118 / 200
土の国編
最強のシックス・ホルダー(2)
しおりを挟む土の国 中央道
馬車の前に聖騎士が4人、抜剣し横に等間隔に並んでいた。
目の前には大きな砂埃が舞い、目を凝らすと、その中には巨大な黒い蛇がうねるのがわかる。
聖騎士の後ろに立ったシリウスは左手に持つ、竜の尻尾のような形をした杖を構えた。
アインはその真後ろにいたが、聖騎士が言ったように、この老人がシリウス・ラーカウだとするなら大変なことだった。
大賢者シリウスは滅多に人前に姿を見せないと言われている。
アインにはそれがなぜなのかはわからなかったが、そんなことよりも、魔法使い達の憧れで、最強のシックス・ホルダーと言われる"大賢者シリウス"と一緒にいるというだけで心臓が高鳴った。
「この程度の相手なら"ブラッド・オーラ"の発動は必要無いだろう。わしの魔法が漏れたら追撃を頼もうかの」
「了解しました!」
シリウスの言葉に聖騎士達は剣を強く握り、巨大な蛇を睨んだ。
シリウスは構えた杖を地面に打ち付けると、シリウスの足元に巨大な赤い魔法陣が展開したと同時に周囲に四つ赤い球体が現れる。
そしてその球体が割れると四体の火の竜が生まれ、一気に砂埃が舞う方向へ突撃した。
「ドラゴン・フォース……これで終わってくれればいいが……」
それを見たアインは息を呑んだ。
確かに火の魔法には水の魔法と同じく"竜"を作り飛び道具として放つ魔法はあるが、せいぜい一匹だけ。
火の魔法というだけで魔力を大量に消費するが、さらに上位の"ドラゴン・フレイム"という魔法で四体同時に発生させて放つというのはありえなかった。
「な、なんという魔力……しかしシリウス様は火の魔法使いだったのか……」
大賢者シリウスは謎が多かった。
どの属性の魔法使いなのかすら知ってる者は少ない。
アインはそれを知れただけでも涙しそうなくらい感動していた。
火の竜は砂埃の中へ入り、黒蛇に着弾する。
燃え盛る黒蛇はその痛みからか、うねうねと地面に体を擦り付けていた。
それを見ていた聖騎士達は安堵するが、黒蛇は燃えながらも砂埃から一瞬で這い出した。
そして猛スピードで聖騎士達へ向かった。
「そんな……シリウス様の魔法でも倒せないのか……」
アインは唖然としていた。
さらに聖騎士達は黒蛇の姿形と、その殺気に後退りする。
凄まじいスピードの黒蛇は聖騎士の一人に口を開けて襲いかかろうとしていた。
「ほう。なかなか」
それを見たシリウスはニヤリと笑うと、もう一度、ドンと杖で地面を叩いた。
すると今度はシリウスの足元に茶色の魔法陣が展開する。
それと同時に砂の竜が地面から突き上がり口を開けて黒蛇の喉に噛み付く。
砂の竜はそのまま伸び、黒蛇を一気に数十メートル空中まで連れて行った。
その魔法を見たアインは驚いていた。
それはありえない光景だったからだ。
「つ、土の魔法!?一人の人間が二属性も魔法を使えるなんて聞いたことないぞ……」
砂の竜に噛みつかれた黒蛇は空中でうねる。
シリウスはさらに杖で地面を叩くと、砂の竜が消え、今度は黒蛇より上空に"風の渦"が発生した。
「ま、まさか……冗談だろ……」
空中の黒蛇を見ていたアインはすぐさまシリウスが立っている場所を見ると、巨大な緑色の魔法陣が展開していた。
そして再度アインは空中を見ると、現れた"風の渦"は破裂し、それは特大で無数の風の刃に変わり黒蛇へ襲いかかる。
黒蛇はその風の刃で切り刻まれバラバラになった。
そしてバラバラになった黒蛇の胴体は次々に落ちてくる。
さらに黒蛇からの出血で、竜血も大量に降ってきていた。
シリウスはさらに地面を杖で叩く。
するとシリウスが立つ場所に青い小さな魔法陣が展開すると周囲に雨が降り始め、ドス黒い竜血を浄化していった。
「癒しの雨……ありえない……四属性全て使える魔法使いなんて存在するのか……」
シリウスは竜血の浄化を見届けると振り向き、笑顔でアインを見た。
「アイン君、先を急ごうか」
「は、はい!」
剣を構えていた聖騎士達は唖然としていたが、ハッと我に返る。
そしてアインと一緒に馬車に乗り込む笑顔のシリウスを見て聖騎士達は息を呑んだ。
馬車は何事もなかったかのように、中央ザッサムを目指して走り出した。
____________
馬車で向かい合って座る、アインとシリウス。
アインは老人がシリウスだということを知り一気に緊張した。
「あ、あ、あ、あの、まさか大賢者シリウス様と知らず、ご無礼を……」
アインはシリウスに頭を下げていた。
シリウスはそんなアインを見て笑った。
「いやいや、いいんじゃよ。皆、わしがシリウスと知れば畏まる。わしはそれがあまり好きではない」
「は、はぁ……」
「わしだって人間じゃ。大したことはないのさ」
「いえ!そんなことはないです!大賢者シリウスといえばこの世界で最高の魔力を持つと言われる魔法使い。魔法使いの憧れの存在ですし!」
アインは興奮気味に語るが、その言葉にシリウスは真顔で窓の外を見た。
アインにはシリウスが少し表情を曇らせていたようにも感じた。
「魔力なぞ高かろうが低かろうが生きるうえでは関係ない。高いから幸せか?低いから不幸なのか?そんなものはどっちでもいいんじゃよ」
「……」
「人は皆死ぬ。わしは仲間が死ぬのを何度も見た。それは魔力が高かろうが、低かろうが一緒。わしは運良くここまで生きただけで、あと数年すればこの世界からいなくなる」
「す、すいません……なにを仰りたいのか……」
「アイン君、わしがここまで生きてきてわかったことは魔力の高い低いなぞ大した問題ではなということじゃ。"ただ強い心で人生を楽しめるかどうか"……それだけじゃよ」
アインはシリウスの言葉を聞いて少し考えていた。
確かにシリウスが言うとおり、魔力が高いから幸せかどうかと言われれば答えはNOだ。
現にアインは魔力が高いせいで厳しい家庭で育ち、期待され、その重圧で胃に穴が空きそうになったこともあった。
アインはここまで来るまでに、何度この環境から逃げ出したいと思ったかわからなかった。
「わしは別に望んで魔力が高く生まれてきたわけではない。こんなもの欲しくもなかった」
「え……」
「すまん、すまん。こんなことを言ったら、他の魔法使いから怒られてしまうの」
シリウスは笑顔でアインを見た。
だが、その笑顔はどこか悲しそうな表現だった。
アインは、もしかしたら"大賢者シリウス"という人物は自分と似た境遇なのかもしれないと思った。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる