地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

文字の大きさ
74 / 200
水の国編

裏切り者

しおりを挟む
ガーロ森林は猛吹雪になっていた。
視界が極端に悪く、目も開けてられないほどだった。

アルフィスとロールが前に進んでいくと、倒れている人影を見つけた。
座って木に寄りかかっているのは魔法使いだ。
アルフィスとロールが確認すると見知らぬ魔法使いだった。
さらに地面に倒れる聖騎士の姿もあった。

「魔物にやられたのか?」

「メルが心配だな……」

アルフィスとロールはとにかく前に進んだ。
だが、あまりの吹雪に二人は逸れてしまい、出来ることと言えば前に進むことだけだった。

そして、ようやく森を抜けてた。
すると雪も少し降る程度となり、ロールは安堵した。
そこは平野になっており、その先には数十メートルはあろうかという門があった。
その周りには壁がずっと続いている。
ロールはこの門がゴールなのだと思った。

門まではまだ距離はあるが、門までの一本道を疲れた体を押してロールは一人で向かった。

門の前には一人の魔法使いが立っていた。

「おお、ロール!ここまで来れたのか!」

その声はグレイだった。
周りには誰もおらず、グレイただ一人が門の少し前に立っていた。

「グレイ!メルティーナはどうした!」

「すまない、あの吹雪で皆と逸れてしまった。そういう君も、あの二つ名君と逸れたんじゃないかい?」

ロールは確かにあの吹雪ならみんなを見失うのもわかると思った。
なにせ視界がほとんどゼロで、前に進んでいるのかすらわからかったのだから。

「この門は開かないんだよ。王の認証がいるからね。だから君達を待ってたんだ。来たのが君の方でよかった」

「どういうことだ?」

「君の持つその杖、竜骨の杖だろ?ということはリーゼ王と"握手"してるんじゃないか?」

ロールは自分の持つ杖を見たが、この杖の名前をここで初めて知った。
それにグレイが言うようにロールは一度、リーゼ王と握手したことがあった。
それはロールの初任務の際、リーゼ王を火の国に送り届けた時のことだ。

「この施設に入る条件は王に触れてることだ。王は滅多に人には触れない。だからこの大事な施設の鍵にしてあるようだ」

「この施設に入ってどうするんだ?」

「そりゃ休むのさ。流石にここまでの旅は過酷だったからね。君もそうしたいだろ?」

ロールはこの言葉を聞いて混乱していた。
目の前にいる者が内通者かどうかが全くわからない。
だが内通者だった場合、ここに入れたら取り返しがつかないことになってしまう。

「さぁ、一緒に行こう」

そう言ってグレイは手を差し伸べた。
ロールはその言葉に自分ではどうしたらいいのかわからなかった。

その時、後ろから声がした。

「ロール君、無事で何よりだ」

そこにいたのはリヴォルグだった。
軍服の上からコートを羽織り、左手には宝具を持っていた。
あの吹雪の中、猛スピードでここまでやってきていたのだ。

「総帥!ほ、他の人たちは?」

「メルティーナの捜索にあたってもらってるよ。あと"珍しい客人"があったので、その客人のエスコートさ」

リヴォルグは笑みをこぼした。
グレイはいつものニコニコした表情でリヴォルグを見ている。

「おお!リヴォルグ総帥!ご無事でなによりです!とにかく施設の中で休もうとロールに提案していたところでした」

「そうか。ところでグレイ、そういえば君は誰の指示でここまで来たのかね?」

グレイはキョトンとした顔をした。
そしてまたニコニコしながら答える。

「セシリア総隊長です。メルティーナお嬢様がライデュスに到着された次の日に手紙が来たのでてっきり総帥からの指示かと……」

「それを見せて欲しいね」

「え?いや、今は持ち合わせていないですよ。でも間違いなくセシリア総隊長の筆跡でしたが……」

ロールはなんのやり取りなのかわからず、リヴォルグの顔とグレイの顔を交互に見ていた。

「なるほどな。だが、それはありえないな」

「どういうことですか?」

リヴォルグのサングラスを掛けていても、凄まじい眼光であることはロールにもグレイにも伝わった。

「セシリアはメルティーナ達がライデュスに出発する前の晩に亡くなったよ」

「え……?」

一番驚いたのはロールだった。
それはメルティーナがセシリアの見舞いに行った日の夜ということだ。
一方グレイはさほど驚いてはいなかった。

「もし私からの指示だとして他の部下を介するなら、早急に君の手元にその手紙が届く。ベネーロからライデュスまで一日半だが、速馬で一日かからないだろう」

「……」

「つまりセシリアが生きてる時に手紙を出していたなら、に君の手元にその手紙がなければおかしい」

グレイは空に広がる曇り空を見た。
そしてゆっくり目を閉じる。

「何か言い逃れはあるか?グレイ・ダリアム」

「そうか……あの女……死んだのか……ざまぁないな」

「貴様!なんてこと言うんだ!」

ロールは激情に駆られていた。
セシリアとはあまり仲が良かったわけではないが、一緒に戦った仲間を侮辱するのは許せなかった。

「あなたがセシリアも疑ってると小耳に挟んだから策をめぐらせたが、まさか自分の死で疑いを晴らすとは……」

「こうなったのは残念だが、私はかなり前から君が内通者であることはわかっていたよ。私は君とセシリアとの共謀を疑っていただけだ」

グレイはリヴォルグを見て困惑していた。
今までボロは出してなかったはず、という顔をしていた。

「どこか変なところはありましたか?」

「グレイ、君はいつから魔法を使ってない?」

グレイは驚いたが、すぐにニコニコし始める。
その笑顔はどこか不気味だった。

「かなり前からですね……」

「心だけでなく、身も売ったか、グレイ」

リヴォルグの言葉にグレイは杖を放り投げた。
そしてローブも脱ぎ捨て上半身を見せるが、その肉体は洗練されていた。
さらに血管が至る所から浮き出ているが、それは真っ黒だった。

「私はずっと考えていた。魔力、魔法なんてこの世界だと最弱だ。最強なのはエンブレムだと」

「……」

「なぜ女に指示されなければならない?魔力なんて無ければこんなことにはならなかった。じゃあどうするか?その答えがあの黒い薬なんだ。アレを使えばもっと高みを目指せる」

グレイの言うことは事実だった。
この世界では聖騎士と比べれば魔法使いは弱い存在だ。
そのせいで男と女の格差は予想以上に大きいものだった。

「私は必ず組織のトップになる!"三魔神ブラック・ケルベロス"になって人類の頂点に立つ!」

「ブラック・ケルベロス?なんのことだ?」

ロールは首を傾げた。
リヴォルグも聞き慣れない言葉に少し困惑していた。

「ロール……君は出会っただろ?銀髪の男に」

「……ジレンマのことか?」

「あの男こそ世界最強。人類の完成系なのさ」

リヴォルグとロールはその言葉に驚いた。
"三魔神ブラック・ケルベロス"というものが何を意味しているかはわからなかったが、ジレンマがその存在の一人なのだろうと思った。

「おしゃべりはここまでにしよう。リヴォルグ・ローズガーデン。ここがあなたの墓場だ!」

そう言った瞬間、グレイは一気にリヴォルグにダッシュした。

リヴォルグは左手に持つ宝具クイーンズ・クライの鞘のナックルガード内を握る。
そして一気に剣を引き抜いた。
リヴォルグの切り裂かれた手から出た血が、みるみる剣と鞘に吸収され、銀色だった宝具が赤黒いオーラを纏った。
リヴォルグはそのオーラを放つ剣を前に構えた。

グレイは猛スピードでリヴォルグに襲いかかった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...