地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

文字の大きさ
123 / 200
土の国編

クロエ(2)

しおりを挟む

アルフィスとリオンは中央ザッサムに向かうため、経由する最初の村に到着していた。

そこでは村が竜血によって壊滅しており、広場でアルフィスは魔人と戦闘になってしまう。
さらに聖騎士と思われる女性、クロエ・クロエラとの戦闘を余儀なくされた。

アルフィスは"クロエ"という名前には聞き覚えがあったが、アルフィスの静止も虚しく、この聖騎士と対峙するのだった。


________________


夕刻、日も落ちかける中、アルフィスとクロエの戦闘は再び開始されようとしていた。

猛スピードでアルフィスへ向かうクロエは背中に背負うショートソードに左手をかけた。
それを一気に抜き、縦一線の斬撃をアルフィスに放った。

「クソ!待てって言ってるだろうが!」

アルフィスはそう言いつつ、それを左のショートアッパーで弾きクロエを仰け反らせる。
そこから一歩前へ踏み込み、右のボディブローを狙った。

完全にクロエの左脇腹を捉えていた右拳だったが、すぐさまクロエはその拳を左蹴り上げで弾いた。

今度はアルフィスが仰け反り、クロエはそのまま後方へバク転する。
クロエは着地した瞬間、前へダッシュし、ショートソードをアルフィスの胸目掛けて突いた。

だが、アルフィスは蹴りで弾かれた勢いのまま全身の力を抜いて地面に倒れ込む。

「なにぃ!?」

驚くクロエだが、そこからアルフィスは横回転で起き上がりながらクロエのショートソードを持つ手に蹴りを当てて剣を吹き飛ばした。

そしてアルフィスはクロエの懐に潜り、左のボディブローを腹に叩き込んだ。

「がはぁ……」

腹を抱えながら後ずさるクロエはその痛みに耐えきれず片膝をつく。
それを見たアルフィスは追撃はせず、ジャケットの胸ポケットに手を入れゴソゴソと探り、手紙を取り出した。

「お前がクロエ・クロエラか。これを」

そいう言うとアルフィスは膝をつくクロエに手紙を差し出した。
クロエは苦しそうな表情でゆっくり立ち上がり、アルフィスからその手紙を奪うように受け取った。

「ナナリー・ダークライトからの紹介状だ」

「なに?」

クロエが手紙を封筒から取り出し読む。
それを読みながらクロエはアルフィスをチラチラと見ていた。

「まさか……"死神"と組んで生きている人間がいるとは……」

「まぁ死にかけたがな」

クロエはアルフィスの言葉に鼻で笑った。
そして再びクロエは鋭い眼光をアルフィスへ向けた。

「この国は初めてか……二つ聞きたい。お前の名前は?」

「ん?俺はアルフィス・ハートルだが」

「"アルフィス"……違うな……戦い方を見てもしやと思ったが……」

アルフィスはその言葉に首を傾げた。
クロエは手紙を封筒へ丁寧に戻すとアルフィスへ返した。

「悪いが私はお前とは組めない」

「はぁ?どうしてだよ」

「今は忙しい。傭兵稼業は休んでるんでね」

「マジか……」

アルフィスは頭を掻いた。
一応はリオンがいるため案内役は困らないが、いざとなった時のために戦える仲間は欲しいというのが本音だった。

「それともう一つ。さっきの戦い方、どこで見た?」

「ああ、あれは"ジレンマ"とかいう銀髪の男が使ってた戦法だ。俺は火の魔法使いだが下級魔法しか使えない。だから点火のために魔石が必要なのさ」

「な、なんだと……」

クロエは眼を見開き驚く。
その驚きようは常軌を逸していた。

「まさか……まさか"セカンド"と戦闘して生きてるだと?お前は一体何者だ!?」

「いや、だからアルフィス・ハートルだって言ってるだろうが」

呆れ顔のアルフィスだったが、いつの間にか後ろにいたリオンが興奮気味に語る。

「師匠は二つ名最強って言われてるんだ!この国の宝具を求めて来られたのさ!」

リオンの言葉にさらにクロエは驚く。
まさかナナリーと同じ二つ名持ちで、さらに二つ名を持つ魔法使いで最強と言われる男だとは思いもよらなかった。

「宝具を……お前、この国の宝具がどんなものか知ってて来たのか?」

「いや、知らん。他のシックス・ホルダーから聞いてな。一度見てみようと思って来ただけだ」

「アルフィスとか言ったな。そんな生半可な気持ちでこの国の宝具を手に入れようとしているなら悪いことは言わない、今すぐ帰った方がいい」

「どういうことだ?」

「この国の宝具はある組織が狙ってるんだよ。その組織の名はブラック・ケルベロス。私の父はその組織の人間に殺された。それが"ジレンマ"という男だ」

「マジか……」

「お前がアレと戦ってなぜ生きてるのかは知らんが、あの男は組織の中でも三人いるトップに君臨している者の一人だ」

「三人?」

「ああ。"銀の獣"と呼ばれている」

アルフィスはクロエの言葉、"銀の獣"という単語に聞き覚えがあった。
それは水の国でメルティーナから聞いた、セシリアの伝言の中に出てきたものだ。

「私は今そのトップを追ってるのさ。ようやく居場所が掴めそうなんだ。とにかく、今からでも遅くはない。帰った方がいい」

「……俺からも質問したいんだがいいか?」

「なんだ?」

「"ラムザ"という名前に聞き覚えはあるか?」

クロエがその名前を聞いた瞬間、顔を強張らせた。

「知ってるもなにも、そいつは"サード"。トップの一人だ」

「そうか……そいつならこの前、俺が風の国で倒したぜ」

「はぁ?」

クロエは小馬鹿にしたような笑いが出た。
だがアルフィスの真剣な表情を見て、クロエはそれが事実であることを察した。

「まさか……"セカンド"と戦って生きてるだけでなく"サード"を倒したですって?」

「ああ。ナナリーと一緒にな。それに俺は決して生半可な気持ちでここにいるわけじゃない。目的があって宝具を求めてるのさ」

「目的……?なんなのよ、それは」

「俺は火の王に挑む」

クロエがその言葉を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立った。
アルフィスの後ろで一部始終の話を聞いていたリオンも言葉を失っている。

確かにケルベロスのトップは強い。
だがそんなのは小物に思えるほど火の王は別格の強さだ。

クロエが見る限りアルフィスという男は嘘をつくような男に見えない。
アルフィスが本当に火の王に挑むつもりなら……とクロエは少し考えて口を開いた。

「前言撤回するわ……私はあなたとバディを組む。ただし条件がある」

「なんだ?」

「ブラック・ケルベロスを潰す手伝いをしてもらいたい。いや、"セカンド"との戦いだけでいい。私と共闘してもらいたい」

「なかなか面白い条件だな」

この条件は誰の目から見ても重すぎた。
ただ宝具を見に行くだけなら案内はリオンだけで十分で、バディは保険程度だ。
クロエもそれは重々承知の上だった。

しかしアルフィスはクロエの真剣な表情を見てニヤリと笑った。

「お前の"親父の仇"には俺も借りがある。奴を一発ぶん殴らない限りは気が済まん」

その言葉を聞いたクロエは胸を撫で下ろした。
最初は自分だけでやるつもりだったが、ジレンマを一人で倒せるとは思えない。
ラムザを倒した人物なら、これほど頼れる人間はいないだろう。

「感謝する……早速だがここから少し南西に行くとライラスという町がある。恐らく奴らの拠点があると睨んでる。来てくれるか?」

アルフィスはリオンの方を見た。
流石にアルフィスだけの一存では決められない。
だが事情を察したリオンは笑顔で頷いた。

「いいぜ。まぁ宝具は逃げやしないからな」

そう言うとアルフィスは笑みを溢す。
その表情を見たクロエは少し涙目になっていた。

アルフィス、リオン、クロエの3人は南西にある町、ライラスへと出発するのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...