、先ほどの小柄な男と大男を追った。
すると村の入り口付近あたりをゆっくり歩く二人がいた。
アルフィス達との距離は20メートルはある。

「おい!てめぇら!!」

凄まじい怒号で叫ぶアルフィスはもうキレかかっていた。
たった一度だけだが戦ったアインという友の妹を死に追いやった犯人が目の前にいるとなれば正気ではいられない。

ロールも走って来て二人に追いついたところで小柄な男と大男は振り向く。

「なんだ、あのガキどもは」

「……」

小柄な男が冷ややかな目で三人を見ている。
一方、大男の方の眼光はアルフィスを睨む。
だがアルフィスは引かなかった。

「複合魔法!!てぇめら生きて帰れると思うな!!」

そう言って飛びだそうとした瞬間、アルフィスは一歩目でつまずいて転んだ。

「あ、あんた、こんな大事な時になにやってんのよ!」

「わ、わからん……確かに強化魔法二つ入れたはずなのに……瞬間移動できねぇ」

立ち上がるアルフィスは手につけているグローブを見ると妙なオーラを放っているように見える。

小柄な男が鼻で笑い、大男と共に去ろうとしている。

「私がやる!エンブレム!」

メルティーナが背中の矢筒から矢を取り出し、弓を構えた。
そして渾身の力で矢を放った。
メルティーナは完全にキレていた。

放たれた矢が猛スピードで大男へ向かい、その矢は完全に背中を捉えていた。
……が、矢が当たる瞬間に大男が振り向き、片手で矢を掴んだ。

「な、なんですって……」

大男は矢を握力で折り、地面に投げた。
そしてロングコートの左ポケットに手を入れ、何かを取り出した。

それは"赤い石"だった。

「なんだありゃ?」

「火の魔石……ただの点火用だ……」

火の魔石は火の魔法が使えない人向けの家庭用道具だった。
台所や焚き火用に使うもので数も多くあり大した価値はない、どこでも買える石だ。

それを大男は左親指に乗せてコインを弾くように上へ飛ばす。
そして火の魔石を右ストレートでメルティーナの方へ飛ばした。
そのスピードは弾丸のように速かった。

「メル!」

アルフィスはメルティーナを突き飛ばし、火の魔石をクロスガードで受けるが、あまりの衝撃に腕の骨が砕けたのを悟った。
そのままアルフィスは吹き飛ばされ、勢いよく診療所の壁をぶち破った。
ズドン!という爆音と共に診療所は一瞬で炎に包まれた。

「なんなのよ……今のは……」

メルティーナは力無く座り込み、燃える診療所を見ながら放心状態だった。
ロールも言葉を失っている。

だがそんなのはお構い無しに大男はまたロングコートのポケットに手を入れて火の魔石を取り出した。
そして再び左指で弾き宙に浮かすと右ストレートでメルティーナ目掛けて火の魔石を撃つ。

その瞬間、メルティーナの目の前に一人の剣士が現れ、弾丸のようなスピードの魔石を一刀両断する。
斬られた魔石が別れ、両側の民家へ直撃すると爆音と共に炎が巻き上がった。

「なにをしている!メルティーナ!立つんだ!」

その声の主はセシリアだった。

「貴様ら、さっき診療所にいた奴らか……お前達は何者だ!」

「おっと聖騎士が来てしまったか……クソ、今日はついてねぇなぁ。ワシはあそこの荷馬車で先に行ってるから後は頼むぞ"ジレンマ"」

「わかった」

小柄な男はそそくさと入り口に置いてあったアルフィス達が乗ってきた荷馬車に乗り込む。

「ロール、燃えている診療所や他の家屋の火を水の魔法で消すんだ」

「あ、ああ、わかった」

セシリアの言葉に反応してロールは振り向き走って診療所へ戻る。
そしてセシリアは肩にかけていたポーチを横に投げ"ジレンマ"と呼ばれた大男に斬りかかるため猛ダッシュした。

ジレンマは先ほどとは違い、ロングコートの右ポケットに手を入れ何かを取り出し握った。

セシリアの縦一線の剣を、ジレンマは右掌で受ける。
その手には緑色の魔石があり、ちょうど剣が当たって魔石が砕けた。

「風の魔石!?」

セシリアが気づいた時には遅かった。
ジレンマの手から爆風が吹き荒れ、セシリアはメルティーナがいる場所まで吹き飛ばされる。
セシリアは着地して剣を構え直した。

ジレンマはまた左ポケットに手を入れ赤い魔石を取り出して親指で弾いて右ストレートで撃ち出す。

セシリアがそれを一刀両断する。
しかし、ジレンマは右ストレート振り抜き様に左手の中にあった二つ目の火の魔石を左親指で宙へ上げ、右の裏拳で撃ち出した。

「くそ!なんて奴だ!」

間一髪のとのろでセシリアは二発目を斬る。
事なきを得たかのように見えたが、セシリアが持っている剣を見ると刃こぼれし、ヒビが入っていた。
もうセシリア自身、自分の敗北は見えていた。

「メルティーナ、援護しろ、なんとしても奴を倒す」

「は、はい!」

放心状態だったメルティーナだが、セシリアの言葉にハッとした。
メルティーナは目の前にいる強敵を討たんと決意し弓を構えた。

無表情のジレンマという大男の眼光は今ここに存在する全ての獲物を狩尽くさねばならないという本能的で、そして肉食的な目だった。
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