82 / 200
風の国編
魔剣のナナリー
しおりを挟む火の国 ロゼ
港町 ベルート
ハートル家の屋敷内、玄関前に立つアルフィス・ハートルは送られてきた手紙を読んで言葉を失っていた。
「アル、どうかしたの?」
母アメリアと執事レナードは心配そうにアルフィスの顔を見る。
アメリアがアルフィスに近づき手紙を覗き込んだ。
「二つ名招集?」
アルフィスがその内容を見るに水の国のシックス・ホルダー、リヴォルグ・ローズガーデンから聞いていた内容そのままだった。
風の国で宝具が盗まれて、謎のシックス・ホルダーが使い手だと。
「リヴォルグが言ってたやつだな……俺には関係無いと思ってたが」
「シックス・ホルダーを討伐するために、その候補者を集めるなんて、ノアちゃん思い切ったことするわね」
アメリアがクスクスと笑う。
「母さん、ノアのこと知ってるのか?」
「ええ。私が引退した後、短期間だけ指導員として聖騎士学校に行った時の最初の頃の生徒よ」
アルフィスは驚いた。
まさかアメリアとノアにこんな繋がりがあったとは思いもよらなかった。
さらにアメリアが聖騎士学校の先生をしていたのにも驚いた。
「ノアちゃんは性格が面白くて、あと背もすごく大きかったから目立ってたわね」
「は?」
アルフィスは耳を疑った。
性格が面白いのはさておき、背が大きかったという言葉が気になった。
「いや、あいつガキみたいな体してるぞ……」
「え?そうなの?まぁ歳をとると縮むって言うからね」
アメリアはまたクスクスと笑っていたが、目立つくらい背が大きい人間が、子供のように小さくなることなんてあるのだろうかとアルフィスは首を傾げた。
「それはさておき、これは絶対に行った方がいいわね」
「なんでだよ」
アルフィスの発言にアメリアがため息をついた。
そして真剣な眼差しでアルフィスを見る。
そのアメリアの顔を見たアルフィスは息を呑んだ。
「アルフィス!風の国に強い奴がいるわよ!」
アルフィスはハッとした。
自分は強い奴と戦いたいから旅をするつもりだった。
その強い奴が、今まで勝ったことがないシックス・ホルダーとなれば行かない道理はない。
「母さん……俺、風の国へ行くよ……」
アルフィスは涙を堪えながら天井を見る。
母アメリアから大事な何かを思い出させてもらった気がした。
「そうね!……あ、それと風の国へ行ったついでにハーブティーを買って来てくれる?やっぱり本場のものが飲みたいわ」
「ああ!任せとけ!それじゃ行ってくる!」
アルフィスは元気に屋敷を飛び出した。
アメリアは笑顔で手を振ってそれを見送る。
アルフィスはアメリアの口車に乗せられたことには一切気づかず、通り道であるセントラルを目指した。
___________________
セントラル 南東門前
アルフィスはセントラルに入るために行商人に混じり並んでいた。
相変わらずかなりの列で30分以上待ってようやく門前に到着したアルフィスはため息をつく。
セントラルの門前にはいつも通りの門番の聖騎士がいた。
この女騎士の名前は知らないが、もう顔馴染みのようなものだった。
「お、アルフィスじゃないか。また国境越えか?」
「ああ、また面倒ごとだ」
門番の聖騎士の苦笑いした。
二つ名持ちはある意味、使いっ走りにされることは門番なら知っていた。
「二つ名も大変だな」
「本当にな。なんでこんなもんみんな欲しがるかねぇ」
「逆に"いらない"なんて言うのはお前だけだよ」
アルフィスはその言葉に頭を掻く。
この二つ名のおかげで助かった面もあるが、災難も多い気がした。
そんな会話をしていると、列を無視して貴族用の馬車が門前にやってきた。
「またかよ……」
アルフィスは呆れていた。
以前にも図々しく列を無視していた世間知らずの者がいたことをアルフィスは思い出していた。
だが、門番の聖騎士はその馬車を見て異常なまでに緊張していた。
その馬車のドアが開き、出てきたのはアルフィスが見たことのない聖騎士だった。
真っ黒なロングヘアで日本人形のような髪型、目は虚ろだが顔立ちはとても美しい。
聖騎士学校の制服に似たブレザーを着ているが、上から黒いマントを羽織っている。
アルフィスは何よりもこの聖騎士が左手に持っている剣が気になった。
グリップが何かの骨のようで歪、鞘も白く禍々しい。
「通ってもいいかしら?」
か細い声だった。
門番の聖騎士がビクビクと少し震えていたのがアルフィスにもわかった。
「は、はい……ナナリー様……どうぞ」
門番は涙目で頭を下げる。
ナナリーと呼ばれた聖騎士はすれ違い様にアルフィスを見た。
目が合ったアルフィスも息を呑み、この聖騎士は"強者"だと直感した。
ナナリーはそのままセントラルへ入って行った。
「なんだ、あいつは……」
「ば、馬鹿!声がデカい!あの方は二つ名の魔剣のナナリー・ダークライト様だ」
「魔剣?」
その二つ名を聞いてアルフィスは首を傾げた。
魔剣といえば、アルフィスの魔拳と音がかぶっている。
「そういえば、お前も魔拳だったな。まぁ名付け親が同じセレン様だからだろうけど」
「あいつもセレンから二つ名を?」
「だから声がデカい!」
そう言って門番の聖騎士は小声になりアルフィスに近づく。
よほどあのナナリーという聖騎士が怖いらしい。
「噂だと昔セレン様の部隊にいて、セレン様に戦いを挑んだらしい」
「なんだと……」
なんとアルフィスと同様にセレンに喧嘩を売った人間が先にいたのだ。
それが先ほどの黒髪の女性、ナナリーだった。
「ああ、セレン様に顔面殴られたが、痛がるどころか睨み返したって」
「マジか……そういえばセレンのやつ、俺で二人目とか言ってたな……」
セレンが殴って立っていた人物は二人いた。
その一人のアルフィスはセレンの拳を受けて立ったまま気絶している。
だがナナリーという聖騎士は殴られても平気でセレンを睨み返すとは、そのタフさは尋常ではない。
「今はセレン様の部隊から離れて一人で行動しているみたいだな」
「一人?バディはいないのか?」
その言葉に門番の聖騎士は表情を曇らせた。
アルフィスは何かマズイことでも聞いたような気がした。
「お前、魔剣のナナリーの噂、何も知らないのか?」
「いや、何も」
キョトンとしているアルフィスに呆れ顔で門番の聖騎士は耳打ちした。
「彼女は別名・死神ナナリー。組んだバディがことごとく死ぬんだよ。何があっても彼女とは組まない方がいい」
アルフィスはこの言葉を聞いてナナリーとは絶対にバディにはならないと心に誓った。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる