122 / 200
土の国編
クロエ(1)
しおりを挟む土の国、最初の町であるマイアスを出発したアルフィスとリオンはザッサムを目指していた。
日中、炎天下の中、荷馬車は岩の道をゆっくり進んでいた。
御者はリオンで、アルフィスは荷台で寝ている。
しかしアルフィスはあまりの暑さにイライラし始め、結局勢いよく状態を起こした。
「なんて暑さだよ!!寝てられっか!!」
「こんな時間に寝るなんて、師匠くらいなもんですよ……」
リオンは呆れ顔だった。
まずこんな日が照っている時間に野外で寝る人間は土の国には存在しない。
「お前は暑くないのか?」
「僕は慣れてますから」
リオンは笑顔で答える。
アルフィスは大きくため息をつくと正面に続く岩の道を見た。
その道はしっかり整えてあり、色は土色だがコンクリートの道路のようにも見た。
「しっかし周りは砂漠なのに、こんな道があるとは便利だな。いや、これがなけりゃ不便すぎるか……」
「ああ、これはエイベル様という魔法使いが作ったのです。このおかげで移動にはあまり困らないみたいですよ」
「マジか。あいつが……」
「南の方はまだ終わってないみたいですけど。それでもザッサムまでならスムーズに移動できると思いますよ」
アルフィスはリオンの言葉を聞いて少し考えていた。
この距離の道を作るのにどれだけの時間が掛かったことかと。
だが、もうこの道は南の方に作られることはないだろうと思った。
「師匠はなぜ土の国まで来たのですか?」
「俺か?俺はこの国の宝具を見てみたくてな」
その言葉にリオンは驚く。
この国の宝具がどんなものなのかは、土の国に住む者なら知らぬ者はいなかった。
「この国の宝具に興味をお持ちとは……もし師匠が使い手になったら大魔法使いケルベロス以来ですね!」
「ケルベロス?」
「ええ。唯一、この国の宝具を使いこなしたと言われている魔法使いで、土の王に勝ちかけた英雄ですよ!」
リオンは興奮気味に語っているが、アルフィスはリオンの話を聞いて首を傾げた。
アルフィスが知ってるケルベロスというのは"悪い人間"というイメージだったからだ。
「なんで英雄なんだ?土の王が悪いヤツってわけじゃないだろ?」
「もちろん。土の王はとても優しくて、僕たちが村からザッサムに移動した時にも自ら赴いてました」
「だったらなんで英雄なんだ?」
「それは憧れからでしょう。魔法使いで王に勝つなんて無理な話ですし。この二千年間で"王に勝ちかけた"なんてケルベロス以外には聞いた事ないですから」
「なるほどな……」
ケルベロスというのは魔女崇拝組織に関わる人物で間違いないが表立っては英雄のようだ。
それは"王に勝ちかけた"というのが美化されてのものなのだろうとアルフィスは思った。
「この国の宝具ってそんなにヤバいのか?」
「宝具については詳しい話しは聞いた事ないです……ただ、なぜか使い手がすぐ死んでしまうみたいで、未だにザッサムの宝物庫にあるとしか……」
この件についてはずっとわからずじまいだった。
現状、情報としては"凄まじい強さだがデメリットも凄まじい"としかわからなった。
「まぁ行きゃわかるか」
そう言うとアルフィスはまた寝転がる。
相変わらず日差しは眩しいが、お構いなしに横になるアルフィスにリオンは呆れる以上に尊敬の念が強まった。
____________
アルフィス達がマイアスを出発して二日後、ザッサムに向かうために最初に経由する村に2人は到着していた。
夕刻、2人が村の入り口付近に辿り着くが、目の前の惨状を見て言葉を失っていた。
村はそれなりに大きく、家屋も多く立つ。
だが至る所から煙が上がり、人も倒れていた。
「何があったんだ……」
「ま、まさか竜血……」
アルフィス達は荷馬車を降り、村へと入っていく。
歩きながら倒れている人間の安否を確認するが、村人は息絶えていた。
そして一番奥の広場に到着すると、アルフィスとリオンは凄まじい瘴気量を感じた。
「く……気持ちが悪い……」
「無理するなリオン。下がってろ」
目の前にいるのは人型の通常個体の魔人だった。
魔人はアルフィスに気づくとゆっくりと歩いて近づいてくる。
「ま、魔人相手だなんて……無茶です師匠!」
「いいから、お前は下がってろ」
そう言うとアルフィスも魔人の方へゆっくり歩き出す。
その距離は20メートルほどあった。
アルフィスは両太もものバックから火の魔石を取り出し両手に握った。
「複合魔法・下級魔法強化……」
赤い魔法陣が展開する。
同時にアルフィスは右手を強く握り、右手の火の魔石を握力で潰す。
すると火はグローブに吸収され、右手に炎を纏った。
さらにアルフィスは左手に握る火の魔石を宙に浮かせると、そのまま左ストレートで魔石を打ち出した。
そしてアルフィスは一瞬にしてその場から消える。
打ち出された魔石が着弾する瞬間、アルフィスは魔人の目の前に現れる。
火の魔石が着弾と同時に溜めた右ストレートで魔石ごと魔人を殴った。
「炎嵐……ヘヴィ・バレット」
ズドン!という轟音と共に魔人の胸あたりで爆発が起こる。
その衝撃と威力で魔人は数十メートル吹き飛ばされ地面を転がる。
ようやく止まった魔人の胸には大きい風穴が空いていた。
「す、凄い……魔人を一撃で倒すなんて……」
リオンは感動していた。
魔法使いが魔人を倒すこともありえないが、さらに一撃で倒してしまう人間がいるとは思いもよらなかった。
「まだいるかもしれん。警戒を……」
アルフィスが振り向いてリオンの方を見ると、さらにその先に黒い人影があった。
「リオン!後ろだ!!」
リオンがその言葉に驚き、すぐさま振り向くと、そこにはまたも通常個体の魔人が立っていた。
リオンは腰を抜かして、その場に尻をついた。
「ひ、ひぃ!!」
魔人は座り込むリオンにゆっくり手を伸ばそうとしていた。
それを見たアルフィスが太もものバックから魔石を取り出そうとした瞬間だった。
ドン!という轟音と共に魔人の頭に、横から何かが当たり首ごと頭が吹き飛んだ。
魔人は胴体だけ残り、リオンの方へ胴体だけ倒れた。
「ひぃ!」
リオンは寄りかかってきた魔人の胴体を突き飛ばす。
そして正面を見ると、そこには1人の女性が立っていた。
女性はショートカットの茶髪で少し褐色肌。
白いヘソ出しのキャミソールにブラウンの袖なしジャケットを羽織り、ショートソードを背負っている。
そしてホットパンツに黒いブーツを履いた20代ほどの女性だった。
その女性は座り込むリオンを見ずにアルフィスを鋭い眼光で睨んでいる。
アルフィスはその眼をみて一瞬で強者であるとわかった。
「あんた……どこでその戦法を?」
「あ?どういう意味だ?」
「とぼけるつもり?魔法使いはそんな戦い方はしない。そんな戦い方をするのはこの世でただ一人。いや一人しかいなかった……」
「いなかった?どういうことだ?」
アルフィスは首を傾げた。
これはジレンマが使っていた戦法で、それを真似ただけのものだ。
だが、この女性の言葉からすると、この戦法を使っていた人間はもういないようにも感じる。
「まだとぼけるの?なら……」
そう言うと女性はドン!と地面を蹴り一気にアルフィスへ向かった。
そのスピードはあまりにも早く、アルフィスの早さにも匹敵しそうなほどだった。
一瞬で20メートルほどの距離を詰める。
「早い!!複合魔法・下級魔法強化!」
女性は顔面狙いの右の回し蹴りを放ち、アルフィスはそれを左腕を上げてショルダーガードする。
「マジか……なんて威力の蹴りだ……」
女性はさらに足技の連撃を繰り出し、アルフィスに手を出させない。
たまらずクロスガードで防ぐアルフィスだったが、女性はさらに一歩踏み、下から上へ蹴り上た。
するとアルフィスのクロスガードは解かれ、そして仰反る。
そこに女性はクルッと一回転しながら左の後ろ蹴りをアルフィスの顔面に叩き込んだ。
その衝撃でアルフィスは数メートル吹き飛ばされるが、かろうじて耐えて立っていた。
アルフィスは口から出た血を袖で拭う。
「なんでこんなに弱いのかしら?」
「なに……?」
その言葉にアルフィスは困惑していた。
このセリフはある人物の"口癖"だった。
そしてアルフィスも過去にこの人物の影響を受けている。
「お前が父を殺した者の関係者で間違いないな……この私、クロエ・クロエラは必ず父の仇を討つ!」
クロエと名乗った女性はアルフィスをさらに鋭い眼光で睨んだ。
「なに!?おい!待て!!」
クロエはアルフィスの言葉を無視し、再び勢いよく地面を蹴ると猛スピードでアルフィスへ向かった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる