地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

文字の大きさ
135 / 200
土の国編

それぞれの報酬

しおりを挟む


土の国 ライラス


クロエは診療所から1人出て、ゾルディアの住まう屋敷へ向かった。

町道にはうなだれている男性が数多くおり、中には頭を抱えて泣いてる者もいた。
このメイヴ事件の重さをクロエはゼビオル家の屋敷へ向かう道中、痛いほど感じていた。

クロエは屋敷の門前に到着した。
屋敷は横に広い作りで、かなりの大きさだった。
門を抜け、長い道の真ん中には噴水がある。
そしてそれをかわしてさらに歩くと玄関があった。

玄関前には2人の男性がいた。
1人は貴族服を着た男性。
もう1人は執事と思われる。

貴族服を着た男性は金髪でオールバックの背の高い男。
金髪の男はクロエに気づいて見るなりニヤリと笑った。
そして執事に屋敷に入っているようにと促すと、クロエへの方へ歩いて来た。

「よく来たね英雄さん。君に蹴られた頭がまだ痛いよ」

「あら、生きてたの。運がいいわね。殺すつもりで蹴ったのに」

クロエの冗談かどうかもわからない発言に苦笑いする貴族服の男。
この男はメイヴのバディであったゾルディアだった。

「死ぬかと思ったというのが正直なところさ。ところで少年は大丈夫かい?」

「アルフィスのこと?彼はもう戦えないわ」

「そうか……」

ゾルディアの表情は険しい。
街を救った英雄が、その行動によって戦えなくなるほどの重症を負ったとなれば、さすがのゾルディアも感じるものはある。

「それよりメイヴは?」

「地下牢にいるよ」

「大丈夫なの?あれほどの敵は今まで戦ったことはない。鉄の牢なんて簡単に抜け出しそうだけど」

「大丈夫だ。腕はこちらで切り落とした。彼女はもうあの少年同様で戦えまい」

クロエはその言葉に安堵していた。
これ以上、手間が増えるのはゴメンだった。
なにせメイヴを倒したアルフィスがあの状態であれば、再度メイヴが暴れ出したら止めようがない。

「戦意も喪失している。君は彼女に会うためにここに来たのだろう?うちの執事に案内させよう」

「そうしてもらえると助かる。あなたはどこへ?」

「少年にお礼をね」

そう言いながらゾルディアはクロエの横を通り過ぎて診療所へ向かおうとしていた。

「アルフィスは意識不明よ」

「構わんさ。気持ちを伝えるのに意識があろうが無かろうが関係ないだろう」

「伝わっているかどうかは重要だと思うけどね」

「そうかな?私はそうは思わない」

ゾルディアは笑みを浮かべてクロエに手を振ると歩き去った。
クロエは首を傾げながらも屋敷の玄関に向かい、ドアを力強くノックした。


____________



診療所に取り残されたリオンは眠るアルフィスの側にいた。
その目には涙を浮かべる。
一体これからどうすればいいのかわからない。
医者の言う通り、セントラルに向かうしかないがリオンはセントラルには入れない。

「どうしたらいいでしょうか……師匠……」

ため息混じりにそう呟くリオン。
そこに病室のドアが開いた音が聞こえた。
リオンは医者だと思いドアの方向を見なかった。

「これは……重症のようだな……」

聞き覚えのない声に、リオンがその男性の方を見る。
そこにいた貴族服を着たオールバックの男性をリオンは知らなかった。

「あの……どちら様でしょうか?」

「私はここの領主のゾルディアだ。君にも感謝せねばな」

「領主様!?」

リオンは驚いて頭を下げる。
その行動を見てゾルディアは笑みを溢した。

「やめてくれ、一緒に熱いハーブティーを飲んだ仲じゃないか」

「へ?」

リオンがその言葉を聞くと顔を上げて首を傾げた。

「"君"と"君のおじさん"がいなければ、今回のような結果にはなっていない。心から感謝している」

「は、話が見えないのですが……」

「君が昨日の晩に行った家とルドルフという男は私が土の魔法で作ったんだ」

「そんなことが……」

「私は昔から造形が得意でね。スキル構成もそちらに偏ってる。私の魔法はあまり戦闘向きじゃないんだ」

リオンはあの晩のことを考えていたが、あそこまで精巧に魔法で家だけでなく人間までも作るなんて考えられなかった。
ゾルディアはそれらを駆使してリオンにメッセージを伝え、それをアルフィス達が知ることでこの事件は解決したのだった。

「僕は何も……」

「いや、君はよくやった。あの土壁を作る魔法のタイミングもバッチリだった。あれが無ければ住民への被害が大きかったろう……本当にありがとう」

リオンの頬に涙が伝った。
ただの田舎の村人が町の領主からここまで感謝されることはありえないことだったからだ。

「そこで、君に借りを返したい。報酬……と言ったらなんだが、何か望むものはあるか?」

「それなら……師匠を……セントラルへ運んでもらえないでしょうか!」

リオンの言葉にゾルディアは驚く。
自分の名利のためじゃなく、アルフィスのために"貴族の借り"を使うなんてあり得ないと感じた。

「君の願いはそれでいいのか?」

「はい!僕はセントラルには入れないので……だから……」

「いいだろう。このゾルディア・ゼビオル、その願い聞き入れた」

ゾルディアがそう言うとリオンは泣き出した。
それを見たゾルディアが笑みを溢す。
美しい師弟愛を見た気がしたのだ。

「アルフィス・ハートル。君はいい弟子をもったな。君にも感謝を」

ゾルディアは意識の無いアルフィスに対しても丁寧に頭を下げる。

ゾルディアはリオンがセントラルに入れるように紹介状書き渡すことにした。
そしてリオンと意識不明のアルフィスはセントラルへ向かうためライラスを出るのだった。


____________



クロエはゼビオル家の地下牢にいた。
薄暗いのもそうだが、湿った空気が特に不快に感じられる。
目の前の牢屋の中にはメイヴが地面にあぐらを組んで座っている。

右腕は肩まで無く、肩には包帯が巻いてあった。
左手は天井に伸びる鎖が繋がれている。

メイヴはクロエを見るとニヤリと笑った。

「これはこれは……この町を救った英雄の1人か……」

「前置きはいい。"グランド・マリア"は今どのを移動している?」

「なぜそれを知りたい?」

「"セカンド"がそこにいるのはわかってる」

メイヴは"セカンド"という言葉に反応し驚いた表情をした。

「お前は何者だ?なぜ"グランド・マリア"を知ってる」

「私はあそこの生まれだ」

クロエのその発言を聞いた瞬間、メイヴは吹き出し大笑いした。
その声は地下に響き渡るほどだった。

「まさか……私と同じとは……だがどうやってあそこを出た?」

「父が見つけて助け出してくれたんだよ」

メイヴはクロエの言葉に驚いた。
"あり得ない"という表情だった。

「馬鹿な……グランド・マリアは地下を移動しているんだぞ……どうやって見つけたんだ……」

「父は他の人間とは違う。特別なのよ。それよりも"アレ"は今どこを移動してるの?」

「知るわけないだろう。お前もあそこの出身ならわかるだろ。あの都市は常に移動している。あそこは王にすら見つけられない」

クロエは怪訝な表情をした。
だが、すぐにハッと何かに気づいたように口を開いた。

「そういえば女、子供をあそこに送ったと言ったが、どこかで止まらないと町には入れないはずだな。どこで町に入れるつもりだった?」

「それも知らん。ただここに使いの者が来て連れていくだけだからな」

「なるほど……その使いは次いつ来るの?」

メイヴはクロエの言葉に口をつぐんだ。
確かに使いの者が来てるということは、その使いの者の帰る場所はグランド・マリアだ。

「この町に女、子供はもういない。もう来ないと思うがね」

「何言ってるの?いるでしょ」

「なんだと?」

「私はこれでも"女"だけど」

メイヴは言葉を失っていた。
このクロエという聖騎士については何も知らないが、ただハッキリしていることがあった。
この女の執念はブラック・ケルベロスにとってとても危険だということだ。

メイヴは項垂れるだけでクロエを睨む力も消えていた。
その姿を見たクロエはもう情報を聞き出せまいと地下から屋敷の入り口へ向かった。


____________



クロエが屋敷の入り口に行くと、玄関にはちょうどゾルディアがいた。
診療所へ行って戻ってきたところだった。

「メイヴはどうだった?」

「面白い情報が聞けた。そっちは?」

「お礼は言えたよ。そして彼らをセントラルへ送るために紹介状を書く。私は書斎へ行くよ」

「そう。後で話がある。終わったら宿へ来てもらえると助かるわ」

「まさか私を歩かせるとは……」

「どっちにしろリオンに紹介状を渡しにいくでしょう」

クロエの言葉を聞いたゾルディアは苦笑いを浮かべながらため息をつく。
そしてそれに頷くと屋敷へ入っていった。
それを見届けたクロエは宿へ戻るため屋敷を後にした。

町を歩く途中、クロエはコートのポケットに手を入れると何かに触れた。
そしてポケットの中の"何か"を握ると首を傾げた。

「ん?」

その"何か"を取り出してみると、それは黒いグローブだった。

「アルフィスのグローブか……」

クロエは歩きながらそのグローブをまじまじと角度を変えながら見ていた。

「見たことない形の魔法具だけど……まぁ今回の報酬としてもらっておくわ」

そう言ってクロエはグローブをポケットに戻す。

どのみちアルフィスはもう戦えない。
クロエはただの魔法具くらいもらったところで差し支えないだろうと思ったのだ。
クロエにとってこのグローブはどこにでも売ってる安い小型ステッキ程度の魔法具だろうという感覚だった。

「売ったらちょっとしたお小遣いにはなるでしょう」

クロエはそう呟きつつ、宿へ戻るのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...