124 / 200
土の国編
到着
しおりを挟む土の国 中央ザッサム
アイン、シリウスは数日かけてようやく土の国の中央であるザッサムに到着した。
ザッサムも他の大きな町同様、巨大な壁が円を描くように立っている。
東西南北にはそれぞれ門があり、アインとシリウスは馬車は東門に到着していた。
アインは馬車から降り、シリウスに別れの挨拶をしていた。
「乗せて頂いてありがとうございました。短い間ですが、まさか大賢者シリウスと旅ができるなんて光栄でした」
アインは笑顔でそう言うと深く頭を下げた。
馬車の中のシリウスはアインの礼儀正しい姿を見て満面の笑みだった。
「いやいや、こちらこそ楽しい旅じゃったよ」
「ありがとうございます!」
「これからどうするのじゃ?観光に来たというわけではあるまい」
「ええ、ダイアス家へ招かれております。御令嬢のマーシャさんとバディを組んでおりまして」
「ほう。そうじゃったな……またこれも運命なのか……」
「え?」
シリウスの言葉に首を傾げるアイン。
アインはマーシャとバディを組んでいる話はしていなかったが、恐らくシリウスは対抗戦を見たのだろうと思った。
だが、それよりも"運命"という言葉に引っ掛かった。
「いやいや、こちらの話じゃよ。ではアイン君、またどこかで」
「はい!」
アインはシリウスが乗る馬車が門を通過していくのを見送ると、ザッサムに入るために並んでいる列の最後尾についた。
________________
中央ザッサム 土の塔前
夕刻、日は落ちかけていた。
いつも人通りもある土の塔の周囲には人があまりいなかった。
それもそのはずで、門の前には土の王カインが腕組みをして鋭い眼光で立っており、さらにその隣には水の王リーゼもいた。
明らかに異様な雰囲気に町の人間は何かを察してか、土の塔には近づいてこなかった。
「来ましたね」
「ああ」
そこに一つの馬車が到着した。
周囲には4人の聖騎士が馬に乗り、ゆっくり馬車と並走する。
馬車がカインとリーゼの前に到着するとドアが開き、老人が杖をついて降りてきた。
「これはこれは……王が二人も揃って出迎えて下さるとは」
「いえ、こちらこそ御足労おかけしましたね、シリウス・ラーカウ」
「久しぶりだな、シリウス」
2人の王は笑みを溢し、その表情を見たシリウスも笑顔になった。
シリウスが王と再会するのは数十年ぶりだった。
「長旅は老体には堪えるの……」
「申し訳ないですね……そういえば後継者の方は見つかりましたか?」
背伸びをしているシリウスにリーゼが笑みを浮かべながら聞いた。
「ああ。見つかったよ。つい最近な」
シリウスの言葉に真顔になるリーゼはカインと顔を見合わせた。
「それよりも、ダイアス家の令嬢はどうだったのだ?」
「え?……ええ、私が二つ名を与えました。このままダイアス家に宝具を持っていきます」
「そうか……その話じゃが、一日待ってもらえないかの?」
「何か問題でも?」
「いや、流石に今行くのは無粋と言うものじゃよ。とにかく明日この時間に持ってってくれ」
リーゼはカインと再び顔を見合わせたが、何か事情があることを察して、それに頷いた。
「わしはもう出るよ。流石に宝具が三つも同じ国にあるなぞ前代未聞じゃからな。何が起こるかわからん」
「苦労をかけますねシリウス」
「いいんじゃよ。これが最後の仕事となれば、わしなりに楽しむさ」
シリウスそう言うとニヤリと笑った。
そんなシリウスを見たリーゼは苦笑いを浮かべる。
そこにシリウスが護衛に連れてきていた聖騎士2人が、大きな箱を持ってきた。
逆に馬車に積んでいた荷物を聖騎士の1人がカインに手渡す。
シリウスは自分の前に置かれた大きい箱からは異様なオーラが漂っているように感じた。
「久しぶりじゃな……」
シリウスはそう言うと真剣な表情で箱の前に膝をつき、少し開けて中を見た。
その中には銀色のガントレットが二つ入っており、その二つは右手用と左手用だった。
「久しぶりに見たな……これからインスピレーションを得て"黒獅子のグローブ"を作ったんだったのう」
シリウスは笑みを浮かべながら、ゆっくり箱を閉じ、聖騎士達に合図する。
聖騎士達は箱を持ち上げ馬車に運んだ。
「ガントレット型の魔法具とは一体誰が考えたのでしょうね……」
「それに意味のわからないデメリットだ。人間に使えるはずあるまい」
王達は険しい表情で馬車に運ばれていく大きな箱を目で追った。
同時に二人からはため息が漏れていた。
「確か……"ブラッド・オーラ発動中は使い手の生命力を吸い上げ続ける"んじゃったか?」
「ええ。それを莫大な魔力に変換し続ける。さらにスペシャルスキルを全て発動できるようになる。間違いなく今ある宝具の中で最強です」
「だが普通の人間が使っていられるのは数分が限界だろう。"ケルベロス"が異常すぎた」
これが、この宝具が人間には使いこなせないとされる理由だった。
簡単に言えば"人が使うとすぐに死ぬ"というのが、この宝具のデメリットだった。
「まぁ、とにかくセントラルに持っていくよ。そのうち使い手も現れるじゃろうて」
「それは流石に……」
「いや……」
リーゼがシリウスの言葉に否定しようとしたが、間髪入れずに口を開いた。
「もしかしたら、もう近くに正統な使い手がいるかもしれんぞ」
シリウスはそう言うと満面の笑みで馬車に乗り込んだ。
窓から手を振るシリウスに王の2人は頷いて応える。
そして馬車はセントラルに向かうために走り去っていった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる