地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

文字の大きさ
87 / 200
風の国編

アゲハの決意

しおりを挟む

数週間前

水の国のからセントラルに到着したアゲハは、アルフィスと別れて久しぶりに聖騎士学校に顔を出した。

友達のマルティーナとも再会し、水の国の出来事を話した。
いつも表情が固いマルティーナも泣きそうな顔をしていた。
よほどサーシャのことが嬉しかったのだろうとアゲハは思った。

「あ、そうそう。手紙を預かってましたわ」

マルティーナは思い出したように、アゲハに手紙を渡した。

手紙はアゲハの実家にいるメイドのアンジェラからだった。
アンジェラはアゲハと同じ歳くらいで子供時からクローバル家で働いていた。

アゲハが手紙を開けて読むとありえないことが書いてあった。

"ガウロ様が聖騎士に拘束されてしまいました"

アゲハは驚いた。
何かの間違いだと思った。
アゲハはマルティーナに別れを告げ、アルフィスに実家に戻ることを伝え、風の国の中央レイメルに急いだ。


________________



風の国 中央レイメル
クローバル家

屋敷に到着したアゲハは玄関先でアンジェラと会った。
アゲハを見たアンジェラの目には涙があった。

「お嬢様!」

「アンジェラ!何があったのです!?」

アゲハはアンジェラと共に屋敷の中に入る。
屋敷の中はいつもと変わらない状態だったが、物静かだ。

「旦那様に宝具窃盗の罪が掛かっています……」

「そんな……何かの間違いでは……?」

アゲハも泣きそうな目をしていた。
まさか自分の父親がそんな重罪を犯すなんて到底信じ難かった。

「何年も前から、この屋敷にあったみたいです……ガウロ様が言っていたそうなのですが、ラムザとカゲヤマ様が行方不明になった時に、宝具も無くなったようで……」

「……」

ラムザというのはクローバル家に仕える執事だった。
何年も前から屋敷におり、とても礼儀正しい性格でアゲハにそれを仕込んだ執事でもあった。

「最近、この国で魔法使いの惨殺事件が多くあって皆んなピリピリしてました。その魔法使い狩りの聖騎士が宝具を持っているとかで大騒ぎです……」

「ま、まさか……その聖騎士とは……」

アゲハは絶望感に包まれていた。
その聖騎士というのは、まさか自分の師であるカゲヤマリュウイチなのではないか。

「聖騎士達の話しでは、クローバル家の別荘に隠れているのではないかと……」

「あの別荘には山に強い魔人が出るようになってからは家族みんな行ってない……」

その魔人はこの国の聖騎士や魔法使いでは対応できないということで、何年も放っておかれていて今どうなっているのかアゲハにも分からなかった。

「そこに先生がいるのなら……」

アゲハは何かを決意し自室へ向かった。
アンジェラはアゲハの後を追う。

「お嬢様!」

「アンジェラ、着替えます。手伝って」

「は、はい!」

アゲハは聖騎士学校の制服を脱いだ。
白いワイシャツの上にブラウンのレザージャッケットを羽織り、青いジーパンに黒いブーツを履く。
そして刀とボストンバックだけ持ち屋敷を出た。

「アンジェラ、屋敷を頼みます」
 
「はい!お嬢様、お気をつけて!」

アンジェラはそう言ってアゲハに頭を下げて見送る。
アゲハは急いで北西にあるマルロ山脈を目指した。


________________



アゲハは北西のマルロ山脈の手前の村であるアーサルに到着していた。

自然豊かな風の国特有の草原地帯の中にあり、ここは農家がほとんどだった。
民家も何軒かしかない小さな村だ。

「ここに来るのは何年ぶりでしょうか……」

アゲハが幼少の頃、親子で一緒に来たことがあった。
そのことをアゲハは思い出していた。

アゲハは村で食料などを買い出しをした。
そして山脈へ向かおうとした時だった。

村の出口付近に一人の"少年"が座っていた。
少年はアゲハを片目を閉じ、手の指で輪っかを作って、じっと見ていた。

「おお!」

少年が声を上げて立ち上がり、手を振りながらアゲハに走って近づいてきた。

少年は白いワイシャツに短パンでその上からローブを羽織り、つばがついた大きな三角帽子を被っていた。
帽子の下からは緑色の髪が少し見えており、腰にはステッキ型の魔法具が差してある。

「お姉さん、お姉さん!」

「は、はい……?」

アゲハは困惑しながら少し首を傾げた。
目の前の少年は魔法使いのようだが、こんな小さいのに一人旅なのだろうかと。

「お姉さん、山登るんでしょ!僕も一緒に行ってもいいかな?」

「は、はい?……どこの貴族かはわかりませんが、あそこは君のような子供が行くような場所ではないですよ。とても危険です」

「危険なら、お姉さんだって危険じゃない?」

「私は剣の心得がありますから」

「じゃあ僕だって魔法が使えるよ!」

笑顔でそう言う少年にアゲハは困った表情を浮かべた。
魔法が使えると言っても、こんな子供を強い魔人がいる山になんて入れさせるわけにはいかない。

「あの山には強い魔人がいます。一緒に行っても私は君を守りきれない」

「大丈夫だよ。僕めっちゃ強いからさ。それに強いのは魔人の方じゃない。その上にいるやつだ」

「え?」

「お姉さん、アゲハ・クローバルでしょ?この山の上にお姉さんの探してる人がいる」

少年はニコニコしながら言った。
アゲハは一言も自分のことを名乗っていない。
さらに名前だけでなく、なぜ人を探しているのがわかったのか不気味だった。

「あなたは一体、何者ですか……?」

「ああ、ごめんごめん名乗ってなかったね。僕の名前はレノ。この国の王だ」

アゲハは言葉を失った。
風の王レノは今まで誰の前にも姿を現したことがなく、挑んだ人間しか見ることはない。
だが挑んでも風の塔を降りてくる人間はいないのでその姿を語れる者もいない。

そして風の王レノは王の中でも火の王の次に強いと言われる伝説的な王だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...