117 / 200
土の国編
最強のシックス・ホルダー(1)
しおりを挟むセントラル 南西門前
土の国へ向かうため、聖騎士や魔法使い、商人などが長い列をなしていた。
そこに青髪で眼鏡をかけた魔法使いの少年も並んでいた。
魔法学校の制服を着ているが、上着は着ておらず、その代わりに膝まである黒いローブを着用している。
ネクタイの色は青で、水の国出身の魔法使いであるこはわかった。
だがさらに周囲の人間はこの魔法使いが何者なのかわかっていた。
「あれ、今年の対抗戦の優勝者のアイン・スペルシアか。あの年で、あの顔つき……只者じゃないな」
「二つ名候補だろ。スペルシア家ならシックス・ホルダーにも手が届くな」
「スペシャルスキル持ちなんて、この世界でも数人しかいないしな」
アインはそんな周囲の声が聞こえていた。
顔は真剣な表情をしているが、アインの心臓はバクバクと高鳴る。
注目されるのが苦手なアインにとってはこの状況はストレスでしかなかった。
アインの胃が少し傷み始めたあたりで、ようやく南西門をぬけ、土の国へ入国した。
アインはあまりの日差しに目を細め、さらに見渡す限りの砂漠地帯に驚いた。
そこから伸びる岩の道路にも目を奪われるが、道路の先は熱で歪んでいた。
「あ、そういえば、ここからどう中央まで行こう……」
アインは重大なことを思い出した。
水の国では、門を抜けたところにスペルシア家の馬車を待たせていたが、他国ではそうもいかない。
アインは周りを見るが、それぞれが荷造りし、歩いて向かう者、荷馬車を用意していた者などそれぞれの移動方法で出発していた。
「ど、どうしよう……話しかけるのも気が引けるし……」
アインが周りをキョロキョロと見るが、全く話しかける暇もなく旅人達は出発していく。
そこにアインは後ろから肩を叩かれた。
ビク!と驚き、すぐにアインは振り返る。
そこには白いローブと大きい鍔付きの白い三角帽子を被った老人が立っていた。
左手にはアインが見たこともない異様な形の杖を持っていた。
「若いの、お困りかな?」
「あ、あ、は、はい。中央のザッサムまで行きたいのですが、ここまで来て馬車の手配を忘れてしまって……」
苦笑いで答えるアイン。
それを聞いた老人は満面の笑みを浮かべた。
「そうかそうか。ではわしと一緒にどうかな?旅は道連れとも言うし」
「え!いいんですか?」
「ああ、構わんよ。若い者と一緒なら、自分も若返った気分になるしの」
やはり老人は満面の笑みで答えた。
そしてアインを自分の馬車に案内した。
その馬車の周りには4人の聖騎士が馬に跨って待機していた。
アインはその仰々しさに息を呑んだ。
「あ、あの、この方々は……?」
「ああ、"大事な物"を運ぶから、その護衛じゃよ」
老人はニコニコして答えるが、周囲にいた聖騎士達はアインを睨む。
アインはその"大事な物"という言葉より、この雰囲気が気になった。
それに構うことなく老人は馬車に乗り込んだ。
アインも急いでそれに続く。
馬車にはアインと老人が向かい合って座るが、老人の隣の席には、白い布で包まれた大きい荷物が積まれていた。
アインはそれを見て、これが"大事な物"なのだろうと思った。
馬車が出発し、それと並走するように聖騎士達がついてきている。
アインはあまりの異様さに老人の方を見るが、老人はニコニコしながら馬車の窓から外を見ていた。
「あ、あの、俺なんかが一緒でよかったんでしょうか?もしかして大事な任務とか……」
「任務は任務じゃが、わしはなんだって楽しくいきたいのじゃ。話し相手がいれば旅も楽しくなるじゃろ」
「は、はぁ……」
アインは老人の言葉に戸惑っていた。
明らかにこの状況は普通ではない。
ただマーシャの実家に行くだけのことだったが、アインの安堵は一変して不安に変わっていた。
そんな不安をぬぐいさろうとアインは苦笑いしながら老人に話しかけた。
「そ、そういえば、珍しい杖ですね……」
「そうじゃろう。竜の尻尾をイメージして作られた杖での。面白い形じゃろ」
老人は嬉しそうに語る。
その形は確かにアインが昔に本などで見た竜の尻尾のようで、杖の上には拳くらいの水晶のような玉がついていた。
「水晶も凄いですね。水晶の中の"虹色"が綺麗です」
「なんじゃと?」
アインの言葉に老人の笑顔が消え、驚いた表情をした。
一転して真剣な表情に変わった老人にアインはしどろもどろになる。
アインは何かマズイことでも言ったかなと、色々考えていると老人は杖を少し前に出して、角度を変えた。
「角度を変えても色は"虹色"に見えるか?」
「え?ええ。赤と青、緑と茶色が混ざった虹色ですけど……」
「そうか……」
それだけ言うと老人にまた笑顔が戻った。
その笑顔を見たアインはホッとしていた。
「この杖は自慢のアンティークじゃよ。ところで君の名前はなんと言うのかね?」
「も、申し遅れました。アイン・スペルシアです」
「ああ。スペルシア家の。会えて光栄じゃ」
「い、いえ……」
アインは照れくさそうに頭を掻いた。
やはりスペルシア家となれば有名な家柄なのだろうとアインは思った。
そんな時だった。
いきなり馬車が止まり、周囲にいた聖騎士達が慌て始めていた。
老人は窓の外を見ると馬車の正面に砂埃が舞い、全く見えない状態となっていた。
「やはり……同じ場所に"2本"もあればこうなるか」
そう言うと老人は馬車のドアを開けて外に出る。
アインも続いて外に出るが、目の前の砂埃の中に巨大な黒い蛇のようなものが見えた。
四人の聖騎士は馬から降りて剣を抜いていた。
「シリウス様、危険です!」
「心配はいらん。あんなものは小物よ」
シリウスと呼ばれた老人はニヤリと笑い、自分より何倍も大きい敵を睨んだ。
「シ、シリウスだって……?」
アインはその名前は聞いたことがあった。
それはこの世界にいる人間の中でも最強と言われる魔法使い。
そして現在いるシックス・ホルダーの中でも最強と言われる男。
"シリウス・ラーカウ"
アインは目の前の老人が、最強の魔法使いであるシリウスだと知り、震えが止まらなかった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる